コメディ・ライト小説(新)

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最強次元師!! 【完全版】
日時: 2018/12/11 10:38
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 
 --------------------------------------------

 これは

 運命に抗う、義兄妹の戦記
 
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 *毎週月曜日に更新(※書き溜めができたら木曜日にも更新します)


 ■ご挨拶

 初めまして、またはこんにちは。瑚雲こぐもと申します!

 こちらの「最強次元師!!」という作品は、いままで別スレで書き続けてきたものの"リメイク"となります。
 ストーリーや設定、キャラクターなど全体的に変更を加えていく所存ですので、もと書いていた作品とはちがうものとして改めて読んでいただけたらなと思います。
 しかし、物語の大筋にはあまり変更がありませんので、大まかなストーリーの流れとしては従来のものになるかと思われます。もし、もとの方を読んで下さっていた場合はネタバレなどを避けてくださると嬉しいです。
 よろしくお願いします!



 ■目次

 一気読み >>001-

 プロローグ >>001 
 ・第001次元 >>002
 ・第002次元 >>003
 ・第003次元 >>004 

 【花の降る町編】 
  >>005-007

 【海の向こうの王女と執事編】
  >>008-009 >>012-025

 ・第023次元 >>026

 【君を待つ木花編】
  >>027-046

 ・第044次元 >>047
 ・第045次元 >>048
 ・第046次元 >>049
 ・第047次元 >>050
 ・第048次元 >>051
 ・第049次元 >>052


 ■お知らせ

 2017.11.13 MON 執筆開始

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.24 )
日時: 2018/07/19 06:13
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第021次元 海の向こうの王女と執事ⅩⅤ

 「ロク! お前ってやつはほんっとに……俺の寿命を縮めたいのかっ!」

 王女姉妹とルーゲンブルムの王子レインハルト、そしてガネストの4人と別れるなり、コルドは間髪入れずにロクアンズを叱りつけた。

 「ずっとひやひやしてたんだぞ、俺は! お前が国王に向かってあんなこと口走って、本当に首を撥ねられるんじゃないかって思ってたんだぞ! それに一歩間違えれば国家間の戦争に発展していた! お前は、自分のしたことがわかってるのか!?」
 「わわわ、わかってるよ! でもほら、助かったじゃん」
 「そういう問題じゃない!」

 強い語尾が、まるで拳骨のようにロクの頭に降り注ぐと、ロクはびくっと肩を震わせ、頬を掻いた。
 間近でその様子を伺っていたレトヴェールが、まったくこいつは、とでも言いたげに息をついた。

 「だいたいお前はいっつも感情論で突っ走りすぎなんだよ」
 「えっ!? 聞こえてたの!?」
 「声がでかいんだよばーか」
 「……レト、言っておくがお前もだぞ」
 「え」
 「第一お前なんでアルタナ王国にいるんだ! いつ来た!? 経費はどうした!? しかも、亡くなったと言われてたあのライラ王女殿下といっしょに現れて……正直お前が一番わけわからん!」
 「話すと長い」
 「いいから話せ!」
 「……簡単に言うと、まあ俺もこの国に来ることになって、そんで船に乗ったはいいけど、大嵐に見舞われて、途中で船が航路を変えたんだ。アルタナ王国行きだったのを変更して、ルーゲンブルムとの間にある海岸に停泊した。俺、船の上でたまたまアルタナ王国のことを聞いてさ。ちょっと興味湧いて。せっかくルーゲンブルムの近くに来たことだし、ちょっくら見に行ってみるかーと思って森に入ったら……あの王女様と出会った」
 「……お前の運と行動力が恐ろしいよ……」
 「そんなに動けるなら早起きもしてよレトっ」
 「それはやだ。まあそんな感じで王女様と会って、事情聞いて、見張りの騎士たちとかやっつけましょうかって聞いたら目の色変えて喜んだんだ。そこから、道中の護衛を任されることになって、小屋から出ようってときに偶然通りかかったレインハルト王子も同行するって言いだしてさ。そんで3人で森を抜けて、こっそり入国して……。とまあ、だいたいこんな感じ」

 あっけらかんと話し終えたレトだったが、その話を聞いていたコルドとロクは呆気にとられていた。その実、彼がメルギースを出発したのはいまからたった2日前のことだ。そのうちの1日分は船の上で過ごしたとして、彼が陸に着いてからその日のうちに大事は行われていた。彼は興味のあることに関しては時間と労力を惜しまない性分なのだろう。コルドは、レトの新しい一面を見たなと、もはや感心の域に達していた。

 「ねえレト、その服はどうしたの? ずっと気になってたんだ。なんか、王子様が着てる服みたい」
 「ああ、これはアルタナ王国に来たときに、俺から王女様に頼んで選んでもらった。いかにもって服着てたほうが説得力あるかなと思って」
 「説得力、って……」
 「ああいうときには、自分の姓を生かさないとな」

 ──『エポール』の姓。それは、メルギース国において、『廃王家』の人間を意味する。

 いまからおよそ150年ほど前、メルギース国は王政を廃止した。それ以前は、『エポール』の姓を持つ一族が王家の人間として国政を執っていたのだ。
 現在では、エポールの姓を持つ人間は限りなく少なくなってきている。メルギース国が王政に幕を下ろしたのも、エポール一族が衰退の一途を辿ったからではないかと言われているほどだ。

 「……お前たちは、ほんとに……」

 眉を惑わせ、大きな瞳をぱちくりさせるロク。
 いつも通り可愛げのない仏頂面を湛えるレト。

 コルドは困ったように、薄く笑みを浮かべた。

 「……すごいよ。驚かされてばっかりだ」

 ロクとレトは順番にくしゃりと頭を撫でられる。そして、行くぞ、と後ろに声をかけながらコルドが歩きだすと2人は互いに顔を見合わせ、笑った。
 
 
 
 翌日を予定していたルイルの子帝授冠式は1日延期となり、ルイルに代わってライラが子帝となることが発表された。と同時に、ライラの生還が国中に広まったことで、国民たちは歓喜の声を上げた。
 そのため、急遽ライラの生還祭が今夜、執り行われることとなった。

 暇つぶしに城内を歩き回っていたコルド、レト、そしてロクの3人はガネストに呼ばれ、大きな窓から城下町が見える広い廊下に案内された。するとそこでは、ライラとルイルが3人のことを待っていた。

 「明日国を挙げて式の準備をする代わりに、今夜祭りが行われることになったの。レトヴェールさんもロクアンズさんもコルドさんも、明日国に帰ってしまうのよね? だったら今夜は、ぜひ我が国の祭りを楽しんでいって」
 「お心遣いいただき、感謝いたしますライラ王女殿下。……本当に、生きておいでだったことを心からお喜び申し上げます。お会いできて光栄です」
 「こちらこそ。我が国には次元師様が少ないから、……魔物、退治? に、とても助かったと聞いたわ。本当にありがとう、コルドさん。……そして、ロクアンズさんも」
 「へっ? あたしは元魔は……」
 「ルイルのことよ。引きこもっちゃって、なかなか部屋から出てこなかったルイルのこと、引っ張り出してくれたって聞いたわ」
 「うわあっ、そ、それは……! ガネストでしょっ、おねえちゃんにいったの!」
 「虚偽の報告はできませんからね」
 「むぅ~~」

 悪戯っぽくそう告げるガネストに反抗してルイルが頬を膨らませる。2人のやりとりに、つられてロクも笑った。

 「あたしはなにもしてないよ」
 「でも、お父様がルイルを誘拐させて……それで助けに行ってくださったりもしたって」
 「ああ。それなら気にすることないよ。だってあたし……」

 そこまで言って、ロクはあわてて口を噤んだ。視線を泳がせ、その先を言い淀んでいる。

 「あー……ええっと、だから~……」
 「……ともだちだから、たすけてくれたんだよね?」
 「え?」
 「ろくちゃんは、ルイルのともだちだから……。そうだよね、ろくちゃんっ」

 ライラの背中にひっついていたルイルが、ぴょこっと前へ出て、無邪気な瞳で笑いかけた。
 ロクは、嬉しそうに唇を緩ませた。

 「……そうだよ! 友だちだよ、ルイル!」

 ルイルの両手をとって、ぎゅっと握りしめた。と思いきや、ロクはその場でしゃがみこみ、ルイルの腰元をこちょこちょとくすぐり始めた。ガネストに怒られたところで手を離したロクだったが、今度はルイルがロクをくすぐろうと襲いかかる。周囲をぐるぐる走りながら、二人は声を上げて笑っていた。
 まるでふつうの子ども同士のじゃれ合いのようだった。
 ライラは、楽しそうに大声で笑うルイルを、優しげな目で見つめていた。



 町中を、幾千もの灯篭の火が照らしていた。音楽が鳴り響き、踊り子が回り、紙吹雪が舞い、──笑い声があふれている。
 ライラは、城下町に降りて町の中を歩き回っていた。ルイルとガネストもそれに付き添っている。出会う人と手を取り合い、平民たちとおなじ場所でおなじものを口にし、おなじ音楽を聴いては、数多くの人々と語り合っていた。
 人と物があふれ返り、足場の周りも隙間なく人影に呑まれている。足元を気にしながら歩いていたルイルがふと顔を上げたとき、ロクたち一行が楽しげに歩いているのがちょうど目に入った。
 ルイルはその方向に目をやりながら、無意識に立ち止まった。数歩先を歩いていたライラが、ルイルがついてきていないことに気づき後ろを振り向く。
 ライラは、ルイルの視線の先にロクたちの姿を認めた。棒のように立ち尽くすルイルのもとへ、ゆっくりと近づいていく。

 「ルイル、あっちに行く?」
 「! おねえちゃん」
 「……行っておいで、ルイル」

 ルイルは、ぱっと花咲くような笑顔になると、人ごみの中へ駆け入った。小さな背中を向け、ライラの視界からルイルの姿が消えてなくなる。
 ガネストは、その一部始終を眺めていた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.25 )
日時: 2018/07/23 13:20
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第022次元 海の向こうの王女と執事ⅩⅥ

 祭囃子がひしめき合い、どこを向いても人々の笑い声が聞こえてくる。
 ロクアンズは片手に串ものを何本も抱え、もう片方の手でときおりアメを舐めつつ、焼きものが入っている紙箱を頭の上に乗せて歩くという器用さを振りまきながら、人ごみの中を満足げに歩いていた。

 「んん~! どれもおいひぃ~~」
 「あんま食いすぎんなよ」
 「らいよぉぶだよ~あたし、いぶくろおおひぃもぉん」
 「俺が心配してるのはお前の胃袋じゃなくて、ほかの客の分がなくなることな」
 「むむっ! らいよぶだよ! こぉんなにおおひなおまふりだもん!」
 「そーですね」
 「いやお前たち、俺の懐を気にしてくれよ……」

 メルギースから持ってきた通貨を、入国の際にいくらか換金したはいいものの、すでにコルドの懐事情は危険信号を示しつつある。
 そんなことを露ほども気にせずに、うっとりとしながら食べ物を頬張るロクの耳に、甘くて愛らしい声が届いた。

 「おーい! ろくちゃんっ!」
 「あ! うぃう!」

 ゴクン、とロクは口の中にあったものをまるごと飲みこんだ。
 ルイルが遠くからぱたぱたと走り寄ってくる。

 「どう? ろくちゃん、たのし?」
 「うん! 食べ物はおいしいし、人はあったかいし、笑い声が聞こえるし……すごく楽しいよ、ルイル!」
 「よかったっ」
 「なるほど。あなたは食べるほうに特化してるんですね」

 海のさざめきを思わせる、緩やかな声色がロクの耳に届く。
 ルイルは自分の後ろから声がして、空を仰ぐように顔を上げる。すると、ガネストがルイルの顔を見下ろしていた。

 「ガネスト! おねえちゃんは?」
 「1人で回ってくると仰ってました。なので僕は、ルイル王女の護衛を」
 「……そう」
 「まったく失礼だなーガネストは! 人には、えてふえて、というものがあってだね」
 「あなたは不得手のものが多すぎでは……」
 「そんなことなあい!」

 レトヴェールとコルドは、すこし離れたところで立っていた。知らぬ間にロクは、王女とその執事の2人と打ち解けていたのだろう。詳しい経緯まではわからないが、だいたいどういう風にロクが立ち回ったのか、レトにはなんとなく想像できた。

 「あっれえ、お嬢ちゃん?」
 「あっ、おじさん!」

 ロクは足の向きを変えて、ある屋台の傍へ駆け寄った。コルドはその場所に見覚えがあった。初めて城下町へ訪れた際、うろちょろしていたロクの目に留まった、帽子売りの店だ。

 「ここ2日くらい見なかったけど、なんかあったのかい?」
 「えっ? ああいや! なんでもないよ」
 「最後の飾りつけ、まだだったよね? いまやってくかい?」
 「いやっ、いまはちょっと~……」
 「どーしたの? ろくちゃん」
 「うっわあ! な、なななんでもないよ、ルイル!」

 帽子売りの店主を背に隠すように、ロクは急いで振り向いた。ルイルに向かって、へらっとぎこちない笑みを返す。
 頭に疑問符を浮かべるルイルをよそに、ロクは店主にこそっと耳打ちした。

 「……明日、朝早くでもいい?」
 「お、おうよ」

 店主の男とのやりとりを終えたロクは、「じゃあまた!」と別れを告げて、軽やかな足取りでその場をあとにした。ロクを除く4人も、まあいいか、とふたたび祭囃子の一員として雑踏に呑まれていく。

 「あっ! ねえ見て見て、レト!」

 夜空に向かって、さまざまな形をした無数の天灯が昇っていく。その圧巻の景色が歓声を呼ぶ。星の大海に向かって漕ぎ出した天灯に、人々は願いを託し、胸を熱くした。灯は絶えることなく、永遠のような一夜となってアルタナの空に輝き続けた。

 今日この日を忘れることはないだろうと、この国のだれもがそう胸の中で唱えたにちがいない。


         *


 「明日の準備でご多忙のところ、見送りにまで来ていただけるとは……」
 「いいの、気になさらないで。あなたたちは恩人だもの」

 翌日。アルタナ王国の空は心地のいい天気に恵まれ、航海日和となった。海鳥たちが港の空を泳ぎ回り、コルド、レト、ロクの3人の出発を祝っているようだった。
 見送りにきたライラとルイル、そしてガネストのおなじく3人は、丁重に礼をした。

 「本当にありがとう。心の底から感謝しているわ。どうかお元気で」
 「……」
 「ルイル、あなたもお礼を言いなさい」

 ライラはすこし屈んで、ルイルの背中をぽんと押した。港に着いてからずっと俯いているルイルは、いまにも泣きだしそうな表情で、3人の顔を見上げた。

 「……ありがとう……」

 小さな声だった。ロクは一歩だけ前に踏み出して、前屈みになった。

 「こちらこそありがとう、ルイル!」
 「……っ」

 ルイルは、固く口を結んだ。泣かないようにと堪えているのが手に取るようにわかった。

 「さあルイル、きちんとお別れを言うのよ」
 「……」
 「ルイル?」

 そのとき。出航を知らせる鐘の音が、港一帯に響き渡った。
 音につられて、ロクが腰を伸ばす。

 「……──ルイル、」

 ライラは膝を折り、ルイルと視線の高さをおなじくした。
 そして、

 「いっしょに行きたい?」

 ルイルは、ぱっと顔を上げた。その視界に、優しく微笑むライラの顔が映りこんだ。

 「この人たちに、ついていきたいのね?」
 「……」
 「行きなさい」

 ルイルの瞳に浮かぶ大粒の涙を、ライラはすくいとった。

 「この国のことは私に任せて。ハルトさんもいるし、お父様だっていらっしゃる。なによりこの国には、たくさんの優しい国民がいる。だから私は大丈夫」
 「……おね、ちゃ……」
 「ガネスト、あなたも行きなさい。ルイルのことは頼んだわよ」
 「……かしこまりました。ライラ王女殿下」
 「おねえちゃんっ! あのね、ちがうのルイルは……!」
 「わかってる。この国のことはルイルも大好きよね? ルイルには、大好きなこの国のために、もっともっと大きくなってほしいの」
 「……」
 「いろんなものを見てほしい。いろんな経験もしてほしい。国の王女でいるばっかりじゃなくて……」

 ライラはルイルの桃色の髪を撫でていた。その手を、さらりと解く。

 「……──あなたにもいろんなものと戦ってほしいの。だって、次元師だものね」

 今度は大きく鐘の音が響いた。出航の時間が迫る。
 ロクは驚いて目を瞠った。

 「え……じ、次元師?」
 「……しってたの……?」
 「あたり前じゃない。妹のことはなんでもわかるわ。……さあはやく、行きなさい」

 港で船を待っていた人々が、ぞろぞろと船に乗りこんでいく。
 ルイルは黙りこんでいた。しばらくして顔を上げたルイルの目には、涙ではないものが滲んでいた。

 「おねえちゃん、あのね」
 「うん」
 「ルイル、おねえちゃんのこと……だいすきだよ」
 「……私もだいすきよ、ルイル」

 どちらからともなく腕を伸ばす。
 桃色の髪が触れる。この香りを、温かさを、いつでも思いだせるように──強く、抱きしめた。


 「……行ってらっしゃい、ルイル」
 「──いってきます、おねえちゃん……っ」


 コルドとレトが、ゆっくりと背を向ける。ガネストは、ライラに長く礼をした。
 腕を解いて、歩きだすも、しばらくは離れがたくてライラのほうを見ていた。そんなルイルを励ますように、ライラは大きく手を振った。
 ルイルの顔が綻ぶ。ふと、前を向いたそのとき。

 「行こう! ルイルっ!」

 ロクが、満面の笑みを湛えて、手を差し出した。
 ルイルは瞬く間に笑顔になって、その手を取った。

 「……うんっ!」

 急げ急げと、大きな船に向かって走っていく。間もなく、船は出航した。その姿がどれほど小さくなっても、見えなくなっても、船が自分の視界からいなくなるまで。ライラはずっと、海の向こうの二人を見つめていた。

 「がんばれ、ルイル」

 海鳥が、空高く鳴いた。
 遠く離れた場所にいても、どうかこの言葉が届きますように。蒼い海に願いを託しながら、ライラはもう一度──がんばれ、と言った。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.26 )
日時: 2018/07/26 11:46
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

  
 船舶へ乗りこむときのことだった。コルドたちが乗り場の橋をぞろぞろと渡っていく中、ルイルは、その橋の途中でふと立ち止まった。

 「……」

 振り返ると、ずいぶんと小さくなったライラが手を振っていた。

 このまま船に乗りこめば、まもなく船は港を離れ、故郷はどんどん小さくなる。いまでこそ姉のライラは、ルイルの見ている景色の中できちんと生きているが、しばらくしたらその姿は見えなくなる。また、離れ離れになってしまう。
 そんなことが頭によぎった。ルイルはぶんぶんと首を横に振る。小さくなったライラの姿を目に焼きつけて、ふっと視線を外した。俯きがちに橋を渡りきる。
 そのとき。
 ぽすりと、頭の上になにかが乗っかった。

 「……え?」

 顔を上げたルイルの正面には、ロクアンズがいた。

 「ちょっといびつだけど……受け取って、ルイルっ」

 ロクはそう言って、伸ばしていた腕を下ろす。おそるおそる自分の頭に手を泳がせていくと、
 やわらかくてふわふわしたものが、指先に触れた。

 「これ……」
 「店主のおじさんがね、これは『キッキカ』っていうアルタナ王国にしかない特別な綿花で作るから、とってもいい香りがするし人気なんだって言ってたんだ」
 「……」
 「ほらあたし、ルイルが王様になるんだと思ってたから、そのお祝いにもっと早くプレゼントするつもりだったんだけど……なかなか時間がなくてさ」
 「毎日毎日、ルイルに会いに来るわりにすぐに帰ってしまってたのは、これを作ってたからなんですね」
 「えへへ~」

 出航を告げる鐘の音が、港中に響き渡った。橋がゆっくりと閉じられ、港から離れていく。
 アルタナとメルギースを繋ぐ大海へ、船は漕ぎ出した。

 「ルイルのために?」
 「そうだよ。偶然になっちゃったけど、それがあればどこにいても……ルイル?」

 ルイルは、自分の頭の上からそれを下ろした。懐かしい香りがぶわりと鼻腔をくすぐってくる。白い帽子だった。ルイルはその帽子を握り、ぎゅっと抱きしめた。
 自国は遠ざかっていくのに、その匂いは、ルイルの一番そばにあるままだった。

 「……ありがとう、ろくちゃんっ」

 潮風とともに、キッキカの花の香りが海上を漂う。ふたつぶ、浮かべた涙が太陽の光できらめいて、ルイルはやわらかく笑みをこぼした。



 第023次元 船上にて

 アルタナ王国を出国してまもなくのこと。コルドたち一行は、海風を浴びながら甲板で朝食を摂っていた。今朝の城下町で買っておいたものを頬張っていたロクは、口にものを詰めながら「あ」と思い出したように話を切り出した。

 「そういえばルイル! ルイルも次元師って、ほんとっ!?」

 あーんと口を開け、いまにも大きなパンにかじりつくところだったルイルが、ぴたりと動きを止めた。

 「うん。そうなの。でも、あんまりじょうずにつかえないの……」
 「ええ~見せて見せてっ!」
 「ルイル、使ってましたよ? 次元の力」

 その隣で、ルイルが食べやすいように小さくパンをちぎっていたガネストが横槍を入れた。ロクはあんぐりと口を開ける。

 「……え!? いつ!?」
 「あなたが、騎士の方々から槍などを向けられたときです。彼らは国王陛下に、『なにをしている!!』って言われていたでしょう? あのとき、彼らが動揺していたのを覚えてますか?」
 「え? あれって、あたしの首を撥ねるのが怖くて動けなかったんじゃ……」
 「いえ、あれは、ルイルが意図的に止めたんです」
 「──『念律』……っていう、なまえみたい」
 「いわゆる、"念動力"に近いものです。まだ上手く力を扱えないようなので、いまは物の動きを止めたり、軽いものを浮かせることができる程度らしいです」
 「へええ……」

 よくよく思い出してみれば、たしかにあのときの騎士たちの表情にはどこか違和感があった。躊躇いゆえの動揺ではなく、「なにが起こっているかわからない」といったような、驚きの色を示していた。

 「じゃあこれからは、いっしょに戦えるんだねっ。楽しみだな~!」
 「……あの、ロクアンズさん。ちょっと聞いてもいいですか?」
 「ん? なに?」
 「その、僕たちはあまり次元の力に関しての知識がないというか……どうして次元師が存在するのか、なんのために戦うのか。根本的な部分を知らないんです」

 ガネストとルイルが、じっとロクを見つめた。

 「なので、教えていただいてもいいですか?」

 ロクは食べる手を止めた。手に持っていた大きなパンを膝の上に下ろすと、彼女は話し始めた。

 「うん、いいよ。あたしも知ってるのはおおまかだけど。……いまから200年前のことなんだけど、『元魔』っていう怪物がこの世界に現れるようになったのって、知ってるよね?」
 「はい。ですが、なんで現れるようになったかまでは……」
 「200年前──メルギース歴でいうと、327年。この世界に、突然、『神族しんぞく』って名乗る神様たちが現れたの」
 「……神族?」
 「神族は、当時のメルギースの国王様にこう言ったんだ」

 『崇敬せよ、人間。我らの怒りに触れたこと、永劫の時を以て償え』

 「ってね」
 「怒り……? 200年前の人たちは、神に対してなにかをしたんですか?」
 「それが、理由まではわかってないんだ。突然現れて、そう言ったんだって言われてる。……問題なのはここから。直後、メルドルギース周辺の島が襲撃を受けて、──消滅した」
 「え?」

 ガネストとルイルが目を瞠る。ロクは続けた。

 「次々に土地が攻撃を受けていった。メルドルギースだけじゃなくて、ほかの大陸も。全壊した国だってある。その最中のことだったの。……──『次元の力』が、人間たちの中に宿り始めたのは」

 神族と名乗る者たちが、人間を遥かに超越した『力』で人間の土地を侵し始めた。地盤は歪み、大地は割れ、森林は焼け野原へと姿を変えた。人間たちは成す術もなく、ただ自分たちの住む街や愛する人を目の前で失い続けた。

 しかし、そんな絶望の折、人間たちは突然──『不思議な力』に目覚めた。

 「歴史研究者たちのほとんどが、『なんの前触れもなく不思議な力を手に入れた』『これは奇跡の力だ』……って、そんな風に推測してる。そうやって人間たちは神に対抗する力を得て、疑うよりも先にその力を使い始めた。国の兵士だった人、小さな子ども、王族貴族関係なく、力を得た不特定多数の人たちが恐怖に立ち向かって懸命に戦った……。それが、5年も続いたんだって」
 「そんなに長い間……」
 「終戦したのは332年だ。神族たちはその年の暮れに突然姿を消したらしい。ようやくこの世界に平和が訪れたかと思ったら……1年と経たないうちに、のちに元魔って名づけられた、異形の化け物が世界中で出現するようになったんだ」
 「神族がいなくなってすぐのことだったし、謎の化け物から神族と同じなにかを感じた人々は、『元魔は神族たちが生み出した兵器なんじゃないか』って考えた。でも人々は土地の復興もしなきゃなんなかったし、元魔をやっつけられそうだったのは次元師だけだった」
 「たぶん、そこからなんじゃないか? 次元師が、元魔を討伐するっていう暗黙の使命ができたのは」

 レトヴェールは指でつまんだパンに視線を落としながら、ロクの説明に加わった。

 「な、なるほど……じゃあ、次元師は、その200年前の神族の襲来によって『不思議な力』を得た人たちのことをそう呼んで、元魔はその神族と呼ばれている存在たちによって生み出されている、と……」
 「……わからないのは、その神族たちの怒りがなんなのかっていうのと……あたしたち人間が、どうして神族たちの怒りに触れてしまったのかっていうこと」
 「──それと、次元の力を、どうやって人間たちが得たのか……だな」
 「わからないこと、いっぱいなんだね……」
 「そうだね。200年前のことなんて、そんなに大昔でもないから、記録が残っていそうなのに……」
 「しょうがないだろ。一番情報を持っていそうだったエポールの一族が、神族からの襲撃とそこからの衰退によって消滅したんだ。王城も跡形もなくなってるし」
 「ご実家には残っていなかったんですか?」
 「ああ。うちはただの末裔で、歴史の証明になるような文献は残ってない」
 「そうでしたか……」

 聞きたかった情報を手に入れることはできたが、ガネストはなんだか腑に落ちない様子だった。しかしそれは、レトもロクもおなじだった。次元師にまつわる大方の経緯はだれもが知ろうと思えば知れるものだが、その奥に、いったいどんな歴史や事情が潜んでいたのかを知ることができずにいる。
 考えてもしかたないか。ガネストはそういう風に思った。

 「それにしても、難しい問題ですね」
 「なにが?」
 「だって僕たち人間としては、どうして神族の怒りに触れてしまったのか、そのわけもわからずに報復を受け続けているわけですよね? すべての理由がはっきりしないまま、次元師として神族たちと戦わなければいけないなんて……腑に落ちない点が多すぎます」
 「たしかに、そういう次元師も多いかもしれないね。元魔に襲われて家族を殺された、とか……そういう直接的な恨みでもないかぎり……剣は振るえないよね」
 「……だから俺たちは調べてるんだ」
 「すべての謎を解くために、ね」

 ガネストの視界に、灰色のコートを身に纏う2人の姿が映りこむ。

 「研究機関に入って、そこの戦闘員として元魔と戦いながら……情報を集めていく。いまはまだなにもわからないかもしれないけど、きっといつか辿り着いてみせる。だから……2人とも、どうかよろしくねっ」

 ロクがにっこりと笑って言った。ガネストの耳に、さざなみが聞こえてくる。海を掻き分けて揺らぐ船は、着実に、あの巨大な島に向かって進んでいる。
 後戻りはできない。その気があったのなら、これほどの大船に乗りこんだりしなかっただろう。
 ガネストは頷いた。 

 (……かみさまと、たたかうりゆう……)

 1人、ルイルは顔色を曇らせて、無邪気に笑うロクの顔をちらりと見やった。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.27 )
日時: 2018/12/13 00:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第024次元 君を待つ木花Ⅰ

 次元研究所此花隊本部の東棟は、中央棟や西棟に比べて新設さながらの整然さを感じさせる内装になっている。というのも、近年立ち上がったばかりの『戦闘部班』が、その東棟に身を置くことになったからである。かの班員たちのために施設の改造及び工事をなされたばかりの東棟だが、当然のことながらほかの棟と比べて人気が圧倒的に少ないため、そんな新鮮な空気を吸える者はごく一部に限られる。
 
 そんな中、ただ広い廊下を忙しない様子で渡る人影があった。グレーの隊服をきっちりと着こなし、足早に目的地へと向かうコルドは、数十分前に戦闘部班の班長であるセブンに呼ばれていた。
 班長室の扉の前に立ち、彼は扉を叩いた。そして入室する。

 「お呼びですか班ちょ……は、班長?」

 コルドは、長机に突っ伏していびきを立てているセブンの後頭部を認めると、やや眉をひくつかせた。コルドは長机に近寄る。

 「あの、班長……セブン班長ッ!」
 「うわぉっ!? ……えっ!?」
 「いまは勤務時間内です。なに寝てるんですか」
 「あ、あはは……いや? 背徳感という名の昼食を味わっていたところさ」
 「食べすぎには気をつけてくださいね」
 「……もちろん、だとも……」
 「はあ……。ああ、ところで班長。ご用件は」

 「ああ、そうだった」と言いながら、セブンが長机の引き出しからを取り出したのは小型の器具だった。
 似たような形のものを2つ、机の上に並べる。

 「! これ……」
 「君に頼まれていた件を調べてみたよ。この間、離島の競売場で君が回収したこの通信具だが……たしかにうちの研究部班が開発したものと、構造が酷似していた。ただ、製造者独自の改造がされていて、多少は全体の構造にちがいがある。だが部品や細部のこだわり方が、うちのものとまったく同じだ」
 「そ、そんな……」

 コルドは驚きのあまり、長机に両手をついて身を乗り出した。

 「この通信具は、あの研究部班班長が──『元力』を応用して独自開発したものです……! それを、いったいどうやって」
 「……知っての通り、この研究所での研究内容は、他所に漏らさないよう厳重に管理させている。全隊員に共通していることだ」
 「──……情報漏洩ですか」
 「その可能性が高いだろうね」

 固唾を飲みながら、コルドはゆっくりと机から手を離した。
 
 「……。競売場の件は、政府からの申し出によって我々が対処しました。しかしその場所から、我々が開発した物が発見されたとすれば……」
 「実はその件で、つい先日会合に行ってきてね。厳重注意ということで事なきを得たが……今後また問題が起きれば、処罰は免れないだろう。向こうにはしばらく頭が上がらないな」
 「……」
 「まだ内部の人間の仕業だとわかったわけじゃない。ただその可能性が高いというだけだ。もしかしたら外部の仕業かもしれないしね。……ただ、今後はすこし、研究部班のことも見るようにしてくれないか」
 「は」
 「頼りにしてるよ」

 通信具を机の端によけたセブンは、反対側の端に重ねて置いてあった紙束を手に取った。

 「報告書を読んだよ。改めて、アルタナ王国での任務、ご苦労だったね。……まあ、すこし、大事があったみたいだけど」
 「……はい。その……面目ありません……」

 セブンは報告書を束をぱらぱらとめくりながら、苦笑をこぼした。

 「いやあ……だけど、すごいな。国の王女と親交を深められただけでもすごい成果だとは思うんだけど……まさかその王女の誘拐事件を解決して、亡くなったとされていた第一王女のライラ様の生存も明かし、国王陛下の怒りを買ってもなお、エポールの名を出し……すべてを丸く収めてしまったとはね」
 「自分自身、いまだに信じられていません。あの国で見たものがぜんぶ夢だったかのような気分です」
 「でも、夢じゃないんだな。ルイル王女とその付き人のガネスト君が、この研究所に来たんだから」

 報告書の束の中から、『新規入隊の申請書』と書かれた2枚の紙を引き抜いた。そこにはルイル・ショーストリアとガネスト・クァピットの名前と、アルタナ王国の国章が記されている。
 
 「2人は、本当に入隊するんですか?」
 「いま政府に申請を出してるところでね。アルタナ王国はメルギースと親交の深い国だし、なにより2人は次元師だ。許可は下りると思うよ。ただ、それまでは『アルタナ王国から留学してきた』という体で、丁重に扱わせていただくけどね」
 「ということは、いまは宿泊棟に?」
 「ああ。たまにロク君を見かけるよ」
 「……本当に、班長の言う通りでした。あの2人には驚かされましたよ」
 「私もだよ」

 眉を下げ肩をすくめながら、セブンはその申請書を紙束の上に重ねた。それを、コルドは目で追っていた。

 「それにしても、班員が増えてなによりですね」
 「本当にね。嬉しい限りだよ」
 「……あの、セブン班長。この戦闘部班という組織の立ち上げを思い至ったのは、班長ご自身でしたよね?」
 「そうだよ」
 「このようなことを聞くのは失礼かと存じますが……どうして、戦闘部班という組織の立ち上げを?」

 セブンは、顎をさすりながらすこしだけ目線をずらした。

 「いまが好機だと思ってね」
 「好機?」
 「元魔が活発化してきているとはいえ、いまはまだ想定の範囲内に留まっている。依然として神族は姿を見せず、まだその勢力に怯えるときじゃない。彼らがすぐに攻めてこないのは、なにかの時期を待っているんじゃないかと私は推測しているんだ。この機に、次元師たちを育成し、きたる時に備える……。そのようにお伝えしたら、隊長が自ら政府に赴いてくださってね。もちろん時間はかかったけれど、結果的に了承を得られた。政府の監視つき、だけどね」
 「隊長自ら……ですか。あまりお会いしたことがないので、どんな御方なのかもいまだに……」
 「お忙しい方だからね」
 「でも、新しい組織の立ち上げに尽力してくださるなんて、すごいですね。噂では口数がすくなく感情が見えづらいとかっていう風には言われて……」
 「……本当に、なにを考えているんだろうね」
 「え?」
 「ああいや、君の言う通りだよ。話すときはいつも緊張してる」

 はあ、とよくわからないままコルドが返事をすると、セブンは丸めていた背中を起こした。

 「さて、と。最後にもう1件」
 「はい」
 「ついさきほど、元魔の出没連絡が入った。南方のローノ支部だ。2人を連れて行ってくれ」
 「……ローノ?」
 「場所がわからなければ地図を渡すよ」
 「ああ、いえ。班長、よくローノの調査報告を読んでいらっしゃいますよね」
 「え? あ、ああ。向こうにいる隊員たちにもよろしく伝えてくれ」
 「はい」

 コルドはしっかりと頷いて、班長室をあとにした。



 「──ということで、出動要請だ。南方の支部だから距離がある。準備は怠るなよ」
 「おっけー!」

 集会所の隣に構えている談話室で、コルドはロクアンズとレトヴェールを捕まえた。さっそく元魔の件を伝えると、2人は頷いた。
 椅子から立ち上がる2人を見ながら、コルドは、すこしだけ顔を苦くした。

 「悪いが、俺はちょっと用事を済ませてから行く。先に向かってくれるか?」
 「え? それはいいけど……あたしたちで行っていいの?」
 「ああ。頼んだぞ」
 「やったー! まかせてっ、コルド副班!」
 「あんまり無茶はするなよ」
 「わかってるって~!」
 「……本当にわかってるのか? ったく……。レト」
 「ん」
 「ロクのこと、ちゃんと見といてくれな」
 「……」

 コルドは、片手にファイルや紙束やらを抱えて、談話室から出ていった。

 「……めずらしいな」
 「? なにが?」
 「元魔討伐に、俺たちだけでなんて。ちょっと前までぜったいに許さなかったことだろ」
 「ん~? まあそうだったような気もするけど……いいじゃんいいじゃん! 次元師として、あたしたちの力を認めてるってことだよ!」
 「……」

 (……──"あたしたち"っていうより……)

 レトは、ちらっとロクを横目に見る。嬉しそうにはしゃぐロクの顔は、新しいおもちゃを与えられた無邪気な子どもそのものだった。しかしその顔つきは、アルタナ王国へ向かう前といまとですこしちがうような、そんな気がしていた。
 
 
 

Re: 最強次元師!! 【完全版】 ( No.28 )
日時: 2018/08/16 08:25
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw

 
 第025次元 君を待つ木花Ⅱ
 
 目的地である『ローノ』という町は、エントリアよりも南に位置している。規模は国内最大都市のエントリアに遠く及ばず、ややこじんまりとした町ではあるが、周辺が村や集落で囲まれているため最南の地方では唯一の都会という扱いになっている。町中に漂う空気も長閑のどかそのものだった。

 エントリアを出発してから数刻が経過している。いまにも落ちそうな陽の残り火で、森は橙色に焼けていた。
 ロクアンズとレトヴェールは二手に分かれ、元魔の捜索を開始した。
 やる気満々な様子で山道を駆けていったロクとは裏腹に、レトは嫌々といった顔で草木を掻き分けていた。整備されていない獣道を歩き続けるには根気が必要だった。すこしつらくなってきたのか、レトは早々に息をついた。
 そのとき。遠くのほうで、雷鳴が轟いた。

 「! ロクか?」

 轟音は止まなかった。夕焼けを散らす雷光が、レトのいる場所からよく見えた。レトは進行方向を変え、その光を目印に林の中を突き進んだ。
 ロクがいるであろうその場所にレトが辿り着くと、すでに彼女の周囲には、炭のような黒い残骸が散らばっていた。
 
 「──雷柱!!」

 雷撃は円柱を象り、地面から一直線に伸びて空を横断する。ロクの目の前にいた元魔は、立ちこめる土埃の中から飛び出した。元魔は従来通り、黒や灰、茶が混じった泥色の肌をしていた。その体長はロクの体躯を悠に超え、相変わらずどの動物とも似つかない外観をしている。頭部は大きく腕はなかった。代わりに、奇怪に伸びた3本の足が宙を泳いだ。

 「逃がすか!」

 土を蹴り上げたロクが、樹木から伸びる太い枝に飛びつく。そのまま勢いに乗ってぐるりと全身を回し、華麗な動きで枝の上に着地した。
 前方の木の葉にしがみついている元魔を、その目で捉える。

 「──落ちろ! 雷撃!!」

 伸ばした掌を起点に、雷が飛散した。反動ですこし仰け反る。雷光は横殴りの雨を思わせる鋭さで元魔の全身に突き刺さり、叫喚を促す。ふらりと身体を傾かせた元魔が、地面に向かって落下する。
 ロクも飛び降りた。落ちていく黒い肢体に掌を向ける。

 「五元解錠──!」

 しかしそのとき。元魔の頭部が歪んだ。ぐちゅぐちゅと不快な音が響くと、刹那、顔らしき球体の一点から液体のようなものを細く噴き出した。
 ロクは上半身を大きく反らした。が、着地の体勢になるには間に合わず、真っ向から地面と衝突するとその勢いで砂の上を転げ回った。頬に付着したどろりとしたなにかが砂を掬いとっていく。それの正体はおそらく、さきほど元魔が噴き出した体液かなにかだろう。
 元魔は、地面の上で寝そべるロクに対して、ふたたび不快な音を聞かせた。顔らしき部位がぐぐっと持ち上がる。蜘蛛が糸を吐くように、細い体液が放出された。

 「ロク!」

 レトが叫んだ、その瞬間。ロクは寝転んだ姿勢のまま拳を振り上げ、思いきり地面を叩きつけた。するとロクの身体に覆い被さるように雷が半円状の膜を張った。吐き出された体液は、その防壁と化した電気の膜に接触した途端、跡形もなく掻き消えた。
 ロクは、ゆっくりと首だけを動かし、元魔を睨みつけた。

 「──五元解錠! 雷撃ィ!!」

 勢いよく放出された電光が、元魔の肢体に丸ごと喰らいついた。甲高い断末魔が辺り一帯に広がると、黒い頭の上部に埋めこまれていた赤い核も、砕け散った。
 次第に、黒い皮膚だったものが風にさらわれていく。それを見る限り、化け物は絶命したとわかる。

 「へへっ……どんなもんだい!」
 「……」

 ロクは、よっと言いながら跳ね起きた。灰色のコートにまとわりつく砂粒を払って落とす。
 呆然と眺めていたレトだったが、ふいに、ロクとばっちり目が合った。

 「あれっ、レト! いたの?」
 「……ああ。まあ」
 「もしかしていま来た? ざ~んねんでした! 元魔はぜーんぶ、あたしがやっつけちゃったよ! ……あれ、でもさっきレトの声がしたような……気のせいかな?」
 「おまえ、1人でやったのか。これぜんぶ」
 「そうだよ! えへへ~、すごいでしょ! これであたしももう、一人前の次元師になれたかなっ」
 「……」

 ──おまえはすごいよ。そう言ってやりたかったが、喉はそうさせてくれなかった。なんとなく口を噤んで、ただ元魔の残骸のような黒い粒をじっと見つめている。

 「あーあ。でも、はやく"六元の扉"とか、使えるようになりたいなあ……」
 「六元の扉って……」
 「だって、まだ"五元の扉"までしか開けないんだもん。もっと強い『次元技』を出せるようになるには、その階位を上げるのがいちばん早いんだけど……」

  次元の力は、『次元技じげんぎ』と呼ばれる数多の"技"を秘めている。それはロクの持つ次元の力『雷皇』でいうところの、『雷撃』や『雷柱』といった"雷を利用する上での応用術"を意味する。
 そこで大事なのが、『扉の階位』だ。
 次元師は原則的に、『四元解錠』や『五元解錠』などといった──"次元技そのものの威力を決めるための詠唱"を、次元技を唱える前に置いておく。そうすることで、発動する次元技の威力を調節し、次元の力が暴走しないよう働きかけているのだ。特に、次元師としての活動を始めて間もない者はその前述を必ず行い、上手く調節できるようになるまでは継続しているらしい。

 「うわさによるとさ、"十元の扉"まであるっていうでしょ? あたし、ぜんぶ使えるようになりたいんだ! レトもそうでしょ?」
 「俺はべつに……それに高位の扉を開くのは、次元師の中でも限られた人間しか成功してない」
 「だーかーら! その限られた一部の人間になるんだよ!」
 「……どっからわいてくんだよ、その自信は」
 「え?」
 「なんでもない。元魔の気配はしないし、たぶんこの辺りにはもういないだろ。戻るぞ」
 「あ、待ってよレトー!」

 赤く燃えるようだった空は、鈍色の夜に覆われつつあった。ただでさえ成長しすぎた草木が鬱陶しいのに、あたりの暗がりに呑まれ、それは不確かな影となって視界にちらついた。
 
         *
 
 ローノ支部の施設も、町の規模に合わせて建立されたのか少々控えめな建物だった。2階建ての構造で、入り口の扉をくぐるとすぐ目の前に受付のテーブルが構えている。その奥はすべて談話スペース兼資料室となっている。1階にあるのはそれだけで、あとは端の階段からから2階へ行けるようになっている。2階は隊員たちの休憩室といったところだろう。
 夜も深まらないうちに元魔討伐の報告へやってきたロクアンズとレトヴェールの2人に、支部の隊員たちは感嘆の声を浴びせた。

 「いやあさすがです、次元師様!」
 「この短時間でやっつけちまったのか。こりゃたまげたなあ!」
 「あんたたち、ウワサになってた義兄妹だろ! アルタナ王国でどえらいことしたっていう!」

 2人を囲んでいる複数人の男性隊員のうちの1人が言うと、ロクは驚いて目を見開いた。

 「えっ!? 知ってるの!?」
 「知ってるもなにも、いまじゃ国中に広まってるよ。此花隊の次元師が、よその国の歴史を動かしちまったってな!」
 「しかもこんなガキだもんなあ~」
 「ガキじゃないよっ。これでも一人前の次元師なんだから!」
 「これは失礼しました~!」

 1階の談話スペースが、どっという笑い声で満たされる。この支部に配置される隊員のほとんどが援助部班の班員だった。援助部班として訓練を受けているだけあって、だれもが屈強な体つきをしていた。

 「おいロク、おまえケガはないのか?」
 「え? ああ、そういえばさっき木の上から落ちたときに、擦りむいたっけ……。でも大丈夫だよ、このくらい!」
 「だ、だめよっ」

 そのとき。華やかな声音がした。男たちの波を掻き分け、ロクとレトの前に現れた女は、心配そうに言った。女性にしてはやや身長が高く、体型もすらりとしている。美人の部類に入るだろう。男だらけでむさくるしい中では一際その存在が目立った。彼女は肩のあたりで綺麗に切り揃えられた臙脂えんじ色の髪をすくって、耳にかける。

 「小さな傷口からでも、ばい菌は入ってしまうの。だからきちんと消毒しましょう」
 「あなたは……」
 「あ、ごめんなさい。挨拶をしていなかったわね。私は、医療部班所属のフィラ・クリストンよ。さあ、腕を出してもらってもいい?」

 フィラと名乗った女は、灰色ではなく、白い隊服の袖をまくりながら言った。
 
 
 


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