二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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人間未満の聖杯戦争[Fate]
日時: 2016/11/18 14:07
名前: 明星陽炎  ◆EaZslsthTk (ID: YiQB1cB2)

「このセカイというのは平等と書いてふこうへいと読むように、最初から結末は決まっているんだ。」
「つまるところいくら足掻いたってモブは勇者にもお姫様にも為れないし悪役は倒される。ね?簡単でしょう?」
「だから君の人生(物語)の咬ませ狗でしかない僕は此処で不様に朽ち果てていくのは覆らない。」
「さ、高笑いしながら見送りなよ。」
「ああ、でもそれは英雄ヒーローらしくないね。苦悩に思い悩みながらどうかハッピーエンドを手に掴んでおくれ。」


「どうせ君はそのうち僕みたいな咬ませ犬のことなんか忘れてしまうのだから」



人間に為りきれなかった少女が嗤う。涙も零さずに慟哭する。
だけど。だから。オレ、は──


※Attention※

毎度懲りずにお邪魔します。
此方はFate/Staynightの二次創作です。元々は短編集でこまごまと書いていたシリーズになりますが、まだまだ続きそうなので長編として別途書き上げることになりました。
初めてFateに触れる方でも混乱することなく読めるよう、なるべく気を付けていきたいと思っています。

ではよろしくお願いします──

目次

<Prologue>
「序章というもの」
Fate/Staynight本編から十三年前→Fate/Staynight本編から七年前のお話
始まる前の始まり
>>2-3

<Opening/Episode:0>
「はじまり、はじまり」
召喚当夜
彼女と彼らの関係
>>4-5

<Hello, What a beautiful day!/Episode:1>
「こんにちは、なんていい日なのかしら!」
第一夜
ここから始まる
>>7-10
>>13-14   第一夜:終

<Dum vtant stult vitia, in contrria currunt./Episode:2>
「愚か者は、悪徳を避けようとして、反対の悪徳へ走り込む」
第二夜
小休止と戦略
>>16-18   第二夜:終

<Si vis pacem, para bellum./Episode:3>
「汝、平和を愛するならば戦争に備えよ」
第三夜
そして出会い
>>20-23   第三夜:終

<>
「」
第四夜
Coming soon...


*幕間
ゲーマーたちの夜更け >>25

*マトリクス
>>1 マスター/七紙時雨の情報が更新されました
>>6 >>15 >>19 >>24 サーヴァント情報が更新されました

!Thanks!(お客様)
>>11 まーる 様(>>12 返信)

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Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.17 )
日時: 2015/09/01 15:19
名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: TQ0p.V5X)

〝至って不愉快な朝〟
 眠る必要のない身体というのは便利だが、やはり物事の利便には大概欠点があるものだ。全てを忘れさせる睡眠を丸ごと取り去られ、鈍る事のない思考により要らぬ考えが絶えることなくランサーの脳裏をぐるぐると巡っている。
 教会の周辺で再会したあの少女。名は知らない。ただ本人曰く──あの翡翠の男、アヴェンジャーとやらのマスター。結局彼女については何もわからない。分からぬことを報告など出来ぬ──そして何より、何故だか彼女のことは己の内にだけ秘めておけばいいような気がしていた
結われた長い黒髪、夜を溶かし込んだように黒く暗い色をした眼差し。瞼を閉じればはっきりとその顔を思い出せる。小生意気に細められた半眼、長い前髪に顔の右半分を隠し、口角を吊上げるあの表情。少女の残した淡い緑──裏柳色というらしい──の襟巻をぎり、と握りしめて何度目かもわからない舌打ちをする。

「──ランサー」

 ふと、降ってきたのは低い声。諸々の事情により主に成り変わった忌々しい男の声と知ると苛立ちはさらに募った。とはいえ、また令呪の強制などをつかわれては堪らない。憤りをぐっと飲み込み、声の主のもとに馳せ参じた。

「何の用だよ。もう粗方のサーヴァントとは一戦交えたじゃねえか」

 低い声で唸るように吐き捨てれば、件の主は相変わらず、闇を溶かしこんで固めてしまったように淀んだ瞳をゆるゆると歪めて笑っている件の男──言峰綺礼。相変わらず何考えてるか分かんねぇ奴だ、と思ったところでふと、その瞳の色……いや違う、その底知れない瞳の奥がアヴェンジャーのマスターの少女に似て────

「いやなに、今日は私の──我々の協力者を紹介しておこうと思ってな」

 逸れかかっていた思考はその一言で現実に引き戻された。こんな奴に協力者なんているのかよ──あるいはその協力者とやらも自分と同じように、卑劣な手で協力を余儀なくされているのかもしれない。そちらに一度思考が動いてしまえば、先程浮かんだ妙な違和感にも似た感情の霧はすっかり霧散してしまってた。

「てめえに協力者がいたなんざ驚きだな。それとも何か、脅しにでもかけているんじゃあないのか?」
「随分な良いようだな、ランサー。アレは自ら進んで私の駒に志願したのだが──」

 心の底から心外だ──と言わんばかりに溜息を吐き出した綺礼はまあいい、と言葉を切った。

「とにかく、まずは顔合わせだろう。お前にはアレの役にも立ってもらわねばならんからな」

 その言葉が、ランサーのなかでぐるぐると渦巻いているのは──英雄としての直感、だったのかもしれない。そう遠くない後に、ランサーはそれを悟る。

【やることが多い】
(ところで)
(俺はさっき、あのクソ神父と誰が似ていると思ったんだったっけか)

Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.18 )
日時: 2015/09/10 17:48
名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: XQp3U0Mo)

〝 雨降って 〟

 厳かな空気に包まれているようにも思う教会に足を踏み入れる。冬の晴れた空は抜ける様な青い色をしており、眩しすぎて時雨は目を細めた。二日続けてあの我様を自宅に独り放置するのはかなり危険だが、まあ流石に暴れることはないだろう、と結論付け──重厚な扉を押し開けた。

「綺礼さ──」
「何でてめえが此処にいる」

 降ってきたのは耳慣れた低い声ではなく、ただ馴染みがないといえば嘘になる声。

「こっちの台詞だよ、ランサーさん」

 昨日嫌というほど聞いたその声に半歩下がり身構える。時雨を庇うように、霊体化を解いたディルムッドが前へと躍り出る。襤褸切れのような布に覆われた二槍をその手に携え、低く腰を落としたその姿はいつでも応戦が可能だという合図だ。その後ろで、どうやら竹刀袋に突っ込んであったらしい鉄パイプを構え、毅然として此方を睨む少女。此方も戦闘準備は万全の模様だった。

「そそるねェ、随分熱烈な誘いじゃねえの。昨日はあんなにそっけなかったのによ」
「アハハ変態ですかやだなあ。神代の英雄も形無しだ」

 不躾に相手を上から下まで観察すれば、怒気すら籠った声で返答があった。殺意には殺気を。挑発には嘲笑を。敵意には悪意を。織り交ぜて溶かして丸ごと全部をぶつけ合う。

「ハッ、そっちの誘いも魅力的だが──やることは分かってんだろ?」
「冗談に決まってら。生憎、此処でてめえを野放しにする気は全くないんで、そこんとこちゃんと理解してよね」

 ヒュウ、と漏れた呼気に合わせて────刹那、翡翠の影と蒼い残像が混じり合う。乾いた高い音が二度、三度と続き、弾かれるようにまた二つの色が離れた。辛うじてそのやり取りを視界に収めた時雨はカチカチと思考で計算を練っていく。
 手数は圧倒的に二槍のディルムッドが有利だ。だが、いくら教会が下手な家よりも広いとはいえ、障害物の多い屋内ではその手数を十分には活かせない。対して青のランサーは一本の朱槍を突きに集中させることでその不利を補っているらしい。長期戦に持ち込まれれば、本来はサーヴァントではないディルムッドの低いステータスも相まって押し負けてしまうだろう────ならば。

「庭先におびき出すぞ相棒。此処じゃ不利だ」
「了承した」

 手短に指示を伝えると一気に庭に躍り出て、横並びに陣を構える。握りしめた鉄パイプには既に魔力を通し『硬化』の魔術を付加しているため、霊体への攻撃や二、三度程度ならば武器を相手に打ち合いも可能だ。
 自然にぎゅう、と握りなおしたそれを見て、ほぼ同時に飛び出してきた青い槍兵は目を細める。

「健気なこった、その棒きれで俺の槍を受けきれるとでも?」
「完全 ( パーフェクト ) に、とは言えないけどね。それでも数回はもたせる」

 にい、と口元を歪めれば相手も満足そうに舌なめずりをするのを確認し───飛びかかろうとしたところで────

「何をしている」

 低い声が、その場に響いた。瞬時に足を止め、時雨は音の付きそうな勢いで顔を上げる。視線の先にはやはり、見知った彼……言峰綺礼の姿があった。危ない、そう思った時雨は目の前にいる青い槍兵の驚愕に見開かれた目には気付かずに叫ぶように言葉をつづけた。

「綺礼さん! 下がってて──」
「安心しろ、時雨。それは私の駒だ」

 ──慌てたような声の時雨を遮り、何事もなかったかのようにその言葉を告げる綺礼。ゆっくりと、だが力強い足取りで彼はその歩みをランサーへと向けている。

「それはそうと──質問の答えがまだだな。今一度問おう、ランサー。私のいもうとに何をしている?」

 一字一字を区切るように強調しながら言葉を発するその姿からは、ちり、と空気を炙るような怒りが滲み、さしものランサーも気圧されたように後退る。しかし彼の緋色の瞳から苛烈な光は消えてはいなかった。ぎっ、とその漆黒に淀んだ瞳を睨み返し、吐き捨てるように言葉をひねり出す。

「──っ、てめえのマスターの陣地内に別のマスター、それも得体の知れないのが紛れ込んでんだ。交戦しねえ訳にいかないだろう。第一貴様の妹の顔なぞ知るか」
「ではアレはサーヴァントとしての義務であった、と。まあよかろう。客人をいつまでも待たせてはいられないからな。時雨、此方に来なさい」

 先程の怒りはすう、と身をひそめ、薄ら笑みを再び纏った綺礼は時雨を呼びつける。その直前まで放心していた彼女は一足先に我に返っていたディルムッドに肩を軽く叩かれて漸く現実に帰ってきたようで、背中を跳ねるように伸ばすと綺礼の傍らへと歩み寄った。

「改めて紹介しよう。双方、君らがこの陣営の要だ。双方、名を」
「──ランサー、クー・フーリンだ」
「七紙時雨。あっちはディルムッド・オディナ」

 どちらからともなく差し出された腕を握り、握手をする。敵対しない相手だとわかるや否や、彼女──シグレと言ったか──は一気にランサーへの警戒を解いたらしい。へら、と相好を崩し、ランサーを見上げている。 無警戒に此方を仰ぐ彼女を見ていると、やはり年相応、もしくは少し幼い少女そのもので、ランサーは溜息を吐き出しながら青い髪をガリガリと掻いた。
 ──調子狂うぜ、ほんと。内心でそんなことを呟きながら彼は「少し待ってろ」と彼女をその場に残して聖堂の中に置き去りにされた『それ』を手に取った。

「──これ、嬢ちゃんのだろう?」
「! 僕のマフラー!」

 手にした『それ』に少女の顔が明るくなったのを確認し、改めて男──ランサーは肩をすくめて、厄介なことになったと溜め息を吐くのだった。

【地固まる】
(お気に入りだったんだ、これ)
(……そうかい)

Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.19 )
日時: 2015/09/14 14:45
名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: TQ0p.V5X)

!マトリクスが更新されました!

サーヴァント情報

セイバー/??? (マスター/???)
アーチャー/??? (マスター/遠坂凛)
ランサー/クー・フーリン (マスター/言峰綺礼)New!
ライダー/??? (マスター/???)
キャスター/??? (マスター/???)
バーサーカー/??? (マスター/???)
???/ギルガメッシュ (マスター/言峰綺礼)
アヴェンジャー/ディルムッド・オディナ (マスター/七紙時雨)

ステータス

クラス/アヴェンジャー
真名/ディルムッド・オディナ
ステータス/
筋力:?
耐久:?
敏捷:?
魔力:?
幸運:?
保有スキル/???,???,???
宝具/???,???

Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.20 )
日時: 2015/09/25 14:44
名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: RGCZI60V)

〝情報整理〟

「───しかし、何度聞いても俄かにゃ信じ難い。まさか其処の優男が前回───十年前の聖杯戦争でランサーのクラスを得た英霊だったなんてな」

 理解し難い現実を噛砕くように、青いランサーははあ、と息を吐き出す。その様子に苦笑を浮かべながら「最早そんな大層なモノではなくなってしまいましたが」とディルムッドはランサーに茶を差し出した。
 さんきゅ、と低く礼を述べ、茶を受け取ったランサーはそれを一息に飲み下し、その美しい青い髪をガリガリと乱暴に掻き乱しながら湯呑を乱暴に置く姿はならず者めいて見えた。

「こうなってくると聖杯戦争とやらの仕組みすらこんがらがってくんな」

 唸るように吐き出した台詞に反応したのは目下、彼のマスターである言峰であった。意地の悪い笑みを浮かべ、自身の傍らで裏柳色の襟巻を満足そうに玩ぶ少女の頭にその大きな手のひらを乗せると、重低音の声を紡ぎだす。

「ほう、では至らぬ大英雄殿の為に今一度整理しておくとしよう──時雨、おさらいだ。まず、聖杯戦争の定義とは?」
「──万物の願いを叶える「聖杯」を奪い合う争い。参加者たちは『マスター』と呼ばれ、様々な次元に存在しうる英雄たちの魂を顕現した『サーヴァント』を使役する。また、マスターは事前に聖杯から『令呪』と呼ばれるサーヴァントへの絶対命令権が三画配布される」

 言峰の台詞にすらすらと、淀みなく答える時雨。それを見ると言峰は満足そうに頷いた。

「よろしい。では時雨、サーヴァントについてもう少し詳しい説明をしてみたまえ」
「御意ー。まずはサーヴァントは七騎存在するということ。基本的に、英雄たちはそれぞれ『セイバー』『アーチャー』『ランサー』『キャスター』『ライダー』『バーサーカー』『アサシン』と呼ばれるクラスに振り分けられ、それぞれの伝承からクラスに相応したスキルや武器を扱える……例えば、ランサーのクラスで召喚された青いお兄さんは『クー・フーリン』の伝承から、呪いの朱槍を扱っているようにね」

 びっ、と時雨の指がランサーを指す。「行儀が悪い」とその指を捻りながらディルムッドは時雨の言葉に続けるように発言した。

「そして私──ディルムッド・オディナが前回の聖杯戦争にて恐れ多くも『ランサー』のクラスを得て現界したのは、先程御子殿が仰られた通りです」
「──そう、問題は其処だ。前回の聖杯戦争に喚ばれた英霊が何でまだ現界している。貴様の言い分では前回の聖杯戦争に勝者はいなかった──敗退したサーヴァントは聖杯に呑まれるんじゃなかったのかよ、監査役」

 ぎっ、とその緋色の瞳を細め、ランサーは己の主を睨みつける。睨めつけられた本人と言えば涼しい顔をして首をすくめて見せた。

「──その直接の原因は我々にも解らん。肝心の元ランサー当人にもよく解っていないようだしな」
「申し訳ない。だが一つ確かなのは、先の聖杯戦争にて敗退したこの身は、英雄としての要素のない、悪霊に近いモノとして存在している、ということです。これについては敗退時の強い負の感情が原因ではないか、という旨の見解を言峰殿に出していただきました」
「憶測に過ぎぬがね。そして悪霊であるその魂は、時雨と契約を交わし、その魔力を糧にすることで、召喚当初サーヴァントとして得ていた能力を再現するに至っている──」

 言葉を切り、言峰は時雨に視線を移す。ん? とでも言わんばかりに首を傾げた件の少女は相変わらず嬉しそうにマフラーを弄り倒しながら、ああ、と口を開いた。

「ぼくの魔力はどうやら悪霊とか呪いとか、その類と相性が良いみたいでさー。魔力を貸してあげることでそれを生前の姿に近いとこまで再現できるみたいなのね」

 ──ぱちん。
 気怠げに鳴らされた指の音に誘われたように、小さな霊がその指先で漂い始める。それを無造作に掴むとぎゅう、と握りしめ、ややあってから開いた手のひらの中には黒い小鳥が佇んでいた。

「──このとおり。って言ってもぼくは専門的に魔術を学んだことがあるわけじゃないし、ちゃんと使えるのは基礎の基礎である教化、派生した硬化、そんでもって暗示。悪霊の使役とかは──どっちかっつーと特技の方かな。魔術ではない」

 言いながら、手のひらの小鳥を直線状に飛ばす。暫く羽搏いたそれは、途中で霧のように掻き消えた。

「で、ディル──相棒もそうやってサーヴァントを再現したもの。とはいえぼくの能力じゃ完全再現は無理無理。宝具だってなんとか『呪い』にして再現できた程度で、ステータスはぶっちゃけザコなんだよね」

 けらけらと笑い、相棒と称した男を指示す少女。指された方はその指を掴み、ぎりぎりと曲がらない方向に曲げようとすることで反撃していた。子供の喧嘩か、と密かに思ったのは恐らくランサーだけではない。

「再現、という形ではあるが一応はサーヴァントという現象なのでね。彼女らには『復讐者』(アヴェンジャー)のクラスを名乗らせているというわけだ。理解したかね、ランサー」
「──ケッ、わーったよ」

 補足のように付け足された言峰の言葉に、ランサーは再び息を吐き出しながら応える。目の前では呑気な復讐者主従が静かな攻防に決着をつけたらしく、指を摩り涙目の少女と、何処か勝ち誇った顔の輝く貌が対照的だった。
 呆れたように低く息を吐いた言峰は、しかしすぐにいつものような食えない笑みを貼り付け、低く、甘いその声で楽しそうに告げた。

「さて、では現時点で明らかになっている情報を整理しようか────」

*-*-*-

 通り過ぎてゆく冬の澄み切った空と、日常に溶け込んでいく学生服。穂群原、というその学園独特の茶色の詰襟を纏った赤い髪が通り過ぎていく。急いでいるらしい、駆け足の少年はゆっくりと歩み続ける萌黄色のセーターの少女には気付いていないようだった。

「──衛宮士郎、かあ」

 ぽつり。少女は薄笑いを零しながら口元のマフラーをたくし上げる。ぎゅっと吊り上がった口角はそれで隠れたものの、愉悦の昏い光を帯びながら歪められたその瞳は隠しきれていない。

「『正義』を志す少年──うふふ、イイなァ」

 邪悪な笑みを携えて、少女は学園に背を向けてゆっくりと歩き出す。

「てってーてきに、捻りつぶしたくなっちゃうよねえ」

 その場に零した不穏な言葉を聞き届けたのは、彼女に付き従う翡翠の男のみだった。

【 歯車、噛み合う 】

Re: 人間未満の聖杯戦争[Fate] ( No.21 )
日時: 2016/01/15 16:04
名前: 明星陽炎 ◆EaZslsthTk (ID: RGCZI60V)

〝対面〟

 元より隠密行動や、暗示による心理誘導を得意とする時雨にとって、人のまばらになった放課後の学び舎に忍び込むことなどそう難しい事でもない。派手な立ち回りこそないものの、実に堂々と校舎を闊歩する姿はやはり何度見ても異様の一言に尽きる。
 揚々と歩を進める彼の少女は、本来年齢から言えば自分が通っていたとておかしくはない高校というものに興味があるのだろうか──心なしかきらきらと目を輝かせ、落ち着いた色合いで統一された廊下が夕陽でオレンジに染まる様を見つめている。
 その姿はあんまりにも常の様とは違って見えた。ディルムッドは低い声で己の主の名を呼ぶ。本人とて分かってはいるだろうけれども──此処は、違うのだ。

「───時雨」
「…………わーかってるよ」

 言外に含んだ非難めいた響きに気付いたのか、振り返った時雨の表情は妙な昏さを伴った笑みで。ほんの少しだけ、ディルムッドは先程の自分を後悔した。とはいえ、最早正しい騎士では在れない自身の中の黒い心が囁く。
 〝七紙時雨はそうでなくてはならない〟〝平穏とも安穏ともかけ離れた存在でなくてはならない〟一種の強迫観念にも似たそれは、恐らくディルムッドの中だけでなく、時雨自身にも浸透しているのだろう。昏い笑みは瞬時に失せ、いつもの挑発的な光を宿した瞳を廊下の先に向ける。
 その視線の先から聞こえる音にディルムッドも気付いている。

「絶賛バトってるカンジ? あつぅいお二人の間にお邪魔しちゃおうか」
「人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られると言うぞ? まあその意見には賛成だがな」


*-*-*-
<side:Hero>
 静かな校舎内に不釣り合いな激しい戦闘の音が響いている。嗚呼、どうしてこんなことになったのか。

「待て、待てったら、遠坂!」
「うるさい! 次に会ったら敵だと警告したはずよ!!」

 どうにか彼女と話をつけなければならないというのに、指先から射出される魔力の塊──ガンドを躱すのに精一杯でそんな余裕はない。避けきれなかった魔力弾を強化した鞄で受けきる手がどこまで通じるかが怪しい。これが所謂『絶体絶命』という奴か、などと意識を逸らした瞬間に膨れ上がる──殺気。
 反射的に飛びのく。視界に入った遠坂もあの殺気に警戒を強めて構え、いつの間にか彼女の隣には赤いアーチャーが双剣を構えながら佇んでいる。

「嘘──もう学校内にマスターはいないはずなのに!」

 低い声で呻いた遠坂の言葉に顔を顰め、「凛、この気配は彼らだ。来るぞ」赤い弓兵はそんな事を告げる。
 彼ら? 全く理解できない会話に戸惑いつつも、アーチャーの睨みつける方向へと視線を向ければ、その二人は其処に居た。
一人は少女。オレたちと同じ年頃だろうか、中肉中背の彼女の長い黒髪の隙間でにんまりと細められた眦から覗く瞳には澱の様に淀んだ黒を滲ませている。鉄パイプと思しきモノを持つ彼女が従えているのは背の高い男性。癖の強い黒髪に陶磁の肌。蜜色の瞳が輝く眦は緩く下がっており、右目の下には泣き黒子がぽつりと浮かんでいる。

「オッジャマシマァス」

 にんまりと笑ってマフラーを口元までたくし上げる少女。学校という空間に決して馴染むことのない私服姿、しかしてまるで『其処に居るのが当たり前であるかのように』存在するその異様さにその場の空気はすっかり呑まれてしまった。だから、オレは気付かなかった。

「みぃつけた&#9825;」

 少女がオレを見て、マフラーに隠した口元を歪めていたことなど。

【 異質+異様+異常=波乱の始まり 】


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