二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~
- 日時: 2016/04/12 00:24
- 名前: ルーミャ (ID: E1s7fLzP)
もしこの海を見たら、艦娘は何を思うのだろうか。
今回のお話は、シリアスです。また、以下の事に注意して読む事をお薦めします。
・ガバガバ設定。
・原作とは違う世界観。
・沈没ネタがある。
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- Re: 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~ ( No.4 )
- 日時: 2016/05/07 23:19
- 名前: ルーミャ (ID: E1s7fLzP)
1941年12月10日の夜の事。
ウェーク島攻略部隊は、目的地であるウェーク島に向かって広大な海を走っていた。
弥生「……」
如月「潮で髪が傷んじゃう〜」
睦月「ふえぇ……本当に大丈夫にゃしぃ?」
夕張「安心しなさいって、前に航空戦隊が爆撃したから。戦力は激減しているはずだし心配する必要はないわよ」
望月「別にそれはいいけどさー。波、いつもより高くない? これ無事上陸出来んの?」
天龍「無理だな。仕方ないから陸軍様には舟で陸に上がって貰うしかないな……おっと、目的地が見えて来たぞ。大発積んでる船は島に近付いたら大発をおろしてくれ」
船の操縦士は天龍の言葉を受けると、「了解」と返した。
今回の目的は、艦が陸軍をウェーク島に上陸させ、その島を占拠し、そこを航空基地にする事であった。
その攻略を割り当てられたのが第四艦隊であり、第四艦隊の一部の艦隊の第18戦隊の天龍・龍田、第六水雷戦隊の夕張・睦月・如月・弥生・望月の艦娘と、同じく第六水雷戦隊の駆逐艦、追風・疾風とその他の特殊艦を出撃させた。
さて、ようやく攻略部隊は島の沖に到着する事に成功した。
天龍「よし、ここらへんでいいな。大発をおろせ!」
大発を持つ艦に命令して、しばらく時間が経った。あまりにも遅すぎるせいか、天龍は青筋を立てて待機していた。思い切って連絡機に向かって怒鳴ろうとした時、丁度連絡が入った。
『すみません! 大発をおろすのに多数問題が発生しました! 上陸を延期します!』
天龍「何やってんだ!! すぐに問題を修正して再度上陸を実行しろ! いいな!?」
相手の返事を聞こうとせず、バツンと連絡機の電源を切る。怒りと苛立ちで顔を歪ましている時に龍田が天龍の元に来た。
天龍「ん? どうした龍田」
龍田「えっとね天龍ちゃん、さっき島を確認したんだけど〜、何やら怪しい感じがするのよね〜。多分このままだと、上陸させても危ないと思うわ〜」
ゆらゆらしている声から聞かされたのは、天龍が有り得ないと思っていた事であった。眉を潜めて島に目を凝らす。
天龍「んー、分かんねぇな。ちょっと撃ってみるか」
単装砲を島に向けて発砲。幾らか撃ったが、特に反応は無かった。
天龍「本当にいるのか? それともただ俺様の砲撃が当たってないだけか……龍田、全員に島への射撃を指示しろ」
龍田「分かったわ〜。でも、無茶はしないでね〜」
龍田は夕張と駆逐艦に射撃命令を下す。
作戦はまず軽巡の三人が、その後駆逐艦が少し時間をずらして射撃を行う。そして数分後に船を出来るだけ岸に寄せ、陸軍を上陸させようと言う内容であった。そうすれば敵がいようが間違い無く兵力を潰せると天龍は思ったからである。
マルサンフタゴウ(3時25分)。
指示した通りに軽巡の砲撃が始まった。しかし反応は無く、天龍は敵の存在にますます怪しく思えて来た。
間を置いて駆逐艦の砲撃が行われるが、敵の気配は感じず、周りはいないのではないかと口を寄せていた。
天龍「……やっぱりいねぇよ。全く変な事言いやがって……」
龍田「で、でも〜」
天龍「ぐずぐず言わねぇ。艦に連絡次第岸に近付くぞ」
龍田の指示を受け、攻略部隊が岸へと近づいた、その時であった。
いきなり砲台が攻略部隊に向かって射撃を開始してきた。
天龍「何だ!?」
夕張「えっ!?」
夕張の周りには、砲撃によって出来た水柱が噴き上がる。状況を咄嗟に理解すると夕張は煙幕を展開して退避した。
天龍「嘘だろ……いたのかよ!」
水柱の位置から砲台を認知し、砲撃に撤する。
龍田「多分だけど、相手は充分な射程範囲に入るのを待ってたのかもしれないわ」
現在の状態に余裕が消えたのか、ゆるゆるした口調は消えていた。しかし天龍はそれを気にせず、己の警戒の甘さを悔やんでいた。
バウン!!
少し遠くから嫌な音が聞こえてきた。すぐさま音の方へ振り向くとウィルクス島沖で沈んでいく艦を確認する。
天龍「……疾風!!」
疾風はゆっくりと海の中に沈む。それはまるで溶質に溶媒を溶かすように、海に染められているようにも見えた。
睦月「うにゃあぁー!!」
弥生「……!! 睦月、これ以上は危ない。逃げるよ」
ビール島で砲台と交戦していた二人は夕張と同じように煙幕を張ると、急いで逃げる事に専念した。
しかし艦は船体が大きく、密集して狭く、身動きが取れない為に敵の砲弾がそっちに集中する。更には敵の戦闘機が攻撃を仕掛けてくる。
龍田「天龍ちゃん! 此処は危ないから一旦撤退するわよ!」
天龍「……くそ!『……全艦は急いで撤退しろ!』」
連絡機に電源を入れ、それだけ伝えると、全速力で敵の砲撃範囲から逃げ出した。
しかし、それだけでは終わらなかった。
軽巡三人は島から逃げている途中、戦闘機の爆撃に襲われた。
天龍「アブねぇ!」
夕張「こんなの……当たらないわよ!」
三人は爆撃を上手く避けるが、今度は機銃の射撃が天龍と龍田を狙いとする。
龍田「……!!」
威力は押さえられているのか、被害は表に出る程のものでは無く、何とか逃走を続ける。
特殊艦の一隻は機銃に撃たれ、ガソリンを炎上させられた。他の艦も戦闘機の襲撃により、ダメージを受けている。
睦月「イターイ! 私装甲は薄いのに……あれ、如月ちゃんは? 如月ちゃーん! どこぉ!?」
周りを覗いて確認する。すると如月がウェーク島のピーコック岬沖にいたことが確認出来た。彼女は戦闘機と奮戦して、怪我も酷い様であった。
睦月の大きい声に反応したのか、如月が遠くから返事をする。
如月「すぐ行くわ〜!」
如月は射撃を止め、睦月達に向かって走った時、睦月は凍りついた。
睦月「あ……ばく……」
懸命に伝えようとするが、舌が震えて上手く言えない。ようやく天龍が気付き、如月に切羽詰まりながら叫んだ。
天龍「速く走れ如月! 上からーーーー」
如月「え?」
上を向いた先には、爆弾が如月の目前にあった。
直後、爆発。如月は爆撃による煙に一瞬で巻き込まれ、姿を消した。
睦月「如月ちゃん!!」
やっと恐怖から解放されると、急いで如月の方へと向かう。
弥生「……睦月!? 何をして……戻ったら……いけない!」
望月「あーもー、何してんだよ」
二人も睦月を追うように走る。
龍田「駄目よ! 敵がすぐに戻って来ちゃう!」
天龍「勝手に動きやがって……! 他は先に逃げろ。上陸作戦は中止だ」
天龍も駆逐艦に続いて全速力で駆ける。
各艦が走っている間に煙はだんだんと薄くなり、やがて消えていった。
しかし煙が消えた元に、如月は居なかった。
1941年 12月10日 推測5時42分。
睦月型二番艦如月、轟沈。
- Re: 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~ ( No.5 )
- 日時: 2016/05/16 20:07
- 名前: ルーミャ (ID: E1s7fLzP)
戦争が始まろうとする少し前。
寮に、改装を施された如月が帰ってきた。
如月「どうかしら、睦月ちゃん? 似合ってるかしら?」
睦月「凄い綺麗だよ如月ちゃん! ……いいなー如月ちゃん、パーカーとか凄いカッコいいなー」
睦月も同じく改装をされたが、如月と同じようなパーカーは貰えず、ムスッとした顔で如月を羨んだ。
如月「そうねぇ、でも、睦月ちゃんもいつかこれを着れる日が来るわよ」
駆逐艦如月、彼女こそが第二次世界大戦中で二番目に、艦娘の中で一番最初に沈んだ艦であった。それは一時の間で無惨な終わりを果たした。
睦月「如月……ちゃん……?」
海と島だけの光景に、足を止めてしまった。
ウェーク島。日本から南東にある、歪に湾曲されている島への攻略中、如月は敵の戦闘機に爆撃され、それにより彼女は海へ沈没した。
辺りを見回すが誰もいない。いるはずが無かった。しかし、睦月は何度も同じ事を繰り返す。
睦月「嘘だよ……本当はいるんだよね? あ、島に残ってるのかな? 探しに行かないと……」
弥生「駄目……戻るよ……!」
望月「これ以上は余計な事をするなよ」
島へと戻ろうとした時、ようやく二人が追い付き、手首を掴む。
睦月「何よ……私は如月ちゃんを探すの! 邪魔しないで!」
弥生「何を言って……如月は、もう……!」
ふりほどこうと手を強く引くが、ガッチリと掴んでいて離れない。
望月「言いたいことは分かるけどさぁ、一回落ち着こうぜー? とにかくこれ以上は被害を出さないように動かないと」
睦月「……!!」
涙が溜まり、睦月の目からは、いかにも零れ落ちそうであった。
天龍「ほれ、行くぞ。戦闘機がまた来る前に行かねぇと、次は無事かどうか分からねえ」
睦月「あ……!?」
横から棒に割り込むと、軽く睦月を持ち上げる。
天龍「よし、お前ら。全速力で行けるな? 俺にちゃんと付いてこい!」
こうして、ウェーク島への上陸は一旦中止とされた。それと同時に攻略部隊は、ウェーク島より南にあるクェゼリン環礁を目指し、海を走るのであった。
12月13日、クェゼリン環礁、帰投。
クェゼリン環礁にある別荘を使い、艦娘は休むこととした。
睦月「……」
あれからの事、睦月はずっと黙っていた。そもそも、誰にも話さなければ、話される事も無かった。
夕張「睦月ちゃん、大丈夫かな? やっぱりキツいよね」
龍田「そうね〜。仕方ない事だけど、目の当たりにしちゃったら、流石にくるわよね〜。私も天龍ちゃんが沈んじゃったら泣いちゃうかしら〜」
天龍「今は落ち着かせとけ。ああいうのは、下手に触れるもんじゃねえよ」
軽巡三人は、睦月達を心配するが、なるべく触れないようにした。
そんな次の日。
艦娘は朝食をとる為、寮ほどの大きさではないが、ある程度大きい食堂へと集まる。
睦月「……」
昨日と変わらず、睦月はうつ向いたままで、朝食にも手をつけなかった。
天龍「おい……飯、食えよ。冷めちまうし、腹が減ってたら戦えないだろ」
睦月「……ねぇ」
天龍の言葉を置いて、うつ向いたままの睦月は、口を開いた。
睦月「如月ちゃんは、もう帰ってこないの……? 本当に、沈んじゃったの……?」
泣き声が混じっている問いは、場を一気に凍らせた。気まずい空気が流れる。
数秒後、夕張がこの空気を壊そうと、睦月の問いに、濁らせながら返答した。
夕張「えっと……本当に言いづらいけど、さ。如月ちゃんはあの、爆撃で沈んで亡くなったというか……あの……」
睦月「……!!」
その言葉を受け、遂に睦月から涙が流れた。分かってはいたが、それでもお互いに胸が刺さるような事であった。
夕張「で、でも! だからこそ如月ちゃんの仇取って、この戦争に勝とう! ……そりゃ、どんな事をしても戻っては来ないけど……それは、仕方ないんだよ」
睦月「……そんな、『仕方ない』で、済ませないでよ!」
宥めるつもりが、更に怒りを買ってしまい、涙が頬を濡らしながらも鼻声で叫んだ。
戦争の地に立っている以上、どのような結果を迎えようが、それは仕方の無い事である、当たり前なのである。しかし彼女は、その当たり前を否定するのだ。彼女だけでは無い。沢山の人々は、その普通を否定するのだ。
睦月「ねぇ!? 弥生ちゃんも、望月ちゃんも、如月ちゃんがいなくなっても、悲しくないの? 何とも思わないの!?」
睦月の言葉にすぐ反応したのは、弥生であった。
弥生「受け入れて、睦月。悲しんでも如月は、戻って来ない。戻って来ないから、いつまでも引っ張る訳にはいかない」
睦月「ひどい……酷い、よ! 何で、そんな事、言うの!?」
もう睦月は顔がクシャクシャであった。嗚咽で上手く話せもしない。しかし、それでも精一杯声を絞り出した。
睦月「ホントは、何とも、思ってない、そう、でしょ!!?」
弥生「……! 違う! そんなんじゃない!!」
大きな音を鳴らして椅子を立ち、睦月と対峙する。とうとう喧嘩が始まろうとしたが、それを望月が抑えた。
望月「よせ弥生。見れば分かるけど睦月は受け入れ切れてないんだ。弥生が怒ってどうするんだよ?」
弥生「別に……怒ってない!」
望月「その般若みたいな顔してどこが怒ってないんだよ。分かってるよ、勝手に決めつけられて頭にキタんだろ? 違うのに。でもさ、睦月から見れば、私達の仏頂面は悲しんでる様には見えないと思うわ」
弥生「……!!」
望月とは思えない話の量であるが、彼女の言葉に弥生も大きく衝撃を受けた。小さな拳が震え、下を向く。
睦月「……もう、いいよ」
食堂を飛び出し、個室へ行ってしまった。
夕張「えっと、その……ゴメン。私が余計な事言わなければ、こんな事になんてならなかったのにさ……」
龍田「そうよね〜流石に私も酷いとは思ったわ〜」
天龍「……」
結局全員は食事を円滑に進められず、ただ重い空気だけが広がっていった。
真珠湾襲撃から帰りの事。赤城に一本の連絡が入った。
赤城「はい、こちら赤城。司令官? ……今は真珠湾からの帰途です……はい、分かりました。南雲中将からは私が言っておきましょう」
加賀「赤城さん、どうしたのかしら?」
赤城「ウェーク島上陸作戦の支援の申請が来ております。将官に状況を説明し、出撃命令を出され次第、ウェーク島へと向かい、攻撃を行います」
- Re: 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~ ( No.6 )
- 日時: 2016/06/05 00:19
- 名前: ルーミャ (ID: E1s7fLzP)
1941年 12月11日 ドイツ・ベルリン
ある男達は、荘厳な廊下を歩いていた。
「……この計画、本当に大丈夫ですか? もし失敗をすればかなり危ないのでは……」
「心配するな、こっちにはドイツが味方をしているんだ。海戦で負けるなど有り得ん」
「しかし、ドイツはあの最新鋭の戦艦を失ってしまっています。油断は禁物です」
「ああ、ビスマルク……か。彼女は良くやってくれたよ。だが、戦艦一人の犠牲くらいなんて事はない。それより脅威なのは、味方が寝返る事だ。そうなれば勝ち目は無い。その為に我々は此処に来たのだろう?」
「はい……その通りです」
その後、日本・イタリア・ドイツは『日独伊単独不講和協定』を結び、勝手な他国との共存を塞き止め、同盟を強化したのであった。
食堂での件の後、睦月は全く部屋から出てこなかった。流石にこれには、一同は心配をしたのだった。
望月「……」
夕張「大丈夫、かな……」
龍田「そろそろどうにかしないと、士気に関わるんじゃないかしら?」
天龍「……仕方ねぇな。俺が少し話して来る。何かあったらすぐ言えよ」
弥生「あ、あの……!」
木彫りの椅子から立ち上がると、弥生は止めるように天龍を呼び止めた。
天龍「あ?」
弥生「私が、睦月と話します。だから……!」
天龍「お前じゃ話になんねぇだろ」
冷たく言い捨てて、睦月の部屋へと向かう。弥生は言い返す事も出来ずに呆然と立ち尽くした。
夕張「ちょっと、何よアイツ! 人の気持ちも分からないで……!」
龍田「天龍ちゃん……」
弥生「……」
天龍「睦月、入るぞ」
丁寧にノックをして相手の返事を待つ。しばらくして、口籠った声が聞こえてきた。
睦月「……今は、誰とも会いたくない」
天龍「……そうか」
しばらく、沈黙が続いた。何処かへ行ったのかと思ったがやがて、扉越しから天龍の声が伝わった。
天龍「俺はよ、自分が許せねぇ。警戒を怠った事と、大切な仲間を失った事を。謝ってどうにかなるもんじゃねえ、お前に一生恨まれて当然だ。それでも俺は、大切なものを守る為に前を向かなくちゃいけない。いつまでも悩んでたら、今いる奴等を救えねぇんだよ」
睦月「……!!」
天龍「……別に如月の死を受け入れろとは言わねぇ。でもそれは、お前が動かない理由にはならねぇんだよ」
再び、沈黙が続く。言葉さえ返ってくる気配は無かった。
天龍「……もう一度ウェーク島に行く。それまでには決めておけ」
一言だけ睦月に投げると、自室へと足音を鳴らした。
一方、食堂にて。
弥生「……ごめんなさい」
龍田「いきなり、どうしたのかしらぁ?」
弥生「私が短気だったから、もっと睦月の事を分かってあげていれば……」
龍田「心外ねぇ。私ってそんなに恐い人に見えるかしらぁ」
弥生「でも……」
望月「そうそう。それに、他人がどうこうする話じゃないよ。私だっていつもそうだしねぇ。結局、最後は自分が決めるんだよ」
夕張「あはは……」
弥生「……ありがとう、私、睦月に謝らなくちゃ」
12月17日、遂にウェーク島の再攻略の命令が下された。日を詰めて攻略会議が開かれている中、攻略部隊は不安を馳せていた。
夕張「睦月ちゃん、大丈夫かな」
龍田「……」
皆、1つの扉を見詰めた。あれから、未だに開かれた事はない。今回こそ扉が開かれるのか、扉から目が離せなかった。
弥生「……」
望月「……」
カチャリ。
鍵が回される音が響いた。そして……
睦月「……ごめんね、皆。お待たせ」
時は少し遡り、12月15日。機動部隊にある連絡が入った。
赤城「……そうですか、分かりました。伝えておきます……皆さん、止まって下さい!」
赤城は翻り艦娘の方へ向くと、移動を止めさせる。
赤城「ウェーク島への出撃を命令されました。しかし、将官の判断により一部の者だけが、出撃をして下さい」
ここで一度口を閉じて、間を空ける。そして、数人の艦娘の名を呼んだ。
赤城「飛龍・蒼龍・利根・筑摩・谷風・浦風、以上はウェーク海へ出撃して下さい。残りは一度、日本へ帰ります」
光さえ霞む海中にて、一人の少女は深部へと沈んでいった。
ーーーーここは?
ーーーーああ、確か私はF4Fに爆撃をされて……。
ーーーーまだ耳鳴りがするわ。煩くて困っちゃうわね。
ーーーーしかも、こんなに潮を浴びたら、髪の毛が傷んじゃうじゃない。
ーーーーそういえば、睦月ちゃんは大丈夫かしら。私が居なくなって悲しんでないかしら?
ーーーーもしこの身体が動くなら、もう一度会いたいわ。
ーーーーそろそろ、眠くなってきちゃった。
ーーーーさようなら、皆。ごめんなさい、睦月ちゃん。
深海の少女は、今もなお沈んでいる。
- Re: 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~ ( No.7 )
- 日時: 2016/07/17 20:30
- 名前: ルーミャ (ID: E1s7fLzP)
第二航空戦隊は、ウェーク島攻略支援の為に本来の日本の帰路を外れて航行を続けている。
飛龍「喉が渇いたわ、ちょっと燃料を補給しようかな」
蒼龍「そうね飛龍。ちょっと休憩にします!」
この二人は特に航続距離が短い為、度々燃料を摂る必要があった。
利根「ハッハッハ! 身体が小さいと大変じゃのう、二航戦」
蒼龍「ちょっと……小さくなんてありません!」
利根「そうは言うが、お主らは顔がちと幼い気がするのじゃがなぁ。空母の威厳が感じられんのぅ」
筑摩「それは利根姉さんも同じではないですか?」
利根「なにを? 吾輩の偵察は完璧じゃぞ、見ておれ……む、カタパルトがちと不良じゃな。今は問題なかろうが、後々これが響いても困る。早いうちに直しておきたいのぅ」
二航戦と利根、筑摩のやり取りを浦風と谷風は少し遠いところで聞いていた。
浦風「……ウチから見れば、どっちもこまいんじゃけどねぇ。それに、大きいけぇえーものでも無いんよ?」
谷風「かぁーっ! 何言ってんだい浦風ぇ! そんな贅沢言うんならその垂らした乳を谷風に寄越せってんだよ、ちっくしょーめ!」
浦風「すばろーしぃねぇ、静かにしんさい谷風」
まるで戦争という事を忘れているのかというほどにその艦隊は愉快であった。
睦月「……本当に待たせて、ごめんなさい」
弥生「……睦月」
頭を下げようとしたところを、名を呼んで妨げた。
睦月「……怒ってるよね、勝手に言いたい放題言っといで。簡単に想いを変えといて。私、弥生ちゃんに何て言えばいいか分からないよ」
弥生「……いいよ、何も言わなくて。睦月、ごめん」
思わず、顔を起こしてしまった。謝る覚悟で皆の前に顔を出したのに、まさか謝られるなんて、頭の片隅にすら考えて無かった。
睦月「何で弥生ちゃんが謝るの? 弥生ちゃんは何も悪くないよ、悪いのは我が儘な睦月だよ」
弥生「そうだとしても、謝らせて。如月を失ってしまったのも、睦月を追い詰めてしまったのも、私にも責任がある。だから……ごめん……な……さい」
睦月を強く抱くと、弥生は睦月の肩に顔を埋めた。服がじんわり湿っていくのを感じる。
睦月「弥生ちゃん……大丈夫だよ。大丈夫……だからね、私もちょっと、我が儘を言いたいな……」
弥生「……何?」
睦月「私、大切な皆を守る為に、如月ちゃんに悔いなく顔を会わせられるように強くなりたい。だから、こんな弱い睦月を許してくれる?」
弥生「……いいよ」
優しい声音が、睦月の耳元に聞こえてきた。
夕張「イイハナシダナー」
望月「これにて一件落着かな。よかったじゃん……あれ、天龍は?」
いつの間にか、さっきまでいたはずの天龍の姿が消えていた。
龍田「……私、探して来るわね」
天龍「……クソ」
一人だけ、海辺に座り罵言を口にする。
龍田「……天龍ちゃん、こんなところにいたのね」
天龍「龍田か……俺は少しここで気休めさせてもらうぜ」
龍田「……ごめんね、天龍ちゃん」
天龍「はぁ?」
いきなり謝られて屯狂な声を出す。流石にそんな言葉を掛けられるとは予想していなかったらしい。
龍田「だって、私、天龍ちゃんに何も言えないから……」
天龍「んだよ……お前らしくもねぇな。いいんだよ気にしなくて……」
龍田「天龍ちゃんが良くない考えを持ってるのくらい、私にも分かるよ?」
天龍「……」
沈黙の狭間に漣の音が響く。波は大岩に打ち付けられ、破裂音が反響する。それに構わず、龍田は話を続ける。
龍田「でも、私は何も言えない。天龍ちゃんの気持ち、良く分かるから。でもね、やっぱり天龍ちゃんには……」
天龍「だぁー! 天龍ちゃん天龍ちゃんうるせーな!」
龍田「……!?」
聞くに耐えきれなかったか、カッとなって大声をあげる。
天龍「もう俺もお前も古い身だ。大切にしたところで意味ねぇだろうが。そうだろ? どうせ旧式だ。ガタも来てるし、そのうち使えなくなる」
龍田「そんなことはないよ。天龍ちゃんの両目、凛として、とっても綺麗な黄金色をしてるよ。肌もね、キラキラしてて……それだけで私にとって意味があるものよ?」
言いたい事を遠回しにして言っている事に、天龍は気付いていた。やれやれと言わんばかりに、フゥと溜め息を吐くと、仰向けになって身体を倒した。
天龍「お前がそこまで言うんじゃ、仕方ねぇな。でも、もし先走ったら……その時は頼んだぞ、龍田」
龍田「……天龍ちゃんの、馬鹿」
天龍の言葉がどういう意味か、とうに分かっていた。伝わっているようで伝わっていないもどかしさのなか、漣は寄ったり引いたりと、何かを表しているようにも見えた。
20日には会議が終わり、21日に改めてウェーク島攻略が再開された。
今回は第六水雷戦隊に朝凪・夕凪の二隻の駆逐艦が、更に増援として第二航空戦隊の飛龍・蒼龍、第八戦隊の利根・筑摩、第十七駆逐隊の浦風・谷風と、第六戦隊の青葉・衣笠・加古・古鷹が加わった。
利根「……付近に敵影無し。筑摩、そっちはどうじゃ?」
筑摩「こちらも問題ありません、利根姉さん」
利根「よし、では頼んだぞ二航戦。距離は300海里先じゃぞ。間違えるでない」
飛龍「間違いませんよ! 行くよ蒼龍!」
蒼龍「私も、飛龍には負けない! 発艦始め!」
12月21日マルヨンサンマル(午前4時30分)。攻略部隊再出撃と同時に、航空機を発進させた。
1941年の5月。まだ太平洋戦争が始まる前の話。ライン演習によって戦艦ビスマルクと重巡プリンツ・オイゲンは英国の通商破壊、つまりイギリスの補給を断つべくオイゲンを先頭に、グリーンランドとアイスランドの間にあるデンマーク海峡を走っていた。
ビスマルク「すまないわねオイゲン。まさか砲撃の衝撃でレーダーが壊れるなんてね」
オイゲン「お構いなく。私も頼られて嬉しい限りです……それよりビスマルク姉様、レーダーに反応が。敵影は2艦……おそらくは英艦でしょう」
ビスマルク「そう、私はアドミラルの指示を待つからそれまでは回避に専念しなさい」
オイゲン「了解しました」
途端に、オイゲンに向かって砲弾が飛んでくる。距離は約23km。蛇行して砲撃を回避する。
ビスマルク「……アドミラル。敵艦2隻を発見。砲撃許可を頂戴」
しかしアドミラルと呼ばれる男、艦隊司令長官ギュンター中将は中々許可を出してはくれなかった。
ギュンター『……悪いが、軍艦同士の交戦はなるべく避けたい。どうにかして逃げ切ってくれ』
ビスマルク「な……それはこちらからは手を出すなと言うことなの、アドミラル!? 冗談じゃないわ!」
ギュンター『……分かっている。しかしこちらも慎重にならなければいけない。我慢してくれ』
ビスマルク「ッ……今度はこっちに砲撃が……!」
ビスマルクもオイゲン同様に砲撃を避ける。しかしこのような事をしてもキリがない。弾道も徐々に水平に近付いていて、最悪沈没も有り得る。そう判断したビスマルクはオイゲンに向かって命令を下した。
ビスマルク「オイゲン、砲撃を開始しなさい」
オイゲン「……!? しかしビスマルク姉様、それはアドミラルの命令に反するのでは……」
ビスマルク「……必ずしもアドミラルが正しい訳ではない。それに、これは敵を潰すチャンスでもあるわ。いいから砲戦を開始するわよ!」
オイゲン「りょ、了解しました……Feuer!」
ギュンターの言葉を除けて、遂に砲戦が開始された。距離は既に縮まっていて、砲戦の開始時には既に20kmの差しか無かった。
ビスマルク「さぁ、かかってらっしゃい! Feuer!」
敵との距離がだんだんと近くなり、弾道もなお水平になっていく。それよりもビスマルクが気づいた事は……。
ビスマルク「なるほど、狙いは私のようね」
敵はビスマルクに向けて集中攻撃を行っていた。しかも弾道を水平にして狙うという事はこちらの装甲を理解しているという事。つまり相手は最初からビスマルクが目的であったのだ。遂にビスマルクは砲撃を受けてしまった。
ビスマルク「く……やるわね! こっちも負けていられないわ!」
五回目の斉射の時、一方の巡洋戦艦に命中。弾薬庫にも被弾していたらしく、爆発を起こした。
ビスマルク「一隻撃破! 次よ!」
しかし、次の瞬間、沈みかけの敵の戦艦は砲を一斉射撃した。
ビスマルク「……!? 何ですって……!?」
砲弾は再びビスマルクを捉える。タンクを貫かれ、燃料が流れるのが感じられる。しかし悪足掻きを終えると、その巡洋戦艦は沈んでいった。
オイゲン「ビスマルク姉様!」
ビスマルク「く……問題無いわ! 早く次の戦艦を狙うわよ!」
もう一方の戦艦にも激しい損傷を与え、更にビスマルクの追い打ちにより浸水までさせた。これにも戦艦は逃げるほか無かった。
オイゲン「逃がさない、雷撃開始!」
魚雷を発射するも、敵は上手く船体を回して避ける。雷撃の範囲から逃げられてしまうと、攻撃を止めた。
オイゲン「逃がしたか……でも、ひとまずこれで安心ですね。ビスマルク姉様、大丈夫ですか?」
ビスマルク「……右舷艦首の近くに三発はもらったわ。タンクも損傷してるみたいだし、流石に作戦の継続は無理そうね。何処かのドックで休ませてもらうわ」
オイゲン「そうですか……それなら、私も付いていきます」
ビスマルクの損傷を心配し、ドックまでの行動を共にしようとしたがビスマルクに止められる。
ビスマルク「流石に貴女もドックへ向かうと不味いわ。先に行きなさい」
オイゲン「ですけど……!!」
ビスマルク「作戦の邪魔をするのは悪いでしょう? 心配しなくて大丈夫よ。すぐ貴女に追い付くわ」
不安があれど、ビスマルクの言うことに逆らうことは出来なかった。渋々と頷くと、ビスマルクに向けて別れを告げる。
オイゲン「……分かりました。ではまた、フランスで会いましょう」
オイゲンの最期の言葉を受けとると、ビスマルクの速度はだんだんと遅くなり、オイゲンとの差が広がる。しばらく時間が経って、オイゲンの姿は見失った。
オイゲン「……ごめんなさい、ビスマルク姉様」
しかし、オイゲンは単体での作戦実行の不安に押し負け、結局任務を断ってしまった。
その事をビスマルクは知らない。
- Re: 【艦これ】静かな海に溶けて~意思ある艦の物語~ ( No.8 )
- 日時: 2017/03/06 02:38
- 名前: ルーミャ (ID: 1PrAEpZb)
12月22日。第二航空隊の航空支援と第八戦隊の陸上支援により、無事に陸軍の上陸に成功する。
1941年12月23日、ヒトマルヨンマル(10時40分)。ウェーク島完全攻略を宣言した。この報告を受けると第二航空隊と第八戦隊は第四艦隊の指揮から外れることとなった。
睦月「……」
睦月は海岸から水平線を眺めていた。攻略には成功したものの、彼女の心には虚無感しかなかった。丁度、睦月を見つけた弥生が睦月の隣に寄って来た。
弥生「……睦月、大丈夫?」
睦月「うん、大丈夫」
弥生「……そう。隣、いい?」
睦月「いいよ」
漣の音のみが二人の耳に響いた。
弥生「……次は、ラバウルに向かうらしいよ」
睦月「そっか。じゃあ頑張らないとね」
弥生「……」
睦月の切なげな顔は、弥生の心を苦しめた。睦月の悲しい顔は見たくなかった。いつまでも明るいままでいてほしかった。
なるべく楽になりたい為に睦月から目を逸らすように睦月とは反対側の海辺を見る。すると、何かが浮かんでいる事に気がついた。
弥生(あれって……まさか……)
立ち上がって海へと走り出す。浮かんでいるモノを手にすると、確信した。
弥生「……! 睦月、これ」
睦月「どうしたの? 弥生ちゃん」
弥生「これ、如月のパーカーが……」
睦月「え!?」
その言葉を聞くと、急いで弥生の元に駆け寄る。確かに、そこには焼けてボロボロになって右半分しか残ってないパーカーが弥生の両手に広げられており、袖にはしっかりと【如月改二】と刺繍が施されていた。
睦月「如月ちゃん……! もしかして、まだ生きているかも……!」
弥生「……多分、違う」
睦月「でも可能性は……!!」
弥生「無くはない、けど……それは極端に低いと思う。周りに隠れられる場所は無かったし、有り得るとしたら沈んだ後にもう一度浮かび上がって来る位。とてもそうとは……」
睦月「……うん、そうだよね。分かってる。分かってるよ……」
弥生「……!!」
まるで自分の首を絞めている感覚であった。睦月はやっと如月について冷静に考える事が出来るようになった。しかしそれはとても細く、乱暴に扱えばプツンと切れてしまいそうな程。もしかしたら、自分は無意識に睦月を追い込んでいるのではないかと不安が馳せて来る。
弥生「……これ、睦月に渡す」
睦月「……これを睦月に?」
弥生「約束して。もし如月に会ったら、睦月がこれを渡すの。そうしたら如月、喜ぶと思う……から。本当は私も、如月には生きていて欲しい」
睦月「分かった……ありがとう、弥生ちゃん」
弥生「うん……」
これが、弥生なりの最善であった。ただ口下手なだけで、言葉に一切の嘘は無い。どんなにチグハグしていても、彼女が口にする事は本心である。
望月「あ、ここにいたんだ。天龍がそろそろ戻るってさ」
睦月「分かった、そろそろ行くにゃしぃ!」
砂浜を走り、あっというまに弥生から離れていた。遠くから望月と睦月の会話が聞こえてくる。
弥生「……如月、さようなら。もし会えたら、睦月と一緒に、ゆっくり話して、ね」
1941年5月25日マルマルマルマル(0時00分)。ビスマルクはプリンツ・オイゲンと別れ、別のルートでフランスへと目指していた。しかし……。
ビスマルク「……ッ、厄介事に巻き込まれたわね」
豪雨が降り注ぐなか、ビスマルクの目には複数の航空機を捉えていた。その数は9機。その航空機は海面に近づき水平に走ると、魚雷を落としていった。
ビスマルク「冗談になってなーーーー!!」
直後、水柱が噴き上がる。雷撃の一本がビスマルクに命中していた。
ビスマルク「……今日はよく濡れるわね。全くの厄日だわ」
余裕の笑みを見せつけ、逃げるように目的地へと急ぐのであった。
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