二次創作小説(映像)※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 艦これ! ~黒い雨と夜明け〜
- 日時: 2016/11/30 19:55
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の方へ】
とまあ、どうもタクです。今回は、艦これの小説を書くに至りました。
ただ、この小説は他の版で書いているようながっつりとした長編ではなく、作者自身が好きなときに好きなだけ更新できる、をコンセプトにした短編集のようなものにするつもりです。
そして、脳内鎮守府要素が多々あるので、その辺はご了承ください。自分が所持していている艦娘が中心になると思います。
後、作者の元の作品の作風上、コメディ、シリアス、どっちもあるのでお楽しみに。
追記。
イベントの開始に伴い、こちらもイベント路線に変更。
——20XX年、深海より数多の侵略者・深海棲艦が現れた。世界各地の海が蹂躙される中、希望が現れる。それは、かつて大海原を舞台に戦った軍艦の魂を少女という器に宿した、人と似て非なる者、艦娘だった——
- E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.2 )
- 日時: 2017/01/15 01:47
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
——本土近海を航海していた輸送部隊が、深海棲艦の陸上爆撃機を捕捉したのが全ての始まりであった。
それらが狙う先は、海を走っていた彼女達ではなく、日本本土、それも大本営のある横須賀であった。
深海棲艦が出現してから、海上自衛隊は”鎮守府”と呼ばれる旧海軍のそれをコードネームにした拠点を多数、日本と南方の周辺国に置いたが、横須賀はそれらを纏める大本営だ。
その襲撃を狙ったのか、多数の深海の大型陸上爆撃機が迫ってきたのである。
そして、先日建設した航空基地が幾らか被害を受けた。その後、迎撃して追い返すことには成功しているものの、大本営には緊迫が未だに走っている。
どうにかして、敵機の発生源を叩かねばならない。
が、しかし。此処で1つの疑問が生じた。
敵は何処から、陸上爆撃機を飛ばしたのか? である。
陸上爆撃機は大型で、強力な爆弾を積める分、航続距離が短いという弱点がある。
また、大型であるために航空母艦等には搭載せず、航空基地から飛ばすのが普通だ。
では、日本を空襲した陸爆は何処から飛んできたのか?
四方を海に囲まれた日本本土、それも横須賀を航空基地から飛ばした陸爆で爆撃するのは航続距離から考えて不可能に近い。
そもそも陸爆が飛び続けられるような圏内に、陸上型深海棲艦が沸くような島は無いのだ。
では、陸爆は何処から飛ばされたのか?
余り考えたくは無かったが、1つの仮説が此処で浮かぶことになる。
——陸爆は、空母から飛ばされたのではないか?
深海棲艦の武装は艦娘と同じく、基本は第二次世界大戦のそれである。艦娘の攻撃以外が通用しない障壁が、核を含む現代のあらゆる兵器を無力化している原因であり、装甲の薄い各国の現代艦は次々に沈められていったのだった。
さて、大型爆撃機も搭載量の都合上、今までは陸上型しか積めないのでは? と考えられてきた。 が、しかし。アメリカ軍は史実のドーリットル空襲でこれをやっている。相当当時は追い詰められていたのか、正規空母のホーネットとエンタープライズに陸爆を無理矢理搭載し、本土を襲撃したのだ。
先ほど積載量と航続距離から、陸爆を空母に積むことは普通はしない、と述べたが、今まで第二次世界大戦の艦のスペックを基調にしながら、それらの常識を超えたスペックの刺客を送り込んできた深海ならばやりかねないという結論になったのである。先ほど述べたことと矛盾するが、主に航空機と魚雷を積んでいる自称戦艦や、戦艦よりも装甲が厚い上に特殊潜航艇を積んでいる重巡洋艦、果てにはハリネズミのような対空火器に加え、CICを主砲に搭載したところまでは良いものの、戦艦を遥かに超える装甲厚の自称駆逐艦などがそうであり、第二次世界大戦の軍用艦のスペックを上乗せ・魔改造したような怪物がわらわらいることが深海棲艦の恐ろしさの所以なのだ。
画して、種が割れた以上はこの事態を解決しなければならない。本土近海に潜んでいるであろう機動部隊の捜索・撃滅の為、横須賀の大本営は迎撃部隊を送り込んだのである——これが、今回の作戦。
”艦隊作戦第三法”だ。
***
「……うあー、ダリぃ。疲れた」
椅子にもたれ、呑気に欠伸をする男の姿があった。
此処最近、本土空襲でかなり切迫した状況が続いていたため、彼も書類仕事に追われていたので疲労がたまっているのだ。
「提督、お疲れ」
書類を抱え、黒い髪を三つ編みにした少女が、ぐーたらしている彼に声をかける。
男も曖昧に返した。
——南国・パプアニューギニア。此処に、小さいが基地として機能している拠点があった。
その元締めが、今提督と呼ばれたこの男・木更津であった。見た目は、20代半ばの冴えない中年でいち鎮守府の提督とは思えないが、これでも海自鎮守府の司令をやっているのだから仕方がない。
「艦隊を派遣したいのは山々だが、こっちから向こう(横須賀)までは遠いからな……中部海域は横須賀の管轄だろ。俺らの出る幕は今回ねーよ」
「なければ良いんだけどね」
「シンガポール要塞の解放にマラッカ湾の敵撃破、ソロモン海域での夜間突入、これでこの辺りはひと段落ついてるし……最近結構ヤバいことばかりだったな」
これでも、ブイン基地は最近戦果を多数上げていた。
南方海域の脅威となっていたガダルカナル島のヘンダーソン飛行場の奪還、マレー沖に現れた深海棲艦の撃滅等々である。
海外の艦娘も多数所有しており、再びその名を上げつつあった。
「くれぐれも無理はしないでね。今倒れたら困るし」
「だいじょーぶだろ、今俺が倒れても。今回は俺らに出番はねーよ」
「またそんなこと言って……夕立達も今、念には念をって哨戒任務に出てるじゃないか」
「その任務を出したの俺だけどなー」
「そうだけどさあ」
三つ編みの少女は溜息をつく。
黒いセーラー服に、赤い髪飾りを付けた彼女は、どこか薄幸そうな雰囲気を漂わせていた。
彼女は時雨。白露型駆逐艦の2番艦だ。
二度の改装を重ねた彼女は、今ではすっかり古参の駆逐艦になっていた。元より、史実でも歴戦の猛者だっただけあり、それが彼女の強さを後押ししており、多くの戦果を挙げていたのである。
また、彼女の言う夕立とは、白露型4番艦の妹だ。こちらも、今ではすっかり古参の1隻である。
「……ま、確かにこっちでも何か異変が無いか心配だなこりゃ……報告を聞く限りは、特に異常なし、とのことだが」
「まあ、気を揉んでても仕方ないか。僕、何か作ってくるよ」
「うーむ……頼む」
まだ明るい空を見ながら、時雨の顔を見た。にこり、と微笑んでいる。
だが、彼女が一番知っているはずだ。上空から何もかもを奪い去っていく、空襲の恐ろしさを。
敢えて、それを表に出さない辺り、成長したのか、それとも押し殺しているのか——
***
「——西方海域方面を哨戒していた瑞鳳旗艦航空戦隊より入電、敵艦隊は西方海域セイロン方面から増援として姫級の正規空母を旗艦にした機動部隊を編成して接近していると、彩雲隊が捕捉した模様です」
「……」
「——潜水艦派遣作戦に出ていた伊58旗艦の第四潜水艦隊より入電、敵機動部隊スリランカ方面の泊地から接近しているとのこと」
「……」
「——大本営からの入電、至急ブイン航空基地は西方海域より迫る敵機動部隊の捕捉及び撃滅せよとのことです」
「……やべぇ」
この一言であった。
突如入った3つの電信。至って事務的に、軽巡・大淀はそれを読み上げた。
これで、一気にブイン基地にピンチが降りかかることになる。
まずは、西方海域の奥——スリランカの泊地から敵機動部隊が出現したのを潜水艦隊が捕捉、更に西方海域方面を哨戒していたこちらの部隊もそれを発見、このままでは本土は機動部隊による挟撃を食らうことになる。
その前に、この南方海域のラインで敵機動部隊を食い止めねばならなくなってしまったのだ。
現在、潜水艦隊はドイツから新型の墳式航空機のエンジンを持ち帰るという遠征を受けていたが、このままでは敵の護衛艦隊に皆一網打尽にされてしまうだろう。
「潜水艦隊には今、ドイツから墳式機のエンジンを持ってくるように言ってたんだがな……これは撤退は止むを得ねえ」
「では、遠征中止、ただちの帰還、ですね?」
「うむ。恐らく敵さん、こっちの輸送航路の分断と同時に西方からも空襲するつもりなんだろ。機動部隊の発見が遅れていたらどうなっていたか。本当に神出鬼没な連中だ」
「じゃあ、提督。すぐに出撃だね」
しばらくの沈黙ののち、決心したように提督は目を見開く。
「嗚呼——皆を呼んでくれ」
- E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.3 )
- 日時: 2017/01/18 23:05
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「狙ってくれって言ってるようなモノよ!」
海上を航行する少女たち、と言うと妙な響きだが、艦娘は艤装の力でそれを可能にしていた。
艤装を接続することで、彼女たちはまさに”船”となる。燃料と弾薬が艤装の中にある限り、継続的に行動が出来るようになる上に、こうして海の上に浮き、まるで氷上を滑るようにして”航行”出来るのである。
西方海域、ジャワ島沖。その近辺をツインテールの少女を旗艦にした水雷戦隊が敵の潜水艦隊を捕捉していた。水中にもぐり、待ち伏せをするかのように魚雷を撃つ潜水艦であるが、ソナーと爆雷を搭載した駆逐艦・軽巡艦の前では無力。
ツインテールが揺れると、ソナーが素早く探知した潜水艦の居場所を割り、彼女の手に握られた爆雷投射機からドラム缶状の爆雷が海中へ放たれる。
そのまま、静かに沈んでいくそれは——海底に潜みし伏兵の元へ降り、触発した。
「不沈物確認、潜水カ級撃沈です! 流石五十鈴さん……先制爆雷攻撃……相手のカ級eliteを先んじて仕留めるなんて」
「やっぱり、潜水艦が相手なら五十鈴さんは無敵にゃしぃ!」
「五十鈴の手に掛かれば、こんなものよ! だけど、油断しないで! まだ、敵の反応が残ってるわ!」
eliteと呼ばれる潜水艦の上位種は、こちらの砲撃の前に待ち伏せで雷撃を行うことで有名であり、対策が非常に困難だったのであるが、技術廠の爆雷投射機の改善により、ある一定の対潜練度を備えた艦娘はその前に先んじて先制爆雷攻撃を放つことが出来るようになったのだ。
そして、長良型軽巡洋艦二番艦・五十鈴改二。
その最大の得手は、相手の潜水艦が雷撃を放つ前に素早く察知し、先制爆雷攻撃を放つことであった。
「キタノネェ、エモノタチガァ……フッハハハハハハハ!!」
「煩い」
ポンッ、と再び彼女の拳銃のようにして握られた、投射機から放たれる爆雷。
しばらくして、海底より「イタイイイイイ、ヤメテヨオオオオ!!」という喘ぐような絶叫が響き渡る。深海棲艦の声は、沈んでいった艦の怨嗟。海底にいるはずの潜水棲姫の声が聞こえるのはこの為である。が、しかし。これによって確実に居場所を分からせてしまうという結果になった。
初めて対峙した時こそ、恐ろしい敵という印象が強かった潜水艦隊の旗艦・潜水棲姫であるが、やたらと硬いことを除けば単体はさして脅威ではない。
五十鈴を先頭にした水雷戦隊は、海域中に響く潜水棲姫の絶叫に心を乱されることなく、そのまま飛んでくる雷跡を回避。「うるさい敵だな! やってやんよ!」とは、随伴艦の朝霜の台詞であった。
そして——
「全艦、爆雷投射!!」
——五十鈴の号令と共に、大量の爆雷が底の見えない海へ降り注がれる。
逃げ場のない水中で、ぼごん、ぼごん、と音を立て、爆雷は爆発していき、潜水棲姫の船体へ穴を開けていった。
その巨大な艤装も、魚雷の数々も破壊され、届かない海面に手を伸ばし、彼女はまた嘲笑うかのように言った。
「ウッフフフ——マタ、モグルノカ……アノ、ミナゾコニ……」
***
——数時間前、ブイン基地にて。
「——皆、揃ったな」
木更津は改まって言った。
目の前には、それぞれブイン基地の部隊を取り纏める艦娘が揃っていた。
ブイン水上打撃部隊旗艦・長門型の長門。
ブイン空母機動部隊旗艦・翔鶴型の翔鶴。
ブイン第一水雷戦隊旗艦・川内型の神通。
ブイン第二水雷戦隊旗艦・長良型の五十鈴。
そして——秘書艦の時雨。
重要な作戦前には、この5人が集められることが殆どだ。
全員が集合したのを確認すると、彼は念押しするように言った。
「本日、遂に大本営より西方海域より迫りくる敵空母機動部隊の捕捉及び撃滅の指令が下された。つーわけで、西方海域にブインから艦隊を派遣することになったわけだが」
「西方海域か……あの辺りは潜水艦が常に警戒網を張っている。正面からの突破は余り得策とは言えないが」
腕組みした長門が難儀な顔で言った。彼もそれには同意だ。
潜水艦が航路に潜んでいれば、思わぬ奇襲を受けることがある。
魚雷が直撃すれば、戦艦でもただでは済まないことは、先の大戦が証明している。
「そうだ。だから、まずは五十鈴を旗艦にした対潜水雷戦隊で、ジャワ島の対潜哨戒及び全路掃討を行う」
「まっかせて! 五十鈴の対潜装備が唸りを上げるわ!」
「その後、現在マラッカ海峡に向かっているらしい敵の部隊を、通常艦隊で撃滅。夜戦になる上に高速の艦隊が必要になるだろうな。長門、今のこの基地の戦艦では誰を投入するべきだと思う?」
「マラッカ海峡まではかなり遠いが——先遣隊の戦力は、潜水艦隊の報告によるとそこまで規模は大きくないらしい。此処は、火力と射程に優れたV.V(ヴィットリオ・ヴェネト)級の出番だと思うのだが。それを旗艦に高速で敵を迎撃する」
「了解した。狭い海峡での戦いなら、彼女の出番だな。燃費は——まあ、アイオワに比べれば、か」
「提督、顔色が悪いよ……」
時雨が窘めるが、事実である。地中海という狭い環境を想定して作られた彼女達は、火力と速度こそ目を見張るものがあるのだが、肝心の燃費がとても悪いのだ。
「だが、水上戦闘機で制空に寄与できるのは、大きなメリット。此処は採用だ。そして最後は、連合艦隊機動部隊で、がら空きになったカレー洋に強襲を掛ける。良いな?」
「はい。五航戦、いつでも出撃できます」
答えたのは、銀髪の麗しい巫女装束の美人・翔鶴だった。
「連合艦隊第二艦隊旗艦には、いつも通り神通。お前が入って貰う」
「承知しました」
同じく、鉢金を巻いたセーラー服の少女・神通も承諾する。水雷戦隊の旗艦を務めた経験もある彼女は、慎ましい普段の態度に反し、戦闘では水雷戦隊の旗艦として人が変わったように暴れる、切り込み隊長だ。
「じゃあ、提督。これで良いのかな」
「ああ。それじゃあ、詳細が決定し次第、全艦に作戦を公開する。このラインを抜けさせるわけにはいかない——」
***
「何て言ってたけど、肝心の敵潜水艦勢力の旗艦は倒しちゃったし、これで帰投かしらね」
潜水棲姫の撃沈を確認した、五十鈴旗艦の水雷戦隊は周囲の警戒に当たっていた。
後続のマラッカ海峡への突入部隊が、もうじき来る。
対潜装備であるこちらは、帰投しなければならない。
「——五十鈴さん! 10時の方向、敵艦載機発見です!」
「……なんて言ってる場合じゃないみたいね」
空を睨んだ。
見れば、そこには数機の編隊で組まれた、深海棲艦の艦載機中隊がやってきている。
空襲だ。マラッカ方面から、どうやら迫ってきたらしい。
「——上等!! 全艦、対空戦闘用意! 高射砲で奴らを蜂の巣にするわよ!」
「了解!!」
随伴艦の睦月、如月、皐月、清霜、朝霜の5隻が五十鈴を囲うように移動し、空を睨んだ。
そして、高射砲を迫る影に向けるが——
「えっ、速——!?」
それは、すぐさま上空を過る。
間に合わない。高射砲で対空射撃を放つが、電探が捉えるよりも前に、それはどんどん真上を航過していった。
次の瞬間——海は炎に包まれたのだった。
- E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.4 )
- 日時: 2017/01/20 21:02
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「清霜、皐月、大破! ダメです、敵の爆撃機、早すぎにゃあっ!?」
「睦月ちゃんっ、こっちも中破しちゃった……!」
「嘘でしょ——!?」
五十鈴は空を睨んだ。
敵機の数はそれほど多くは無いが、どれも今まで目にしてきたそれよりも速く、そして爆弾が強力だ。
こんなものを食らえば、艦隊はたちまちに壊滅してしまう。
「睦月! 如月を曳航して! 朝霜は清霜を頼むわ! 私は皐月を、ッ……!?」
ドゴォッ、と足元に爆弾が着弾した。
間一髪、水柱が上がっただけにとどまるが、この状況はかなり危機的だった。
このままでは、全員無事で鎮守府に帰れるかが分からない。容赦ない爆撃機中隊の水平爆撃。
それを高射砲で撃ち落すも——漏らした一機による爆弾が、彼女の視界を覆う。
——ダ、ダメ! 旗艦の、旗艦の五十鈴が今此処で大破したら——
身構えた。
爆音が、響き渡り、自分の名を呼ぶ声が聞こえた——
「——お待たせしました、皆さん」
痛く、ない。
硝煙と油の匂いこそするが、艤装も体も全く破損していなかった。
五十鈴は顔を上げる。
無傷だ。
そして、目の前に油に火がついて炎上する海に、まるで皆を庇うようにして立つ影があった。
艤装の装甲によって弾かれた炎を振り払う、圧倒的な貫録。
掲げられた381mm/50三連装砲改。
幼げな表情とは裏腹に、それらが彼女を海の女王である戦艦であることを示していた。
「——V.Veneto級戦艦、2番艦Italia(イタリア)、救援に参りました。皆さん、お怪我はありませんか?」
五十鈴は目を丸くする。V.Veneto級戦艦。ブイン基地の虎の子である、イタリア出身の最新型高速戦艦の1隻だ。
基地からマラッカ方面へ向かう突入部隊である彼女が、何故此処にいるのだろうか、と疑問を口にしようとしたが、直後に上空へ機銃が叩き込まれ、次々に敵の艦載機が撃ち落されていく。
「五十鈴、来たぞ」
「……!?」
どこか呆れたような声が聞こえると同時に、敵の艦載機中隊は壊滅する。
そこには、ペンネントで前髪を2つ結った独特の黒髪の少女が立っていた。
腰に装着した艤装には、2基の独立した長10㎝砲が設置されており、空を睨んでいる。
「初月、あんた……!」
「とにかく、退避の護衛は僕に任せろ。秋月型である僕の対空装備を信じてくれ」
防空駆逐艦・秋月型。その4番艦が、初月だった。
ボーイッシュな性格の彼女だが、対空装備で固めたその艤装の背中に頼ろうとする艦も多い。
高射装置による艦隊防空に特化した駆逐艦、それが秋月型だった。どうやら、五十鈴達の水雷戦隊の護衛に来たらしい。
「敵の空襲を予測し、そちらが撤退する際の護衛についてくれ、と提督に言われたんだ。イタリアは今から突入部隊に合流する」
「そ、そうだったの……助かったわ」
「イタリアは、そろそろ向こうへ合流してくれ」
「了解しました」
微笑んで言うと、彼女は再び艤装の機関を全開にし、マラッカ方面へと消えていく。
ともあれ、初月とイタリアの参入により、危機は去ったのだった。
「やれやれ……まだまだね……五十鈴も。流石イタリア艦……圧倒的な貫録だったわ」
「五十鈴。そろそろ夜になる。損傷を負った皆を曳航するのは僕も手伝おう」
「ええ、そうね……」
夜。
恐らく、イタリアがマラッカ海峡に辿り着く頃には、あそこは夜になっているだろう。
間に合えばいいのであるが。
——いや。
だが、五十鈴は敢えて心配することはしなかった。
——あの夜戦に飢えた馬鹿”達”が、あの艦隊にはいるからね……任せても、いいか……。
***
夜の海は、暗く、そして冷たい。
だが、そこを哨戒する深海棲艦の巡洋艦隊。
金色のオーラを纏い、右目からは青い火花を放つ人型の重巡洋艦・リ級改frag shipを旗艦に、鋼殻に身を包んだ人型の軽巡ホ級や軽巡ヘ級のflag ship、そして赤いオーラを放ち、腹から臓器のように零れ落ちた艤装を重く掲げた新鋭重巡洋艦・ネ級eliteに加え、オタマジャクシのような脚の生えた後期型の駆逐艦が何隻か、徒党を組んでマラッカ海峡を下っていた。
人型に最も近いリ級とネ級でさえ、その顔色に血のそれは無く、青褪めたような白い肌を夜の海に晒している。
至って無機質に、そして無感情に。兵器としての使命を全うするためか、あるいは単にかつての無念を晴らす為か、彼女たちは暗い海を航海していた。
刹那。カッ、と上空に2本の光が打ち上げられる。
照らされる夜の海。
感情が無いかのように思われた深海の巡洋艦隊は、思わず面喰って夜空を見上げた、そのまま水柱と共にホ級とヘ級が鋼殻に穴をあけられ、自らの魚雷に誘爆して撃沈される。
そして、大きく描かれる光のラインが、深海棲艦達を照らした。
その先に見えたのは、赤い髪に黄色い瞳の少女。艦娘だ。しかも、駆逐艦である。
占めた。袋叩きにするなら今しかない。
鮫のような姿の駆逐艦後期型はがばぁっ、と大口を開けて5inch単装砲を彼女に向けるが、発射しようとしたときには、時既に遅し。砲の口には、逆向きの鉛弾が叩き込まれており。
「ギッ……」
爆音。闇夜に潜む魔狼は既に、咆えていた。
鉄の塊が砕け散るような音と共に、横転して2隻の後期型駆逐艦は夜の海に沈められる。
「きししっ、江風さんを狙い撃ちするなんて100万年早いってんだッ!」
得意気な敵の駆逐艦を前にして、ネ級eliteは光が浴びせられている方向に砲を向けるが、今度は巡洋艦サイズの主砲がこちらを狙ったのに気づき、すぐさま回避運動を取る。
そのまま、何度も水柱がこちらを狙った。影は数隻。
砲撃範囲を抜けたかと思えば、再び上がる水の柱。
今度は駆逐艦サイズのそれがこちらを狙っている。
成程、海峡を抜けたいのは互いに同じらしい。
しかし、出会ったが最期、敵である以上は沈めるしかない。何度もこちらからも砲撃や、ありったけの魚雷を放つが——当たらない。手ごたえがない。
敵は一体何処へ——
「さあ、素敵なパーティしましょ?」
沈む数秒前。
赤いネ級は、最期まで自分の艤装に魚雷が至近距離で”投げ込まれた”ことに気付かなかった。火花を放ち、目と口が描かれた特製魚雷が特攻する。
直後、爆音と火花が飛び散り、艤装がへしゃげた。
辺りを見回すが、敵影らしきものは見当たらない。
更に2発、足元に雷跡。だが、もう気を取られたがために気付かない。
既に、”彼女”は目の前に迫っていたのだ。余りに近寄っていたがために——死角に潜り込まれたという事実を認識する前に、ぼごおっ、と一瞬だけ体が酷く歪んだように膨張する。火炎が噴き出て、黒い鉄の塊となって、新鋭重巡だったものは海の藻屑と化した。
ふふん、と得意気に言うと、赤い瞳の駆逐艦は、まだ沈んでいない敵を求めて夜の海へ突っ込んだ。
残る駆逐艦後期型は、迫る敵艦隊に魚雷を放った。しかし、雷跡を舞うように避け、砲を向ける影。そして、自分たちの上空に黒い偵察機が飛んでいることなど、気付く由もなく。
4本の魚雷を指で挟んで持ち、おまけの1本を口に咥えていた彼女は、夜の海を航海できる喜びを爆発させるかのようにそれらを全てばら撒き、敵達の合間を縫うように航過した。
「夜って良いよねー、夜ってさぁ」
刹那。
彼女の背中を、巨大な爆風が包む。
快感と、高揚感に身を任せ、そのまま彼女は「ヒャッホウ!」と狂喜すると、沈んでゆく後期型駆逐艦の残骸に目もくれず、夜の海を駆けた。
「夜偵の調子もいいじゃん! 魚雷も全発命中、絶好調!! 全艦、このまま敵を殲滅するよ! 待ちに待った、皆大好き、や・せ・ん、の時間だぁぁぁーっ!」
そんな雄叫びが上がる中、いよいよこの場に自分しかいない事実に気付いたリ級は、すぐさま撤退を試みるが——
「一番、二番主砲狙え……」
捕捉されたことに、彼女は最期まで気づかなかった。
超長射程の381mm/50三連装砲改は、容赦なく、敵に背を向けたリ級目掛けて——
「今よ、撃て!!」
——火を、吹いた。
しばらくして、今宵で一番大きい爆発音が、夜の海に響き渡ったのだった。
すぐさま、異変を嗅ぎ付けた他の部隊が増援にやってくるだろう。
しかし。今宵の深海棲艦に、夜の海で勢いづいた彼女達の相手は余りにも悪すぎた——
- E1:西方海域マダガスカル沖 ( No.5 )
- 日時: 2017/01/20 21:06
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「どっひゃあ、派手にやったなあ」
夜が明ければ、そこは死屍累々。
やれ血のついた艤装だの、やれ脚だのが浮かんでいる。
軽空母・龍驤は小柄ながら歴戦の空母であるが、やはり艦娘としての彼女達の戦果にはかつての大戦と比べても大きすぎる程のものがあった。
そして、赤い瞳の駆逐艦が、ブロンドの癖っ毛を犬の耳のようにはためかせて、何かを両手で掲げてやってくる。
「龍驤さーん! 夕立、今日も派手にやってね、これ戦利品っぽい!」
それは巨大な魚——ではなく、昨日誰が沈めたかも分からない敵駆逐艦の頭部であった。
ぎょっ、と青ざめた顔で龍驤は叫ぶ。
「何やそれ、どうするんやそんなん!!」
「兜焼きやるっぽい! テレビで、マグロを使ってこれやるの見たことあるっぽい!」
「食ったらぽんぽん壊すから、海に帰してこいや! てか、そもそも誰が食うねん、それ!」
「時雨っぽい!」
「あかんやろ!! 自分の姉ちゃんに何てもん食わすんや!!」
白露型駆逐艦四番艦・夕立。別名・ソロモンの悪夢と呼ばれるほどの大活躍をして壮絶に沈んだ——とされる白露型きっての殊勲艦である。そのため、駆逐艦の中でも第二次改装——つまり改二で、トップクラスの砲撃戦と夜戦への適性を手に入れた恐ろしい艦でもある。
このように無邪気な性格ではあるが、戦いでは一変。赤い瞳が輝けば、残るのは死屍累々だ。
「あー、終わったぁー……燃え尽きた……朝だあ、帰ろ……」
「まだ作戦終わっとらへんから、帰ったらあかんやろ!!」
「川内さん、同感です……」
「あんたもかい!!」
川内型ネームシップ・川内。かつて、水雷戦隊の旗艦を幾度となく務めた彼女だが、夜戦をこよなく愛する通称・夜戦馬鹿と呼ばれるほどの夜戦狂だ。そのため、昼夜逆転を起こしている困った艦でもある。
そして、後ろから眠たげな眼を擦っている赤毛の駆逐艦は白露型9番艦の江風。通称・ガダルカナルの魔狼と呼ばれるほどの活躍をした切り込み隊長だ。川内を夜戦の師として慕っており、いつもくっついていた。
とまあ、このように夜戦が想定されたこのマラッカ海峡では、以上の3隻が夜戦要員として艦隊に組み込まれたのである。
「江風起きて! また時雨が怒るっぽい!」
「えー、夕立の姉貴ィ、ンなこと言ったって、ぅえーへへねーむーいー……」
「起きないと、癖毛引っこ抜くっぽい!」
癖毛を弄りながら、悪戯っ子のような表情で囁く夕立に、顔を真っ青にする江風。
「それは、やめろォ!! 江風のチャームポイントが!! 姉貴達とのお揃いが!!」
「やっぱり、江風のコレも可愛いっぽい!」
「つか、いーじーくーるーなー、夕立の姉貴ぃー!」
江風の癖っ気を弄りながら、夕立は彼女を起こそうとするが、完全に朝日を前に精気を失っていた。
龍驤も、このぐだぐだな状況に呆れつつあった。
「あかんこいつら早よ何とかせな……」
「まあまあ、此処はパスタでも如何ですか? タッパーに詰めて持ってきたの」
「何でンなもん持って来とんねん!! うちら艤装で動いとる間は飲まず食わずでも大丈夫ゆーとるやろ、何で戦場に毎回それ持ってくるんや!!」
「イタリア人にとって、パスタは命より大事なものですから」
「いや、おかしいやろ!!」
おっとりぽけぽけしたイタリアの台詞に対しても鋭く返す龍驤。
実際、彼女たちは艤装で動いている間は燃料を消費さえしていれば、水も食料も必要とせず、その他一切の体の循環機構を停止し、あくまでも艦として動けるようになるのだ。
それでもパスタを戦場に持ち込む彼女の執念よ。
龍驤が、あまりにもアクの強い面子に頭を抱えたその時だった。
「あのう、お取込み中のところ悪いんだけど……そろそろ接敵するかもしれない。気を引き締めて」
巫女装束に弓矢を構えた小柄な少女が、言った。
途端に全艦は水平線の先を睨む。
先ほどのムードが嘘のようだ。
祥鳳型2番艦・瑞鳳。この艦隊の数少ない常識艦の一隻でもあった。あどけない少女のような性格だが、経験と運は他の艦より1つ飛びぬけていた。
「瑞鳳、おーきに」
「でも、索敵はさっきから続けてるんだけど、一向に見えてこないんだよね……敵の艦隊」
「おかしいですね……敵は空襲してきたくらいだから、もっと早く艦載機隊に接触すると思ったのですが」
「どっちにしたって、夕立の中の狂犬が騒ぐっぽい!」
「もう1回夜戦するの? ねえ、するんだよね!? 夜戦で確実に仕留めるんだよね!?」
「あー、うん、多分。な……ほんまこの夜戦馬鹿どないしよか……」
「とにかく、夕立の姉貴、川内さん、今回も最後までお供するぜ!」
龍驤も、巻物のような飛行甲板を広げると、指ですっ、となぞる。同時に、張り付けられた式紙が飛んでいき——艦載機となって羽ばたいた。細身の偵察機・彩雲だ。
「よし、索敵はこれでマシマシや。上手く当たればえーけど」
そう呟き、龍驤は空を仰ぎ見る。
切なげに吸い込まれそうなそれに目を向けた。
飛び立つ彩雲達。それが消えていく様を見ながら——
「龍驤?」
「ああ、瑞鳳。ちょっち今、感傷に浸っとんねん」
「珍しいなあ」
「こうやって艦娘になって色々あったけど、欧州からの支援とか連合のフネと組んで出撃するとか考えられんかったことばっかやったからなあ。オマケにジェット機? なるものまで後輩は積む予定やし、本当激動の1年半やったなあって」
「そうね——そしてそれは、偶然でも何でもない必然なんだと思うよ」
「ああ。運命やな。もし、悲しみや憎しみが繰り返されるのが運命やったとしても、また新しい流れがそれを断ち切ってくれる。うちは、そう信じとる」
「……うんっ」
「アホばっかやけど、うちは今の艦隊が大好きや。色んな奴がおって、バカばっかできる今の艦隊がな」
瑞鳳も微笑んで見せる。こうして、今の艦隊があるのは今の司令官のおかげだ。それを再確認する。
海の、そして鎮守府の、そして故郷の平和を深海の魔の手から守らねばならないのだ。
今の仲間たちといられるのが、楽しいから。
「——来た、か」
龍驤は空を睨んだ。自らの分身たる艦載機が、遂に敵を捕捉したのだ。そして、前方にいる僚艦へ叫ぶ。
「入電!! 敵艦発見、装甲空母姫、装甲空母鬼2隻、重巡リ級flag shipに駆逐ロ級後期型2隻! この辺りに侵攻してる敵機動部隊とみて間違いないよ!」
「瑞鳳とうちの彩雲中隊が敵艦載機発見や! こっちの方に攻撃隊が来るから、航空戦が始まるで!」
「では、全艦対空迎撃準備!」
川内も、夕立も江風も人が変わったように表情が引き締まる。イタリアの号令で、全艦は空を睨み、砲を向ける。狙いは敵の艦載機だ。
そして、ノイズのかかったような声が、海域に響き渡った。
「コッチニ……コッチニ……オイデ……?」
刹那、空を白い球形の艦載機が覆った——
- Re: 艦これ! ~黒い雨と夜明け〜 ( No.6 )
- 日時: 2017/01/22 12:08
- 名前: ダモクレイトス ◆MGHRd/ALSk (ID: 7PvwHkUC)
はじめましてタク様、ダモクレイトスと申します♪
僭越ながら同じく艦これの小説を執筆しています。最もタク様より知識もなければ、文章力も劣ると思いますが。
適度な短編という割りにガッツリした骨太の設定の細やかさ、キャラクタの軽快かつ本当にして沿うな会話。
とてもいいと思います♪ 個人的には龍驤さんと、名前しか出ていないのに鮮やかに弄られている時雨がいいなと思います♪
これからも更新待ってます。
この掲示板は過去ログ化されています。