複雑・ファジー小説
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- 白い「キミ」とグレーな「ボク」
- 日時: 2023/11/25 21:42
- 名前: でんた (ID: eVCTiC43)
…もう二度とは帰らぬ「キミ」へ、きっと許されない「ボク」の懺悔をここに書こうと思う。
そしてこの懺悔が終わったら、死んだように生きている僕も君と同じところへ逝こう…。
とある海辺の田舎、白い肌の少女と恋心を抱く少年。
そんな平凡な二人の高校生の青春物語、のようなもの。
・登場人物
主人公:中谷康太
多原田高校の高校二年生、内気な性格で勉強はそれなりにできる。
クラスのいわゆる「二軍」だが、広く付き合いがある。
主人公2:白瀬花梨
東京のとある高校から転校してきた女子高校生。透き通った白い肌に茶髪のポニーテール。
静かな性格で、おとなしいが為に無愛想な面がある。
クラスメイト:田塚信也
康太と同じ教室の生徒。いつも何かと調子に乗ってふるまっている。
康太とは高校入学前からの長い付き合い。
クラスメイト:栗本蓮花
康太と同じ教室の生徒。教室の女子の中では中心人物。
信也、康太の二人と仲がよい。
>>1 プロローグ「グレーなボク」
>>2 第一話「いつもの電車」
>>3 第二話「挨拶」
>>4 第三話「歩み寄り」
>>5 第四話「君の後ろ姿を追って」
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.2 )
- 日時: 2023/03/05 23:49
- 名前: でんた (ID: dYnSNeny)
第一話「いつもの電車」
――――今日は蝉が鳴いている。梅雨も明け、夏がそろそろ始まりそうだ。
ここはとある海辺の田舎、夏が始まろうとする6月末。今日も閑散としている電車、康太はいつものように自習に励む。
暑い日差しに対し涼しい車内は快適で、高校につくまでの一時間は彼にとって最高の自習時間なのだ。
毎朝、電車に乗ってくる人間は殆ど同じ面子。途中の駅で降りるサラリーマンが一人、近くの違う高校に通う学生が三人だ。
だからなのか今日、康太の高校の制服である白いセーラーを着た少女は、彼の目に留まる。普段はいない人間、彼は日常とは少し違う電車内の風景に興味を示した。
自習で開いている教科書の向こうに座る、白い透き通った美しい肌と茶髪のポニーテール。いかにも大人しそうな彼女は転校生だろう、康太にはそう予想がついた。
「…こんなに可愛らしい子がうちの高校にいなかったような?」
小さく独り言を言い、自習を続けた。
…あれから一時間が経った。通学の電車は高校の最寄り駅に停車し、康太とその少女は一緒に降りた。…やはり康太の視線は、その少女の背中に向けられ離れない。
8時5分、彼の教室についた。教室に入ると、彼の友人である蓮花が声をかけてきた。
「よっ、康太!おはよー!」
「おはよう、栗本さん」
蓮花は内気な康太と対照的に、いつも明るく元気な学生だ。同じ教室の女子の中では中心人物に据えられ、友人が多い。いわゆる「一軍」だ。
挨拶を交わし、康太は自分の机にリュックを置き、中にある教材を机の中に入れたりと授業の準備を始める。
8時30分、朝のチャイムが鳴って、遅刻ギリギリなクラスメイトがぞろぞろと入ってくる。
はぁはぁと息を切らしながら席に座る生徒に対して、入室してきた担任は言った。
「おい田塚ぁ、もっと早くに来なさい。そんなに急いでも毎朝遅刻じゃあ意味ないだろう。」
「すんませーん、明日から気を付けまーす。」
不満げに注意する担任に少しフザけながら返し、周囲の生徒は笑い声を発している。
毎朝遅刻し、毎朝注意を受けている彼は田塚信也、少々不真面目だが人気者な男子生徒。康太とは中学時代から同じで、意外と長い関係にある。
笑い声が落ち着くと、担任は話を始めた。
「…よし、今日は大事な連絡があります。今日はな、このクラスに転校生がやってきたんだ。…もう来ているから、挨拶してもらおうか。」
「えー、マジ??」、「どんな子なんだろー!」とざわつき始めたが、教室の引き戸がガラガラと開かれると一瞬にして静まった。
教室の生徒は皆、教卓の横にやってくる白い肌の少女に関心を寄せた。
「今日からここ多原田高校に転校し、皆さんと同じ2年a組のクラスメイトになる『白瀬花梨』さんだ。さぁ、自己紹介して。」
少女は緊張した面持ちをしながら、慎重に口を開いた。
「…っ東京の赤桜高等学校から来ました、白瀬花梨です。宜しくお願いします。」
小さく震えた声で自己紹介し、小さくお辞儀をした。
教室の生徒は温かく迎えるように拍手を送った。
「宜しくなあああ!!」
信也は大きく声を張り上げ、教室を盛り上げた。
康太は「やっぱりあの時見かけた子は転校生だったのか」と一人で納得した。
担任は生徒を静めると、花梨に対し座席の位置を指さした。
「白瀬さん、あなたの座席は彼、中谷の横だ。隣同士、仲良くやるんだぞ!」
康太は自分の左の空いている机にたった今気づき、内心驚いた。
「僕の…隣に?」
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.3 )
- 日時: 2023/03/06 20:24
- 名前: でんた (ID: dYnSNeny)
第二話「挨拶」
花梨は「はい」と、お淑やかに返事しては自分の席へ歩いてくる。
皆から向けられる視線に緊張しているのか、彼女の視線は床を向いている。
花梨の座席の位置は、クラスの端にあり、康太だけが隣の生徒となる。
「よろしくね、白瀬さん?」
康太は隣の席につく花梨に挨拶をし、相手の顔を伺った。
花梨はその挨拶に気づき、一度は康太に目を合わせながらも、ただ口を僅かに開いては何も言わないままだった。
無視されたのか、と思った康太は残念に思いながらも、一限目の数学の授業の準備を進めた。
「じゃあ、今日の連絡は以上。今日も一日授業に励もうな。」
委員長が号令し、朝のホームルームが終わると、沢山の生徒が教室の左端に詰めかけた。
教室に現れた新しい顔に興味津々、それぞれが色んな問いを投げかける。
「ねぇねぇ、東京から来たって言ってたよね?東京の生活ってどんな感じなの?」
と、蓮花は質問した。
一気に囲まれて花梨はちょっとしたパニックに陥って、蓮花の質問を答えられずにいる。
「あっ、あの…。」
口元を微妙に動かし、ついには黙り込んでしまった。
肩を縮こませ、机の真ん中を見つめながら、何も話せずにいる。
「おいおいお前ら!花梨ちゃん困ってるじゃねーかー!」
その群れの中にいる信也は声を張り上げ、群がる生徒たちを制した。
やがて授業開始のチャイムが鳴り、教科担任の女性の先生がやってきた。
「はいはい、席に着きなさーい。チャイム鳴っていますよー」
男子生徒の数人は、その好奇心を満たせないことに不満を覚えたのか溜め息を漏らしている。
ガタガタと自席に戻ると、間もなく授業が始まった。
内容は数学Ⅱの微積分の単元。先生は手に持っている教科書を眺めながら、黒板に数式を淡々と書いていく。
そうして書き終えると、転校生の顔に気づいた先生は尋ねた。
「あら、あなたが白瀬さん?」
「はっはい」
突然声をかけられた花梨は焦りながら返事した。
「じゃあ挨拶代わりに」と黒板に書き記された問題を指した。
「白瀬さん、この問題は解けるかしら。向こうでも同じ範囲をやっていると思うけど。」
その式は二次関数を微分係数から導き出す、いわゆる応用の問題で、まだ取り組んだことのない内容だ。1
康太は、転校早々難しい式に向き合う彼女に「ちょっと気の毒だな」と思い、見守った。
「分かりました。」
花梨は立ち上がり黒板に向かうと、チョークを手に取り淡々と解き始めた。
途中式を書き終え、関数式を導き出した。
先生は簡単に解いてきた彼女に驚き、正解だと伝えると、クラスメイトは「おぉ~」と感心の声を漏らした。
「白瀬さん、凄いね。あの問題、皆初めて見た問題だよ。」
席に戻った花梨にそう言うと、また先程のように視線を逸らしながら「ありがとう」と返す。
褒めてもらった彼女の口元は、微笑んでいるように見えた。
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.4 )
- 日時: 2023/11/25 21:41
- 名前: でんた (ID: eVCTiC43)
第三話「歩み寄り」
一限目の数学が終わり、それから四限目の授業まで終わった。
次は昼食の休憩。康太は、机に散らかる教科書を仕舞い、自宅から持参した弁当を開いて食事を始めた。
普段は一人で早々と終える昼食だが、その日が様子が違った。
「中谷君、だよね。」
か細い声で横から呼びかけてきたのは花梨だった。
康太はそのまま彼女の方に向き、顔を見つめた。
「うん、どうしたんだい?」
「お昼ご飯、一緒に食べてもいいかな。」
と、先ほどの微笑んだような表情を浮かべながら問いかける。
特段断る理由もない。「いいよ、食べよう!」、康太は快く承諾した。
二人の机を合わせ、隣り合う形で昼食を始めた。とは言えど、話題が特にないからしばらくは無言。
最初に口を開いたのは康太だった。
「数学の授業凄かったよ!白瀬さん、勉強得意なの?」
「…たまたまだよ。得意なの、数学だけだよ。」
康太は謙遜しているだけだろうな、と思いつつ、「途中式もわかりやすくて、毎日教えてほしいくらいだよ」と笑いながら褒めた。
面と向かって褒められた花梨は、頬を赤めて、再び食事を始める。
「中谷君の得意な教科はなに。」
「…ぼ、僕はそれと言って何か得意な教科はないかなぁ。はははぁ」
康太は、勉学にはそれほど困ってはいなかったが、飛びぬけて得意な教科はない学生だった。平々凡々としたものである。
半笑いしながら右手で頭をかく康太を見て、花梨は「そっか。」ポツリと言ってまた食事に戻った。
二人が弁当のほとんどを食べ終える頃、花梨がまた康太に話しかける。
「いつもあの時間の電車に乗っているの?」
花梨は今朝の電車で康太の姿を見たことを覚えていた。
「あの時間の電車」と言われ、まさか彼女も自分のことを認識していたとは、と内心驚きながらもちょっとごまかすように答えた。
「あの時間の電車…、今朝、もしかして一緒だったのかな?」
康太のちょっと冷たいような返しに、花梨は残念そうに「違うのなら、大丈夫だよ。」と僅かに視線を逸らしながら言い放った。
花梨はそのまま静かに弁当を仕舞うと、次の授業に備えて教科書を机から取り出し、自習を始めた。
「ああ、しまった。」康太は自身の態度に対し内心そう嘆き、彼女の顔色を伺いつつも話しかけることができず、昼休みを終えた。
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.5 )
- 日時: 2023/11/25 21:40
- 名前: でんた (ID: eVCTiC43)
第四話「君の後ろ姿を追って」
昼休みの失態を挽回することもできず、学校での一日は終わった。
七時限ある授業のうち、最後に話しかけることができたのはやはりあの食事の時だけだった。
七時限目の授業を終えて、終礼に入る前の数分間の休憩時間。康太は最後の「抵抗」に帰りに誘おうとした。
「ねぇ白瀬さん。」と話しかけようと口を開けた時。
「花梨ちゃーん!」
クラスの女子生徒達が転校生に近づこうと、花梨の机に群がった。
彼女らは、先程のように花梨について色々聞きだそうとしている。
「花梨ちゃん、数学得意そうだよね。テストギリギリだから教えてほしいな!」
「後でRINE交換しようよ!」
皆それぞれ勉強の話題や、連絡先の交換、どんな趣味なのか質問を投げかけた。
花梨は一気に群がられ、まるで籠の中の鳥のように窮屈な環境に置かれ、ただ黙り尽くしている。
「あ、えっと…」
両手を膝の上に置き、ただ戸惑っている彼女を見て、女子生徒の一人が声をかけた。
「ちょっと、また花梨ちゃん困っちゃってるじゃん。みんな落ち着こうよ。」
クラスの女子の中心である蓮花が、みんなにそう呼びかけ、質面攻めで騒ぎ立てる態度をいさめた。
彼女らも蓮花の言うことならと騒ぎを抑え、蓮花が代表して花梨に話しかける。
「私、栗本蓮花、宜しくね。クラスの女子達はみんな仲良しだから、花梨ちゃんも一緒に学校生活楽しもうね!」
花梨の机に手をつき、花梨の顔を見つめて言う。
面と向かって歓迎された花梨は、さらに赤面して「うん。」と小さく頷いて応えた。
「おーい、着席しろー。」
担任が戻ってくると、女子生徒らは自分の席にそれぞれ戻っていった。
「あぁ、ダメだった。」
康太は最後のチャンスを失ったように思え、ただ落胆した。
そして、担任はそのまま終礼を始めた。
「…ということで、今日は以上です。みな、中間考査に備えろよー。」
生徒たちが「えー!」と嫌がる中、終礼が終わった。康太も帰宅の途につく。
康太が教室を出ると、一人で足早に廊下を歩く花梨の姿を見つけた。恐らくもうパニックに陥りたくないのだろう。
今こそ一緒に帰ろうと話しかけるチャンスかと康太は思った。しかし、いざ話しかけるとなると少々怖くも感じている。ただ、その小さな背中を見つめるほかなかった。
校門を出ると、周りには同級生や他学年の生徒が賑やかに下校している。…康太と花梨の二人を除いて。
喧騒の中でその影を薄くするようにただ俯いて歩いている少女の姿を、帰宅中の生徒らは何ら気にすることはないだろう。
康太は花梨との距離を縮めようにも、どうしようもないので、その姿を見つめながらただ歩いていた。
気づけば最寄り駅の改札に到着していた。やはり花梨は康太の数歩先にいる。
駅のホームでは、沢山の同学生が電車を待っている。同じ制服の中にいても、康太は花梨の姿を見失うことはなかった。
花梨は三号車の二番ドア列に並んでいたが、康太は彼女の傍に近寄ることができず、同じ車両の一番ドア列に並んでいた。
やがて、康太の乗るべき電車が到着した。田舎であるためか、電車は帰宅ラッシュの時間帯にあっても空いている。
「多原田ぁ~。多原田ぁ~。お忘れもののないよう、気を付けてお降りください。」
車掌の放送が流れるとともに開いたドアに、多くの学生が乗り込む。
普段、康太は後ろの邪魔にならないよう、車両の中央に向かって歩く。今日も同じように乗車した。
康太は、いつものように、二番ドアと一番ドアのちょうど中央あたりで止まって椅子に腰かけると、
「…あっ!」
彼の右の席には、花梨が座っている。どうやら彼女も人の流れに乗って、車両中央まで歩いてきたようだった。
まさかあんなにまた話しかけようとした彼女が自分のすぐ横に座ることになるとは思わなかった。唐突に胸の鼓動が高鳴り、それは、周囲の騒めきの中でも耳にその振動が伝わるほどだ。
「話しかけなきゃ」康太の脳内にはその一つがずっと、まるで長い帯のように延々と渦巻いている。
「今日は、今日はとりあえず良いかな。」「いや、でもここで話しかけなきゃ、ずっと逃げてしまう。」
彼は、相反する考えが更に頭を巡っているのを感じた。
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
やがて、電車は走り出す。
車掌がベルを鳴らすと、ゆっくりと景色が流れていく。
- Re: 白い「キミ」とグレーな「ボク」 ( No.6 )
- 日時: 2023/11/30 23:05
- 名前: でんた (ID: eVCTiC43)
第五話「さよなら」
発車から約一時間。積極的でない彼にとって、この時間は話しかけることもなく、ただ彼自身の発言に対する自責の念を感じ続ける時間となった。
周囲の学生や、何より隣の花梨に不審がられることのないように、涼しい顔をして数学のワークと開いて自習を取り組んでいるようにしていたが、もちろんその感情の中ではろくに頭に入ってこないものだ。
話しかけられないから、話しかけられたい。そういう期待も込めて数学のワークを開いて過ごした電車の時間も無駄に終わった。とうとう電車は、康太の家の最寄駅に到着してしまった。
「名張部ぇ~。名張部ぇ~。」
「まずい、もう降りなきゃ。」、長いこと考え込んでいた康太は急いでワークをリュックにしまって、立ち上がる。
「――――中谷君。」
出口に歩き出そうとしたとき、後ろから呼び止められた。
「またね。また、学校でね。」
「あっ、またね。白瀬さん!」
唐突に声をかけられ、気を取り乱した康太は思わず大きな声で返した。
そんな自分の声が急に恥ずかしくなって逃げるように降車した。
駅のホームに降り、再び電車が発車するところを見届けるまで、康太の心臓の鼓動は落ち着くことはなかった。心臓はまさに、はち切れんばかり大きな鼓動を、まるで長距離を走りぬいたときのような速さで打っている。
その理由は彼女の挨拶である。全く予想外の展開に、心が追い付かない。
電車が走り去ると、康太は先程の興奮から我に返り、改札を抜けて家路につく。
「なんで…最後に見送ってくれたのだろう。ずっと話しかけないままなのに。」
独り言を言い、一時間前の心配事は杞憂に終わり、学校での失言は許されたのだろうと安堵した。
きっと僕のことを親しく思ってくれているのだろう、という淡い期待と、そこまで人付き合いは甘くないよな、という反省が心に飛び交う。
「明日は必ず、連絡先交換しよう。そうしよう。」
期待がわずかに勝り、康太は小さな決心をした。
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