二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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ありふれない聖剣使いは世界最強
日時: 2019/06/09 19:15
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

暗闇の中、急速に小さくなっていく光。やはりこうなったかという諦めの表情で南雲ハジメは消えゆく光を凝視した。

ハジメは現在、奈落を思わせる深い崖を絶賛落下中なのである。目に見える光は地上の明かりだ。ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に落ちた、もとい落とされたハジメは、遂に光が届かない深部まで落下し続け、真っ暗闇となった中で、ゴゥゴゥという風の音を聞きながら今に至るまでのことを思い出していた。

月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう、生まれ変わっても変わらない絶対の法則だ。
そして、それは南雲ハジメも例外ではなかった。但し、正史の南雲ハジメの様に学校の居心地が悪い、などではなく自分が知っていた世界とは違うということを否が応でも再認識せざるを得ないからだ。
ハジメは、何時ものように始業チャイムが鳴る少し前に登校し、徹夜だが活力に満ち溢れる体をで、教室の扉を開けた。
その瞬間、教室の男子生徒は舌打ちしながら目をそらし、女子生徒はアイドルを見てるような目でこちらを見ている。
それらを極力無視しながら自席へ向かうハジメ。しかし、毎度のことながらちょっかいをさしてくる者がいる。

「よぉ、キモオタ。また徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわッ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん」

勘違いでゲラゲラと笑い出す男子生徒達。声をかけてきたのは檜山大介という。毎日何かしら理由をつけてハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くで笑っているのは齋藤吉樹、近藤礼一、中野信治の三人で、だいたいこの四人がハジメに絡む。
檜山の言う通りハジメは徹夜でやることがある。だがそれは決してエロゲではない。そもそもこの年齢では買えない。
それに、キモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているしコミュ障というわけでもないから積極性は皆無だが受け答えは明瞭だ。大人しくはないが問題児というほどでもない。創作物は嫌いでもないが好きでもない。強いて言えば読書が好きだ。
それなのに何故ここまで男子生徒から敵意を向けられるのか。
その答えが彼女だ。

「南雲君、おはよう!今日もギリギリだね。もう少し早く来ようよ」

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Re: ありふれない聖剣使いは世界最強 ( No.6 )
日時: 2019/06/09 19:45
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことを思い出しているのだろう。
ハジメが"神の意思"を疑うことなく、それどころか喜々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を抱いていると、突然立ち上がり、猛然と抗議する人が現れた。

「ふざけないで下さい!結局、この子たちに戦争をさせようってことでしょ!そんなの許しません!
ええ、先生は絶対に許しませんよ!私たちを早く返してください!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

プンプンと起こる愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で、非常に人気がある。
百四十センチの低身長に童顔、ボブカットの髪をはねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましく、その何時でも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。"愛ちゃん"と愛称で呼ばれ、親しまれているのだが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。何でも威厳ある教師を目指しているのだとか。
今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる…」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めている生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です。」

場に静寂が満ちる。重く苦しい空気が全身に伸し掛かっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

愛子先生が叫ぶ。

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々があのばにいたのは、単に勇者様方を出迎えるためと、エヒト様への祈りをささげるため。人間に異世界へ干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな。」

「そ、そんな……」

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

「う、嘘だろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!何でもいいから返してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねえ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

Re: ありふれない聖剣使いは世界最強 ( No.7 )
日時: 2019/06/09 20:16
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

パニックになる生徒達。ハジメも平気ではなかった。しかし予想はしていたため平静を保てていた。
誰もが狼狽える中、光輝が立ち上がりテーブルをバンっと叩いた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がないよ。彼だってどうしようもないんだから。
……僕は、僕は戦おうと思う。この世界の人たちが滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて僕にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれないしね。……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい。」

「僕たちには大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょうな。」

「うん、なら大丈夫。僕は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。世界も皆も僕が救って見せる!」

ギュッと握りこぶしを作り、そう宣言する光輝。無駄に歯がキランッと光る。
同時に彼女のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望した表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、正に希望を見つけたという表情だ。

「へっ、お前ならそういうと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ。」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

いつものメンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。
愛子先生がオロオロと「ダメですよ〜」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味での戦争、命の奪い合いをするということか理解していないのだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。

Re: ありふれない聖剣使いは世界最強 ( No.8 )
日時: 2019/06/09 20:49
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

戦争参加の決意をした以上、ハジメ達は戦いの術を学ばなければならない。いくら規格外の力を潜在的に持っているとはいえ、元々平和主義にどっぷり浸かり切った日本の高校生だ。いきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。
しかし、その辺の事情は予想していたらしくて、イシュタル曰くこの聖教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
ハジメ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山し、ハイリヒ王国へ行くためだ聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門をくぐるとそこには雲海が広がっていた。
高山特有の息苦しさなどは感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかったのだ。おそらく、魔法で生活環境を整えているのだろう。ハジメ達は、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。
どこか自慢げなイシュタルに促されて先に進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。
大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた柵の向こうは雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。
それでも興味が湧くのは止められないようで、キョロキョロと周りを見渡しているとイシュタルが何やら唱えだした。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、"天道"」

その途端、足元の魔法陣が燦然と輝きだした。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上に向かって斜めに下っていく。どうやら、先ほどの"詠唱"で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。初めて見る"魔法"に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。

Re: ありふれない聖剣使いは世界最強 ( No.9 )
日時: 2019/06/09 22:11
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、いや国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射線状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座のロープウェイは、王宮と空中回廊で繋がっている高い搭の屋上に続いているようだ。
ハジメは、素晴らしい演出だと皮肉っぽく笑った。雲海を抜け天より降りたる"神の使徒"という構図そのままである。ハジメ達のことだけではなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はない。

******

王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。
道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けてくる。ハジメ達が何者か、ある程度知っているようだ。
美しい意匠のの凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それがさも当然という風に悠々と扉を通る。光輝など一部の者を除いて生徒を達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたカーペットとその奥の中央に豪奢な椅子——玉座があった。
玉座の前で覇気と威厳をまとった初老の男が立ち上がって待っている。
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。さらに、カーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者たちが、右側には文官らしき者たちがざっと三十人以上並んで佇んでいる。
玉座の手前につくと、イシュタルは生徒達をそこに留まらせ、自分たちは国王の隣へと進んだ。
そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。
どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。
これで、国を動かすのが"神"であることは確定だなとハジメは内心で呟いた。
そこからの自己紹介は聞いていなかったし料理も緊張して殆ど味がわからなかった。晩餐会が終わると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。ハジメは、天蓋付きのベットに驚きながらも疲れを感じベッドにダイブすると共にその意識を落とした。

Re: ありふれない聖剣使いは世界最強 ( No.10 )
日時: 2019/06/09 22:38
名前: 無印良品生活 (ID: yyQR4QTV)

翌日から早速訓練と座学が始まった。まず、集まった生徒たちに十二センチ×十二センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったハジメだったが、対外的にも対内的にも"勇者様ご一行"を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。メルド自身も「むしろ面倒な雑事を副団長に押し付けることができて助かった!」
と豪快に笑っていたくらいだったから大丈夫なのだろう。もっとも、副団長さんは大丈夫ではないかもしれないが。

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員たちにも普通に接するように忠告するくらいだ。
ハジメ達もをのほうが気楽でよかった。はるか年上の人達から慇懃な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のふかさだのアーティファクトの類だ」

「アーティファクト」

アーティファクトという聞きなれない単語に光輝が質問をする。

「アーティファクトっていうのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。ステータスプレートもその一つでな、昔からのこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるんだが、これは一般市民にも流通している。身分証明に便利だからな。」

それれの説明に「なるほど」と頷きつつ、生徒たちは顔を顰めながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦り付けた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメも同じように血を擦り付けた。


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