ポケットの中の楽園にはモンスターと旅烏
作者/ 雷燕 ◆bizc.dLEtA

第4話 異国情緒溢れる港町(3)
「ミオの観光して、昼ご飯食べて、船のチケット買う」「了解! どこ行く?」「図書館」とレイアが言った時には、ルイが微妙な表情をしたのが分かった。確かに、静かに本を読むという雰囲気ではない。外で走り回るほうが似合っている。
けれど、行ってみると漫画も置いてある事が分かり、ルイはそれを読むと言った。12時半に正面玄関で落ち合う約束をして、別の階へ行く。
せっかくこれだけ本のある場所へ来たのだ。情報収集をしない手はない。
案内を見て、神話に関する本が多く置かれている階へ行く。
別世界――つまり別空間からトリップしてきたのだ。しかもシンオウ地方に。どう考えてもシンオウ神話で空間をつかさどる神と呼ばれるポケモン、パルキアが怪しい。
前の世界で神話といえば、ドロドロの昼ドラと変わらないじゃないか(特にギリシャ神話のゼウス辺り)と思って読んでいたが、ポケモンの世界となると神話は馬鹿にできない。何せ多くが本当なのだから。
シンオウ神話中心の棚を見る。と言ってもここがシンオウ地方なので他の地方の神話と比べるとかなり多く、棚の何面にも渡り本がぎっしりと詰められている。これだけ多いとどれを読んでいいのか逆に分からない。
題名をざっと眺めていると、『パルキアの謎』という如何にもな本があった。すぐ近くに『ディアルガの謎』という本がある。『パルキアの謎』を手にとって椅子を探す。
読書用の椅子に座って本を開いた。レイア以外に座っている人はいない。漫画の置いてあった所だと何人かいたから、神話に興味がある人など少ないのだろう。
目次を見ると、パルキアに関連する神話というよりは、パルキアの能力などについての内容が主で、少々期待外れだった。
しかし、興味深い文章もあった。
『 これまで、パルキアの持つ能力について研究の結果を書いてきた。しかしパルキアは、ディアルガとの長きに渡る戦闘により、かなりの体力を消耗しているものと考えられる。体力の回復のために自らを別空間に移動させるならまだしも、他のポケモンや人間を別空間へ移動させることはできないのではないだろうか。』
……いや、思いっきり移動させてるんですが。
内心つっこむ。憶測をするにしても、正直本に信憑性がない。現に自分はポケモンがゲームだった世界から、ポケモンが現実である世界に来ているのだ。そもそもパルキアが関係しているかも確かでないが。
何が原因なんだ――?
本を閉じて、元の場所に戻した。
他の本を手にとってはぱらぱらと読んで戻す。だいたいパルキアについての文章は、ディアルガとの関係や戦闘のことについてが多かった。やはり、衰弱しているというのは本当なのだろうか。
しばらくその作業を続けた。
考え込んでいると、階段で誰かが上がって来る足音がした。まさか、12時半をとっくに回っていて、痺れを切らしたルイが私を探してるんじゃないか?
そんな不安がよぎる。しかし部屋に入ってきたのは、同い年くらいの少年だった。金髪が目立ち、目つきは鋭い。近寄り難い雰囲気だ。大きなリュックを背負っていたので、旅をしているトレーナーだろうかと推測をする。
少年と目が合って、慌ててそらしてしまう。気持ち悪いとか思われただろうか。不安になる。にしても、こんな少年が神話に何の用だろう?
そう思っていると、少年はレイアと同じくシンオウ神話の本を探し始めた。時間やら空間やらとなると、興味が湧くのだろうか。いやいや、我等が故郷ホウエン(正確には九州だが)の神話だって、海と大地だから、スケールはでかいぜ。
……と、無駄な対抗心を燃やしながら時計を確認すると、12時40分くらいになっていた。まずい、ルイを待たせてるかも、と慌てて階段を下りる。

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