二次創作小説(新・総合)
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- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】
- 日時: 2023/04/19 18:11
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「みんな知ってる? 無数の世界線があるという説で那由他の大量の世界には違う自分がいーっぱいいるらしいよ」(保登心愛)
!!WARNING!!
こちらは、『逃走中 オリジナルストーリー』及び『ご注文はうさぎですか?』の二次創作クロスオーバー小説です。
両作品(逃走中OSは1,2,7巻)及び拙作『逃走中 ~あつまれ1年生!~』の強いネタバレ、さらにそれに基づく独自設定を多分に含みますのでご注意ください。
また、先に『ご注文はうさぎですか?』第9巻収録エピソード『CLOCKWORK RABBIT』をお読み頂くとよりお楽しみ頂けるかもしれません。
準備はよろしいでしょうか?
それでは、オレンジペコの1周年記念小説、お楽しみいただければ幸いです。
令和5年4月19日 オレンジペコ
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.4 )
- 日時: 2023/04/19 18:21
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
部屋を飛び出したあたしは、トイレの横で1人佇んでいた。
さっきメグさんに握ってもらった手の温もりが、まだ消えない。
トイレで手を洗えば消えるような気もしたが、どうしてかそんな気持ちも湧いては来ない。
「味方……」
今まで、そんなふうに言われたのは決して珍しいことではない。
パパもママもあたしに甘いから、ちょっと困った素振りを見せればすぐにそんな言葉をかけてくれた。
自分の特別になろうと擦り寄ってくる男の子たちにそう言ってもらったことだって1度や2度ではない。
だけど、さっきのメグさんの態度はそのどれとも違うものだった。
まるであたしの心の内を全て見透かしていて、その上で抱きしめてくれている、ような……。
「ふ~スッキリ……あ、結愛ちゃん起きたんだ! おーい!」
他にもいくつか気になることがある。
さっきのかなえの言によれば、メグさん、それとマヤさんは過去にあたしとかなえを仲直りさせたらしい。そして、それがあたしとかなえが2人と出会った時の話だという。
だが、もちろんあたしに2人の記憶は一切ないし、かなえとは渋谷での【逃走中】でケンカしたっきり仲直りはしていないはずだ。
「結愛ちゃん?」
……そういえば、どうやらここは何かのお店の2階らしく、階下からは賑やかな話し声がたくさん聞こえてくる。
「結~愛~ちゃんっ!」
「は、はい!?」
そのせいであたしは、自分に話しかけてくる女の人に気付くのがだいぶ遅れたようだ。
「良かった! 起きたんだね! マヤちゃん達に担ぎ込まれてきた時はどうなるかと思ったよ~!」
半分になったお花の髪留めを付けた、茶髪? の女性。メグさん達よりも更に少し年上だろうか。
「え、えっと……」
「お、ココア! 様子見に来てくれたの?」
返事をするより早く、部屋の外に出てきたマヤさんが声をかける。
どうやら目の前の女性は「ココア」というそうだ。
「うん! もし結愛ちゃんが大丈夫そうなら、みんなでパン食べに来ないかなーって!」
「ありがとうココアちゃん! どうかな結愛ちゃん? 食べられそう?」
「……」
返事に窮する。ただでさえ訳の分からないことばかりの中で、突然自分に向けられる善意の塊を前に、あたしは完全に固まってしまっていたのだ。
「……結愛、行こう!」
「かなえ?」
「大丈夫、ココアさんのパンなら食べられるよ! やさしい味だもん!」
ビックリした。
かなえがそんな押しの強いことを言うことにもだが、彼女はそう言うとあたしの手を引いて階段を降り出したのだ。
かなえが、あたしの手を引いてくれている。その事実が、あたしを何よりも驚かせたし、そして……
「よーし行くよ妹たち! 『ラビットハウスパン祭り・豆粥スペシャル』にうぇるかむかもーん!」
「豆粥!?」
「うん! マヤちゃん・私・かなえちゃん・結愛ちゃんの頭文字を取って『マメカユ』でしょ? で、それだとちょっと語呂が悪いから『豆粥隊』! この前リゼさんに命名してもらったの忘れちゃった?」
リゼさん。
また新しい名前。
それに「豆粥隊」なるダサい謎のユニット名。
やっぱり訳が分からない。
だけど……。
「お、結愛! もう起きて大丈夫なのか? 無理は禁物だぞ?」
「そうよ結愛ちゃん? あ、なんならお汁粉とか作ってあげましょうか? 甘兎から材料持ってきてるの!」
「何持って来てんのよアンタ! ……まあでも結愛ちゃん、しんどかったらすぐ言いなさい。ストレス溜め込み過ぎてまたかなえちゃんとケンカでもされたら私たちが大変だわ」
階下にいたお姉さんたち。
初めて見るはずなのに、彼女たちの顔を見ると不思議と安心する。
「よーし、じゃあ結愛ちゃん達も席に着いて! 今とびっきりのパン焼いて来るからねー!」
そう言ってココアさんは奥に消えていき、あたしはかなえやメグさん達とパンを待つこととなった。
「結愛さん、良かったらこれ飲んでください。ホットミルクです」
と、目の前に小さなカップが置かれる。ふと顔を上げると、頭に謎の物体を乗せた女の人が私に微笑んでいた。
無言で会釈し、一口口に運ぶ。
「……あったかい」
さっきのメグさんの手の感覚を思い出す、とまでは口にしなかった。
だけど次の瞬間、カップを置いたあたしの手に熱い液体が2,3滴落ちてくる。
「え…………?」
あたしは泣いていた。
自分でも何故だか分からない。
だけど、涙が溢れて止まらない。
「ど、どどどどうしたの結愛!?」
隣に座っていたかなえがあたしの手を握ってくる。
「分かんない……何もかも訳分かんないわよ……! あたしは、あんたのことなんて大っ嫌いなハズなのに……なんで、あんたとこうしてまた友達みたいになってて……、なのに、なんでそのことにあたしは安心してるのよ……! なんで、あんなどんくさそうな女の人に『味方だ』って言ってもらったぐらいで、あたしは、喜んでるのよ……! なんで、あたしは、だって、なんで……!」
さっき学校で見たかなえの笑顔。
ベッドの上でメグさんに向けられた笑顔。
その2つが脳裏に浮かぶ度に、涙が奥から奥から溢れてくる。
もう視界がぼやけて何も見えない。
「なんで、なんで、かなえなんか、なのに、だって…………っ」
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.5 )
- 日時: 2023/04/19 18:25
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
泣きじゃくる結愛ちゃんと、その手を握り続けるかなえちゃん。2人の様子を見ながら、私はひとつの可能性を考えてた。
……パラレルワールド。
前に私も迷い込んだことがある……と思う、私たちの世界と似てるようで違う世界。
多分だけど、今目の前で泣いてる結愛ちゃんは、どこか別の世界から魂だけこっちの世界に来ちゃったんじゃないかな。
そして、きっとあの結愛ちゃんはまだ……かなえちゃんと仲直りができていない。だから、かなえちゃんが優しくしてくる度に、どうしたらいいか分からなくなって動揺しちゃってるんだと思う。
私もあの時はマヤちゃんとケンカした後だったから、その気持ちは痛いほど分かる。
それに、もしかしたらかなえちゃん以外の私たちのことは、そもそも存在すら知らないのかもしれない。
そうだとしたら、私たちへの呼び方や口調が違うことにも合点が行く。
……そうだよね。
前に私が迷い込んだパラレルワールドでは、誰かと誰かが知り合いじゃないなんてことは無かった。
でも、仮に私の考えが正しいのなら、向こうの世界の私たちは結愛ちゃんと、恐らくかなえちゃんにも出会ってないことになる。
「……それは、ちょっと寂しいな」
「メグ?」
「ううん、何でもない。あ、私結愛ちゃんに毛布持って来てあげるね!」
ぱたぱたと階段を上がりながら、私は向こうの世界の私たちにちょっとだけお祈りをした。
どうか、向こうの世界の結愛ちゃんとかなえちゃんを仲直りさせてあげられますように。
……届いたかな?
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.6 )
- 日時: 2023/04/19 18:26
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「……!」
次に視界がはっきりした時、そこには木目の天井が映っていた。
「結愛! 大丈夫なの!?」
聞きなじんだ声があたしを呼ぶ。ママだ。
「……ここは……」
「旅館のお部屋よ。結愛、あなた浴衣に着替えた途端に倒れちゃって……ママすっごく心配したんだから!」
旅館。浴衣。それらの単語から、自分が今置かれている状況を整理していく。
そうだ、あたしはパパとママと温泉旅行に来ていたんだ。
浴衣に着替えて、さあこれからと言うところで、気づいたら【逃走中】に参加させられていたのだ。
それで、始まって3分も経たないうちにあっさりハンターに捕まって、それで……。
それで、どうなったんだっけ。
その後、何かあった気がする。何か、とても温かかったことが。
「さ、結愛行きましょう。パパ待ってくれてるわよ」
「……はーい!」
考えても仕方がない。
今は【逃走中】で酷い目に遭ったぶんまで、温泉旅行を楽しむことが先決だ。
妙な違和感に若干後ろ髪を引かれつつも、あたしはママに呼ばれ部屋を後にした。
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.7 )
- 日時: 2023/04/19 18:28
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「……こちらも、面白いものが見られたな。平行世界への転移、か……」
サブモニターのスイッチを切った月村サトシは、誰に聞こえるでもなく呟いた。
その顔には、僅かにだが驚きや興味、そういった表情が浮かんでいる。
「無意味とも思ったが……彼女に【逃走中】を今一度経験させたからこそこの結果が得られたのだと考えれば……まあ、悪い話では無かった、か」
今回――『仮想・草津温泉』で行われた第7回【逃走中】において、彼がメインとして掲げていたテーマはあくまで「比較対象者に、彼らに似た境遇の子どもたちをあてがった時の感情の変化」だ。
もちろん、彼らからは彼らからで月村の予想とは少し異なるデータを得ることができた。
だが、まさかその裏でこんな事象が起きていたとは。
「やはり、子どもたち相手の【逃走中】は興味深い……」
そう呟いた月村が、データファイルの作成に取り掛かろうとした時。
腕時計型端末に、通信が入った。
発信者名を見た月村は、しばしの逡巡ののちそれに応答する。
「月村です。……はい、お世話になっております。そう言えば、貴方も近々【逃走中】事業に乗り出すそうで。……ええ、ええ。…………データの再利用? ……成程。いいでしょう。……ええ、大丈夫ですよ。しかし……妙なことを考え付くお人だ。……ボクには遠く及ばない? ハハ、どうでしょうね。……ええ、ではまた」
通信を切った月村は、今まで【逃走中】に参加した子どもたちのデータを呼び出し、その中の1人の顔写真をズームする。
「工藤結愛くん、ね……」
そして、ふたたび静かに手もとのパネルを操作し出したのだった。
- 【1周年記念短編】木組みの街の結愛【逃走中OS×ごちうさ】 ( No.8 )
- 日時: 2023/04/19 18:30
- 名前: オレンジペコ (ID: 7mGgpC5l)
「もう3万円……!」
リストウォッチを見ながら、結愛は興奮で上ずった声を上げた。
ゲーム開始から5分が経過し、賞金は既に3万円を超えている。
月村サトシとは違う、なんだかオネエっぽいゲームマスターに招待され出場した4度目のゲーム。今回の舞台は『伊勢丹新宿店』だ。
和泉陽人たち3人もおらず、今回の出場者の中では結愛が一番のベテラン。加えてゲームマスターの腰が妙に低いこともあって、中華街や草津温泉の時と比べても結愛は幾分か落ち着いた気持ちでゲームに臨んでいた。
しかも……。
「ハンターは……うん、いないね! 大丈夫だよ結愛ちゃん!」
開始早々、盾となりそうな人物と合流できた。
奈津恵。高校1年生。なんだかどんくさそうで、でもお人好し。
猫かぶりモードの結愛にコロッと騙され、しばらく一緒にいてくれることとなった。
(今度こそ……絶対賞金獲ってやるわ!)
久々となる城之内かなえとのゲームでもあるが、彼女がどうなろうと知ったことではない。
狙うは78万円、ただそれだけ。
そのためなら、どんな手段も厭わない。
「よーし、じゃあ向こうに行ってみよっか!」
相変わらずメグは結愛に騙されたまま、優しい笑顔を向けてくる。
……作戦通り。そのはずなのに、結愛は彼女の表情に妙な既視感を覚えていた。
前にどこかで、あの笑顔を見たことがある、ような……。
「結愛ちゃんどうしたの? 行こう!」
「……はーい♪」
その違和感を悟られぬよう、猫かぶりキャラを維持したまま結愛はメグの後ろについて前進を始めた。
結愛が真に前へと進み始めるのは、これから40分ほど後の話である。
ゲーム時間残り124分。
賞金額は、現在¥36,000。
逃走者 残り19人。
〈了〉
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