二次創作小説(新・総合)

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Faveric~SS集~
日時: 2021/12/04 23:47
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

こちらのスレッドは、日常系を中心とした様々な二次創作のSS集となっております。私綾木の気の向くままに更新しています。
他の綾木作品とは一線を画した作風となっております。あらかじめご了承下さい。
シリアス要素も含まれておりますので、その類の描写が苦手な方は閲覧をお控え下さい。



①9月の空の色   >>1-11
 元作品:キルミーベイベー、きんいろモザイク

②心地のよい朝   >>12-14
 元作品:ご注文はうさぎですか?

③執筆中



2021.12.3 スレッドを大幅にリニューアルいたしました。

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.5 )
日時: 2021/09/03 23:50
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

「あっ、戻ったわね」

「ソーニャちゃん!その服、とても似合っていますよ!それ、上半期1の自信作なんです!」

「お前、普段こんなの着てるのか……」

脱衣所でこの服を見たときは唖然とした。絵に描いたようなゴスロリである。これ以外に着るものがなかったのでやむなく着てきたわけだが。

「ソーニャちゃんだっけ?今治療道具持って来るから、その辺適当に座っててー」

「……」

みじめだ。自分がみじめで仕方がない。元はといえば、昨日の刺客にあそこまで隙を見せた自分が悪いのだ。私は今頃死んでいてもおかしくはなかった。それなのに……

「忍、どんな傷にでも絆創膏を貼ればいいってものじゃないのよ」

「えぇ!?そうなんですか!?私、絆創膏さえあれば何でも治ると思ってました!」

「何よその最強治療アイテムは」

……奴は手加減した。私は殺されるどころか、こうして完全体のまま、今こうしてこの場の空気を吸って生きている。

「ソーニャちゃん、お待たせしました!」

「どれどれ……やっぱりまずは消毒した方がよさそうね。忍、消毒液」

「はい!」

奴の目的は何なのか、そもそも奴が何者なのかすらも分からずじまいだった。一つ確かなのは、奴が私たちの組織と敵対関係にある何らかの組織の一員だということだけだ。そうでなければ突然私に襲い掛かって指令書を奪ったりはしないだろう。

「ちょっとだけしみると思うけど、我慢してねー」

「お姉ちゃん!それ終わったら私にもやらせてください!」

「ダメよー、これは遊びじゃないんだから。忍にはガーゼをお願いするわ」

どういうわけか、私は今見ず知らずの奴の家でこうして傷の手当てを受けている。私は自分の失敗の跡1つも自分で解決することができない。私は、こんなにも無力だったか。

「はい、終わり。他にどこか痛いところある?」

「……気にするな。特にない」

「じゃあ、ガーゼは私が貼りますね!」

「はいはい」

私が目に見えて受けた傷は、左の頬のナイフの切り傷のみだ。延髄をやられたことにより多少の頭痛や倦怠感が残ってはいるが、手当てしてもらうほどのものではない。

「できました!これで大丈夫ですね!」

不思議と彼女がガーゼを貼っているとき、特に不快感は覚えなかった。私が今着ているこの服も彼女が作ったと言うし、意外と手先は器用らしい。

その後彼女の姉から腹が減っているだろうからと昼食を勧められたが、実際腹は大して減っていなかったので、遠慮しておいた。ただ、喉が渇いていたので麦茶を一杯だけいただくことにした。

「それでソーニャちゃん、あなたの身に一体何があったのかしら?」

「えっと……それは……」

言えるわけがない。そもそも私の正体が殺し屋であると言っても信用してもらえないだろう。万が一信用してもらえたとして、彼女達を怖がらせてしまうだけだ。
私は依頼を受けていない奴らに対しては基本的に一切危害を加えるつもりはない。けじめ、それが殺し屋としての私のポリシーだ。

「言いたくないなら、無理に言わなくてもいいわよ。私も深くは聞かないことにするわ」

「はぁ……」

何だか理由もなく上がらせてもらっているようで少し申し訳ない気分になった。

「ソーニャちゃん、せっかくですから、私の部屋にも上がっていってください!」

「いや、そこまでは……私はこれで……」

「あら、その格好で帰る気?」

「うっ……!」

今の私がとても人前に出られる服装ではないことを完全に失念していた。仕事着を放置したまま帰れるわけがない。

「あれは洗っておくから、今日は泊まっていきなさいよ」

「いや……さすがにそこまでしてもらうわけには……」

「遠慮なんてするもんじゃないわよ。アンタさっきまで死にかけてたらしいし」

「そうです!今のソーニャちゃんを野放しにしておくことなんて、私にはとてもできません!ぜひとも一泊していってください!」

「でも……親は大丈夫なのか?突然泊まったりして」

「お母さんは多分大丈夫だと思います!」

「そうね。その日の夕方になってから突然泊まりに来る人もいるくらいだし、これくらい普通よ」

「マジかよ……」

こういうわけで、私は彼女の家にやむを得ず泊まっていくことになってしまった。
傷の手当てのみならずまさか寝床まで借りることになるとは。
自分が本当に情けない。

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.6 )
日時: 2021/09/03 23:55
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

「どうぞ、入ってください!」

「……」

彼女に案内されるがまま、私は彼女の部屋に足を踏み入れた。これまで私はよそ者の部屋になど入ったことがほとんどなかったので、何だか新鮮な気分だ。
見渡す限り余計なものはなく、隅から隅まで清潔に保たれている。
そして、何だかいい香りもする。

「遠慮せず、適当にくつろいでくださいね!」

まぶしいほどの笑顔で私に話しかける彼女の名は、大宮忍。
透き通るように綺麗な瞳とどこか品のある顔立ち、そして形を丁寧に整えられた黒髪。
身体の方は、いわゆるスレンダー体型というほどではないが無駄なところが一切なく、スタイルはそこまで悪いわけではない。まるで何かの人形のような印象を受けるが、人形独特の気味悪さなどは一切ない。
全体的に見て、正直可愛い方だと思う。

「ソーニャちゃんは……ここで私と寝ましょう!」

「えっ……床じゃダメなのか?別に私はそれで構わないんだが」

「そういえば、まだアリスのことを話していませんでしたね!床ではアリスという女の子が布団を敷いて寝ているんです!」

「アリス……?」

「今は外出していますが……多分もうそろそろ帰ってくる頃かと!」

どうやら、彼女以外にこの部屋で暮らしている奴がいるらしい。アリスという名前から察するに、私と同じく日本人ではないのだろう。

「おい」

「はい、何でしょう?」

「この服、暑いんだが」

真夏のピークを過ぎたとはいえ、日本の暑さはまだまだ続いている。私の着ているこのゴスロリ衣装では、なおさら蒸し暑さがこもってしまう。

「そ……そうですよね!すみません、今すぐエアコンをかけます!」

いや、冷房のみでこの問題が解決するとは到底思えない。そもそもこの服装に問題があるのだ。

「どうですか?」

「いや、だからこの服……」

「分かりました!お水ですね!今持ってきます!」

「聞け!」

コイツにはこの服装が私の蒸し暑さの原因になっているという発想がないのだろうか。まったくアホな奴に出会ってしまったものである。

「あっ!そういえばそれ、冬用の衣装でした!すみません、まだそんな時期じゃないのに……」

何と彼女は今の今まで私に着せていた服が冬用のものであるということに気づいていなかったようである。本物のアホだ。
まぁ、とりあえずやっとまともな格好に着替えさせてもらえるようである。

「ちょっと待っててくださいね!夏用のを用意しますから!」

彼女が新たな衣服の準備をしている間、私は再び昨日のことについて思いを巡らせた。

「……」

何度思い返しても、どうしてあんなことになったのか、まったく分からない。ただ、自分の不甲斐なさが思い起こされる。

「えっと……これも……これもいいかもしれませんね!」

これまで何件もの依頼をミスなくこなしてきたこの私が、あんなへまをしでかすなんて。

「チッ……!」

腹が立つ。こんなにも醜いミスをした上その尻拭いすらできない無力な自分に腹が立つ。

「ソーニャちゃん!色々出してみました!せっかくですし、とりあえず全て着てみるのはどうでしょう?」

並べられた衣服はどれも今着ているようなものばかり。見ただけでは、夏服と冬服の違いが全く分からない。一体コイツの私服事情はどうなっているんだ。
それらはどれも私一人では着るのが困難なものばかりだったので、仕方なく成り行きで彼女に着付けを手伝ってもらうことになった。

「どうですか?苦しくないですか?」

「……」

私とは対称的に、包み込まれるような優しい表情を浮かべる彼女。
私は今どんな顔をしているんだろうか。何故か彼女に見られるのが怖くて、とても目を合わせることができない。

それからしばらくは彼女の為すがまま色々な服を片っ端から着せられては脱がされを繰り返していた。
服を着せては何故か赤面し過呼吸になる彼女のそばで、その間ずっと私は今後のことを考えていた。

「……」

あのようなミスを犯した以上、私が殺し屋としての地位を失ったところで何ら不思議はない。少なくとも、私の行為ははっきり言って「殺し屋失格」レベルのものだった。

「ソーニャちゃん、どれがいいですか?私は、今のが一番似合っていると思います!」

「……構わん。何でもいい」

その上、喉の渇きと疲労に耐えられずこうして今見ず知らずの一般人の元で過剰なほどのもてなしを受けている。こんな殺し屋が他にいるはずない。

「これは私が1年前に作った自信作なんです!本当によく似合っていますよ!」

「……」

何だか私が私でないようである。私が今置かれている状況を未だに受け入れることができない。

「……」

私が殺し屋を辞めさせられたら、これから私はどうするんだ。今の私には依頼を受けてそのターゲットを撃破することしかできない。それ以外に私の取柄など何もない。

「……ッ!」

「…………?」

畜生。心は穏やかなはずなのに、私の意に反して目頭が熱くなる。こんな風になったのはいつ以来だろうか。収まれ。頼むから収まってくれ。

「ソーニャちゃん?」

彼女は私の違和感を察知したようである。クソ、さっきまであんなに鈍感だったくせに。

「…………」

「ソーニャちゃん、大丈夫ですか?」

やめてくれ。そんなに近くで私の顔をを見ないでくれ。こんな顔、やすなにも見られたことないのに……!

「ソーニャちゃん……泣いてるんですか?」

「……!」

違う。私は決して泣いてなんかいない。私は殺し屋だ。人前でこんな感情を露わにするなんて、そんなの殺し屋なんかじゃない。

「気にするな……何でもない」

「そうですか……?」

顔を拭い、やっとの思いで喉という井戸の奥から言葉を吊り上げる。しかしその声は弱弱しく、自分でも口が小さくなったのかと思ったくらいだ。

「そうだ!今のツインテールも素敵ですが……この服にはもっといい髪型があると思うんです!ちょっと待っててくださいね!」

そう言うと、彼女は自分の机を何やら物色し始めた。
すると今度はなぜか頭に血が上るのを感じた。

「ハァ……ソーニャちゃんの……金髪……!」

何度思い返しても自分の醜態に腹が立つ。
知らず知らずのうちに膝に置いていた握りこぶしに力が込められていく。このまま行くと指が手の平を貫通してしまいそうだ。

「色々雑誌持ってきました!えっと……私のおすすめは……」

私に語りかける彼女の声は、小鳥のさえずりのように穏やかだ。しかし、その声を聞いても苛立ちは収まらない。むしろ腹の奥から新たに何かが湧き上がってくる感覚がある。

「ソーニャちゃん……?」

もはや私の力では私の中に込みあがってくる何かを抑え込むことはできない。それはもうすでに縁から吹きこぼれている。

「ソーニャちゃん、やっぱり何か変です……本当に大丈夫ですか?」

その時、私の中でプツンと何かが切れた音がした。

「……せぇ」

「……?ソーニャちゃん?」

「うるせぇって言ってるんだ!」

「きゃっ!」

気が付くと私は、彼女を壁の方に突き飛ばしていた。
彼女の華奢な身体は壁にぶつかりながらもその場に崩れ去ることはなく、すらりと伸びた両脚で彼女は何とかバランスを整えてその場に立っている。
彼女にナイフを向けようとするが、ナイフが見当たらない。そういえば私は今この目の前にいる奴の服を借りているんだった。
仕方がないのでナイフは諦め、彼女を指さした。

「えっ……ソーニャ……ちゃん?」

さっきまでの生き生きとした笑顔が嘘のように消えている。真水に一滴の墨汁を垂らしたかのように彼女の瞳が急速に曇っていくのが分かった。

「私は殺し屋だ……その気になればお前を殺すことなんて朝飯前だ。私の前で調子に乗るんじゃねぇ!」

「ひぃっ……!」

私の威勢に怯えたのか、小動物のように肩を縮めてこちらを横目で見つめる彼女。足元に目をやると、まるで痙攣しているかのように脚が震えているのが見て取れる。その震えは私の足の裏にもはっきりと伝わっていた。

「……」

「あっ……あぁ……」

おもむろに小さな口を開き、微かな声を発する彼女。
さっきまではやや呆然とした様子だったが、やっと何が起こっているのか理解したらしい。

「ご……ごめんなさい……ソーニャちゃん」

「はっ……!」

彼女の大きな目から大粒の涙がこぼれるのを見て、やっと私は我に返った。
何をやっているんだ、私は。

「私……自分のことしか考えてませんでした……あんなの、嫌ですよね……!」

「いやっ、その……」

殺し屋たるもの、第三者に危害を加えるべからず。基本中の基本だ。これまで私はこの言い伝えに忠実に任務を遂行してきた。それなのに……

「でも……私……全然、そんなつもりじゃなくて……!」

「…………」

何が「私は殺し屋だ」だ。本当の殺し屋が何の罪もない奴にこんなことをするはずがない。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「…………」

彼女は止めどなく溢れてくる涙を指の間からこぼしながら、声を振り絞って私に謝罪している。
本当に謝らなければいけないのは私のはずなのに。一人で勝手にイラついて全く関係のない彼女に八つ当たりをしてしまったこの私のはずなのに。

そんな自責の念に駆られていると、突然部屋の扉が開いた。

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.7 )
日時: 2021/09/04 23:45
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

「ただいま……?」

扉を開けて部屋に入ってきたのは、金髪の少女だ。金髪といっても、私のとは色合いが微妙に違うのだが。身長から察するに、恐らく小学生か中学生くらいだろう。
コイツは一体……?

「シ……シノ……?」

「……アリス……!」

そうか、コイツがアリスか。さっき忍が名前だけ言っていた奴だ。予想通りどうやら私と同様日本人ではなさそうだ。
アリスはすぐに、壁の方にいた忍の元に駆け寄った。

「シノ!どうしたの?この人は誰?」

「アリス……実は……」

忍がこのアリスという奴にこれまでの経緯を説明する。
アリスが来て落ち着きを取り戻したのか、話すにつれて忍の話しぶりは普段通りの感じに戻りつつあった。
その間私はどうしてよいか分からず、電柱のようにその場に立ち尽くす。

「……という訳です。という訳で、改めて紹介しますね……この子がソーニャちゃんです」

「ど……どうも……」

「『どうも』じゃないよ!突然ここに上がってきて、シノに一体何をしたの!?」

「アリス!」

アリスは明らかに怒っていた。それもそうだろう。私がこの2人の平和で穏やかな生活に突然割って入ったのだから。
しかも、さっきは忍に八つ当たりをしてしまい、そのせいで彼女を泣かせるまで至ってしまった。2人にとって私は置物ではなく、邪魔者なのである。

「アリス、落ち着いてください。悪いのは私なんです……私、さっきソーニャちゃんが嫌がってるのに気づかずに勝手な行動を取ってしまって……どうかソーニャちゃんを責めないでください」

「シノ……でも……!」

違う。忍は何も悪くない。悪いのは自分の怒りを暴力という形で彼女に押し付けた私の方である。

「あの……忍」

「はい…………えっ?」

何故か驚いたような表情を見せる忍だったが、そんなことを気にしている場合ではない。早く謝罪をしなければ。

「その……さっきはやりすぎた。本当にすまない」

バカか私は。こんなありふれた単調な言葉でこの状況が収まるとは到底思えない。
やすなだったら、聞こえなかったとか何とか言って何度も謝らせてくるだろうが、忍は何て言うのだろう。

「……シノ?」

「ソーニャちゃん……今、何て……?」

やすなとはノリがだいぶ違うが、忍も同じような反応だ。でも、今回の一件に関しては全面的に私が悪いのだから、忍が自分の気が済むまで謝罪を要求するのもうなずける。当然の報いだ。

「だから……さっきは突き飛ばしたりして、本当に申し訳ない!」

さっきは少しぞんざいな印象を与えてしまったかもしれないので、今回は声量を上げ、頭を下げてみる。
しかし、さっきも今も、心から申し訳ないと思っていることに変わりはない。これで許してくれるだろうか。

「そうじゃなくて……ソーニャちゃん、さっき私のことを『忍』って……」

「……へ?」

忍が聞き返していたのは、謝罪の言葉ではなく、その前の呼び掛けの方法だった。
ただアリスが来たことによりそれぞれ名前で呼ぶ必要があったというだけのことなのだが。
私は完全に拍子抜けしてしまった。

「あぁ…………本当にすまなかった、忍」

「アリス~!ソーニャちゃんがやっと私のことを名前で呼んでくれました~!」

「シノ!急に抱きつかないで~!」

もはや謝罪の言葉など気にしていないようである。私が忍のことを名前で呼んだだけでこんなに喜ぶなんて、忍は本当に単純な奴だ。

「その……忍、さっきのこと……気にしてないのか?」

「はい、もう大丈夫ですよ!ソーニャちゃんの方こそ、もう気にしなくていいですから!」

何て奴だ。ついさっき私に突き飛ばされて、理不尽に怒鳴られたのにも関わらず、もういつも通りに戻っている。
私に向けられるその笑顔は、アリスが戻って来たからか、2人のときよりも一層輝きを増している。

「次シノに手を出したら、容赦しないからね!」

「あぁ、分かってるよ」

「はい!じゃあこの話はこれでおしまいにしましょう!アリス、今日は前髪を2ミリだけ切ってきましたね?」

「シノ!突然私の今日のメニューを当てるのやめて!」

どうやらこの場は丸く収まったようである。しかし、私の存在がこの2人にとって邪魔者であるという事実は変わらない。2人のためにも、今日はやっぱり泊まらずに帰ろう。

「ソーニャ!」

「……!?何だ?」

突然アリスに名前を呼ばれ、私は少し動揺してしまった。まだ何か言い足りないことでもあるのだろうか。

「今日泊まっていくんでしょ?私はアリス。よろしくね!」

さっきまで私に向けられていた鋭い眼光を全く感じさせない、空のように澄んだ碧眼の少女。
私がさっき忍にあんなことをしたのに、アリスは私を受け入れてくれるのか。

「ソーニャだ。今日は邪魔することになってすまない」

「とんでもない!むしろ大歓迎だよ!誰かがこうして泊まってくれるの久しぶりだし!」

「はい!アリスの言う通りです!今日は心ゆくまでゆっくりしていってくださいね!」

ここの家はどうやら全体的に世間からズレているらしい。どこの誰とも分からない初対面の奴を家に泊めるなんて、普通は考えられないことだ。それなのに、ここの家の人たちは全員私が泊まることに対して嫌な顔一つ見せることなく受け入れてくれている。
外を見ると、陽が傾き始めているのがはっきりと見えた。このような異世界で過ごす時間は、不思議と早く過ぎ去ってしまうように感じる。

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.8 )
日時: 2021/09/04 23:50
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

いつの間にか空の色が変わっていました。それは、まるで混ぜ合わされた絵の具のように鮮やかなグラデーションを呈しています。

「みんなー、夕食の時間よー」

「お姉ちゃん!」

お姉ちゃんが私たちの部屋にやってきました。どうやら夜ごはんができたようです。

「今日は珍しい金髪の子がいるからって、お母さん張り切ってたくさん作ってたわよー」

「シノ、早く行こうよ!」

「はい!ソーニャちゃんも行きましょう!」

「私は別に…………ッ!」

遠慮する素振りを見せていたソーニャちゃんですが、身体は正直なようです。ソーニャちゃんのお腹が鳴っているのが私の耳にもはっきりと聞こえました。昼ごはんを食べていなかったんですし、お腹が空くのは当然のことだと思います。

「何回も言っていますよね?遠慮なんてしないでください!行きましょう!」

「そうだよ!早くしないと、冷めちゃうよ~」

「…………ッ!」

ソーニャちゃんの顔が外の夕焼けのように赤くなっているのが見えました。それは普段のクールな表情とはまた違っていて……ソーニャちゃんの新たな一面を垣間見ることができた気がして、何だか興奮します!

1階に降りると、お母さんとお姉ちゃんが全ての準備を済ませてくれていました。
ソーニャちゃんはやっぱり恥ずかしかったのか、食卓につくころには髪型をいつものツインテールに戻してしまっていました。

「ソーニャちゃん、遠慮せずにどんどん食べてね~!」

「あ……はい」

食事中はお母さんがいつになく積極的で、ソーニャちゃんにとにかく色んなことを聞いていました。私もその内容には興味があったのですが、ソーニャちゃんはプライベートなことに関しては一切口を開いてはくれませんでした。

「ソーニャちゃんって、謙虚よね~」

「えっ……そんな……」

「そうねー、ミステリアスなのもまたいいと思うわ」

それでもお母さんとお姉ちゃんにはその人柄は高評価なようです。
確かに自己顕示欲がない腰の低さは素晴らしいと思いますが、私はもっとソーニャちゃんのことを知りたいです。

「ソーニャちゃんって、誕生日はいつなんですか?」

「そんなの教えて何になるんだ。というかその質問さっきもしてたろ」

「ハァ……やっぱりダメですか……」

「シノ……元気出して」

夕食を終えた後、私たちはそれぞれ入浴など寝る準備を済ませて部屋に戻ります。
部屋では3人で延々と他愛ない話をしました。
ソーニャちゃんはここでも自分語りをほとんどしなかったのですが、同じ学校に通う友達のことを愚痴交じりにたくさん話してくれました。
その友達は、学校に来るたびに変なものを持って来たり、あやしい術を覚えてきたりしては毎回ソーニャちゃんを巻き込んでいるとのことでした。その話の内容は思わずくすりと笑ってしまうものが多くて、聞いていて本当に楽しかったです。

「フフ……ソーニャちゃんは、本当に幸せ者ですね」

「えっ?何がだ?」

「こんなに他の人のために色々なことをしてくれるお友達、そんなにいないと思いますよ」

「きっとその友達、誰よりもソーニャのことを大事に思っているんだと思う!」

「そ……そうなのか……?」

「ソーニャちゃんも、その子のこと、ずっと大事にしてあげてくださいね」

「あ……あぁ……」

誰よりも自分のことを思い、自分に真摯に向き合ってくれる特別な存在のありがたみは、私も感じています。
アリス、いつも起こしてくれたり、学校の準備を手伝ってくれたり、勉強を教えてくれたりして、本当にありがとうございます。口で直接言うのは少し恥ずかしいですが、私、心ではいつもアリスに感謝しているんですよ!

「私も…………!」

私も、アリスやソーニャちゃんのお友達みたいに、誰かにとって特別な存在になりたい。そのためにも、これからもっとみんなのことを手伝ったり気遣ったりして、私なりに頑張ってみようと思います!

「シノ、眠くない?大丈夫?」

「はい!全然大丈夫ですよ!今日はソーニャちゃんもいますし、まだこんなところでへばるわけにはいきません!」

「スゥ…………」

「あれ、ソーニャ?」

「ソーニャちゃん?」

よっぽど疲れが溜まっていたのか、ソーニャちゃんは座ったまま静かに寝息を立てて眠ってしまっています。

「スゥ…………」

「これは完全に寝ちゃってるね……まさかシノよりも先に脱落するなんて」

「これは……ソーニャちゃんの金髪を堪能する最後のチャンスかもしれません!」

「えぇ!?シノ、やめなよ…………ソーニャ起きちゃうよ?」

「安心してください、直接いじったりはしませんから!ただ近くで見るだけですよ!」

本当は沢山その金髪に触れて、色々な髪形を試してみたいですが、ソーニャちゃんの許可なしにそこまでするわけにはいきません。
私は舟をこいでいるソーニャちゃんの後ろに回り、まずは頭部全体を俯瞰してみます。

「ハァ……!もうすでに眼福です~!」

「シノ……ちょっと怖い……」

その髪は、本物の金を彷彿とさせるような光沢がかかっていて、その一本一本はまるで金糸のようなつやがあります。
いつも見ているアリスの髪の色は薄いピンクがかかった金色で、これはこれで美味しそうなのですが、ソーニャちゃんの金髪は何というか、崇高で、容易には近づいてはいけないような印象を受けます。

「ハァ……ハァ……!」

「シ……シノ……」

高鳴る鼓動を抑えながらゆっくりと顔を近づけていきます。
ソーニャちゃんの金髪のつやはまるで磨かれた鏡のようで、このまま顔をもっと近づければ私の顔が映ってしまいそうです。
どこを見ても表面には一切のほつれがなく、まるで小麦畑のような柔らかな感じすらしました。
その香りは……

「………ッ!」

「はうっ!?」

私の荒ぶる呼吸のせいか、ソーニャちゃんが目を覚ましてこちらを向いてしまいました。

「何をしている?」

「シノ……今のはシノが悪いよ」

「分かっています……ソーニャちゃん、起こしてしまってすみませんでした」

「私の髪に何かついていたのか?」

「いえ、全然!ただ、ソーニャちゃんの髪があまりにもきれいで……つい……」

「ソーニャ、シノは触る気はなかったみたいだし、許してあげて」

「……忍、お前私の髪がそんなに好きなのか?」

「は……はい!ソーニャちゃんの金髪の美しさは、間違いなくこの3本の指に入ります!」

「シノ……」

残りの2本は……言うまでもありません。

「私の髪の何がいいのかは分からないが……その……そこから見る分には全然問題ないぞ」

「……ソーニャちゃん!」

ソーニャちゃんは、私が髪を眺めることを自分の口から認めてくれました。何だかソーニャちゃんに受け入れられたような気がして、少し嬉しくなりました。

「じゃあ、これからは堂々と堪能させていただきますね!」

「おい、ここまで近づいていいとは言ってない!離れろ!」

「もー……シノったら……」

その距離は大体1歩分くらいでした。たかが1歩、されど1歩。私にはまだまだ遠く感じます。でも、もし機会があればこれから少しづつ距離を縮めていけたら、と思うのでした。

「そういえば、ソーニャちゃんの髪、アリスと同じ匂いがしました!これって、何かの運命なんでしょうか!?」

「運命も何も、私昼にここの風呂借りたばっかりだからな」

「あっ……そういえばそうでした……」

「シノ、もう少しよく考えよう……」

Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.9 )
日時: 2021/09/04 23:55
名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)

さすがに忍にも限界が来たようで、私たちはその後すぐに寝ることになった。
床にも十分なスペースがあったのだが、忍の猛プッシュに負けて私は忍と同じベッドで寝ることになった。忍は私が言ったことを気にしてくれたのか、私との間に十分な間を空けてくれていた。
アリスが部屋の電気を消し、私たちは眠りにつく。

「…………」

でも、私の中には何かもやもやしたものが残っていて、いざ眠ろうとしてもすぐに眠ることができない。
私は高く果てしない天井を見上げながら再びこれからのことについて考えてみる。

「…………」

まだ組織からの連絡はないが、十中八九私は組織から追放されることになる。私自身もそれが適切な対応だと思っている。昨日犯したミスもそうだが、今日の忍との一件で自分にどれだけ殺し屋としての自覚が足りていなかったかを痛感したからだ。

「私は……一体……」

仮にも私は他の奴らと同じように高校生だ。殺し屋を辞めて、ほかに肩書きのない普通の高校生となったとしても、これから先の努力次第では様々な道を切り開くことも不可能ではないのかもしれない。

「……でも……」

しかし、今から私に何ができるのだろうか。私はこれまで殺し屋一筋で、組織からの依頼を1つ1つこなしていた。逆に言えば、私には殺し以外にはできることが何もない。殺ししか取柄がない私に、一体これから何ができるというのか。

「…………ッ」

明日からのことを思えば思うほど、胸が締め付けられるように苦しい。
私はこれから一体何をすればいいのか。
どうやって、何のために生きていけばいいのか。
やすなは何て言うだろう。アイツは私が殺し屋をやっていることをあまりよく思っていないみたいだし、素直に喜ぶのだろうか。それとも、いつもみたいに私のミスをしつこく取り上げて、大きな声で笑ってバカにしたりするのだろうか。

「……ソーニャちゃん?」

忍の声だ。どうやら私がいまだに眠れていないことに気づいたらしい。まったく敏感なのか鈍感なのか分からない奴だ。

「眠れないんですか?」

忍は体を反転させて、こちらに顔を向ける。
横になりながら目を合わせるのは何だか気恥ずかしいので、私は体を反対の壁の方に向ける。

「いや……気にするな。大丈夫だ」

「そうですか……」

私が今日突き飛ばしてしまった相手が私の隣で寝ている。本当に今日のことを気にしていないのだろうか。

「…………忍」

「……はい?」

もう一度今日のことを謝っておこう、そう思ったときには忍の名前が口から漏れていた。

「その……今日は本当にすまなかった、あんなひどいことをして」

「お昼のことですか?全然気にしてないって言ったじゃないですか……ソーニャちゃん、そんなに引きずらなくて大丈夫ですよ。私、ソーニャちゃんが反省しているということは十分分かっていますから」

「……本当に……すまない」

「ソーニャちゃん…………最初に会ったときからずっと思っていたんですが、何か辛いことがあったんですよね?」

「えっ……それは……」

「もしよろしければ……何があったのか、私に教えていただけませんか?」

どうやら忍は例のことを気にするどころか、私のことを気にかけてくれているらしい。

「私、初めてソーニャちゃんを見たとき、髪がきれいだと思ったんです。私がソーニャちゃんを見つけられたのは、その金髪のおかげなんですよ。ソーニャちゃんの髪、つやつやしてて本当に素敵で、輝いていて……上手く言葉にできないですが、一目見てうっとりしてしまいました。そんなソーニャちゃんが足を引きずってつらそうに歩いているのを見て、放っておけなくて……」

「…………」

「何というか……本気でソーニャちゃんに向き合いたいと思ったんです。私、ソーニャちゃんの力になりたいです!」

昼に私にあんなことをされたにも関わらず、忍は本気で私に向き合おうとしてくれている。ここまで気前のいい奴は、日本中を探してもほとんどいないだろう。
私は、忍になら色々なことを打ち明けてもいいような気がした。こんな感覚は久しぶりだ。

「その……最後まで、聞いててくれるか?」

「もちろんです!眠ってしまわないように、しっかり起き上がっておきますね!」

壁の方を向いて横になる私の後ろで正座をする忍。そこまで真面目に聞いてくれなくてもよかったんだが。
私は壁の方を向きながら、昨日の夜のこと、そして殺し屋を続けられなくなったということを話した。ただ、さすがに殺し屋という素性を明かすのはマズいと思い、そこの部分には深く触れず「仕事」の一言でごまかしておいた。

「なるほど……でも、学校に行きながら他に仕事をやっていたなんて、ソーニャちゃんは本当にすごいですね!」

「そうか……?でも……」

実際のところ、私は一応高校には通っているのだが、あくまで私の生活の中心は殺し屋という職業においてである。そのため、もし依頼が学校の時間と重なれば私はその依頼の方を優先する。また、これはよくあることなのだが、殺し屋という仕事はその内容上夜遅くに任務を行うことが多い。その時間はまちまちで、一晩に2件の依頼が入る場合すらある。すなわち、生活のリズムが狂いやすいのだ。そのため、睡眠時間が十分に取れないこともしばしばあり、学校の授業などとても聞いてはいられない。
総じて、私は肩書きだけの高校生なのである。高校に通って学んだことなどほとんどない。殺し屋としての仕事ができていればそれで十分だったのだが、昨日私は致命的な失敗をした。これで殺し屋としての立場が失われれば、私の元に残るものなど何もない。今の私は「すごい」どころかその真逆、何もできない「無能」である。

「私、将来通訳者になりたいと思っているんです」

「…………?」

忍が柔らかな声で私に語りかける。私は相も変わらず壁の方を向きながらその言葉に耳を傾ける。

「でも、私英語全然話せないですし、アリスがしゃべっているのを聞いても何も理解できないんです。学校のテストも赤点です。笑ってしまいますよね」

「…………」

「それでも私、この夢だけは諦めたくないんです。もちろん、今のままでは到底通訳者になるなんて無理だということは分かっています。でも、だからこそ私は私なりに精一杯努力しているんです。私、英語は苦手ですが、苦手だからといって逃げるのは間違いだと思うんです。それではいつまで経っても苦手なままですから!」

諦めない、か。単純だがとても重要なことであるというのは私もよく分かっている。殺し屋の任務は簡単にはいかないものや面倒なこともあるけれど、「逃げ」は絶対に許されることではない。

「苦手でも、苦手なりにしっかりと向き合い続ければ必ず結果はついてくると信じてます!高校受験のときにもそれは実感しました。中学のときの私の成績は今でも信じられないほど絶望的で、色々な人から絶対に無理だ、とか現実を見ろ、とか言われたんです。でも、その時つきっきりで勉強を見てくれた友達がいて、その友達から教えてもらったんです……報われない努力はないって!……その言葉通り諦めずに勉強して、無事今の高校に入学することができました。あのとき投げ出したり、手を抜いたりしていたら今の私は絶対にありえません!」

そうか……忍も色々苦労していたんだな。思い返してみれば、私が殺し屋として正式に使われるようになるまでにも色々面倒なことをやらされた記憶がある。

「だから……ソーニャちゃんも、決して諦めないでください!ソーニャちゃんがこれから先どういう道を歩むにしても、最初からダメだと決めつけていては何もできるようになりません。とにかく前を向き続けてください……夢は無限ですよ!」

そうだった。私はまだ何もしようとしていないのに自分は何もすることができない奴だと決めつけていた。何か行動を起こさなければそんなこと分かるはずがない。頭では分かっていたはずなのに。
本当のアホは、私の方だったのかもしれない。

「それに、ソーニャちゃんには私とは違ってスキルがあります」

スキル……殺し屋としての経験という意味だろうか。

「それって、これから先どういう道に進むにしても決して無駄にならないと思うんです。私にはそんなの全然ありませんから……私、ソーニャちゃんが羨ましいくらいです!」

忍は将来きっと立派な通訳者になるだろう。自分の現状を見つめ、課題を把握し、目標達成に向けて努力をしている。一人でこれらを全て考えて実行できる奴は意外といないものだ。

「起こってしまったことはどうすることもできませんが、そこから学んでこれからにつなげていくことはできます。ソーニャちゃん、これだけは忘れないでください……過去は決して変えられませんが、未来はいくらでも変えられるんです!」

その言葉は、まるでナイフのように今の私の胸に深く突き刺さった。過去のことを悔やんでばかりいても仕方がない。過去のことはしっかりと受け止めて未来につなげていかなければ意味がない。私は分かっていたつもりのことをまったく分かっていなかったのだ。

「はっ!長々とすみませんでした…………ソーニャちゃん、寝ちゃいましたか?」

「私から聞いてくれって言ったのに、寝るわけないだろ。しっかり聞いてたぞ」

「よかったです……ソーニャちゃん、お互い頑張りましょうね!」

「あぁ……忍、ありがとう」

忍の話を聞いて、心の中のわだかまりが一気に消えたような気がした。とりあえずやってみなければ分からない。そして、何があっても常に前を向き続ける。当たり前のことなのに、それに気づかなかった私はやっぱりアホだ。でも、忍のおかげでそのことに気づくことができた。やっぱり、忍に打ち明けてよかった。

「…………忍」

「はい?」

だが正直、こんなに真面目な答えは期待していなかった。忍は私のことをどう思っているのだろうか。

「その……忍は、どうして私のためにこんなに向き合ってくれるんだ?あんなひどいことまでしたのに……」

「決まってるじゃないですか……ソーニャちゃんの髪が金色だからです!金髪に悪い人なんていません」

「フッ……何だそれ」

全く答えになっていないが、深くはツッコまないことにした。
何か、悩んでいるのがバカらしくなってきた。
これから先私にどんな運命が待ち受けていようとも、私はしっかりとそれを現実のものとして受け入れようと思う。そして、これから先何があっても決して諦めずに前を向き続けようと思う。

「ハァ…………私、眠くなってきました……」

「そうだろうな……長々と付き合わせて悪かった」

「いえ!ソーニャちゃんのお役に立てたようで何よりです」

そう言うと、忍は再び横になった。私はずっと壁の方を向いているので正確には分からないが、間違いなく忍はさっきよりも私の近くにいる。さっきの半分くらいの距離だろうか。でも、少しも嫌だという感情はない。むしろ何か包み込まれるような安心感がある。忍がいれば、何が起こっても大丈夫な気がする。さすがに触れてしまうくらい近くまで来られるのはまだ慣れないので困るが、今の忍はちょうどいい位置にいると思う。

「じゃあソーニャちゃん、おやすみなさい」

「あぁ…………おやすみ、忍」

ほどよい距離で忍の温もりを感じながら、私はそっとまぶたを閉じ、静かに深い眠りについた。


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