二次創作小説(映像)※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

仮面ライダーAP 【仮面ライダーG、艦これ、宇宙刑事etc】
日時: 2017/02/25 07:32
名前: オリーブドラブ (ID: ACwaVmRz)

〜あらすじ〜

 西暦2016年。対テロ組織シェードのテレビ局占拠事件から、7年の歳月が過ぎた頃。人々を脅かす改造人間の影は、今も世界に忍び寄っていた。
 城南大学の学生、南雲サダトはバーテンダーのバイトから帰る途中、闇の中でシェードから逃げ惑う1人の少女と出逢う。その邂逅が、自身の運命を大きく揺るがして行くことも知らないまま。
 そして、この「Gの世界」に誕生した第二の「仮面ライダー」が正義に目醒めた瞬間。その運命が今、芳醇の刻を迎える。
 果たして。この戦いの果てに待つ結末に、希望はあるのか。





 仮面ライダーGの舞台を主軸としつつ、艦隊これくしょんや宇宙刑事シリーズの要素などを絡めた、クロスss……の、ような何かです。
 全43話を予定しており、「ハーメルン」「暁」「arcadia」でも掲載中となっております。ちなみに、艦これとのクロスは中盤から始まります。

 機会がありましたら、チラ読みして頂ければ幸いです。ではでは!



〜目次〜

第1話 シェードの残影 >>1
第2話 エリュシオン星より愛を込めて >>2
第3話 迫る闇 >>3
第4話 束の間の…… >>4
第5話 愛するために >>5
第6話 仮面の戦士 >>6
第7話 目覚める魂 >>7
第8話 たった独りでも >>8
第9話 闇を纏う剣 >>9

Page:1 2



第5話 愛するために ( No.5 )
日時: 2017/02/22 22:05
名前: オリーブドラブ (ID: SqYHSRj5)

 南雲サダトの突然の失踪から、数日。

 行方をくらましたまま、一向に帰ってこない彼の行方を案じるアウラは、窓から見える町並みを覗き続けていた。
 もしかしたら、ひょっこり姿が見えるのではないか。そんな、淡い期待を抱いて。

「南雲、様……」

 だが、彼が期待通りに現われることはなかった。そして——その理由は容易に想像がつく。

「やはり、シェードに……なら、それは私の……」

 シェードに狙われていた自分を庇った。標的にされる理由など、それだけで十分過ぎる。そして、そこから来る自責の念が、彼女の心を大きく揺るがした。

(私が、あの人を……)

 いくら外を覗いても、待ち続けても。彼は帰ってこない。その現実に打ちのめされたように、アウラは膝から崩れ落ちていく。
 それほどまでに、彼女にとっては大きいのだ。南雲サダトという男の存在は。

(……故郷から、この星の人々を改造人間の哀しみから救うべくやって来て、半年。この日本に来るまで、私は何人もの被験者達を治療してきた。けど……)

 ——アウラはこれまで、世界中を巡り改造手術の被験者にされた元構成員達を、何人も救ってきた。……だが、それで必ずしも誰もが幸せになれたわけではない。

 むしろ人間に戻ったせいで、一度社会から追放された者は生き抜くための武器を失い、野垂れ死んだケースもある。治療が原因でシェードに存在を知られた彼女の巻き添えで、人間に戻って間も無く殺されたケースもある。

 そんな彼女に向かう、遺族の罵声。怨み。嘆き。その全てを背負ってなお、彼女は治療を投げ出さなかった。ここで立ち止まれば、その時こそ犠牲になった命が無駄になってしまうのだと。

 それでも。たった一人で背負うには、その罪は重過ぎた。
 だから彼女は、味方も作らず無謀も承知で、わざわざシェードの本拠地がある日本に来たのだ。彼らに捕まり、殺されるならそれもいい——と、半ば投げやりに己の命を軽んじて。
 そうすることで、自分の罪を清算しようと。

 ——だが。
 それを許さない者がいた。

 シェードに追われ、いよいよかと覚悟を決めようとした自分を、身を呈して守り抜いた青年は——罪に塗れているはずの自分を、こともあろうに「正しい」と言ってのけたのだ。

 そんな資格はない、と頭では理解していながら。自分には勿体無いとわかったつもりでいながら。それでも心のどこかで、狂おしく求め続けていた言葉が——アウラという少女の心を、溶かしてしまったのだ。
 もう——この人なしではこの星で生きられないと。

 それほどまでに想う相手が、自分が原因で危険に晒されてしまった。その胸の痛みは、あらゆる痛みに勝る責め苦となり、彼女を締め付けている。
 ——そして。その痛みが。

(助け出さなくては……南雲様を、なんとしても!)

 愛する男との約束を破ってでも、捜索に向かう決断に踏み切らせたのだった。彼女は「家を出るな」というサダトの言いつけを破ると、勢いよくアパートを飛び出し、東京の街へと繰り出して行った。

 絶世の美貌を持つ彼女は、道行く人々の視線を一身に惹きつけ、時として色欲に塗れた男達に声を掛けられることもあった。
 だが、それら全てをかわす彼女は、一心不乱にとある場所を目指す。——彼女の胸中には、心当たりがあったのだ。

 ——それはかつて。No.5と呼ばれた改造人間と、7年前のテレビ局占拠事件の首謀者との決戦が行われた廃墟。
 そして今は、シェード残党が潜伏するアジトにもなっている。

 都会から程よく離れた地点であり、遮蔽物が多く入り組んだ構造でもあるため、彼らにとっては絶好の潜伏先なのだ。

 「仮面ライダー」と呼ばれているNo.5により、7年に渡る戦いで世界各地のアジトを潰された彼らは今、居場所を求めてこの場に集まっている。
 アウラは改造人間が持つ独特の脳波を感知し、その気配が集まる場所を特定していたのだ。

 人気がまるでない、僻地の廃墟。そこにいるだけで孤独感に押し潰されてしまいそうな、その魔境に足を踏み入れた彼女は——神経を研ぎ澄まし、怪人達の居所を追う。

(失踪から数日が経っていても、南雲様の御遺体は発見されていない。シェードが人手不足になっているという点を考慮するなら、改造人間にするために誘拐されたという線が強い。……なら、今もこのアジトに囚われているはず!)

 サダトの脳波を探し出そうと、アウラは瞼を閉じ、さらに感覚を鋭利なものにしていく。——その時。彼女の足元に砂利の坂から小さな瓦礫が転がって来た。

「……!」

 小さな埃が舞い散り、アウラは顔を守るようにそれを振り払う。

 ——刹那。禍々しい気配が、少女の第六感に轟いた。

 瓦礫が転がる坂の上にいる「何か」を見上げた彼女は、恐怖に屈しまいと唇を噛み締める。

「……!」

 彼女の眼前の先。

「……まさか貴様の方から、のこのこと来てくれたとはな。——エリュシオン星人よ」
「——シェードの改造人間っ!」

 そこには、シェードによってその身を改造された異形の怪人が佇んでいたのだ。

 青白い筋肉組織のようなものを剥き出した、人体模型を思わせる悍ましい姿。

 更に、その全身を得体の知れない、無色の粘液が覆っている。
 彼が一歩踏み出すたびに、べちゃり、という音が立つ。

 シェードの刺客……エチレングリコール怪人だ。

「さぁて……孕んでもらおうか、俺の子を!」
「——お断りよ!」

第6話 仮面の戦士 ( No.6 )
日時: 2017/02/23 06:17
名前: オリーブドラブ (ID: ACwaVmRz)

 怪人はアウラに覆い被さらんと、駆け出した。そんな悍ましい怪物の猛威に怯むことなく、アウラは持ち込んでいた煙幕で姿をくらます。

 だが、エチレングリコール怪人は諦めることなく、彼女を探し回る。びちゃりびちゃりという音が、ますます激しくなっていった。

 やがて煙幕を抜け出し、獣欲に爛れた瞳でアウラを見据え、執拗に付け狙うエチレングリコール怪人。

「ふふふ、くはははは!」
「くッ……!」

 狂うように笑いながら、あっさりと彼女に追いついてしまった彼は——彼女の柔肌を手に入れようと、その手をゆらりと伸ばし……。

「はああっ!」
「ぐおっ——ぁあぁぁあッ!?」


 突如、コンクリートの壁をぶちやぶり現れた——もう一人の異形の者に、跳ね飛ばされてしまった。
 白く輝くバイクの体当たりを受けたエチレングリコール怪人は、その身を激しく吹き飛ばされていく。

「ぐぬぅッ!?」

 自らを覆う粘液を撒き散らしながら、彼の体はぐちゃりとコンクリートの床にたたき付けられてしまう。

 粘液の存在が多少は衝撃を緩和したようだが、それだけでダメージが無くなるわけではない。

 痛む箇所を押さえながら、粘液を纏う怪人は、颯爽と現れ、自らを襲った人物を睨み据える。同時に、アウラは自分を救った仮面の戦士に目を奪われていた。

「遂に現れたな……!」
「あ……あな、たは……!」

 純白のオフロードバイク。

 赤と黒の配色を持つ、シャープなスタイル。

 左足に伸びる真紅のライン。

 金色に煌めく大きな複眼。

 バックルに納められた、一つのワインボトル。

 そして——胸と複眼に輝く「G」の意匠。


 シェードが最も恐れ、最も危惧すべき戦士——「仮面ライダーG」。その凛々しくも雄々しい姿が日の光を後光にして、まばゆい輝きを放つ。

「あの事件から7年。よくもこれまでのうのうと生きて来たものだ! 我々の相手をしながら……」

 息を荒立てるエチレングリコール怪人を尻目に、Gは悠然とバイクを降りる。

 ——そこには、確かな歴戦の貫禄があった。

 静かな足取りで、ある程度の距離まで近づくと、彼はようやく重い口を開く。

「どこまでも生きていけるさ。この世界を守ると、約束したのだから。彼らと——彼女と」

 孤独な愛の戦士の脳裏に、7年前の戦いが蘇る。

 テレビ局での、かつての恋人だった日向恵理《ひなたえり》との運命の再会。
 思い出のワイン。洗脳からの解放。
 彼女を守る決意。裏切り者の烙印。
 隊長格の織田大道《おだだいどう》との死闘。

 そして、10人の仮面ライダーとの出会いと、激励。

 あれから7年間。洗脳されていた時の犯行声明が原因で社会からも迫害された彼は、たった独りでシェードの刺客と戦い続けていた。

 ——恐れはなかった。
 愛する者を守る事、それだけがGを戦いへと突き動かしていたからだ。

「人間社会は改造人間を受け入れない。そして我々は裏切り者を受け入れない! 貴様の行く末に、安住の地などないのだ!」

「安住の地なら、ある。彼女という、安住の地が」

 Gは語る口を止めることなく、拳を握り締める。これから始まる戦いに、己を奮い立たせるために。

「その安住の地を守る為に、僕は貴様達に立ち向かって来た。これまでも——これからも」

 Gはエチレングリコール怪人と真っ向から向き合い、握り締めた拳を構える。しかし、怪人に怯みは無い。

「馬鹿め! 私の体は猛毒の粘液で満たされている! さっきはバイクでの追突だったから通じなかっただけ……直に触れれば貴様とて!」
「なら——触れなければいいんだろう?」

 言うが早いか、Gの胸のプロテクターから、同じ形の物体が現れた。
 それは彼の右手に渡り、掌中に収まると同時に、先端にソムリエナイフを思わせる刃が出現した。

「し、しまっ——!」

 まばゆく閃くGの剣が、凄まじい勢いでエチレングリコール怪人に向かって行く。一切の隙を与えない、電光石火の連続攻撃。
 7年間に渡る実戦経験の賜物である、その剣技を前に——怪人は防戦を強いられた。

「うっ、ぐうっ!」

 後ずさりするしかない。怪人に焦燥が走る。

 反撃しようと踏み込めば、間違いなくそこから生まれる僅かな隙を狙われ、切り裂かれてしまうだろう。
 防御するために突き出した彼の両腕からは、激しく火花が飛び散り続けていた。

 一方で、Gも攻撃を緩めるつもりは全くなく、流麗かつ素早い剣捌きでエチレングリコール怪人を圧倒する。

「——ハッ!」

 そして、連続攻撃の末に繰り出された、大きく振りかぶった一撃。

「グギャアァアッ!」

 それを浴びた怪人は、容赦なく吹き飛び、再び地を転げ回った。毒性の粘液を撒き散らし、怪人は二度に渡って襲い来る痛みにのたうちまわる。
 鮮やかな身のこなしで武器を操るGとは対照的だ。

「これ以上は無駄な事。早々に諦め、降伏することだ。幸い、ここに改造人間を人間に戻せる姫君もいる」
「——!? ど、どうして私のことを……!」
「シェードのヨーロッパ支部と戦っている最中、奴らの情報網から君のことを偶然知ったんだ。……まさか、日本に来ているとは思わなかったが」
「……」
「——さあ。貴様も改造人間としての役目を捨て、人間に立ち戻れ。僕も、不要な争いはしたくない」

 先刻の滑らかな動きからは想像のつかないような毅然な姿勢で、Gは怪人に降伏を勧告する。だが、エチレングリコール怪人は降参の意を示さない。
 痛みに苦しみながらも、Gの威圧に屈する様子が見られないのだ。

「……流石だ。7年間に渡り、我々を翻弄し続けて来ただけの事はある」

 ひび割れたコンクリート壁に寄り掛かりながら、粘液を纏う怪人は立ち上がる。

「だが——その7年間という月日は、我々に貴様の様々なデータを残していったのだ」

「僕の……データだと?」

 自分の情報が話に関わっていると知り、Gはマスク越しに顔をしかめる。

「そうだ! 我が食前酒計画の真髄、心行くまで堪能していただく。行け、APソルジャー!」

 その時。

 Gは己の背後に凍てつくような殺気を感じた。

「っ!」

 後ろにいる——敵が!

 咄嗟の判断で水平に身をかわす。

 すると、さっきまで彼が立っていた場所に、謎の五人衆が舞い降りて来た。

「メインディッシュは、最後まで取っておくもの。まずは前置きから楽しんでいただかなくてはな!」

第7話 目覚める魂 ( No.7 )
日時: 2017/02/24 03:14
名前: オリーブドラブ (ID: B55pMfhh)

 エチレングリコール怪人は、自らがAPソルジャーと呼ぶ五人衆がやって来ると、物影に隠れていたアウラに目を向ける。

「……丁度いい。人類の希望たる仮面ライダーを粉砕し、その眼を絶望に染め上げてから——貴様を頂くことにしよう」
「さ……させないわ! 南雲様を返して貰うまでは……!」
「ククク。やはり、狙いは南雲サダトか。ならば、さらなる絶望に沈むがいい」
「なんですって……!」

 エチレングリコール怪人の真意を問い詰めようと、アウラは物陰から身を乗り出すように立ち上がる。——が、その瞬間に怪人は全身を粘液に溶かし、姿を消してしまっていた。

(さらなる絶望……一体何を——!?)

 怪人が残した言葉に言い知れぬ不安を感じて、アウラは戦いに目を移す。——その時。彼女の眼に、ある一人のAPソルジャーが留まる。

 他の4人と共に、Gを攻め立てるその兵士に——あの夜、自分を助けようとシェードに立ち向かった青年の、勇ましい後ろ姿が重なったのだ。

 そんな馬鹿な、と思えば思うほど。仕草や足運びが似通った、そのAPソルジャーは——少女の視線を捉えて離さない。

(ま、まさか、そんな……!)

「くッ!」

(……あっ!?)

 その瞬間。Gの上げた声に、アウラの意識はAPソルジャーからGの戦いへと引き戻される。

「……!」

 突如現れた五人衆の襲撃を受けて、窮地に陥るGの姿に彼女は思わず口を覆う。Gは、自分を襲う五人衆——APソルジャー達に戸惑うばかりだ。

 なぜなら——ボディの配色といい、顔の造形といい、どれをとってもGと瓜二つの風貌だからだ。
 だが、違う点もある。複眼を囲う部分はaの形をしており、胸のプロテクターはpの字を象っている。

「僕の戦闘データで、僕の模造品を作り上げたというのか……!」

 敵ながら、優秀な性能を発揮しているGのデータを基に量産型を生産し、それを差し向ける事でGを物理的に圧倒する、食前酒計画。APソルジャーの名も、食前酒の英訳の綴りから来ているのだろう。

 Gはシェードのなりふり構わぬやり方に、さらに拳を震わせる。
 ——しかし、今は彼らをなんとかすることが先決だ。

 いつの間にか姿を消している粘液を纏う怪人も、探し出さなくてはならない。

 ——すると、APソルジャー達の胸にあるP字型のプロテクターから、それと同じ形状のアイテムが現れ、各々の手に渡った。

(まさか……剣まで再現しているのか)

 最悪の展開を想定し、Gは自らの得物を構える。

 五人衆の手に収められたp字型のアイテムは、その先端に鋭利な刃を出現させた。
 APソルジャー専用武器「APナイフ」だ。

「うおおおっ!」

 凄まじい叫びと共に、五人の猛者は己の剣を振りかざし、孤高の裏切り者に群がっていく。

「ちッ……!」

 Gも懸命に剣で応戦する。戦闘経験においても改造人間としての性能においても、GはAPソルジャーより遥かに優れているだろう。

 だが、1対5という構図になると、それだけでどちらが勝つかを明瞭にすることは難しい。
 APナイフは、Gの剣よりリーチは短く、刃の硬度も劣る。しかし、5人という数は、そのスペックの差を大きくカバーしていたのだった。

「……食前酒でこの強さとは、恐れ入る」

 量産された模造品とはいえ、そのモデルは長きに渡りシェードを苦しめて来た仮面ライダーG。一体一体が、オリジナルに及ばずながらもそれなりの性能を持っている事には違いない。

 次から次へと襲い来るAPナイフの強襲。
 ひたすらそれを払いのけ、Gは防戦一方となっていた。

「……ぐッ!」

 そして、Gの防御をかい潜ったAPソルジャーの一撃が、裏切り者を遂に吹っ飛ばしてしまった。

「ああっ!」

 Gのやられる姿を前に、アウラは思わず声を上げてしまう。
 地面に転がるGの体。

「く……!」

 思わぬ強敵に追い詰められ、彼は短く苦悶の声を漏らす。

「これほど、だとはな……!」

 じりじりと自らのオリジナルに詰め寄ってくるAPソルジャー達。
 彼らの手にあるAPナイフの刀身が、ひび割れた天井から差し込む太陽の光で、妖しく輝く。

 とどめを刺してやる。その輝きが、そう叫んでいるようだった。

 やがて、五人衆は足元に倒れているGを包囲する。Gが見上げれば、そこには自分を見下ろす、自分とよく似た五つの顔があった。

 口を利かなくても解る。彼らが洗脳され、感情を閉ざされているということが。
 かつての自分自身が、そうだったように……。

 やがて、APソルジャー達は一斉に自らの持つ剣を振り上げる。これが、仮面ライダーGの最後。
 そう確信した悪の尖兵達が、刃を振り下ろす——瞬間。

「南雲……様ッ!」

 甲高い叫びが、廃墟一帯に響き渡る。その叫び声に、振りかざされたAPナイフを持つ手が——動きを変えた。

「……!?」

 Gはその叫びと自分の目に映る光景に、思わず言葉を失った。7年間戦ってきて、初めて見た光景だからだ。

 ——APソルジャーの1人が。振り下ろされた4本の剣を1人で受け止め、Gを守っているのだ。洗脳されているはずの改造人間が、少女の声一つで——自我を取り戻したというのか。
 他のAPソルジャー達も、想定外なイレギュラーの出現に驚いた様子であり、G共々硬直していた。

「ア、ウ……ラ……」

 その反逆した1人の兵士は。譫言のように少女の名を呼びながら、APナイフの刀身を震わせていた。
 他のAPソルジャー達とは明らかに違う、その個体の行動を目の当たりにしたGは——僅かな硬直を経て、再び動き出した。

「——ッ!」

 このチャンスを、逃さないために。

「……ハァアアッ!」

 4人が反逆者に気を取られている隙に剣を取り、自分を取り囲む彼らを一気に薙ぎ払ったのだ。

「ぐわぁあぁあッ!」

「ぎゃあぉぁッ!」

 APソルジャー達は次々に悲鳴を上げ、崩れ落ちる様に倒れていった。
 ただ一人——同胞達を裏切り、Gを救った個体を除いて。


「君達はカクテルかな? リキュールかな? いずれにせよ、食前酒の時間は終わりだ」

 しばらくすると、やがて彼らはその異形の姿から、かつて人間だった頃の姿を取り戻していくのだった。
 そして……Gは倒れ伏した4人の生存を確認したのち——自分が斬らなかった唯一のAPソルジャーを見遣る。彼もまた、無意識のうちに人間の姿に戻っていた。

第8話 たった独りでも ( No.8 )
日時: 2017/02/24 03:16
名前: オリーブドラブ (ID: B55pMfhh)

「ん……俺、は……」

 Gを救ったAPソルジャー。その殻の下には——南雲サダトの姿があったのだ。

「……! あ、あぁ……!」

 立ち尽くすサダトの姿を認め、アウラは涙を目に溜めて両膝を着く。

(私のせい……! 私のせいで、南雲様が……!)

 彼女にとっては、まさしく最悪な結果になっていた。自分と関わりを持ったこと——それ以外に、サダトが改造人間になってしまう理由など、考えつかなかった。

 できれば、そうあって欲しくはない。巻き込んでしまうことだけは避けたかった。そんな淡い願いさえ、現実は非情に打ち砕いてしまう。

「う、ああ……あ……!」

 零れ落ちる雫を、拭う余裕さえない。泣き叫んだつもりだったが、思った程の声が出てこない。罪悪感にうちひしがれた彼女の喉からは、声にならない叫びが僅かに漏れてくるのみだ。

 一方。Gに倒され変身が解けた他の4人も、はっきりと意識を取り戻そうとしていた。

「う……ん……」

「こ、ここは……」

 眠りから目覚めた彼らの瞳には、確かな生気が感じられる。考えられる結果は一つ。
 打ちのめされ変身を解かれたショックで、洗脳から解き放たれたのだろう。

 Gはその様子を静かに見守っていた。



「そうだ……俺は……あの時……」

「シェードに襲われ、て……」

 洗脳から解放された者達に待ち受けるのは、改造手術を受け、奪われていた記憶のフラッシュバック。

 人間として平和な日々を謳歌していた時代。シェードに囚われ、兵器の身体に成り果てた自分自身。
 ——全ての記憶が彼らに蘇り、五人衆は人間の心を取り戻した。

 呆然とした表情で、座ったままの彼らに、Gは優しく声を掛ける。

「洗脳から、解放されたようだな。もう、君達の心は君達だけの物だ」

 しかし、5人は全く反応がない。
 意識を取り戻してから、僅かに身を震わせるばかりだ。

「……記憶を取り戻したばかりだから無理もないか」

「お、俺達が……!」

「改造人間……!?」

 5人のうちの誰かが、恐怖と絶望に歪んだ表情で、口を開く。

 そこには、かつてGが記憶を取り戻した時に見せたような精悍な面持ちは、全く見られない。そこにあるのは、人間でなくなった者の悲哀だけだ。

「い、いやだ……」

「いやだぁぁああッ!」

 自分自身に起きた無情な現状に、彼らは泣き叫ぶ。

「俺は——もうすぐ結婚だったんだぞ!? 子供を持って、幸せな家庭を持って……!」

「なんで!? なんで俺達が!? 俺達が何をしたっていうんだよぉ!」

「返せよ! 返してくれよ俺の身体! 返せーッ!」

 異形の身体と人間の心の共存は、まさしく生き地獄だ。

 彼らはそばにいるGに泣き縋り、元に戻してくれと、涙ながらに懇願する。

 しかし、Gにそんな力がある筈がなく、シェードの科学力を以てしても、改造人間を人間に戻す事など不可能だろう。
 Gとしてはどうにか彼らの心を救いたかった。しかし、彼にはどうすることも出来ない。それが現実である。

 彼は唯一の希望であるアウラの方に目を向けるが——彼女は膝を着いて俯いたまま、動かない。どうやら、APソルジャーの中に知人がいたらしく、ショックに打ちひしがれているようだった。

(彼女が持ち直してくれる時を、待つしかないな……ん?)

 ふと、Gの目にある光景が留まる。
 5人の中で唯一、叫ぶことも嘆くこともしない者がいたのだ。

 彼は悲しみを表に出さず、自らの胸に閉じ込めているようだった。

 そう——かつての自分のように。



 その人物——南雲サダトは、自分の身に起きた現実を享受したまま、アウラの方を静かに見つめていた。

「……」

「あっ——な、南雲、様……」

 その眼差しを感じてか、アウラは思わず顔を上げ——不安げな表情のまま、想い人と視線を交わす。

「……あはは、助けに来てくれたのか? たくもう、家から出るなって言ったのに。まぁでも——ありがとう」
「え……? な、なぜお怒りにならないのですか。わ、私は、あなたを巻き込んで……!」

 そして、改造された後とは思えないほど相変わらずな笑顔を向けられた彼女は——今にも泣き出しそうな面持ちのまま、自分の罪深さを訴える。

「前にも言っただろ? ——正しい人を責めたくは、ない。体が変わったって、俺の心は、変わらないよ」
「……!」

 だが。
 それでも彼は、赦していた。どれほどアウラが自罰を下そうとしても。己を卑下しても。彼はその全てを受け止め、受け入れてしまう。

「あ、ぁあぁあっ……なぐ——サダト、様ぁあぁあ……!」
「——よく頑張ったよ、アウラ」

 もはや——彼女の心に、逃げ道はない。彼の優しさに、身と心を委ね——少女はその胸に飛び込み、幼子のように啜り泣く。
 そんな彼ら2人を、Gの複眼が穏やかに見守っていた。




「アウラ。早速で悪いんだけど、彼らを元の人間に戻してあげて欲しい。彼らはただ操られていただけだし、今すぐ戻せば何事もなく復帰できる」
「はい。では、まずはあなたから——」
「——いや、俺は一番最後でいい」
「えっ……」

 アウラは早速、サダトを生身の人間に戻そうと、その逞しい胸板に手を当てる。だが、彼女の白い手が緑色の優しげな光を放つ瞬間。
 サダトは彼女の手を掴み、その光を止めてしまった。待ち望んだ瞬間を止められ、アウラは上目遣いでサダトを見遣る。

「この身体だからこそ、出来る事もある。まだ全てが失われていないなら、失われていないものから新しい大切なものを、見つけだしたい。俺は……そう思うんだ」
「さ、サダト様……まさか!」
「君は他の4人を助けてあげてくれ。俺は——カタを付けてくる」

 それが、今のサダトが求める願いだった。それを察したアウラは、言葉が出るよりも早く腕に全力でしがみ付き、引き止めようとする。
 だが——改造人間のパワーを前にしては、何の足止めにもならない。

「サダト、様……」
「——大丈夫。絶対、帰ってくるからさ。信じて、待っててくれ」

 加えて、そう言い切られてしまっては。もう、アウラには見送ることしかできない。APソルジャー専用のバイクに跨る彼の裾から、名残惜しげに少女の手が離れて行く。

「君は……これから何処へ向かうつもりだ」

 そんなサダトに、Gは背後から声を掛ける。

「ここから少し離れた所に、食前酒計画を進めていた地下研究所があるんです。奴はそこにいるはず」

 サダトは、Gの様子を伺うと、一つ付け足した。

「あなたは手を出さないでください。これは俺達……APソルジャーの問題です」


 それだけ言い残すとサダトは独り、廃墟を後にしていく。そこにはアウラとG、そして4人の元APソルジャーが残された。

「……」

 何も言わず、Gはサダトが旅立った方向を眺めている。

「サダト様……」

 一方。アウラは、独り戦いへ赴いて行くサダトの背を視線で追い、祈るように指を絡めていた。
 Gはそんな彼女をしばらく眺めると、彼らに背を向け、自らのバイクに跨がる。

「君の帰りを待っている人がいる……なら僕は、君を死なせるわけには行かない」

 エンジンが火を噴き、彼のバイクは猛烈な勢いで廃墟を飛び出していく。あの青年の向かう、地下研究所を目指して。

第9話 闇を纏う剣 ( No.9 )
日時: 2017/02/25 07:31
名前: オリーブドラブ (ID: ACwaVmRz)

 薄暗い地下通路の中で、一つのライトが光り輝いている。

 シェードの地下研究所に向かうバイクのエンジン音が、地下一帯に響き渡っていた。

(エチレングリコール怪人は、恐らくAPソルジャーのデータを持ち帰っているはず。このまま放っておけば、更に多くの人間がAPソルジャー……つまりシェードの兵士となってしまうだろう。なんとしても、阻止しなくては……んッ!?)

 その時。前方から突然、謎の液体が飛んで来た。

「なんだ!?」

 咄嗟に頭を下げ、顔面への直撃をかわす。その後ろでは、何かが焼け爛れるような音が響いていた。

「毒液かッ!」

 薄暗い地下通路であるため、あまりはっきりとは見えないが——間違いなくエチレングリコール怪人が待ち伏せしていた。

「俺達の洗脳が解けてるって事、お見通しってことか!」

 サダトはバイクから飛び降りて怪人と相対すると——腰に装備されたベルトに「AP」と刻まれたワインボトルを右手で装填する。バックルに付いているレバーが、それに応じて起き上がってきた。

『SHERRY《シェリー》!? COCKTAIL《カクテル》! LIQUEUR《リキュール》! A《エー》! P《ピー》! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 その直後、ベルトからリズムを刻むように電子音声が流れ出す。その軽快な音声を他所に、サダトは左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと——最後に、その指先を顔の正面に立てた。

「……変身ッ!」

 そして——その叫びと共に右手でレバーを倒すと、バックルのワインボトルが赤く発光を始める。
 その輝きが彼の全身を覆うと——そこには南雲サダトではない、異質な姿の戦士が立っていた。

『AP! DIGESTIF《ディジェスティフ》 IN《イン》 THE《ザ》 DREAM《ドリーム》!!』

 APソルジャーとしての姿に変貌した彼は——意を決するように、胸から己の得物を取り出した。

「らああぁァッ!」

 サダトはAPナイフを構えると、眼前で待ち構えているエチレングリコール怪人に向かっていった。

「裏切り者めが——覚悟はできておるのだろうなァァァッ!」

 絶え間ないエチレングリコール怪人の毒液攻撃をかい潜り、サダトはAPナイフを振りかぶる。金属音と共に、彼の攻撃が命中した。
 だが——相手に効果はさほど見られない。

「くッ!」
「馬鹿めが! No.5を基にしているとはいえ、所詮は量産型。百戦練磨の俺に敵うものか!」

 あっという間に喉首を掴まれ、サダトは腕一本で投げ飛ばされてしまった。

「うわああッ!」

 壁に激しくたたき付けられ、地面に落下するサダト。
 そこへ追い打ちを掛けようとエチレングリコール怪人はじりじりと歩み寄る——が。

「トアァッ!」
「ぐおッ……!?」

 その一瞬を狙い、意表を突いて立ち上がったサダトの一閃により、すれ違いざまに脇腹を切り裂かれてしまった。エチレングリコール怪人の脇腹に、微かな傷跡が生まれる。

「貴様ァァァ! 消耗品の分際で、どこまで俺を愚弄するつもりだァァァァッ!」

 追撃の一閃を刻もうと振り下ろされた剣を片手で掴み、その剣を持っていたAPソルジャーの顔面に、毒液が滴る鉄拳が炸裂した。

「ぐがぁあッ!!」

 エチレングリコール怪人の毒液を帯びたパンチは、その衝撃力以上のダメージを齎していた。
 だが。顔面から全身に伝わる激痛にのたうちまわりながらも、サダトは立ち上がる。

 そして——再び剣を振りかざし、エチレングリコール怪人に踊り掛かって行った。

「無駄なことを。さっさと死を選んでおれば、楽になれたろうに」
「悪いが先約があるんだ。必ず生きて帰るってな!」
「……抜かせェエェッ!」

 だが——サダトの奮闘も虚しく、彼は再び吹っ飛ばされてしまう。今度は強烈な回し蹴りを浴び、更に激しく同じ壁に打ち付けられた。

「ぐはああァァァッ!」

 しかも、そのショックで変身が解けてしまい、彼は元の姿に戻ってしまった。

「しっ、しまっ……た……!」

 自分の目に肌色の手の平が映った事から、サダトは変身が解けてしまった事を悟る。

「さて。ではそろそろ、俺の毒液を心行くまで堪能して貰おうか」
「ぐっ……!」

 そこへ歩み寄るエチレングリコール怪人は——歪に嗤い、とどめの瞬間を迎えようとしていた。変身を解かれては、勝ち目もない。
 為す術なく、サダトが死を遂げようとした——その時。

「うっ——あ!?」

 同じ箇所に二度も、強烈な衝撃が加わったことで。今度は、その壁が音を立てて崩れ始めた。

「わ、ぁぁあぁああッ!?」

 壁にもたれかかっていたサダトは体重を乗せる先を失い——崩れた先にある奈落へと落ちていく。その闇の中へと消えていく裏切り者を、エチレングリコール怪人は冷酷に見下ろしていた……。







※変身ポーズと騒音ベルト
 自分が変身するライダーの意匠をポーズで描く、という部分は原作の仮面ライダーGに倣ったもの。最後に指先を顔の正面に——は、仮面ライダーゴーストの影響がバリバリだったり。
 ベルトがうるさいのは「Gの世界の最新ライダー」であることの表現として、電子音声が強調されるようになった第二期平成ライダーにあやかってのこと。ちなみに電子音声の内容は、仮面ライダーGの本編中に吾郎が発した台詞に由来している。


Page:1 2



この掲示板は過去ログ化されています。