二次創作小説(新・総合)
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- Faveric~SS集~
- 日時: 2021/12/04 23:47
- 名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)
こちらのスレッドは、日常系を中心とした様々な二次創作のSS集となっております。私綾木の気の向くままに更新しています。
他の綾木作品とは一線を画した作風となっております。あらかじめご了承下さい。
シリアス要素も含まれておりますので、その類の描写が苦手な方は閲覧をお控え下さい。
①9月の空の色 >>1-11
元作品:キルミーベイベー、きんいろモザイク
②心地のよい朝 >>12-14
元作品:ご注文はうさぎですか?
③執筆中
2021.12.3 スレッドを大幅にリニューアルいたしました。
- Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.1 )
- 日時: 2021/09/02 23:47
- 名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)
「……ターゲットを捕捉した。応答せよ」
私の名はソーニャ。同年代の奴らと同じように高校に通う傍ら、職業として殺し屋をやっている。
「……了解。ターゲットを撃破する」
今回は、普段よりも遠くの屋敷にまで来ている。
どうやら今回は近くに引き受けてくれる殺し屋がいなかったらしい。それで依頼が私に回ってきたわけだが、まったく人使いが荒い連中だ。
「…………」
息を殺し、慎重に照準を合わせる。
「スゥ…………」
早まる鼓動を抑え、ゆっくりと引き金に指をかける。
いつも通りの手順だ。
「…………」
そして、最後に引き金を引く。
鈍い発砲音が辺りに響き渡り、弾丸は曲がることを知らないまま一直線にターゲットに向かって飛んでいく。
「うぐっ!?」
命中。ターゲットはその場にうずくまる。
「何事だ!」
「救急車、救急車を呼べ!」
何をしようが奴はあと30分ほどで息絶えるだろう。遠くまではるばる来てやった割には、いつもにまして生ぬるい任務だった。
「さて……帰るか」
任務を終えた今、私がここにいる理由はない。
明日の夜も仕事があることだし、早いところ帰って寝床につくとしよう。
「……よっと」
庭に生えている木の上から屋敷を取り囲む塀を飛び越える。
あとは長い帰路につくだけだ。
「ヒヒヒ……見ぃつけた」
「……!?誰だ!?」
地面に降り立ち、周りを見渡す。
しかし、どれだけ注意深く見回しても人一人の気配もない。
「気のせいか……?」
これは、一種の職業病とでも言うべき症状だろうか。
この殺し屋の仕事を長いことやっていると、道行く人の囁き声や些細な物音、動物の鳴き声にまで過剰に反応する体になってしまうのだ。
「……!」
突然、どこからか私を目がけて何かが飛んで来た。
「おわっ!?」
完全に不意を突かれたが、間一髪でその何かをかわす。
その物体は背後の塀を越えて屋敷の方に飛んで行った。
「……っ!」
左の頬にピリッと痒さを感じた。すぐに、そこから下の方へ何か冷たいものが伝っていくのを感じた。
「クッ……血か……」
どうやら掠ったらしい。
私は懐からナイフを取り出し、臨戦態勢に入る。
「……フン!」
またしても同じような物体が飛んでくる。しかも、今度は三つ……
「クッ……」
私は自分のナイフで、それらを一つ一つ丁寧に処理していく。
それらの物体は、鋭い金属音を立ててその場に落ちる。
「これは……ナイフ?」
私を目がけて飛んできたその物体の正体は、ナイフだった。
今どき私以外にもナイフで攻撃をしてくる奴がいるとは。
「……はっ!」
突然、背後に影が現れるのを感じた。
「油断大敵!」
「しまった!」
遠い旅路をやってきた疲れからだろうか。私は自分に向かってナイフが飛んでくる異常事態にも関わらず完全に敵に背中を向けてしまっていた。
殺し屋というものは、一瞬の隙が命取りとなる。熟練した敵にひとたび背後を取られれば、もはや為す術はない。
「はぁっ!」
どういうわけか私は完全に隙だらけだった。首筋に電気のような痛みが走る。
「ガハァッ!」
やられたのは、恐らく延髄のあたりだろう。
目の前に地面が落ちてくる。
そして、身体は暗闇の奥深くへ。
- Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.2 )
- 日時: 2021/09/02 23:50
- 名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)
「……さい」
「……?」
窓からうっすらと差し込む暖かな太陽の光。その光の向こうから何かが聞こえます。
「忍、起きなさーい」
「ん……アリス……じゃない……?」
私、大宮忍と言います。キラキラの女子高生です!
「忍は本当にお寝坊さんね」
「何だ、お姉ちゃんですか……」
「こら!二度寝しない!」
今日は土曜日。学校がないので、いくらでも寝ることができるはずなのに……
「アリスは忍が起きないからって、もう美容院行っちゃったわよー」
「えぇ!?そんな!どうしてですかアリス!」
「おっ、やっと起きたわね」
そうでした……アリスが美容院に行く前に一度、今のアリスをしっかり目に焼き付けておきたかったのに。
「アリス……少しくらい待っててくれてもよかったのに……」
「まぁ、自業自得ね」
今の時刻は正午。私の起床時間としては休みの日なら当たり前の時間ですが、今日はアリスの外出がある分早く起きる予定でした。
顔を洗い、着替えた後昼食を兼ねた朝食のために食卓に向かいます。
「はぁ……アリス……」
「何いつまでもくよくよしてるのよ」
「私、アリスと半日以上も会ってません……これは明らかな緊急事態です」
「そもそも忍が半日以上も寝てるからでしょ」
アリスのいない朝は、心にぽっかりと穴が開いたようです。
何ていうか……一言でいうと「空しい」です。
「いただきます……」
「忍、目が生きてないわよ」
今日の朝食は、いつもと同じようにジャムトーストです。納豆や白米を食べる和食派のアリスに対して、焼いた食パンにバターとジャムを塗って食べる洋食派の私というのは、我が家における毎朝のお決まりの構図です。
でも、今日のトーストは何だか味気なくて……
「あら忍、起きてたのね」
「お母さん……おはようございます」
アリスがすぐに戻ってくるのは承知の上ですが、こんなにも長い時間会っていないと、胸が締め付けられるように苦しいです。
朝食を食べ終えた私は軽く片づけをした後、部屋に戻ってアリスの帰りを待つ予定……だったのですが。
「あっ、外の掃除忘れてたわ!勇、お願いできるかしら?私今ちょっと忙しくて……」
「私も実は今色々立て込んでて……そうだ!忍、アンタやりなさいよ」
「えぇ~……」
「『えぇ~』じゃない。今日アンタ何もしてないでしょ。このままだと何もできない人間になっちゃうわよ」
私、家事は正直面倒なのであまり手伝っていません。私がやらなくてもお姉ちゃんやアリスが率先してやってくれるので不自由はないんです。
「でも……今の私には金髪分……つまり輝きが不足しているんです!このままではろくに動くことすらできません!」
「何よ金髪分って。訳の分からないこと言ってないで、早く行ってきなさーい」
「……はい……」
外の掃除なんて、最後に私がやったのは何カ月前でしょうか。久しぶりすぎて、箒の場所すら覚えていません。
とりあえず箒の場所だけお姉ちゃんに教えてもらってから、箒を取って外に出ます。
「はぁ……今日も暑いです」
残暑の厳しい九月。世間では九月から十一月は秋だと言われていますが、私は十月までは夏だと思っています……だって、こんなに暑いんですから!
「やっぱり金髪分がなくて、力が出ません…………はぁ、空から金髪少女でも降ってこないものでしょうか」
一人で不満をこぼしながら、早めに落ちてしまった緑色の葉っぱを丁寧に掃いていきます。
「ハァ……ハァ……」
私が門の外を掃除していると、左の方から誰かが近づいてきます。
「……?何でしょう?」
誰でしょうか。恐らく、私と同じくらいの女の子です。見慣れない姿なので、恐らくこの近辺の住民ではないと思いますが。
「ハァ……ハァ……」
「はっ!あれは……!」
よく見てみると、その髪は私の求めていた色をしていました。金色です!
肩に伸びるツインテールのその先まで、それは輝きに満ち溢れています!
「でも……何だか辛そうです……一体どうしたんでしょうか……」
近付いてくるにつれて、その足取りがぎこちないのが分かりました。
どうやら足を引きずっているようです。
身体の方を見てみると、頭の金色とはかけ離れているほどの汚れが目立っています。
私はやっとこの女の子の状況がただならないものであることを理解しました。
「ハァ……ハァ……」
それにも関わらず、すれ違う人たちはみんな見て見ぬふりをしています。
このままではあの女の子が危ない。私が助けないといけないと、見えない何かが私の中に訴えかけてくるのを感じました。
「あの!大丈夫ですか!?」
気づいた時には私は箒を投げ出し、彼女の元に駆け寄っていました。
どうしてかは分かりませんが、何かに突き動かされたような感じです。
「……あぁ!?」
「ひっ……!」
私に向けられる鋭い眼差し。それはまるで獲物を捉えた獣のようで、このままでは私が襲われてしまいそうです。
その左目の下には傷跡がありました。誰かに斬りつけられたのでしょうか、少し血の跡も残っています。
何はともあれ、すぐに手当てをしないといけません。私は、家でこの女の子の手当てをすることを決めました。
「安心してください、私、あなたの敵ではありませんから!」
「……」
返事がありません。よく見ると、その目からもそれほど覇気を感じなくなっています。
「絆創膏とか、持ってきましょうか?」
「……水……」
「……えっ……?」
何かをつぶやきながら、女の子はその場に倒れ込んでしまいました。
「ちょっと!大丈夫ですか!?」
「み……水……」
どうやら水と言っているようです。ここではじめて私はこの女の子が脱水症状かもしれない、と思いました。
「水ですね、すぐに持ってきます!ここで待っていてください!」
どうにか間に合ってほしい。その一心で、私は家の中に駆け込みました。
- Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.3 )
- 日時: 2021/09/02 23:55
- 名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)
家の中に駆け込んだ私は、靴も脱がずに台所に放置されていた2Lサイズの水のペットボトルを抱え、再び玄関に向かいます。
たまにお使いを頼まれるとき、この2Lサイズの水というのは非力な私にとっては厄介以外の何ものでもありませんでした。でも、今日は不思議と重さを感じません。何だか、このボトルが意思を持って外へ向かい、私がそれに引っ張られているような、そんな感じでした。
外に出ると、女の子は私の家の塀にもたれかかるようにして座っていました。すごく憔悴しきった様子で、覇気どころか生気すらも感じられないほどです。
「はい!これ、飲んでください!」
私はボトルの蓋を開けて、それをそのまま女の子に手渡しました。
「バカ……こんなに……」
「遠慮は要りませんよ。いくらでもどうぞ!」
女の子はボトルのサイズに戸惑った様子でしたが、あまりに喉が渇いていたのか、すぐにボトルに手を伸ばしてくれました。
「……あっ……」
でも、女の子の手はそのボトルの重量に耐えられず、つかみ損ねてしまいました。ボトルは完全に横を向いてしまい、中から水が滝のようにこぼれて、熱を帯びた9月の路面を潤していきます。
「……すまん……」
「大丈夫です!私の方こそすみません……今度は私が飲ませてあげます!」
「いや……さすがにそれは……」
「遠慮はしないでください!さぁ!」
「大丈夫だって言ってるんだ……それ、よこせ」
人前で恥じらいを感じたのか、自分で飲むと言って聞かないので、私は結局女の子にそのボトルを渡しました。女の子は何とものの1分でそのボトルの水を飲み干してしまいました。
「どうですか?少し楽になりましたか?」
「……あぁ……その、水に関しては、感謝する」
何とか重度の脱水症状は回避することができました。
女の子の体に水分が行き渡り、彼女に活力が戻ったようです。顔色も明らかによくなっています。心なしか、出会った時よりもその髪が光沢を帯びているような気すらします。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね!私は、大宮忍と言います!よろしくお願いします!」
「何がよろしくなのかは分からないが……ソーニャだ」
「ソーニャちゃんですか?可愛らしいお名前ですね!」
私、こんなにきれいな金髪の女の子を助けただけならずお名前まで知ることができました!今日は何だか特別な一日になりそうです!
「少し、涼しくなりましたね」
先ほど地面に水をこぼしたからか、前までのような暑さは感じなくなっています。
でも、9月の空は快晴で、相変わらず太陽の光は容赦なく私たちに降り注いでいます。
- Re: Faveric《キルミーベイベー×きんいろモザイク》 ( No.4 )
- 日時: 2021/09/03 23:45
- 名前: 綾木 (ID: ANX68i3k)
一体私は何を考えているのだろう。こんな見ず知らずの凡人にいともたやすく名乗ってしまうなんて。
しかも、その後断るに断れず奴の家に上がってしまうなんて。
「お掃除お疲れ様。それで忍、その子は誰?」
「お姉ちゃん!この子はソーニャちゃんです!さっき掃除しているときに道端で出会ったんです!」
「忍……犬とか猫を拾ってくる話はよく聞くけど、まさか金髪少女を拾ってくる人がいるなんてね……」
「お姉ちゃん!ソーニャちゃんはケガをしているんです!早く手当てをしてあげてください!」
「まぁ、ケガしてる子を門前払いするほど私の心は狭くないわ。手当てするわよ。忍も手伝って」
「もちろんです!」
「あ、でもまずは軽くお風呂に入ってきた方がいいんじゃないかしら。まずは傷口を洗い流した方がいいっていうし」
「いや、別に……」
「確かにそうですね!服も汚れてますし!ソーニャちゃん、こちらへどうぞ!」
「えっ、ちょっ……」
そして、私はこの忍という奴に引っ張られて風呂場へ誘われる。まだ疲労が残っているのか、踏みとどまる気力も、その手を振りほどく気力も起こらない。
「着替えはソーニャちゃんが入っている間に持ってきます!ゆっくりしてくださいね!」
「……」
まさか家に上がるだけでなく風呂まで借りる羽目になるとは。今日の仕事には間に合うのだろうか。
「……あれ?」
ポケットに入れていた指令書がない。確か昨日の仕事をしていた時点では持っていたはず。
ここに来るまでのどこかで落としたのだろうか……いや、それはない。一度やすなのせいで池に落ちたときに指令書を失くしたことがあったからな。あれ以来、ポケット内に取り付けられているチャックを活用して簡単には落ちないようにしている。
だとすると……
「奴め……」
間違いない。昨日私を襲った刺客が盗んで行ったのだ。
奴の素性が一切分からない以上、私の力ではどうすることもできない。とりあえず、組織の本部にこのことを連絡する。
「……了解」
結局、今日の仕事は取り消しにせざるを得なくなった。全て、私のせいだ。
「ソーニャちゃん、入ってますか~?」
本部への連絡を終えるや否や、奴がノックもせずに脱衣所の扉を開けやがった。
「ばっ!お前、勝手に入って来んな!」
「あっ……すみません!てっきりもう入ってるものかと……」
何てことだ。今日の仕事が取り消しになった直後に、上半身だけとはいえ初対面の奴に下着姿を見られるなんて。今日は最悪な一日だ。
「着替え、置いておきましたから!」
「……」
一目散に脱衣所の扉を閉めて去っていったアイツをよそに、私はまずシャワーを浴びる。
「……」
やや低めの温度に設定されたシャワーを浴びながら、私は昨日のことについてもう一度考えてみる。
「……痛ッ……!」
しかし、水流が当たるたび左の頬の切り傷が悲鳴を上げて集中できない。とりあえず、頭と身体を一通り洗い流してから湯船につかり、そこで改めて考えることにした。
「……」
昨日の夜、私は依頼されていた任務を終え、屋敷の外に出たところを何者かに襲撃された。まずは1本、次に3本のナイフが飛んできて、その後背後をとられて……
「チッ……!」
殺し屋としてあるまじき失態だった。どう考えても擁護の余地はない。これまで戦闘中の敵に背を向けるなどという初歩的なミスは犯したことはなかったのに……
「チックショウ……!」
私が組織の計画を台無しにしたのだ。依頼が一つ取り消しになるだけならまだしも、組織の機密情報が書かれた指令書が他の組織の手に渡ってしまったのだ。他の業界と同様、この業界でも情報漏洩は組織にとっては致命的な傷となる。
「クソッ……クソォ!」
私はこの後組織からしかるべき処分を受けることになるだろう。私はもう殺し屋を続けられないかもしれない。そう考えただけで、悔しさや空しさや切なさや……様々な感情が内部にこみあげてきて今にもあふれ出しそうだ。