二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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東方自然癒—一枚の葉と幻想郷—【第一節終了】
日時: 2014/11/28 20:29
名前: 幻灯夜城 (ID: 3mZ8rXZz)
参照: http://tohosizenyu.iza-yoi.net/

〜お知らせ〜
参照3000突破感謝です。

※あてんしょんっ!※

・この作品は、現在フリーゲームにて配信中の東方project二次創作作品「東方自然癒」の二次創作、すなわち三次創作品となっております。苦手な方はご注意下さい。

・この作品には現在フリーゲームにて配信中の「東方自然癒」のネタバレががっつり含まれております。未プレイの方は十分注意してお読み下さい。

・原作「東方project」には存在しないオリジナルキャラクターが登場したり、一部の人物の設定の解釈が違っている場合がございます。

——

皆様、世界のどこかからこんにちは。
本日も、皆様のどこかに何かを齎すべく世界のどこかからこの地へ作品を届けに参りました。

シリアス・ダーク板で連載している「Lost memory」と同時並行で「東方project」の二次創作品「東方自然癒」の三次創作、これを真ENDまで書き上げていきたいと思います。
√は今の所魔理沙、霊夢√の予定です。

上記の※あてんしょんっ!※に同意していただける方のみ、お進みください。


※参照URLにありますは、東方自然癒のサイトとなっております。是非プレイしてみてはいかがでしょうか。

-目次-

第零章「生まれたての葉と幻想郷」>>1

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」>>2-4 >>7-20

幕間「もう戻れない」>>21

Page:1 2 3 4 5



第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」4 ( No.7 )
日時: 2014/01/27 19:33
名前: 幻灯夜城 (ID: 8pAHbekK)

——植物が元気を無くす。
それを聞いて頭に浮かぶのはあの西行桜の異変。どこぞの未練がましい幽霊が幻想郷から春を奪い去り、その春で桜を満開に咲かせようという計画だ。
そして、それが原因で一時的に幻想郷からは活気が奪われていた。当然、春が奪われたのだから冬が長く続き、植物が芽吹かなかったのだ。

「まだ冬には遠いぜ?」
「冬だって、植物は元気です」

同じことを思ったのか茶を飲む手を一旦止めて魔理沙が疑問を呈す。
だが、葉から言わせれば"そういうの"とはまた違うらしい。

「でも、何故か"急に"みんな元気が無くなっちゃって……」
「元気が無いって……枯れていってるとか?」
「枯れていったり、話す気力が無かったり……。とにかく、元気が無いって状態なんです」
「話す気力? 植物って話すのか?」

先程から葉の言い回しにはどこか霊夢達の常識とはかけ離れたものを感じさせるものがある。常識に囚われない幻想郷の住民からしても、葉の言い方や言葉の選び、そのどれもが不思議なものだ。
話す気力、というのもまたその類なのだろうか。

そんな魔理沙の単純な疑問に元気良く、自分が見聞きしたことを嬉しそうに伝える子供のように声を弾ませ葉は答える。

「はいっ! 向日葵さんなんか、夏は毎日熱唱してますよ!」

その言葉に二人は顔を見合わせて同時に同じ想像をした。
想像してみよう。あの幽香がたっぷりと愛情(?)を込めて育てている向日葵の大群が、太陽をいっぱいに上げて高らかに歌う姿を——。

「……なんか、近づきたくなくなるな……」
「……え、えぇ……」

想像するだけでとてもシュールである。両者共途端に能面のような表情になる。

「……コホン、植物とかには詳しくないけど、病気とかじゃないの?」

気を取り直して咳払いを一つ。場を整え、再び葉に事情を伺う。

「ちがいます。そしたら、私だけ無事な理由がありません」
「ってことは、葉は植物の妖怪ってとこか」

病気かもしれない——その可能性も在りうるのだが、それは葉の言葉によって一掃された。
成る程。それは確かに在り得ない。偶然かかっていないという可能性も否定は出来ないが、それでも植物である葉が病に犯されていないというのは、もし病気のせいで元気を無くしているのであれば不思議な話だ。

話を整理する。
葉の話は、植物達が急に元気を無くしたというもの。
・それは枯れる、とは違う元気の無くしかたであるらしい。
・葉は植物の妖怪。彼女"だけ"が無事なら、病気説は在り得ない。

「……シンプルじゃないってのもまた困りものよね」

長い話で手を付けるのを忘れ、すっかり冷めた茶を口に含み紅白の異変解決のスペシャリスト——霊夢は熟考する。
今までに相対してきた敵は、必ずどこかに黒幕がいるというものだ。だから、ソイツ等をふっ飛ばせば済む話であった。
だが今回はそうもいかない。何せ情報が漠然とし過ぎている。

「ま、なんにせよ行ってみればいいんじゃないか?」
「そうね、考えるよりは動いた方がいいわ」

しかし今根つめるように考えても何も解決への手がかりは出てこない。
ここは、一気に茶を飲み干して早速行動に移ろうと進言する魔理沙の言葉に従い、情報源を片っ端から洗っていこう。
         ・・・
「じゃぁ、ちょっと紅魔館にでも行ってみる?」

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」5 ( No.8 )
日時: 2014/01/28 15:56
名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)

魔理沙、そして葉に霊夢は行き先の提案を告げる。あそこならば動かない大図書館やあそこ一帯を統べているに等しい紅魔の主もいる。
そこならば知識の一つや二つはもらえるかもしれない。そう思って提案したのだがここで若干一名の表情が一変する。

「……え"」

それは魔理沙だ。ぎくり、と擬音が聞こえるくらいに震え上がったその体。
額には汗が浮かんでおり、それだけで何か隠していることを伝えてくれる。

「なに?」
「い、いや、その……ど、どうしてだ?」
「ほら、パチュリーとか結構知恵を貸してくれそうじゃない?」
「あー、そう、だな……」

……彼女の様子があきらかにおかしい。その表情が今飲んだ茶が一気に苦くなったかのようになっている。
紅魔館という名前が出た時から何か気まずそうにしていたのだが、パチュリーの名が出てから更に額に冷や汗まで浮かび始めている。
不信に思い、霊夢は魔理沙に近づき彼女の瞳をじっと見つめて問い詰める。

「なんかマズいことでもあるの?」
「いやぁ……実は」

しっかりと見つめてくる霊夢から視線を逸らさざるを得ない魔理沙は近い近いと霊夢の顔を押しやるようにして苦し紛れに白状した。

「……ちょっと本を借りてきたばかりで……」

……呆れた。
こういう時に限って面倒ごとになりやすいのだ。信頼度が零になればGAMEOVERな世界もあるように、こっちだって信頼度が低くなればまともな扱いをしてもらえない。
情報は信頼あってのもの。それを情報収集する前から損ねてどうするというのだ。
無論、彼女が"白状"したことは初対面である葉は全く知らない。何も知らぬ者が見れば、魔理沙の様子はただ本を返しそびれて気まずくなっている人のようにしか見えない。

「だったら、丁度返しに「葉、魔理沙の"借りる"っていうのは"盗む"ってことだから」……へっ?」

聞こえはいいが実態はそういうことである。
実態を聞かされた葉は鳩が豆鉄砲を食らったような表情で霊夢を見る。彼女は二言はないと言わんばかりにうなずく。
その表情のまま魔理沙を見る。彼女は相変わらず苦い笑みを浮かべたまま。

「ちゃんと借りてるぜ? 死ぬまでな。とにかく、他に行こうぜ!」
「ダメですよ、借りたものはちゃんと返しておかないと魔理沙さんに誰も貸してくれなくなっちゃいますよ?」
(もうそんな感じだけどね)

そして全く悪びれることなくさらりと逃れようとした魔理沙であったが、良心(というより一般人の感覚なのだが)である葉は穏やかに魔理沙の行動を苛め、優しく厳しく忠告する。

——と、ここで葉が意外な提案をした。

「そうだ! 私も手伝いますから、一緒に本を返しましょう!」

少なくとも魔理沙と他の関係者のやり取りを知る者からすれば在り得ない、といった風な言葉が出てくる位に意外な提案だ。
いや、それでなくとも「死ぬまで借りる主義」の魔理沙からしても考えられない(考えたことが無い)言葉でもある。

「いや、家……散らかってるし」
「私、探し物を見つけるのは上手だって褒められました!」

事実を述べただけなのにどんどん後が無くなってゆく魔理沙。目線を泳がせて、必死に何か言おうと考えている。いつも強気な彼女がこんな風に弱々しくなり狼狽する様を見るのもかなり久しぶりかもしれない。

そして最終的に根負けしたのは魔理沙の方であった。

「〜〜っ、分かったぜ。後悔するなよ?」

純粋な良心から来る真っ直ぐな心に耐え切ることが出来なかったのだろう。負け台詞染みたものを吐いてしぶしぶ承諾する。
(後悔する程のものなのね……まぁいいわ)。
コイツの私生活は一体どうなっているのだろう。話に入っていないのにも関わらず霊夢の心に呆れを通り越した感心すら出てくる。
はぁ、息を吐きとりあえず行動指針が決まったようなものだ。

「じゃぁ、まずは魔理沙ん家ね」
「ああ」

そして、適当に準備——といっても弾幕として撒き散らす札を霊夢が持っただけなのだが——を済ませ、外へ出る。
霊夢達の心中とは裏腹に、太陽は今日も光沢を放ち大地を、この幻想郷を照らしていた。
それはまるで、葉の笑顔のようでもあった。

——こうして、不思議な少女「葉」から受けた奇妙な依頼の遂行が始まった。
まずやることは、紅魔館で魔理沙が借りた(盗んだ)本を返すべく魔理沙の家へと向かうとこからであった。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」6 ( No.9 )
日時: 2014/01/28 18:23
名前: 幻灯夜城 (ID: nyr1MBL9)

——魔法の森

鬱蒼とした木々が生い茂り、辺りにはよく分からないキノコまで生えているこの地。名を"魔法の森"といい、此処を抜ければ魔理沙の家が見えてくる。入り口付近まで歩く三人。
と、幸か不幸か、丁度野良妖怪のような生物と遭遇した。壺型に何か生えているような妖怪。

それを見つけるなり後方を歩いていた葉がいきなり駆け出した。

「ちょっ、葉?」

どういうわけかさっぱり分からず後を追う二人。
そして、肝心の葉はその野良妖怪に笑顔で挨拶をしている最中であった。

「こんにちは」
「……」

一応言っておくが、挨拶したからって答えてくれるような小妖怪なんてほとんどいない。妖精とかは別だとしても。

「「普通に挨拶した(やつ)(の)は初めて(だぜ)(見るわね)」」
「え」

二人揃って同じ感想が漏れる辺り、葉はやはりどこか普通じゃないのかもしれない。しかもその葉ときたら突っ込みに対して鳩が豆鉄砲食らったみたいになってるし。

「うーん。結構、葉って扱いづらいわね……」
「ご、ごめんなさい……」

霊夢も今までに関わったことがない部類であるが故に思わず苦言を漏らすと、律儀にも葉が霊夢のほうを向いてしゅんとした様子で謝罪する。
その光景は思わず微笑みを漏らしてしまいそうになるもの。
ただし、完全に小妖怪を除け者にして背に追いやっているが。

「ま、いいさ。それに、余所見してると危ないぜ?」
「へ……?」

苦笑いしながら魔理沙が忠告する。
それに嫌な予感を覚えた葉が再び妖怪の方をくるりと振り返り——。

「ぎゃっ」

突如壺から伸びてきた触手が葉を捉えんと蠢いてきた。慌てて武器を取り出そうとしたがその手、その足を捉えられ宙吊りにされてしまう。

「た、た助けてー!!」
「ああもう仕方ないわね!! 動かないでよ!!」
「やれやれ……」

まさかと思うがこれしきの事に突っかかるとはまるで思ってもいなかった。触手にひっ捕らえられ、宙で弄ばれる葉。
助けを求めるその声に思わず吐き捨て、霊夢は手元よりお札を取り出す。同時に魔理沙も小さな道具——八卦路を取り出すと共に手元に小さな魔法陣の形成を始める。

「さっさと放しな——さいっ!!」
「おイタが過ぎるのはよくないぜっ!」

狙うは触手を行使する本体。
霊夢の札は投擲されたと同時に鋭い針のような弾幕へと変化し、触手の本体である壺へと飛んでゆく。
一瞬怯み、触手の動きが止まる。そこへダメ押しと言わんばかりの魔理沙の八卦路から放たれた小型レーザーがぶちこまれる。

緩んだ触手。
必死にもがいていた葉は突如緩んだ反動で束縛から解き放たれると共にGに任せて勢い良く落下し、腰を思い切り打ち付ける。

「アイタタ……な、なんでおそわれたんでしょう……?」
「今更言っても遅いでしょうが。下級妖怪同士でなんか会話出来ないわけ?」
「……えっと」

その言葉で我を取り戻し、一旦瞳を閉じて耳を澄ます葉。
そして、困り顔で彼女が告げた回答。それは、

「……魔理沙さんが、嫌いみたいです……」
「また私かよ?」
「とりあえず、魔理沙のせいってわけね。まったく……」

結局こうなるのかとしぶしぶ札を構えなおす霊夢。その手に持っているのはお祓い棒。
立て続けに理不尽な不幸が舞い込んでくることに謎の憤りを感じずにいながらも箒を構える魔理沙。
それに続いて葉も、懐より鉄扇子を取り出す。

「ま、いいわ。いつもどおりやるわよ。葉、あなたも神社まで来た位だからやり方分かってるでしょ?」
「勿論ですっ!」

お姉ちゃん仕込みの直伝弾幕、というより自分の"能力"を生かした戦い方は身に着けているつもりだ。そうでなければあそこからここまで来る時に妖怪に襲われていた時にどうしようも無くなっていただろう。

「準備はバッチリってわけだな。そういうの好きだぜ」
「じゃぁ、サクっとやっちゃいましょ」

言うなり、先手を切ったのは霊夢だ。
振るったお祓い棒より放たれるはお札型の弾幕——直線的な弾道で突き進み、小妖怪に一撃を与え怯ませる。
間髪入れずに魔理沙が追撃を入れるべく背後に回りこむ、が——。

「っぶね!?」

背後に回り込もうとした彼女に細い一本の影が差し、気づいて地面を転がる形でよければ次の瞬間には触手の一撃が大地に叩きつけられる。
迂闊だった。幾ら怯んでいるとはいえ、コイツの手に当たる触手は無数にあるのだ。気を抜けば思わぬ所で傷付いてしまうかもしれない。

「調子乗ってるとやられるわよ魔理沙!」
「んなことわかってるんだ、ぜっ!」

転がり様にまさかの寝転がった姿勢のままレーザーを妖怪へと向けて放つ。

一筋の閃光が真昼の空を駆け抜ける。
弾幕はパワー——ブレインと対極を成す閃光は、触手をたたきつけたことによって隙だらけとなっていた小妖怪にクリーンヒットし、小さな呻き声を上げさせる事に成功する。

「やりぃ!」

自身の一撃が絶大な効果を齎したことに思わずガッツポーズする魔理沙。だが、慢心は敗北を招き寄せるように、魔理沙にもまた敗北の触手が忍び寄ってきていた。

「危ない魔理沙さんっ!!」
「うぇ……? いっ!?」

いち早く気づいたのは葉だ。
葉っぱカッター、即ち葉型の弾幕を投射していた葉であるが魔理沙の頭上に影が差し込んでおり、触手が今にもたたきつけられんと振り下ろされる——

——寸前で、その動きが"止められる"。

「は……?」

叩きつけられるそれに思わず目を塞ぐように腕を交差させた魔理沙であったが、何時まで経っても衝撃が来ないことに不信に思いちらりと腕の間から顔を覗かせ、そして驚愕する。

ぎちり、ぎちり、と音がする。
触手を縛る、"自然の触手"。即ち——"蔓"。
無数の蔓が小妖怪を縛り上げ雁字搦めにし、その身動きを封じていた。

「ふぅ……か、間一髪です……」

それを行使するのは、緑色の幼い少女——"葉"。

「ちょっと……これ、アンタが?」
「ほぇ、そ、そうですけど。それより早くトドメを!」

余りの異質さに霊夢が呆然とするも敵が動けなくなっている今こそが好機。危機を救われた魔理沙、そして霊夢は各々の弾幕を走らせる。

一方向より札の群れが。
一方向より一筋のレーザーが。
挟み撃ちにする形で、動きを封じられた妖怪に叩きつけられた。

「ピギイィイ……」

二人の弾幕に挟まれた小妖怪はたまらず森の奥へと傷ついた体を引きずり逃走する。やはり怒りより命が優先のようであった。

「ふ、ふぅ……」

植物の行使で体力を消費したのだろう。
戦闘が終わるのとほぼ同時に、ふらりとクラついたかのようにフラフラ動いた葉であったが、やがて立ってられないと言わんばかりにへたりこんだのだから。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」7 ( No.10 )
日時: 2014/01/31 17:46
名前: 幻灯夜城 (ID: Dgyo6F5o)

「うーん……まぁ、最初はそんなものだな。しかし、さっきはヒヤヒヤしたぜ」
「よく言うでしょ、ヒヤリハットとかって。アンタも気をつけてないとその内やられるわよ」

疲労困憊といった様子で地面にへたりこんだ葉とは対照に、霊夢と魔理沙はそんな他愛の無い会話を続けている。そこに戦闘の後に来る疲れのような色が全く感じられない。

「お、お二人はっ……余裕そう、です……ね……」
「慣れっこだからね、こういうの。葉もそのうち慣れるわ」

何でもなさそうに霊夢は答えた。慣れっこ——というより霊夢に至っては慣れるの極地を極めていると言っても過言ではないのだが。
 実際、戦闘中にも明らかに差が出ていた。
葉っぱの弾幕を飛ばすことに集中していたせいで動きが緩慢になっていた葉に対し、霊夢や魔理沙は俊敏な動きで妖怪を翻弄しながら弾幕を打ち込んでいる。力技で押し切ろうとする魔理沙は相手の動きが少しでも鈍ったところへ、ダメージを積み上げて一気に叩き込まんとする霊夢は相手にこちらの隙を見せないように、と言った具合に弾幕の扱い方にも慣れている様子であった。

「……そういえば、スペルカード準備してなかったな」

今更といった風に魔理沙が呟く。スペルカード、弾幕ごっこにおける重要なアイテムであり今回のような小妖怪に対しても使われる代物だ。
霊夢は神社に置いてきているし、魔理沙も自分の家に置いてきたままなのだ。

「今更でしょ。結果オーライってやつよ」

何でもなさそうに霊夢が返す。
どの道、あのレベルの敵であればスペルカードなど無くとも十分。

「じゃあ私のアレも結果オーライってことで「それは不注意で」」

流石お調子者といったところか。魔理沙がおどけるのを何時ものように霊夢が突っ込みを入れたところで彼女はふと思う。

「そういえば、葉はスペルカードどうしたのよ?」
「えっと……そういうのまったく必要なかったので……」

困ったように答える葉。
最も、今みたいなのはお姉ちゃんが全部倒してくれていたのもあってか葉に関しては最低限の防衛術程度しか覚えていないのだ。

「のんびりしたところにいたのねぇ」

今時人里でも防衛手段が無くていい場所というのは珍しいものである。

「ま、別に大丈夫か。こういうのは私たちに任せとけ」
「は、はいっ!」

今までのんびりとした場所で暮らしてきたが故に戦場に不慣れな葉よりかは、霊夢と魔理沙の方が何百倍も経験の上で勝っている。そのため、戦闘等の荒事は自分達がやった方がいい、そう判断したのだ。

「……さて、その面倒くさい魔理沙の家へ向かいましょう、と言いたいけど……ちょっと久々のアレのせいで疲れたわね。休みましょう」
「え、早く本を「休みましょう」」

有無を言わせずに休ませようとする霊夢。自分が休みたいというのは勿論あるし、何より先程の葉の不慣れな様子を見てこのまま進むと不味いと感じた故にだ。尚、魔理沙は我先にと言わんばかりに丁度いい背丈の木によしかかって腕を伸ばしている。

「わ、分かりました……」
「素直なのはいいことよ」

霊夢から漂ってくる鬼すらもひれ伏しそうなただならぬ気迫に負け、葉もその辺に寝転がる。
それを確認した霊夢もまた此度の疲れを癒すべく、木の方へ寄りかかった。

(……それにしても)

妙だ、と霊夢は思う。
葉の力が特別凄いとか魔理沙が押されていたとかそういうのはどうでもよかった。だが、気のせいだろうか。あの程度の妖怪は普段なら速攻で蹴散らせるのに、今回やたらと苦戦したような気がする。
断じてそれはスペルカードが無いからとかそういうのではない。根本的に、妖怪自体に"何かがあった"ようにしか思えない。

(……杞憂であってくれればいいけど)

また、面倒くさいことにならなければよいのだが。
そんなことを考えながら霊夢はゆっくりと瞳を閉じて視覚を遮断し、底知れぬ暗闇の世界へと入っていく——。

第一節「葉っぱと巫女と魔法使い」8 ( No.11 )
日時: 2014/02/04 16:23
名前: 幻灯夜城 (ID: .DDflOWn)

夢を、見ていた。

それは、自分が先代の博麗の巫女を慕っていた頃、己が何も知らない童女であった頃の夢。

夢を、見ていた。

それは、自分が博麗の巫女になった頃、魔理沙と出会い何時ものように弾幕ごっこをしているときの夢。

夢を、見ていた。

それは——"幻想郷が跡形も無く崩壊した夢"。

「……なに、ここ」

呆けたような表情で呟く霊夢の視界いっぱいに広がるのは、不安定な世界を漂う幾つもの領地。霧雨魔法店はない。迷いの森も無い。紅魔館も無い。霊夢の知る博麗神社でさえも無い。
た だただ目を背けたくなるような底なしの虚無だけが広がり続けている。どこまでも、どこまでも。

崩れ果てた広大な領地の中に点々と残る小さな村。それらは確かに人里であった。それらは確かに幻想郷に存在するものであると理解できた。そして、ここが"幻想郷"であることも理解できた。

自分の知る幻想郷はそこには無い。馬鹿騒ぎがあちらこちらで繰り広げられ、毎日のように頭に高濃度のアルコールが回った奴等が問題を起こすような世界はそこにない。よくも悪くも粛々と流れ続ける時の中、人々が身を寄せ合って暮らしている、そんな息苦しい世界。

——信じられなかった。
何故、何故こんなことになったのだろうか。
——信じたくなかった。
これが夢だとわかっているなのに。異常にリアルで生々しくそこに鎮座し続けることを。

目を擦る。目の前の風景を見たくないと言わんばかりに必死に目を擦っては再度見直す。でも結局そこにあるのは異常なまでに生々しい現実の虚無のみ。

「なんだっていうのよ」

早く覚めて欲しい、そう願った。
これ以上見たくない、そう願った。

だが非情にもこの悪夢は霊夢という一人の人間に対して更なる映像を見せ付けんとしてくる。

次に見えたのは、小さな祠であった。重々しく鎮座するそれからは生気といったものが全く感じられず、少しでも気を抜けばその灰色の怖気に飲み込まれてしまいそうな位に寂しい。

その中心にいるのは、緑色の髪をした一人の天女。

「……?」

肩出しの衣装を着て、ただ天を見上げている彼女の瞳は途方もなく暗い。まるで周囲の気に飲み込まれてしまったかのように。
不思議な浮遊感を覚えながらも霊夢はそれに近づく。会ったことが無いはずなのに会ったことがあるような感覚を覚えたからだ。

だが、彼女に触れることは出来ない。
それもそうか、伸ばした手が彼女の肩を透かしたのを確認して諦める。

その時だ。少女がぽつりと漏らしたのは。

「……ごめんなさい」
(……え)

その表情は途方も無い虚無に包まれていながらもちらりと深く染め上げられた青黒い哀しみと絶望の色であった。

「ちょっと、アンタ。何で謝ってんのよ」

聞こえるはずもないのに思わず声を出してしまう。
気のせいだろうか。これが"聞いたことがある"ように思えるのは。
伸ばす手、再び掴もうとする手、そして彼女の心を掴もうとする手。

——それが彼女に届くのよりも先に、夢に終わりが訪れる。
視界が暗く染まっていく。

「ちょっ、そこのアンタ……聞こえてんなら返事くらいっ……!!」

その言葉も届くことは無く、虚無の中に響いて雲散霧消するのみ。
夢に終わりが訪れる。
そして、当の少女はそれを何ら意に介することなく言うのだ。

「"ごめんなさい、皆さん。私は、ここを、壊してしまいました"」

最後に少しだけ聞こえてきたのは、はっきりとした懺悔の言葉。
その意味を問いただすこともならぬまま霊夢の意識は再び闇の底へと引きずりこまれてゆく——。

———

「……むさ……!!……むさん!!」
「れい……ろって……き……って……!!」

「「起きろ(てください)霊夢さん!」」

目覚めは最悪だった。
少女二人の声が同時に耳に響くと同時に頬にぴりぴりとした刺激のようなものを覚えて目を開けると、心配そうに顔を覗きこむ葉と魔理沙が視界に入った。
荒い息を上げながら何が起こったか分からんと言わんばかりに二人の顔を交互に見つめる霊夢。

「私……寝てたのかしら?」
「ああ、寝てたぜ。とびっきりの悪夢でも見ているのかと言わんばかりのうなされ声を上げながらな」
「びっくりしましたよ。私達が霊夢さんの所に行ったっけ、汗ぐっしょりな霊夢さんが凄い声でうなっているんですもん!!」

若干テンパりながら説明する葉とゆっくりと落ち着かせるように話しかける魔理沙。
そこまで凄い事になっていたのか。確かに、額から滴り落ちる滝のような汗を考えても相当疲れていたのだとは思うが。

「……どうする? 霊夢。お前キツいんなら私達だけでも……」
「何でも無いわ。ただうなされてただけよ」
「で、でも体には……」
「悪夢如きに屈するようじゃ巫女失格よ。誰がなんと言おうが私の前進をとめることは出来ないわ。さ、いきましょ、魔理沙の家へ」

二人から休息の勧めを入れられるも強引に断り立ち上がる霊夢。だが、内心は震えが止まらなかった。お世辞にも心臓によろしくない幻想郷の未来。あんなものを見せられた後で平常心でいろというのもまた無理な話であるのだが。
まだ不安気な様子の葉と、やれやれと一度言い出したら止まらない霊夢を気遣う魔理沙の前を歩み始める。

「……ところで魔理沙」
「なんだ?」
「頬がヒリヒリするんだけど、やったのアンタ?」
「ああ、揺さぶっても起きないから渾身の力を入れてお前の頬に思いっきり平手打ちをかましてやったぜ!」
「ああ、そう。やっぱりアンタだったか」
「?」

にっこりと悪魔のような笑みを作る霊夢。
第六感が危機を告げ、僅かに後退りする魔理沙。

そこへ、

「うっごおぉぉっ!!?」

——魔理沙の無防備な脇腹にタイキックをお見舞いしておいた。

「ま、魔理沙さんっ!?」
「さ、ソイツはほっといて行くわよ葉」

呻き苦しむ魔理沙を放置しそ知らぬ顔で歩き出す霊夢。
鳩尾にクリーンヒットしたらしく「うごぉ……」と呻き声を上げながら
後をよろよろとついてくる魔理沙。霊夢と、そして魔理沙を交互に見つつおろおろしながら真ん中を歩く葉。

……魔理沙の家はもうすぐそこにあった。


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