二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト
日時: 2012/08/24 17:31
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=UmeAKdiiYTc

( 願わくば暫くの永遠を、 )


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■ ご挨拶、
ど、どうも…またつくっちゃったよ…くっそう。
二次板(紙ほか)の方で2年前からちまちま書いている蟻と申します。
カガリビトが好きすぎてスレ建てしてしまった次第であります。挫折する可能性の方が多いのですが、自分らしく頑張ろうかと思います。

■ 作品紹介、
原作はボーカロイド楽曲の「カガリビト」という作品でございます。
作者様の考えた設定と楽曲を元にして、小説をつくらせていただきます。非常に稚拙な文ですが、何卒よろしくお願いいたします。

作者:millstones 歌:初音ミクappend
※ 上記URLから「カガリビト」を視聴することができます(youtube)

■ 目次、
( 序章 ) >>1
( 一話 ) >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8


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スレッド生成 2012-08/03

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Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.4 )
日時: 2012/10/13 13:20
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
参照: 下の子ふたりのかけあいが好きすぎる

「今日も、つまらないなあ」

朝みたいに、ベッドに乗っかりながら水色の空を見ていた。イレンは自分のベッドに寝転がり、読書をしていた。スリミーは、朝ごはんを食べると、さっさと仕度してまた世界を修復しに行った。

「それって、幸せなことなんだよ。それともトゥールは、世界の『ヒーロー』にでもなりたいのか?」

イレンは、本に集中しながらも僕の言葉に耳を向ける。ぶっきらぼうに、皮肉を込めてイレンは言うが、僕だってそんな事は分かりきっていた。
 これで、いいのだ。世界が大きな亀裂を生み出す前の、まだ平和な今で。できる事ならばもっと戻ってもいいぐらいだ。それぐらいに、世界は危ない。
 だけど、僕は。僕は、僕の役目を果たしたい。
 折角彼女が僕らを生み出してくれたのに、イレンと僕の二人はいつもこの家で皆を待ってる。十人の、カガリビトを。
 「いつかの未来」を、十人が滅びても守れるように、僕とイレンはずっと大事に大事に置かれている。置かれているという表現は少しオーバーな気がするが、とにかく僕らは十人の次の世代を守れるように、今は傷つかないようにしているのだ。

「トゥール」

本の閉まる音と同時に、イレンが僕の方を見て微笑み、名前を呼ぶ。

「買い物の時間だ」


 僕らが食べ、動き、眠っている場所は、この世界の中で一番大きく、活気の溢れた場所だそうだ。ここに来る前に、彼女が言っていた。そしてまた、こうとも言っていた。
 ——活気のある場所は技術が進んでいるという事。それはとても便利でいいけれど、大きく進んでいる場所は、破滅も大きく進んでいる……だ、そうだ。
 つまりこの場所は、世界の中で最初に壊れていくであろう場所。だから僕らは、この街に住んで、周辺を三人程度で守っている。酷い場合は彼女も一緒に手伝う、らしい。だけど僕らは手伝わない。
 
「トゥール、これ持ってくれ」
「はいっ?」

いきなり呼ばれたからびっくりしたあ……。
 リンゴとレモンが溢れ出るほどに入った紙袋を僕に押し付けて、イレンは自分の服のポケットを探る。何か見つけたのか、一瞬だけ表情を変えると、ポケットの中からひとつのメモを取り出した。
 おそらくスリミーが書いた買い物メモだろう。毎日毎日、本当に偉いなあ、スリミーは。

「行くぞ」
「あ、うん」

メモをまたポケットにしまい、紙袋の中身を落とさないように、そしてイレンに追いつくため、慎重に、できるだけ速く歩いた。

 

Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.5 )
日時: 2012/10/13 13:35
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
参照: 近所づきあい。

「ねえ、どこ行くの」
「トゥールの好きな場所だよ」

前を見たまま、ぶっきらぼうにイレンは言った。僕はその背中を見つめて、溜息を吐いた。
 イレンは、感情を出すのが苦手らしい。そのため、彼女の表情はいつも、口を開けて、間抜けみたいだ。無表情ともいう。
 僕らと話す時は、基本その無表情で、女の人と話す時はよく笑ってるんだけどな。
 そんなどうでもいいことを考えていたら、イレンが足を止めていた。僕はドアの上にかけられた薄汚れた看板を見て、自然に笑みが零れた。
 cielo Miel——空の、蜜。空色で書かれた文字は、そう書かれていた。

「ねえ、イレンおごってよ」
「何言ってるんだよ、私もお金ないんだぞ」

 この場所は蜂蜜をうりにしている喫茶店で、コーヒー、ミルク、紅茶、果物ジュース、更には料理にまで自家製の蜂蜜を使う喫茶店。その味といえば、そりゃあもうスリミーの料理に匹敵するぐらいの美味しさで、デザートだけなら、スリミーが作ったものより美味しい。
 空の蜜とはよく言ったものだと思う。本当に彼女——そう、この世界を創り出した神様から授けてもらったといっても過言ではないぐらい、ここの蜂蜜は甘い。他のところの蜂蜜とは、比べ物にならないぐらい美味しい。
 僕はここのチョコレートとクッキーが大好物なのだ。来る度に買っていたら、いつの間にかお金が消えていた。誘惑というものは恐ろしい。

「安いからいいじゃん」
「ダメだ。お、これ美味しそうだなあ」

厳しい顔をして僕に言った直後、イレンは新商品と紹介されている、かごに入ったコーヒークッキーを見て嬉しそうな表情を浮かべた。そして手に取る。……お金ないんじゃないのかよ。
 
「お金あるじゃん」
「私は新商品が美味しそうだったら買うんだよ」
「試食で我慢したらいいんだよ」
「妬むなよ、トゥール」

ふふ、とイヤミっぽくイレンは微笑んだ。これが勝者の余裕か……!
 カウンターの前に二人で座ると、イレンは手に持っていたクッキーとお金を差し出した。気付いた店長のおばさんは、朗らかな笑みを浮かべて「ちょっと待っててね」とカウンターの奥へ向かった。
 何をするわけでもなく、僕とイレンの二人は黙り込んでいた。心地良い沈黙、とでも言うのだろうか。一緒に居る時間が多いからか、イレンとは話さない時間の方が楽に感じる。
 ふと周りに目を向けると、見覚えのある薄い銀色の髪をした人影を見つけた。

「あ、トゥールじゃん」

 

Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.6 )
日時: 2012/10/13 13:40
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
参照: 紳士キャラっていいわよね! 少し修正してみたり。

 少し驚いた顔をして僕の名前を呼ぶと、彼はこちらに近付いて、僕の隣に座る。

「なんで……アルカがここに居るの」
「なんでって、僕の仕事一段落ついたからだよ。幸せに浸りにきたのさ」
「家よりここが大事なのか」

飲んでいたらしいミルクティの中身をスプーンでかき混ぜながら、目を細めて笑う。僕の横で、呆れたような声を出すイレン。そんな声を聞いてもアルカは笑顔を崩さなかった。むしろ笑顔の輝きが増した。
 イレンと同じ気持ちで、僕はアルカを見つめる。彼の笑顔には適わない、全く。僕が溜息をついた瞬間、ごとり、とカウンターの上に何かが乗った。一瞬だけ僕は驚き、そしてカウンターに置かれた物を見る。
 大きなびんいっぱいに入った、艶やかで甘そうな蜂蜜。綺麗だなあなんて思いながら見ていると、隣のアルカが僕以上にその蜂蜜に見とれていた。この、甘党め。

「……ミセス、僕にもこの蜂蜜をくださいませんか?」

先ほどまでの醜態とはまた裏腹に、いちいちかっこつけてアルカは注文した。おばさんはまた笑顔をアルカに向ける。アルカの方も笑顔を見せて会釈した。横目でイレンを見ると、つまらなさそうな顔をしていた。
 イレンは僕の視線に気付く。

「とんだ甘党だ」

さっき手渡されたコーヒークッキーをかじり、イレンはそう吐き捨てた。

 暫くしておばさんは僕らの元に戻ってきた。先ほど僕らが貰ったのよりも小さい、一人分の蜂蜜が入った瓶をアルカに渡す。アルカはその代わりにお金を支払い、その蜂蜜の瓶を開ける。
 甘い匂いがふわりと広がる。アルカはその匂いをじっくりと味わってから、指で蜂蜜を掬い取り、舐める。はたから見たら、変人だなあ。

「うん、美味しいなぁ」

満足気な顔をするアルカ。イレンが深い溜息を吐いたのが僕の耳に入る。
 アルカはそれだけを終えて瓶の蓋を閉める。そして、立ち上がると張り切って僕らに言った。

「さぁ、家に帰ろうよ」
「……悪いけど、私とトゥールは買い物中なんだよ。誰かと違って」

無表情のままで、イレンはアルカに言い放った。その言葉の意味を理解した時、アルカは「え」と目を見開いた。

「じゃ、じゃあ、僕も着いて行こうかな!」
「アルカ、暇なんだね……」

かっこつけたのが恥ずかしかったのか、アルカはまた変に張り切って、僕らの前を歩いた。
 イレンと僕は二人で顔を見合わせて、少しだけ馬鹿なアルカを笑う。

Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.7 )
日時: 2012/10/13 14:12
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
参照: 会話ばっかでごめんなさい

 買い物を終えて、僕らは市場を歩いていた。市場は朝よりも騒がしく、子供達が道中で駆け回っていたり、まだ若い少女が、声をあげて、物を売っている様子も見られる。

「ねぇちょっと……イレン重いよ……」
「もう少しだ、頑張れ」

息を切らしながらアルカは呼びかけるが、イレンは振り向きもせずにそう言い放った。
 イレンはアルカが嫌いなのかなあ……と頭の中で呟きながら、野菜や果物、パンなどが沢山入った袋を三袋持っているアルカを見た。

「トゥール、何はにかんでんの! 助けてよ!」
「トゥール、アルカのことは聞いてないフリしていいよ」

必死の形相で叫ぶアルカと、いつもよりご機嫌そうな顔を浮かべるイレン。どっちもあまり見られない表情で、見ているこっちとしては少し面白い。
 
「ほら、もう着いてるよ」

見上げると、我が家がそこにあった。
 丸い形の、木を基調に造られた家。質素だが、それなりに綺麗で大きい、二階建ての僕らの家。
 アルカはそれを見ても、安心しては居ないようだ。むしろいつまでも扉の前にに立ち尽くして、中に入らないイレンに少し苛立ち、不快な顔をして言った。

「早く入らないの?」
「そう怒るなよ。紳士だろ?」

イレンがゆったりと家の中に入る。アルカは早歩きで家の中に入り、どさっ、と三袋を手早く床の上に置いて、ソファに飛び込んだ。

「長かったあああ」

手足を伸ばして、存分にくつろぎ始めるアルカ。そんなに重たかったのか。僕は、アルカに声をかける。

「おつかれ、アルカ」
「ホントだよ……うちのお姫様は手厳しい」
「たっだいまあ!」

ドアが思い切り開けられて、高く可愛らしい声が家中に響いた。その声に一瞬だけ驚く。僕らは即座に玄関に目を向ける。

「ティエ!?」
「ありゃ、アルカはまた帰ってきてたのかい」

 はきはきとした声で、歯を見せて彼女は笑った。また、という所で少しアルカが苦笑する。
 艶めいている赤色の髪は膝の辺りまで伸びて、ウェーブがかかっている。身長の小さい、女の子。

「——久しぶり、ティエ」

僕がそう言ったら、また彼女は笑う。

「ほんとだねえ、何ヶ月? 四ぐらいだった?」
「六ヶ月だよ」

イレンが、買ってきた物を片付けながら言った。

「ああ、そうだったそうだった! イレンもトゥールもアルカも、変わってなくてあたしは嬉しいよ!」

大きな口を開いて、思い切り笑うティエの姿に、僕もイレンもアルカも、安心して微笑みを漏らした。

Re: 「 僕が、守らなきゃ 」 - カガリビト ( No.8 )
日時: 2012/10/13 14:22
名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: yWjGmkI2)
参照: ティエさんはしっかりもの。

 ティエは、僕ら十二人のなかでも一番真面目だ。真面目すぎて、一年中仕事をしていたなんてことは少なくない。ずっと前に帰ってきた時は、スリミーに「こまめに帰ってきなさいよ」と怒られていた。それからも特に変わったとは思わないが。でも今回は、ティエにしては早い方だと思う。六ヶ月だけど。

「それにしても、ここは落ち着くねえ……」

こげ茶色のソファにもたれながら、ティエは言った。
 イレンがコーヒーの入ったマグカップを二つ持ってきて、ティエに渡す。

「はい、コーヒー」
「ありがとう、イレン」
「ええ? 僕の分はないの?」

ティエとイレンが座っているソファと対になっている、三人用のソファを占領していたアルカが驚いたような顔をする。その言葉を聞いたイレンは殺気だった顔でアルカを睨んだ。
 その殺気に怯んだアルカは、渋々とキッチンへと向かった。

「ところで、そのカゴは何だ?」

ティエの膝に乗っている、至って普通の茶色いカゴ。イレンは訝しげな視線をティエの目に向けて、問う。

「ああ——うーん、まあ、秘密」

暖かい視線をカゴに向けるティエ。質問には答えずに、ごまかすように笑った。なんか、質問内容が悪かったのだろうか。イレンは大して気にしてない様子だったので、僕も記憶の端っこに留めておくだけにした。
 
「……世界は、どうだった?」

コーヒーを飲んだ後に、イレンは訊ねる。

「ああ! もう凄かったよ! 今回はね、ここから東の方にある島国に行って来たんだ。その国は陽ノ国といって、最近までどことも交流がなかったそうだけど、技術の進歩が凄く速くってね。技術だけならこの国だって越えられると思うよ」

その赤い瞳をいっそう輝かせて、自分の大好きな世界を語る。ティエは、彼女の創ったこの世界が何よりも大好きで、彼女の創った人々のことが、僕らよりも大好きなのだ。

「技術が進歩しているってことは、そこも危ないんじゃない?」

アルカが淹れたてのコーヒーを啜り飲んで、口に出す。すると、ティエは少し悲しげに笑った。

「うん、そうなんだよ……陽ノ国は最近まで交流していなかったから、今急激に進化してきている。その分、脆弱な様でさ。あたしが何とか、ギリギリ大丈夫なところまで修復はしたけど——」
「進化が続いているってわけなのか。何人か陽ノ国に送った方へいいんじゃないか?」

深刻そうな表情をしていたイレンが、ティエの方を向いて発する。

「ああ、心配はないよ」

心配そうにしていた顔をあげて、今度はまた明るく笑う。本当に、ころころと表情が変わるなあ。

「その為にあたしは彼女に声を届けたんだから」



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