複雑・ファジー小説
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- チョコ・ケーキ・フェアリー
- 日時: 2022/06/28 23:55
- 名前: ふぇのめのん (ID: CjSVzq4t)
大森靖子「偽物は続けられない」
偽物だと思いたくない!だから低クオリティでも書き続けたいと思ってはじめました( >Д<;)
毎日は無理だろうけど3日に1回は更新したい!
- Re: チョコ・ケーキ・フェアリー ( No.5 )
- 日時: 2022/07/10 17:13
- 名前: ふぇのめのん (ID: w4sGgUKI)
「今日からあなたが私の夫よ」
「はあ」
あの後、舞踏会は結局お開きとなり、後日王宮に荷物をまとめて来るようにとすももは言われのだった。
「でも夫っていうのは建前で、本当は私の奴隷よ。勘違いしないでね?」
「はあ」
何もかもが突然すぎて、すももには理解が追いつかない。ただ言われるがままに動いている。
「じゃ、早速あなたの力を見せてもらいましょうか」
「何をお出しすれば?」
この力を使うのはこれが初めてだった。すももは緊張する。
「お父様が作ってくれた卵焼き」
お父様、つまり一昨年逝去した国王のことである。もちろんすももはそれを食べたことはない。
「わかりました」
しかし断れば王女の機嫌を損ねる。そもそも奴隷になってしまったすももに断るという選択肢はない。
「えいっ」
すももは分からないなりに何とかそれらしい事をやってみる。
すると、目の前に、皿に乗った卵焼きが現れた。すももは両手でそれを受け止める。
「どうぞ」
しかし見た目は普通の卵焼きで、国王が作ったものと同じなのか判別できない。
「ん」
王女は持っていた箸で卵焼きの一切れをつかみ、口に運ぶ。
「…」
すももは王女が飲み込むのを待った。沈黙した時間が流れていた。
「うっ…うっ…」
突然、王女が嗚咽をもらす。不味かったのかとすももは心配したが、すぐに泣いているということに気がついた。
「全く同じだわ…私、お父様が亡くなってから、あんまり食べ物が食べれなくなったの…でも、お父様が作ってくれた卵焼きなら食べれるかなって…」
「料理なんてされるんですね、王様なのに」
「そうよ。多趣味な人だったの。それに優しくて何でもできて…私の憧れだわ」
「王女様は国王に似ていると思います」
国王の政治に関しての腕が、どの時代よりも優れたものであるということは国民の間では周知の事実だが、王女も歴代ではかなり腕がいいと噂されていた。
「そんなわけない…お父様に聞きたいこともっといっぱいあったの…お父様のことまだ全然知らないのに、お父様みたいになれるわけない」
言いながら王女は涙を拭った。
「今回の件、感謝するわ。奴隷から召し使いに昇格よ。これは試験だったの」
舞踏会といい今回といい、試されてばかりだとすももは思った。
「人を試すのが好きなんですね」
「ええ、その通りよ。試すのも試されるのも好き。だっていい結果ばかりだもの」
「王女様が優秀な証拠です」
「あなたは?好き?」
ふと、テストが返ってきたときの苦い思い出がよみがえる。
「大嫌いです」
すももは勉強が全くできないタイプだった。
- Re: チョコ・ケーキ・フェアリー ( No.6 )
- 日時: 2022/07/13 14:49
- 名前: ふぇのめのん (ID: ovjUY/sA)
「紹介するわ、私の弟よ」
太った体に金髪とキャラメル色の瞳が特徴的な子供だった。王女とあまり似ていない。
王子は口をぽかんとあけて明後日の方向を向いている。
「知恵遅れなの」
なるほど、とすももは納得する。
「次に弟専属のケーキ職人兼親代わりのティラミスよ」
「はじめまして、よろしくお願いします」
ティラミスはふふ、と微笑んで一礼した。背が高く、女顔だが整った顔立ちの、品のいい好青年だ。
「俺にとって王子は親みたいな存在なんです」
「親?」
なぜ我が子ではなく反対の親なのか、すももは疑問に思う。
「お母さんみたいに、俺が作ったケーキを美味しい美味しいって言ってくれるんです。たまに食べてくれないときもありますけど…なにより、初めて俺自身を求めてくれた人だから…」
「はあ」
すももは何か重くほの暗い雰囲気を感じとる。深追いはしない方がいいと思った。
「俺は、すももです。どんな食べ物でも召喚できます。…以上です」
すももは自分のことで特に話せるものがなかった。
「ちょっと、それだけ?仲良くなりたくないの?」
「そう言われましても…」
「そうだ、あなたの親はどんな人なの?私が話したんだからあなたも話しなさいよ」
お前が勝手に喋ったんだろう、と思ったがすももは王女の命令に逆らえない。
「親…うーん、あんまり…一人で暮らすようになってから何年も経っているので…」
「だからって忘れるものじゃないでしょう、親って」
ティラミスが言う。その通りだった。
「じゃあティラミスさんの親はどんな人だったんですか?」
「俺は片親で…いつも帰りが遅い母でした。それを俺は1人で家に残って待つんですけど、なぜか帰ってこないんじゃないかっていつも予感がしてて…結局15の時に帰ってこなくなりました。それとほぼ同時に、王子の専属のケーキ職人になることが決まって、今に至ります」
そう話してにこっとティラミスは笑った。申し訳ないことを聞いたなとすももは後悔した。
「ねえ、じゃあ趣味は?好きなものとかないの?」
王女が聞く。すももには趣味がなかった。
「食べることは好きですけど…」
「食べ物のことばっかりじゃない。…んー、じゃあ猫は?あとは…そうだ、絵とか。私の母は絵を描くのが好きで海外を飛び回って絵を描いてるのよ、知ってた?」
「知りませんでした。だから今日いないんですね」
「今日というか、ほぼ毎日いないわよ。結婚式ぐらいは帰ってくるんじゃない?」
結婚式。そのワードを聞くとすももは胸がどきっとした。
「そういえば、結婚するんでしたね、お二人とも。おめでとうございます。ああ、うらやましいなあ。王女様は俺の母親みたいにならないで下さいね。男をとっかえひっかえするような」
「なるわけないでしょ…って、すももの好きなものを話してたのよ。絵は好きじゃないの?風景画とかよく母は描くんだけれど」
「好きじゃないです…あまり風景とか見ても綺麗と思わない…猫もあんまり可愛いと思いません…でも食べ物は好きです。」
「…あ、そう…」
「変わってるんですね、すももさんって…」
あ、引かれた、とすももは思った。
- Re: チョコ・ケーキ・フェアリー ( No.7 )
- 日時: 2022/07/16 11:03
- 名前: ふぇのめのん (ID: ovjUY/sA)
「どうぞ、紅茶です」
「あ、すみませんティラミスさん。俺も手伝います」
ある昼下がりの午後、すももと王女、ティラミス、王子の4人はテーブルを囲んで昼食を食べていた。
「いえいえ、いいんです。座って下さい。すももさんは王女様の旦那様になる人なんですから、俺の方が立場は下です。」
「そ、そうですか?じゃあお言葉に甘えちゃいます…」
すももは立ち上がりかけていた体をイスに戻した。前を向くと優雅に紅茶を飲んでいる王女の姿がある。すももは思わず見とれてしまう。
「なによ」
「あ…その、人生何が起こるかわからないなって」
ついこの間までただの一般市民だった娘が王宮で昼食を取っているなんて誰が想像できようか。
「…その通りね。私も、こうやって普通に食事ができるなんて思わなかったもの」
すすもは、父親が亡くなったショックで食事が喉を通らなくなったという王女の話を思い出した。
今は当たり前のように食べることが出来ていても、食べれなかった間はとても辛かっただろう。
「食べない」
突然、王子が怒ったような声で言った。
すももと王女が同時に王子の方を向く。
「わかりました、今すぐ下げますね。こちらはどうですか?」
ティラミスが別の料理を出す。オムライスだった。
「食べない」
王子の答えは変わらない。
今度はカレーを出してみる。
「食べない」
それでも王子は手をつけようとしなかった。
「ちょっと貸してください」
すももは様子を見かねて王子が食べようとしなかった料理の匂いを嗅いでみる。
するとカレーからもオムライスからも同じ匂いがした。
「これ、毒入ってますよ」
「ええ!?どういうことよ!」
王女は驚いてすももに訊ねる。
「俺にもわかりません。これを作ったのはティラミスさんですか?」
「まさか!俺はケーキ職人ですよ…王子のそばにいるついでに配膳もしてるだけです」
つまり、これを作った別の誰かがいるということだ。
「俺、厨房に行ってきます」
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「危ないですよすももさん!」
背中で2人の声を聞きながらすももは走った。
バン!と厨房の扉を開ける。
「あの!」
そこには3人の料理人がいた。
「なんでぇい、いきなり開けて」
「そんな強く開けたら壊れちまうべ」
「まあ落ち着けよ兄ちゃん」
思ったよりも男らしい料理人たちにすももは一瞬ひるむ。
「王子が食べる料理から毒の匂いがしたんですけど」
「ああ?毒?」
「そんなこと言われてもなあ」
「最近俺らは王子の料理作ってないしなあ」
「…え?」
では一体誰が、とすももが思うと同時に料理人たちが続けて言う。
「王子の料理はティラミスの兄ちゃんが作ってんのよ最近は」
「なんかケーキ以外も作れるようになりたいってなあ、言うてたけども」
「俺らの仕事がなくなっちまうべなあ」
そう言ってガハハ、と笑う料理人たちとは裏腹にすももはサー、と血の気が引いてくのを感じた。ティラミスの言葉を思い出す。
『まさか!俺はケーキ職人ですよ…王子のそばにいるついでに配膳もしてるだけです。』
「突然入ってきて本当にすみませんでした!」
すももは料理人たちに謝り、急いで王女たちのもとへ戻った。
「止まれ!」
言われてすももの体はぴたりと硬直する。
目の前には王子の首にナイフを突き付けているティラミスと、その横で床に倒れている王女がいた。
「お前、王女に何を…!」
「死んではいないですよ、気絶してるだけです」
ティラミスは淡々と答える。
「俺は王子と一緒に死ぬんです。止めないで下さいね」
「ま、待て、落ち着け…」
「落ち着いてるよ!」
ティラミスの怒号が部屋に鳴り響く。
「俺を異常者扱いする気か…?何にも知らないくせに…温室育ちの奴にわかるわけねえよなあ!」
ティラミスの瞳孔が開く。焦点の合わない目で何やらブツブツと呟き始めた。
「おれがおかしいのか…?俺はただ一緒にいたいだけなのに…何もしてないのに俺だけなんで…」
すももはどうしたらいいか考える。しかし全くわからなかった。
- Re: チョコ・ケーキ・フェアリー ( No.8 )
- 日時: 2022/07/20 00:13
- 名前: ふぇのめのん (ID: ejGyAO8t)
「ベリー、ベリー」
どこからかぼんやりと声がする。
私はこの声を知っている。
「起きなさい、お前にはやるべきことがあるだろう」
「なに?やるべきことって…」
言いながら私は眠い目をこすって起き上がる。
目の前にはお父様がいる。
「俺がいない間、ちゃんと国を見ているに決まってるよな?勉強も習い事もやってるな?」
心臓がはねる。ちゃんと出来ている自信がないからだ。
「や、やってるわよ…」
でもご飯は食べれていない。この事を知ったらどう思うだろうか。
「当たり前だよな。…なんて話してる場合じゃないか。早く起きなさい」
「?…起きてるじゃない」
「起きてやるべきことをやるんだ」
「何のこと…?あ、」
お父様の体が少しずつ透明になっていっていることに気づく。
「わからないのか?」
「わからないことだらけよ…ねえ、どうやって民衆を動かしていたの?気をつけてたことってなに?どんな思いで国を見ていたの?どんな幼少期を過ごしたの?学校でどんなことしてた?私まだ何にも知らないよ…」
お父様は何も言わない。生きていたときもそうだった。私が聞かない限り、自分から話すことは滅多になかった。本当は寡黙な人だった。
「答えてよ…お父様みたいになりたいの。でも全然出来ないの。」
「早く起きなさい」
「何のこと?そんなことより、聞いてほしいの。実は私あんまりご飯が食べれないの。こんなんじゃ認めてくれないわよね…」
「今は食べれるようになってるじゃないか」
私ははっとする。
それを最後に、お父様の姿は完全に消えた。私はだんだん今自分がどんな状況にいるのか思い出してきた。すもものおかげで食べれるようになったこと、ティラミスが暴走してること、弟が危ないこと。
お父様は、全部見てくれていたんだな。
「待て、落ち着け…」
「落ち着いてるよ!」
すももとティラミスの声が聞こえる。あんなに大きな声を出しているのは初めて聞いた。
起きなきゃ。弟とすももが危ない。
「私の弟に、何すんのよ!」
王女の渾身のキックがティラミスの顔面に決まる。
「っ…!」
ティラミスが倒れる。同時に持っていたナイフが床に落ちた。
「心中なんてさせないわよ」
王女がつかさず倒れたティラミスの体に馬乗りになり、動きを抑える。
すももはナイフをティラミスから離れた場所に移動させる。
「なぜこんなことを?答えなさい、ティラミス」
いつの間に意識を取り戻していたのかわからない王女がティラミスに聞く。
「…王子が、学校に行ってみたいって言ったんです…それまで勉強に興味なんてなかったのに…その時思ったんです、成長してるんだなって…人より遅いけど、ちゃんと成長してるんだなって…そしたら、いつか俺のこと捨てるんじゃないかって不安になって…最初は心中する気なんてなかったんです。死なない程度に体を弱らせたら、俺のことが絶対必要になると思って。成長したら、俺なんて要らなくなるから…お母さんみたいに…」
ティラミスの顔は涙で濡れていた。
「…いる」
突然、王子が言った。
「いる!」
王子はティラミスのもとにかけ寄り、涙をハンカチで拭った。まるで親が子供にするかのように。
「だから泣くな」
王子の言葉とは裏腹にティラミスの目から涙が溢れていく。
- Re: チョコ・ケーキ・フェアリー ( No.9 )
- 日時: 2022/07/21 00:50
- 名前: ふぇのめのん (ID: osQJhSZL)
今日はハロウィンだ。
「似合ってるじゃない。」
「ありがとうございます。」
すももは答える。狼男の仮装をしていた。
王女は魔女の、ティラミスは吸血鬼、王子は幽霊の仮装をしている。
「さあ、早く食べましょう」
テーブルの上にはカボチャのケーキが人数分、用意されている。
「いただきます」
すももはフォークを手に取った。
皆、美味しさから話すことを忘れ無言でケーキを食べる。
カチャカチャという音だけが部屋に響いた。
ふと、すももはケーキから顔をあげる。
部屋にはハロウィン仕様の飾りつけがされていて、たくさんのジャックオランタンも並べられている。
ランタンの暖かい光が皆の顔を照らしていた。
窓の外では落ち葉だけが舞っていた。
すももは幸せだなと思った。
秋休みがもうすぐ終わろうとしていた。
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