【 〜青葉の候〜 SS小説大会にご参加いかがですか?】■結果発表!(2016.6.12 管理人更新)>>5 禁句 桧 譜出子さんが91票で1位となりました!桧 譜出子さん、おめでとうございます〜!今回ご参加くださった皆様、誠にありがとうございます!投票してくださった皆様にも深く御礼申し上げます!次回SS秋大会にもふるってご参加ください。****************************【小説カキコ☆SS大会 日程】■ 第12回(2016年05月07日(土)17:00〜06月12日(日)11:59)■ お題 『時(とき)』※今回はお題は初となります。上記のお題だと思いつかない〜という場合は自由なテーマで投稿いただいてOKです!(差はありません)※実際には6月12日24:59ごろまで表示されることがあります※小説カキコ全体としては2回ですがまだ仮的な開催です※風死様によるスレッド「SS大会」を継続した企画となりますので、回数は第11回からとしました(風死様、ありがとうございます!)(参照)http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?mode=view&no=10058&word=%e9%a2%a8**************************【第12回 小説カキコ☆SS小説大会 参加ルール】■目的・平日限定企画です(投稿は休日に行ってもOKです)・夏・冬の小説本大会の合間の息抜きイベントとしてご利用ください■投稿場所・毎大会、大会用新スレッドを管理者が作成します・ご参加者方皆で共有使用していきます(※未定)※SS大会以外の期間については 『【ひまもん】SS小説を書こう【小説☆カキコ】』スレッド http://www.kakiko.cc/novel/novel_ss/index.cgi?mode=view&no=10002にてご投稿いただけます!おひまなときはぜひご投稿ください■投票方法スレッド内の各レス(子記事)に投票用ボタンがあります。クリックして押していただければOKです⇒投票回数に特に制限は設けませんが、桁違いの著しく不当な投票行為があった場合にはカウント無効とし除外します■投稿文字数100文字以上〜2万字前後まで((スペース含む)1記事約4000文字上限×3記事以内)⇒この規定外になりそうな場合はご相談ください(この掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」にて)■投稿ジャンルSS小説、詩、散文、いずれでもOKです。ノンジャンル。⇒禁止ジャンルR18系、(一般サイトとして通常許容できないレベルの)暴力グロ描写、実在人物・法人等を題材を貶める意味で描くもの、二次小説■投稿ニックネーム、作品数1大会中に10を超える、ほぼ差異のない投稿は禁止です。これらは無効投稿とみなし作者様に予告なく管理者削除することがありますニックネームの複数使用は荒らし目的等悪意のない限り自由です■発表等 ※変更あり【変更前】2016年6月12日(日)12:00(予定)■賞品等当面ありません…申し訳ないです■その他ご不明な点はこの掲示板内「SS大会専用・連絡相談用スレッド」までお問い合わせください**************************★第12回 小説カキコSS大会投稿作品 一覧(敬称略)>>1 『忘れ去られた小説達の末路。』 ニンジン×2>>2 『時はながれる…』 本家>>3 『琥珀の時に身をまかせ。』 翌檜>>4 『条件』 〜どんな命なら奪っていいでしょうか?〜 はずみ>>5 『禁句』 桧 譜出子>>6 『色図鑑』 ろろ>>7 『君がいなくても…』 亞兎>>8 『時間は戻らない』 亞兎 >>9 『もし時間が止められたら』 北風>>10 『時計屋』 飛鳥>>11 『風』 αの鼓動>>12 『君はいつも美しかった。』 主人公には、なれない。>>13 『時計は大切な人の死とともに止まる。』 紫音>>14 『僕と彼の風』 皇帝 (2016.05.24 更新)
Page:1 2 3
時間は1度動いてしまったら、とまらない。戻ることはあり得ない…でも、もしも戻るなら…君ともっと…過ごしたい。
「ねぇ、もし時間を止められる力を手に入れたら、誠也は、使う?」「……はぁ?」ある日、校舎の屋上で弁当を食べていると、友人の花が急にそんな事を聞いてきた。「いや……使う使わないっていうか……そんな力手に入る訳もねぇし」俺が至極当然な返事をすると、花は不満そうに唇を尖らせた。「んもう、夢が無いなぁ、誠也は」「ゆ、夢が無いって……もう高一だぞ?お前の方こそ、もっと現実的な話をしろよ」「だって夢のある話って、ずっとしていたらいつか本当になりそうじゃない?」花は昔からそうだった。皆と一緒にはしゃぐ事よりも、一人で妄想する事の方が好きで、いつもぽつんと空を見上げていた。そして唐突に、『もし透明人間になれたら何する?』だの、『もし犬と話せたら何を話す?』だの、非常にフワフワした質問を投げかけてくるのだ。そして俺がその質問を『ありえない』と根本から否定すると、ちょっと怒って『夢のある話って、ずっとしていたらいつか本当になりそうじゃない?』と言うのだ。俺はそんな花に昔から振り回されてきた。「ねぇ、誠也ぁ、だから、使う?使わない?」花はしつこく問い詰めてくる。この話題がそんなに重要な事とは思えないのだが、本人は到って嬉しそうに俺の答えを待っている。「……じゃあ、お前はどうするんだよ」俺はちょっとした意趣返しのつもりで、逆に尋ねてみた。「お前は、使うのか?」俺の問いに、花は一瞬ポカンとしたが、すぐににぱっと笑顔になった。「私、私は、使うよ」「へぇ、何でだ?」ちょっと意外に感じた俺は、続けて尋ねた。「うーん……特に意味は無いけど……やらずに後悔よりやって後悔って言うじゃない?だからとりあえず、そんな力があったら使おうかなーって」「うわぁ、お前、質問だけじゃなくて答えもフワフワしてんなぁ。そんなフワフワしてちゃあ、いくら言い続けても本当にはならないんじゃねぇの?」俺がそういってからかうと、花はむっとしてほっぺたを膨らませた。「いーえ!なりますぅ!頑張って願えばどんなことも叶うんですぅ!」「………どんなこともってこたぁ無いだろ。人間には限界ってモンがあってだな……」「分からないよ?人はいつも限界の数パーセントしか出してないっていうじゃない。誠也だって強く願えば、センザイイシキとかが開花して、時間を止められるかもよ」「………んな小学生みたいな事いうなよ。だいたい想像力が皆無の俺にそんなこと出来る訳ねぇだろ」――お前と違ってよ。最後に付け足そうとしたその一言を俺は何故か飲み込んだ。口に出してはいけない気がした。……いや、違うな。俺のプライドが、そうさせたんだ。俺は、花の事を現実が見えていない困った奴だと思いながらも、心の何処かでは羨んでいた。想像力に溢れ、本当に何でも出来てしまいそうな花を見て、花のようになりたいと思っていたのだ。だが、俺は花にはなれない。教育ママの母親に育てられ、勉強ばかりして生きてきた。科学と現実で凝り固まった脳は、柔軟性など持ち合わせることもなく、いつも花の発想に驚かされていた。「ねぇ、誠也!」「……何だよ」「ちょっと願ってみてよ」「………は?」「時間よ、止まれーー!って」「え……お、俺がか……?」何を言い出すんだこいつは。「いいから!一回だけ!私、誠也なら出来ると思うんだよね」「……………分かった。じゃあ一回だけだぞ?」「やったぁ!」本当にできる訳が無い。でも花がこう言っているしな。しょうがない。俺は息を吸い込んで叫んだ。「時間よ!止まれぇぇぇぇーーー!!!」「…………」「…………」案の定時間は止まらない。分かってはいたが、なんか急に恥ずかしくなってきた。「え……と、別に叫ばなくても…」しかも叫ばなくてよかったらしい。誰か俺を殺してくれ。「……ほら、ダメだったろ!?もう教室帰るぞ!」俺は恥ずかしさを隠すようにそう取り繕った。だが、花は何か考えているようで、返事をしない。「花!?」俺が少し厳しめに呼びかけても反応は無い。それどころか、俺に背を向けて屋上のフェンスに手をかけた。「………花?」そして花はそのまま自分の体重をフェンスに預け、体を持ち上げ、「……花!お前何を……おい!!ちょっと待て!!」―――フェンスの向こう側に身を投げた。「…………!!!」その瞬間、俺は何を考えたか覚えていない。ただただ、何か願っていた。頭の中が一気に熱くなったのを感じた。フェンスに駆け寄り、よじ登ってしたを見ると、花が、浮いていた。否。俺以外が止まっていた。時間が、止まっていた。「…………!!」俺が絶句していると、空中にいる花がにこっと笑って言った。「ね。誠也は出来たでしょ?」「………ははっ」俺は花を引っ張り上げると、屋上に寝そべって笑った。何だか生まれ変わったような気分だった。
薄暗い、狭い場所。カチ、カチ、と規則正しく鳴るこの音。ここに来るたび。嗚呼、私は生きているんだ。と、自覚する。やはり、数々の個性ある時計に入ることができる『時計屋』は最高だ。時計とは、持ち主と共に過ごすことで持ち主の記憶を共用できる。あれは・・・確か八年前の冬の日だった。小学校低学年位の少女が鼻を赤くして店に駆け込んできた。「おじさん!僕の時計が壊れちゃった!お願い直して。僕何でもするから!」余程この時計が気に入っているのだろう。丁寧に扱われている。良かった。針が止まっているだけだ。・・・どこかで会ったような?・・・「ねえきみ。おじさんの事見たことないかな?」少女は不思議そうな顔をした。「何言ってるの?僕おじさんに初めて会ったんだよ?」「そっか。じゃあ明日までには直しておくから、また明日来てね。」少女は、とても嬉しそうな顔をして、その場でジャンプした。「よかった。この時計はお母さんのだったから・・・」ジャンプをやめ、少し曇った顔でぽつりとつぶやいた。「お母さんのだった?」「うん。僕が生まれてすぐに、死んじゃったんだ。・・・じゃあまた明日ね!」軽い足音を立てて、少女は帰って行った。そういえば、あの子の名前を聞き忘れていた。また、明日聞こう。夜、時計の中に入ってみることにしたそこには・・・「久しぶり。海君。」やはり、彼女がいた。あの時と変わらない笑顔で。「ふふふ、どうしたの、驚いた顔して」時計には、持ち主が先に死んだとき、持ち主が中に取り込まれる性質がある。ということは、あの子のお母さんがいるはず。その人とは、僕の幼馴染だった彼女、綾辻 春海であった。この時計を見た時からわかっていた。だってこの時計は、これは、私が彼女にあげたものだから。一生幸せにすることを誓ってあげたから。でも、幸せにできなかった。彼女は死んでしまった。あの子を残して。私を残して。私は、残されたあの子を育てることもできなかった。あの子は新しい、幸せになれる家庭へ養子に出された。「ごめん、はるか。ごめん。」私は彼女の前で無様に泣き崩れた。「海君、まだ28歳でしょ。もう一回幸せになって、そして私の分まで生きて」生まじめに。思わず吹き出してしまった。「ありきたり過ぎるよ。」いつの間にか二人で大笑いしていた。「じゃあ。いくよ」「うん、彩佳の事、頼んだよ。」あの後、彩佳にはちゃんと時計を返したよ。いま、時計屋でバイトをしているよ。だから、安らかに眠ってくれ。春海
夕日が傾くなかを走った。このまま消えるかと思うぐらい走った。色んな所を走った。昔は森を。川を。海を。土を。今は町を。国を。戦場を。学校を。ただ、ひたすら走った。途中、土煙が。山が。生き物が。季節が。邪魔をした。でも、走った。朝日を、夕陽を、日没を、月を、星を。とてもとても綺麗で、とてもとても輝いていた。あぁ、このまま溶けたい。でも、まだ走っていたい。迷いが、少しある。もう少し、走っていよう。飽きたら溶けよう。そう決めて、走ることは止めなかった。朝日が輝くなかを走った。このまま、駆け抜けて行こうと決めて。
チーンという音を聞きつつ、私は正座していた足を伸ばしたいと思った。葬式は、このような葬式は嫌いだ。お香をあげたら、親族の会には参加しないでおこう。「ーーー様葬儀」とある小さな会館の、とある小さな部屋。あいつに慕う人は、当然先生だったんだから多い。だから、親族だけで葬儀を送ることは叶わなかった。お香をあげた後、顔を一目見る。菊の花に囲まれて、彼女はとても嬉しそうな顔だった。「行こうか。」そう、その寝顔に囁く。通夜のあと、私はすぐに階下の駐車場に降りた。少し塗料の禿げたハーレーに跨り、スターターを回す。喪服なんて知ったことか。ただ走ればいいんだ。ギアを一気に2段入れ、スリップさせるかのように車道に滑り出る。目指すは河原、あの草原に。バイクをとばすこと10分弱、橋の近くに乱暴にバイクを止める。初めてデートした時、財布を川に落としちまったんだっけか。それでパーになった予定の間、ここですごしたんだ。歩いて石垣のようなつくりの段に腰を下ろす。見ると、流れついたのか、人工皮革と錆びた金具のボロボロな何かが目に映った。手に取ると、ガラス製の勾玉らしきストラップが付いているのがわかった。「はは、あの時のが流れてきたのかよ…」二人なら、笑い合えたのに。破れた皮の隙間から見える、バイトで作ったなけなしの5000円札が見えている。夏目漱石は何も言ってくれない。「くそっ、」私は財布を川に投げた。「くそっ、くそっ!」そして叫ぶ。「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!…」…くそっ…貴方は、なんでもない時を過ごしてなどいない。いつだって、なんだって。貴方の1日は、自分の中の「時」になる。だから、1日1日を大切に。そう伝えるしか、私にはできないのだ。end
「 あれ…時計止まってる… 」私が生まれてきたときに買ったといわれている時計が初めて止まった。不思議なことにこの20年間、一度も止まった事のなかった時計が。いきなり止まった。午前10時49分で止まった。「 大きな古時計かよ… 」大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計あの歌でも一度も止まらなかった時計がおじいさんが死んだときに止まったと歌詞にある。でも歌と違って私はちゃんと【 今 】生きている。ちゃんとここにいる。時計に新しい電池を入れて、時間を合わせている時に母さんから私の携帯に電話が来た。「 もしも_ 」「 大変よ!!春くんが、春くんが……! 」春くんが、交通事故に遭って、ついさっき、亡くなったわ。「 死んじゃった、の…?春にぃが?なんでっ 」春にぃ。私の年上の幼馴染の男。「 バイクに乗ってる時に、車がぶつかってきた_ 」つい最近、バイクの免許を取ったばかりで何度も、何度も自慢してきた春にぃ。『 遂にバイクの免許取ったんだぜ。良いだろ、雪歌 』誇らしげに笑う春にぃの事を思い出すと、急に頭が真っ白になった。携帯が手から滑り落ちる。母さんが大きな声で私の名前を呼ぶ。 雪歌、雪歌って。私の中の時計は止まった。何年も動いていた、時計と一緒で、時が止まったんだ。・後で聞いた話だけど、春にぃが息を引き取った時間が、10時49分。あの時計が止まった時間と一緒だった。【 大切にしていた時計は大切な人が息を引き取ったと同時に時を刻むのをやめた 】
僕には、好きだった人がいた。真由美がいた。彼にも、好きだった人がいた。聖那がいた。お互いに好きになった子が、お互いのせいで死んだ。4月24日 彼との初めての出会い。この人となら友達になれそうだ。4月25日 僕、彼、真由美、聖那の4人でパーティーを開いた。あの時までは良かったな。〜暖かな風は僕たちを包み込んだ〜5月6日 今日、修学旅行があった。僕と聖那を含む班と彼と真由美を含む班5月7日 今日、真由美と聖那が死んだ。僕たちのせいで。この時から関係性は崩れ始めた。〜風は僕たちの宝を盗んでいった〜6月7日 僕たちはあれ以来話していない。そんな中、小学校の学芸会に出ることになった。6月9日 僕たちのクラスは演劇をすることになった。6月10日 練習開始。彼と話すシーンがあった。演技だけど久しぶりに喋った。懐かしかった。〜風は僕たちに見えなくなった物を見せようとした〜7月4日 学芸会本番僕「きっと、風はやがて消え、新たな風が来るだろう。」彼「その時までに輝く花びらと共に飛び立とう。」僕「まだ、時間がかかるけれども、諦めない。」彼「それが風の願いでした。」おしまい。
ひとつのメモが、目に入る。 そこに書かれていることはよくわからなくて、自分がどうしてここにいるのかもわからない。 長い間、夢でも見ていたかのように、ふっと置き去りにされた気分だった。「はいはーい、布団を干しますよー。どいて」 突然目の前に、ぬっと大男が現れた。 もう昼ー、と言いながら遠慮なく、男は私が座るベッドから目的の布を引き剥がしていく。 誰だろう。 目の前の男をまじまじ凝視するけれど、そこから新しくわかることは何もなかった。ただ、顔立ちの良い男だった。 不思議と、この男の存在は厄介に感じないので、そのままされるがまま。 窓の外を見た。確かに今日はいい天気だ。布団を干すのにぴったりの。 しかし、さっきとは別のメモが異を唱えている。『降水確率100パー 布団は干すな 』。 ……何この字のデカさ。自信満々だなおい。 もう一度窓の外を見れば、庭のハナミズキの影が気持ち良さそうに揺れていた。雨の気配は、ない。 なんだ、このメモ。 あっ。 外を眺めていた私は、突然思い立った。 そう、そんなことよか、私はこういう日にしなければならないことを知っている。 よく晴れた日だ、庭に水をまくのだ。 私は干すための枕を抱え、そのまま外に出た。 布団を引き剥がしやすくなった男は、こちらをちらっと見た。そして、いってらっしゃいというように微笑む。 何故か鳥肌が立つ笑顔。なんなのだ、あの男。私は忘れているが、実は警戒すべき人間だと本能が告げているのかもしれない。 よく気をつけねばと首を振って、私は外へ行こうと踵を返そうとした。 と、突然男は、『あっ』と何か大事なことを思い出したような顔をして、私を引き留めた。なんだろう。ん? 心なしか少しニヤニヤとしているような……。「あ、これ落ちてた」 ゴソゴソとエプロンのポケットを弄り、小さな紙を私に差し出した。メモのようだ。『【危険】お前はとっても不器用だ』。 ……なん、だと……? 私は構わず外に出た。 私は枕をぽいっと投げて、ホースを手に取る。蛇口を捻ると、ハナミズキに上からシャワーを浴びせた。 ハナミズキの花びらの上で、大つぶの滴が赤く光る。 そのまま振りかぶって、庭の花に水をまく。 なんて美しい庭だ。 ああ、輝く水玉が目に眩しい。「あー! 布団が濡れたじゃん。ホース振り回すなっての!」 ハナミズキの向こう側から、悲鳴が聞こえた。 葉っぱの隙間から、布団をつまむ大男が見える。ふふふ、降水確率100パー、か。 まぁ、これくらいなら大丈夫か……と、男はサンダルをパタパタいわせて中に戻った。 あんまり水をあげすぎると、根が腐るかもしれない。根拠はないけれど。 カーポートに移動して、白い車に水をあてた。 今日はホースを握る、いや振り回す日なんだ。ちゃんとホースが扱えていないことなんて、最初の数分で痛いほどわかった。 無心でばしゅっばしゅっと当て続けると、突然背中を叩かれた。「コラ、水垢ができます。やるなら洗ってね」 男はスポンジと洗剤を持って来て、庭に置いた。「明日使うから。念入りにいきましょー」 そう言って腕をまくる。私もズボンの裾をまくった。 明日、車使うのか。どこに行くんだろう。 私も一緒に行くのかな。 勢いの良いホースの水は、制御する主によって、洗剤を吹き飛ばしていった。くっそうこの洗剤、うまく流れてはいってくれないのだ。 洗剤たちは気持ち良く、思い思いの方向へ飛んでいった。それを見る男は曖昧な笑顔だった。また掃除、しなきゃな、と。 家の壁にもはねたので、窓も拭くことにした。今日は掃除の日になった。全く誰のせいでこんなことに。 私と掃除する間、大男はよく笑った。 不意打ちで、息が詰まることもある。でも、ふっと見ればずっとニコニコしているのだから、避けようがない。 マコトに眼福な笑顔を見るのは、なんだかとても気恥ずかしく、私は顔を狙って水を発射した。べしゃっ。 するととても爽快な気分になるので、やっぱりこの男は私にとって要注意人物だったのでは、と思う。 しかしこの男は、たとえはねた洗剤の泡が顔にべちゃっとついても、怒らなかった。ただ優しく笑って、私を居いた堪たまれなくするだけだった。「窓拭く前に、ご飯にしようか」 台所は、私には禍々しい気を発しているように見えた。とてもじゃないが、そこは私の立てるような場所ではなかった。 私はきっと、料理は苦手だ。男はくしゃっと私の頭を撫でた。「料理も、だよ」 男は当たり前のように台所に立つと、慣れた手つきで料理をし始める。まったく不思議なことに、食材たちは皆、男のいうことをよく聞いた。私は興味深く、男の手元を覗き込んだ。 食材たちはひとつの料理の完成に向かって、まるで行進するように、あるべき姿へと、形を変えていく。 それは、とても美しいものだった。ずっと見ていたいと思った。「はいはーい、出来た。食べましょーか」 はいはーい、というのは彼の口癖らしい。 小さいテーブルに置かれたのは、オムライスだった。 かけろ、というようにケチャップを寄越す。ケチャップを片手にしばらく唸ってから、かけろ、というようにその手を押し戻した。悪いな、人には向き不向きというものがあるんだ。 でっかく、嫌味たらしい完璧なハートを描えがいた彼は、器用というのだろう。私と違って。 そっと手を合わせた。もう一度、皿を覗き込む。 皿の上の、ひとつの完成。これは絵だと思った。 なぜならとても、美しかったから。 その完璧な絵から、スプーンで一口切り取る。スプーンの上でオムライスは、ぽっこりと浮かぶ、黄色い島のようだった。 スプーンの上に、世界があるという驚愕。私はおそるおそるスプーンを口に運んだ。 ふわとろの甘めの卵が舌に当たり。ケチャップの甘酸っぱさと塩気。そしてピーマンとタマネギを奥歯がはんだ。 それはとっても、とてもとても美味しかった。 前から、ふふっと声がする。「そんな笑顔を見れたし、今日はオムライス記念日かな」 こちらをそっと見守っていた男は、満足したようにひとつ頷くと食べ始める。嬉しそうに笑っていた。 それを見ると、なぜか嬉しくなって、私も笑った。>>16中片
>>15上片ふたりで手を合わせ、食器を持って立ち上がる。男は食器を水に浸けると、振り向きざまに、「じゃんけんぽん!」 思わずグーを出した。彼はパーだった。彼は凄絶な笑みを浮かべる。「食器洗い、よろしくー」 確信犯だな。くそう。突然やられると、グーを出しやすいのが人間というものだ。 仕方ない。私は手を水にひたした。 じゃばじゃばと食器を洗う中、男は外へ出ていく。こんな皿割り機のような奴に任せて大丈夫なのか。 あ、そういえば、明日……。明日、使うって……。 急いで食器洗いを終わらせ、私はペンとメモを手に取った。そしてペンを走らせる。『ドライブ』 自分で見つけた明日のかけら。 濡れたら困る。後で貼ろう。 外に出て、よく働く男を眺める。 車を見れば、なんだかトゥルトゥルした不思議な布でピカピカに磨かれていた。まー濃やかな男だこと。 私は窓拭きに取り掛かろうとする男を見た。 横顔を眺める。やはり、何も思い出せなかった。 私がとんでもない不器用でも、やな顔ひとつしないこの男は、何者なんだろう。 なぜ自分はここにいて、なぜ彼はここにいるのだろう。 名前すら、知らない。 彼は私の名前を呼ばないし、名前を呼ばなくても、私たちの関係は成り立ってしまう。 それを思うと、なぜか私は下を向きそうになった。 湧き上がる疑問。私の胸を締め付ける。しかしなんでもない顔で、私は窓を拭く彼を眺めている。「おーい?」 男は私にホースを持たせた。しょーがないなー、そこまで頼まれれば、洗い流す役を買ってやろう。 あいも変わらず、ばしゅっばしゅっと水を発射し、洗剤を跳ね飛ばした。被害は男の全身に及んだ。 被害請求は風呂掃除だった。 私が四苦八苦して全身を濡らしながら風呂洗いをしている間、男は着替えて、夕飯作りに取り掛かる。非常に楽しみなので、私はいそいそと掃除を済ませるのだ。 自分で洗った湯船に浸かる。この狭さは、膝を抱えてブクブクするのにちょうどよかった。 じっとしていればしているほど、疑問が溢れてよくわからない不安に襲われる。 何しろ、目が覚めてからというもの、自分のことが、わからないのだから。 ひとつだけ解ってきたのは、あの男が、自分の大切な人であるということ。それだけは忘れたくないし、メモにも任せたくないのだという気持ちに驚いた。 風呂から上がれば、男は濡れた髪のまま、夕飯を作り上げていた。 私を振り返ると、笑顔になる。うっ、時間が経つほど、この笑顔に耐えられなくなってくる。 そして私は温かい湯気の上る夕飯に、一瞬にして目が奪われた。ぴっかぴかに光る白米と、味噌の良い香りのする味噌汁。「ぬか漬け出したんだー。昨日の夜つけといたヤツ」 でも、それよりも、私はある不安に襲われた。男の濡れたままの髪を見る。何時間、そのままなんだっけ……? 『ドライブ』のメモに、『もしかしたら中止』と書きたさないと、いけないかもしれない。 そのとき男は案の定、くしゅん、とひとつくしゃみをした。あああ……。 私が先に悠長に風呂なんか入ってないで、彼に先に入って貰えばよかったんだ。 とめどなく、思考が頭の中で堰を切ったように溢れ出した。ちゃんとした思考に纏まらなくて、落ち着こうとすればするほど思考は黒く塗りつぶされていった。 彼がもし、風邪をひいてしまったら。私のせいで、熱を出してしまったら。私に何ができる? 今日見つけた、唯一の明日の手がかりも、消えてしまう。彼も、消えてしまう……? ……いや、いやだ。 今まで感じたことのない、途轍もなく大きな黒い闇のような溢れた不安が私を襲った。 怖い。とても怖い。怖くて仕方がない。 私は怯えたように目の前の男を見つめた。「っあー、疲れたー。あったかいもの食べて、今日は早く寝よっか」 私の様子をじっと見ていた男は、何でもないように言って、私に彼の向かいの椅子を勧すすめた。 その確かな微笑みの温もりを感じて、やっと私に安心が訪れた。そうだ、明日のことなんてわからない。それはきっと、私だけじゃなくて、このひとも同じだ。 今を大切にしろ、というのは、こういうことをいうんだ。……と、どこかで聞いたような気がする。 彼には風邪をひかないように、あったかくしてもらわねばならない。 私は何をしてあげられるだろう。してもらってばっかりの彼にしてあげることを考えると心が躍って、うふふと笑みが溢れた。 ふたりで手を合わせた。自然の恵みと、目の前の男に感謝を捧げる。大事に大事にじっと祈って、そっと目を開けた。「じゃ〜ん」 男が言いながら、目の前の大きな皿の上のキッチンペーパーをとった。 光を反射して輝くころも。カツがあらわれた!「どうでしょうっと」 最高ですね、戦闘能力高そう。 私は無言でカツを頬張った。サクッと響いたカツの第一声と、声にならない私の叫びがカツの全てを物語っていた。 それを見届けてから、男は満足そうに食べだした。 ふたりとも、味噌汁を手にとってズズッとすする。 味噌汁が、泣きそうなほど、身体に染み込んだ。「労働の後の、最高の一杯だね。はぁあ、うまい」 あなたが作ったのでしょーに。 ……これもまた、ひとつの自画自賛というのだろうか。ふふふ。 でも本当にそう思うので、しみじみと頷いた。労働といえど、今日私はほとんど何もしていないけれど。 二回戦は、ふたり同時に箸を置いた、その直後だった。「はいやーっ、じゃんけんぽん!」 なんだ! はいやーって! 動揺も露わに、私は反射的に拳を前に突き出した。 あーあ、また負けたか、と思って私は手元を見た。私は相変わらずグーで、でも彼はチョキだった。 あれ?「…………」 これは、ワザと、だなぁ……。 「あー、負けちゃったー」とか言っているが、この確信犯め。 皿を洗おうとする、男の隣に私も並んだ。 男は驚いて私を見たけれど、御構いなしに私は皿をスポンジで洗い出した。 ふたりともしばらく無言で、皿を洗った。何も言わなくてもとても満たされるような感覚を、私は彼の隣で全身で感じていた。 皿を洗い終えると、男は風呂に入りに行った。私は早く入れと追い立てる。 無事風呂に男を押し込み、私はソファに沈み込む。 お腹は満たされていたけれど、それだけじゃなくて、全身がすみからすみまで満たされているように感じた。とても、温かい心地だった。 それなのに、目を閉じると、黒い影が私の目の中に浮かび、消えた。あまりに一瞬のことだったけれど、その言葉は私の心を押しつぶすには充分すぎた。『私の記憶は一日しかもたない』 今朝、一番に目に入ったメモの文字が頭をよぎる。途端に身体がサァッと冷たくなる。 その事実が告げることは、私を支えているものを静かに、残酷に壊した。 今、今私が抱いているこの気持ちは、たった一晩、たった一瞬で、なかったことになる。 彼はまた知らない人になり、私はただの不器用な何もできない、何も思い出せないただのモノになる。 目の前にいても、声をかけることすらできない。目を瞑れば温かい笑顔が浮かんで、その顔に手を伸ばして名前を呼びたいのに。 喉から声が出ない。思い、出せない。 昨日の私。明日の自分。きっと同じようで、あまりにも違う。 今日、私は、何を忘れた? 今まで、何を忘れてきた……? 男はあっという間に風呂から上がって出てきて、ソファでうとうとしていた私は、タオルをかけた大男が急に目の前に現れて、飛び上がるほど驚いた。「あ、ごめん。起こした? ちょうどいい、ねぇちょっと見て」 ごめん、と言いながら、クスクスと笑う男。 私は軽く睨みつけたけれど、男は知らぬ顔で私の手を引いた。 カレンダーの前に連れられ、男はある一点を指差した。なんだ急に、と思って訝しげに男を見つめると、切なくなるほど優しい笑みをしていて、とてもじゃないけど直視できずに慌てて視線をカレンダーの一点に戻した。『オムライス記念日』。 ハッとしてその字を凝視する。 きっと、今日の日付けだろう5月の真ん中に、そう書いてあった。そう赤色で、男のくせに丸っこい可愛い字で、書いてあった。 温かくて、苦しすぎるほどの何かがこみ上げてきて、喉の奥がグッと鳴った。 「どう?」と男はいたずらっ子のように聞いてきて、私はもう耐えられなかった。 彼に顔を押し付けて泣いた。嬉しかった。嬉しかった、ただそれだけなのに、何故か涙が溢れて止まらない。 愛しそうに頭を撫でる手と、肌に感じる温もりに、またなんとも言えないものがこみ上げてきて、その全てを包み込むようにギュッと抱きしめた。>>17下片
>>16中片 少し泣き疲れ、涙も止んだころ、「じゃあ、今日はもう、寝よっか」と男が言った。 男の髪に触れて、しっかり乾いているか確認する。よし、大丈夫だ。甘い笑顔が至近距離にあるので、落ち着かなくなった私は、急いで手を引っ込めた。 寝室に向かいながら、結局何もしてあげられなかったな、とぼんやり思った。私ができることは、本当に少なくて、ないにほぼ等しい。 せっかく、本人がすぐそばにいるというのに、ほの暗い気持ちに支配された。「くしゅん」 ハッとして顔を上げると、男がううーんと唸りながら鼻を擦っていた。「今日は、一緒に寝てほしいなぁんつって」 彼を凝視する私を見て、「やっぱ忘れて」と取り繕うように頭を撫でた。 あった。あったぞ、私でもできること。 少し冷えてしまった手を、ぱしっと取る。急いで今朝目覚めた部屋に連れ込んだ。思わず笑みが溢れる。こういうことは、自分らしくない気がした。 いつもだったら、たぶん。その証拠に、後ろで少し息を呑む気配があった。なぜか嬉しくて、得意な気分になる。 何も言わずに困ったような顔で笑う男に、私はベッドに座って隣をバンバンと叩いた。 手を引いたときに分かったけれど、やっぱり少しフラフラしている。あったかくして、寝てもらわねば。「……うつしちゃうかもしんないよ? まったく……」 垂れた眉をして聞いてくる割には答えを求めていない。むしろ、にやついている。 この人も大概私のこと好きだなぁと、自惚れたことを思って少し笑うと、余裕の笑みで返された。み、見抜かれている……? いつの間にか目線は下がってきていて、私の前に屈み込んでいた。そして彼が後ろ手でドアを閉めると、この部屋は朝起きたときと同じ部屋とは思えないほど、静かな闇に包まれた。 暗闇の中、目の前のひとの瞳しか見えなくて、その瞳が甘く細められると、ひどく動揺した。 何故か急に緊張してきて、息が詰まってしまう。 ほぅ、と息を吐こうとしたそのとき、突然視界が揺れて平衡感覚がなくなった。 彼の匂いに包まれて、頭を抱え込まれたのだ、と遅れて理解する。突然のことに思考が停止し、気づいたら抱き締められたままベッドに倒されていた。 心臓の音がうるさい。 でもその動作が優しすぎて、また涙が出そうになった。 少し腕が緩められて、彼の顔が見えた。私を見つめるその瞳が揺れると、私の中の、私を支える何もかもが、ひどく揺れるのを感じた。 あまりに至近距離で、一気に顔に熱が集中する。「……俺の名前、知りたい?」 ドキッとした。 今、一番知りたいことだった。でも、一番忘れちゃいけない、一番忘れたくないことだとも、わかっていた。だから怖かった。 こくんと頷いた。「日野、和樹。俺は日野和樹だよ。……おまえはめぐみ。日野めぐみ」 ひの、かずき。ひのめぐみ。その響きは私の体に染み込んで、私の奥深いところまで包みこんだ。 ひのかずき。ひのめぐみ。 その文字が形取られて頭に浮かんだとき、温かくて懐かしい感覚に襲われた。丸っこい、可愛い字で書かれたその文字を、ずっと、ずっと私は……。 その文字が、彼と、私を繋ぐ、一番初めのメモだった。「いつも、ちゃんと書いといて、って言ってるのに」 そう言う彼は少し寂しそうだったけれど、ちゃんと微笑んでいた。 だって、書きたくない。彼が許してくれるなら、私はその文字を伝言にはしたくなかった。 毎日、毎日、確かめればいい。伝言になんかしないで、ちゃんと、自分で。 とっても大事なことなのだ、これは。 貴方が、かずきが笑って許してくれるなら、めぐみは我が儘で書きません。「……なんでいつも、ちょっとドヤ顔……」 はぁ、と呆れたようにため息を一つ吐くと、私をまたギュッと抱え込んで横になった。 くすぐったくてクスクスと笑ってしまう。 かずきは少しムッとしたようで、腕の力が強くなった。「めぐみ、ちゃんと確認した? メモ」 はっとして飛び上がる。ドライブ! ドライブの紙! あっと言う間に、彼の腕の拘束を抜け出してバビュンと居間に戻る。そしてテーブルかけの下からそっとメモを取り出した。 今日一番の大収穫なのだ。危ない危ない。 そこに『絶対』と強く書き足した。あっ……。 何事もなかったように、そっと抱えて部屋に戻る。 そして、目の前の男によーく見せつけてから、大事に服の袖口に貼った。 また私は腕の拘束の中に収まって、布団を被った。さぁ寝よう。寝てしまおう。明日が楽しみだ。明日が早く来ないかな。 だというのに、後ろからずっとクツクツと笑い声が聞こえてきて、とても気にくわない。何がそんなに面白い。「絶対。行こうね、ドライブ……っ」 そんなに笑うなら別にいいから。絶対が赤いのはたまたまだから。私が手に取ったボールペンが二色だったのが悪い。 背中に感じる小さな振動が、止まったと思ったらまた復活するけれど、それがとても恥ずかしくて、その脇腹を殴りたいけれど。「幸せだなぁ……」 はっとして息を呑んだ。自分の心の中の、叫ぶほどの声。その声と同じ声が、今確かに、私の耳元から聞こえた。 その言葉に、私の中のすべての不安が消え去った。 私は彼の幸せが何なのかを知らない。 私は今、痛いほど幸せで、だからこそ、彼の幸せを知らないことが辛かった。でも今。確かに、今。 涙が出た。また泣いてしまった。 見開いた目から、温かい気持ちがあふれて、こぼれ出した。 でも絶対に、この人には、かずきには知られたくなくて、ギュッと自分を抱え込んだ。すると、なんでかクツクツと笑えてきて、ポロッと涙がこぼれて、思わず無防備に身体を投げ出して笑った。 くるっと振り返って、私はかずきにぶつけた。このどうしようもない気持ちを。どうしても、今日伝えたい。どうしても、今。 だいすき、かずき。 くちびるの動きを読み取って、でも最後まで見届けずに、抱き締められた。 なぜだかわからなくて、私は慌てた。「……なに泣きそうな顔で言ってんの」 苦しそうな顔が見えたのは一瞬で。「めぐみ。俺はめぐみのものだよ」 なんのことかはわからなかった。 でもその響きはとても心地よくて、私はとても安心して、眠りにつくのがわかった。 明日が怖い。でもとても楽しみだ。 矛盾した想い。私はずっと矛盾したまま生きている。 それは彼がずっと抱き締めてくれるから。私を、私の想いごと、抱き締めてくれているから。