ダーク・ファンタジー小説

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リアルゲーム
日時: 2017/06/21 00:50
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!

・注意事項

暴言や荒らしなどの行為はやめてください。


以上です。

・ゲームのルール

1.『全校生徒で殺し合いをする』

2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』

3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』

4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』

5.『殺し方や戦い方に縛りはない』

6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』

7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』


Re: リアルゲーム ( No.150 )
日時: 2017/10/12 22:39
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

 勝平は目を細めて彼女を見る。柏崎の言っていることは、半分正解で半分間違いだった。確かに彼は村上の件に関して、気にしている。しかし、それは彼の過去が原因で生じたものだ。それを今克服するかしないか、その決断を彼は迫られていた。

「さぁな。とりわけ気にしてるわけでもねぇよ」
「本当なの?」
「ああ」

 視線を横にずらし、彼女と目を合わせないようにする。何か言いたげに彼を見つめる柏崎だが、それらを溜め込み、あ、そう、と返す。

「アンタがそう言うならそうなんでしょうけど、何か困ったことがあるなら、誰にでも良いから言いなさいよ?」
「…………」

 意外そうな表情で彼女を見つめる。

「何よ?」
「やけにあっさりしてるな、と思って」
「今からでも問い詰めても良いのよ?」
「遠慮する……」

 ここで変に突っ込まれると面倒くさいだろうな、と感じた勝平は丁重に断った。ふと、彼女は腕を組んで、勝平の隣へと移動する。そして、地獄絵図のようなあの光景を眺めながら言葉を発した。

「まさにこの世の終わりね」

 冷静に且つ、客観的に彼女はそう言った。どこぞの生徒会長を彷彿させるような言い回しで、一瞬違和感を覚えたが、彼はいつものように返す。

「こんな状況に出くわしたら、そりゃあ、ああなるだろ」
「アンタは何も感じないの?」
「感じない訳ないだろ」

 人が苦しむさまを見るのは、勝平にとってもそれほど良い気分ではない。彼だって、一般的な人間と変わらない価値観を持っている。胸に異物を押し込まれたような不快感をさっきから感じつつ、変わらぬ口調で続ける。

「お前はどうなんだよ?」
「勿論、同じ」

 柏崎は言葉を続ける。

「これを見て何も思わない奴なんて、人間じゃない」

 勝平は無言でジーと彼女を見つめる。そんな彼の行動が不快と思ったのか、彼女は目を細めて勝平を見下ろす。

「何?」
「いや、お前がまともなこと言ってて……」

 瞬間、彼女のシリアスな空気が大きな音を立ててぶち壊された。

「私は元からまともよ!」

 体を彼に向けつつ、両手を握り拳に変えて、大声を上げる。勝平は心底安心した。その場の空気を読まずに大きな声を上げる様は、やはりいつもの彼女だ、と。しかし、同時に周りからの視線がこちらに集中したことに気が付くと、やってくれたな、この女……と心の中で毒づきもした。
 
 彼女も勝平同様に周りの反応に気が付いたのか、すぐに大人しくなり若干不満ありげな声で話の路線を戻す。

「私はこんな状況から早く抜け出したいし、皆がああやって悲しんでる姿なんて見たくないの」
「………」

 何も答えない彼に、彼女はさらに口を開く。

「アンタがイメージする通り、私はバカだし考えることは単純だけど、他人を見捨ててまで生き残ろうとする程、人間腐ってないわよ」

 何となく、彼女が生徒会にいる理由が分かった気がする。どんなに自分が大切であろうと、結局他人を優先してしまう性格。結果的に自分が損な役回りをすることになると分かっていても、それでもやってしまう。校舎の中の探索や今回の心境もそれが表れている。その性格を、他の第三者から見たらどう思うかはそれぞれだが、勝平はこう思った。

(なんて悲しい性格なんだろうか……)

 他人を優先するという言い方は聞こえが良いが、逆に言うと自分を大切にしないということと同義だ。他人の為に自分を犠牲にし、それに伴う対価はなし。例を挙げるなら、今この現状で誰かの助けを聞きつけ、そこに走り出して治療する。それを休みなく永遠に繰り返すとしよう。果たして、これは割に合うのだろうか?

 合うはずがない。結果として得るのは、自分がボロボロになって倒れる結末。おまけに、周りはその治療で助かる保証もない。失うものはあっても、得るものがない。それは、勝平の考える理屈の中で最も納得のいかないやり方だ。

「アンタには分からないだろうけど、例え知らない人でも困ってるなら、手を差し伸べてあげるのが私のやり方」

 すると、彼も口を開き始めた。

「本当に分からねぇよ」
「まぁ、そうだよね」

 彼女は当然のように返事をする。

「自分が傷つくだけ傷ついて、他がのうのうとしていられるのはおかしいだろ。困ってる奴なんて、助けてもらった時はその場では感謝するが、少し時間が経てばすぐに掌を返す」

 勝平は続けて言う。

「実際の所、相手からしてみればただの表面上の付き合いだ。こっちの事を何も考えていないし、自分さえ良ければ何でもいいと考えてる奴のが多い」

 苦虫を噛み潰したような表情で呟く。今までずっと彼は他者に対して、心を開いたことはない。ずっと疑心暗鬼になりながら、自分の事を第一にして考えていた。誰かから受け取る親切心や、誰かからの何気ない言葉。日常生活での事細かな所まで、彼の深層では、他人に対して疑いが晴れることはなかった。だが、ここで柏崎がある矛盾点に気が付いた。

「じゃあ、服部も同じ?」
「あいつは……」

 勝平は言葉を詰まらせた。

「服部もアンタが言う信頼できない相手かもしれないのに、なんでつるんでるの?」
「あいつは……俺と同じなんだよ」

 彼は思い出すように、語りだした。

「あいつ、中学ではハンドボール部のキーパーをしていたんだ。チーム自体そんなに強くなかったが、服部自身の実力もあって県大会には出場できていた」

 だけど、と付け加えた。

「服部の活躍をあまり良く思わなかったハンド部の先輩が、あいつに対して陰湿な嫌がらせを始めた」

 例として挙げるなら、と続ける。

「あいつのユニフォームを汚したり、靴を隠したり。服部も最初こそは笑っていたが、次第に嫌がらせはエスカレートしていって、本人に面と向かっての罵詈雑言、最終的に暴力にまで発展した」
「…………」

 彼女は何も言わず、暗い表情でそれを聞いていた。

「さすがのあいつも心を病んで、部活も止めて、学校を休むようになった」
「アンタと服部の付き合いもそこからって訳?」

 勝平は、ああ、と返事をする。

「学校にも行かず、公園のベンチに座って、毎日何もすることもなく虚空を見てた。帰り道によくその公園を通ってたから、ふと声を掛けたことが切っ掛けなんだよ」
「で、そのあとどうなったのよ?」

 彼は答えた。

「時間は掛ったけど、少しずつ立ち直って学校に行けるようにはなった」
「そっか……」

 だけど、と言葉を続ける。

「もう二度と、運動部に所属できなくなった」
「……なんでよ?」

 彼女は不穏な表情で聞いてくる。

「遊びでスポーツをやる分には良いが、運動部に入ると、前に先輩から受けたトラウマが蘇るんだ。その証拠にここのハンド部に入ったが、一か月も経たずに退部してる」
「…………」

 人間は、立ち直ったとしても一度受けたトラウマは永遠に消えることはない。如何に克服しようともだ。それを経験している勝平は、彼の気持ちに共感できる。だから、勝平は服部を信頼できるのだ。一度苦しみを味わった仲だからこそ、彼は自分を裏切ることはない、と。

「だからこそ、俺はあいつのことを信頼できる。俺と同じように、辛い経験をしているあいつならな」

 彼女は、表情を変えずにポツリと呟いた。

「なんか、嫌」
「…………?」

 すると、勝平は眉をピクリと反応させた。

「どういう意味だよ?」
「どうもこうも、そのままの意味よ。トラウマがあれば友達になれるって、なんか悲しい」 

 特に、彼は大きなリアクションを取ることはなかった。今まで自分の意見を持って、それを終始実行してきた彼。それを否定されたというのに、不思議と落ち着いていた。

「お前や周りから見たら、俺はおかしいのか?」
「……おかしい」

 勝平は静かにその言葉を受け止めた。薄々感じていた。彼が服部と先ほどの会話をしていた時から、歯車が少し噛み合わないことを。それはかつて受けた、勝平のトラウマによる影響もあるのだろう。人との関わり方を、歪んで捉えてしまっているのがその証拠だ。
 
「そうか……」

 彼は顔を上げ、特に代わり映えのしない天井を見上げた。

「なぁ、俺はどうすれば良い?」
「知らないわよ……」

 呆れたように言いながら、壁に凭れ、目を閉じる。

「…………」

 勝平は考えながら、手に持っていたペットボトルの蓋を捻り、蓋を取るとそのまま口に流し込もうとする。何してるんだ? と勝平の様子を確認しようと一瞬片目を開けた柏崎。すると、柏崎の顔色がみるみる変わる。

「ちょ、ちょっ!! それはダメ!!」
「なっ!?」

 口をつける直前で、柏崎は勝平にのしかかる勢いで持っているペットボトルを薙ぎ払った。ペットボトルは宙に高く飛んでいき、代わりに彼女の体が彼へと降ってきた。小柄な彼女の体重は基本、他の女子と比べて軽いものだが、降ってきたら話は変わる。落ちてきた時の衝撃は、凄まじかったようで冷静な彼でも思わず、いっつ!! と声を上げるほどだ。痛みに悶えながら、彼は彼女を睨みつけた。

「お前……」

 彼女は慌てて彼から離れ、立ち上がった。

「しょ、しょうがないでしょう!? アンタが飲もうとしたの睡眠薬入りの水なんだもん!」

 顔を真っ赤にして、声を上げる。

「なんて物を冷蔵庫に入れてやがる……」
「こんな状況じゃあ、なかなか眠れないから一本キープしておいたのよ」

 まったく……と彼は不満を漏らしながら、痛む箇所を摩る。しかし、完全に嫌な気持ちかと問われればそうでもない。彼女のような騒がしい人を見ていると、自分が先ほどまで考えていたのがバカみたいだった。不思議と先ほどまでの怒りはなく、気の抜けたような安心感に包まれた。それに、彼女みたいな人間がいるなら、まだ世の中捨てたものではない、と思った。

(こんな奴がいるなら……まだ……)

 勝平は立ち上がり、小さな彼女を見下ろす。

「な、何よ……まだ文句あるの?」
「そう言う訳じゃねぇよ……」

 呆れたように返す。次の言葉を言おうとするが、彼は気恥ずかしい為か、なかなかうまく言い出せない。彼女が、不審そうな表情で彼を見つめると、

「……ありがとう」

 彼はちゃんと彼女の目を見て、言い辛そうだがはっきりと言葉にした。言い終えると、どこかへと走り出していった。置いてかれた彼女は呆然と彼の背中を見ていたが、フッと口元に薄く笑みを広げる。何かやることがあったのか、それとも恥ずかしくて走り出したのかは分からないが、何か吹っ切れたようで、安心したようだ。

「ばーか……」

Re: リアルゲーム ( No.151 )
日時: 2018/01/13 00:27
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

 
 唯腹 勝平が幼少期の頃、彼は父親と二人で生活をしていた。母親は、彼が物心つく前に事故で他界。父親は、男手一つで彼を育ててきた。仕事、家事、帰宅時間は大概深夜。身を削るようなスケジュールを数年と繰り返し、何とか家庭を支えていた。一方の勝平は、保育施設にいても人と接することなく、一人、おもちゃで遊ぶ毎日。つまらない、と思ったことはない。ただ、人生なんてそんなものではないか? と幼きながらに思っていた。

 友人はいなかったが、自由気ままに生活を送ることが出来ていた。そんなある日、父親が彼を連れてとあるレストランへと向かった。普段外食に出かけることがない故に、勝平はいつもとは違う何かを感じていた。店内に入ると、父親がキョロキョロと辺りを見渡す。そして、あっと笑みを広げた。そこにいたのは一人の女性だった。ニコニコと優し気な笑みを浮かべながら、軽く手を振っている。

「父さん、あの人は誰?」
「あの人は、詩織(しおり)さんだ」

 詩織さん……と呟きながら勝平は女性を見て、そして彼女の隣にいる人へと視線を移した。そこにいたのは、二人の男の子と、一人の女の子。年齢は勝平と少し離れた感じの三人。彼ら三人は紙ナフキンを使って折り紙のように、色々な物を折っては、はしゃいでいる。

「ねぇ父さん、あの子達は?」
「彼女の子供だよ。吉谷(よしたに)君、和夫(かずお)君、花咲里(かざり)ちゃん」

 勝平は、少々困ったように父親を見上げた。

「あの人達に会いに来たの?」
「そうだよ」

 父親はニッコリと笑い、勝平の頭にポンッと乗せた。彼は視線をあの親子に向ける。幸せそうに家族で会話をしている中、詩織という女性は自分の子供たちにこちらに指を指す。釣られて、三人の子供達も勝平の方へと向ける。一瞬、ポカンとした表情で勝平とその父親を見ていたが、女性が何かを話すと、パァと表情を明るくした。

「父さん……」
「何?」
「もしかしてあの人の事、好きなの?」

 父親は少し緊張した面持ちで考えると、口を開く。

「そうだよ。詩織さんは、嫌か?」
「別に」

 無表情で、まるで興味がないように答える勝平。効率的に考えるなら、父親の取る行動は間違っていない。一人では、子供一人を養うのは負担が大きい。毎日毎晩、父親は疲れた表情を隠し、既に張り付きつつある笑みを勝平に向けていた。苦労しているとは分かっているものの、同情する気持ちは湧かなかった。

 ただ、父親が楽になるならそういう選択も良いんじゃないか、と思っていた。客観的に、理屈的に、まるで他人事のように。

 そんなことを考えている内に、詩織の子供たちがこちらに駆け寄ってきた。

「なぁなぁ! お前何歳!? 今までどこで暮らしてた!?」
「怖がっちゃうよカズ兄ちゃん! もうちょっと落ち着こうよ!」
「そうだぞ和夫。あまり相手をビックリさせるなよ」

 目の前で勝手に揉め始めた。言葉に困る勝平に、三人の中での年長者らしき男児が前に出て、こう言う。

「弟がごめんな。俺は吉谷。ヨシ兄(にぃ)って気軽に呼んでくれ」

 少年は眩しい笑顔で、彼に手を差し伸べた。目線を隣の父親に向ける。父親は嬉しそうな顔で、勝平を見て頷いている。一瞬の躊躇いはあったが、彼は吉谷の方へと顔を戻すと、渋々ながら握手に応じる。


———

 時間は戻り、体育館の休憩所にて。服部は落ち着きのない様子を見せながら、ソファに腰かけていた。合わせた両手を膝に置き、ボーっとそれを眺めている。先程、勝平に持ち掛けた提案は、言うべきではなかったんではないか、と考えていた。彼のトラウマについては、服部も本人から聞いていた。勝平が詩織一家とあの後どうなったか、も。しかし、共闘の提案を切り出すにしても、彼が一番彼の事を考えるならああ言う他なかった。

 それでも、

「ああ、やっちまったか……」

 後悔の念は消えなかった。

(果てしなくやってしまった服部 駿河! 友の長年の地雷を踏み抜き、見事嫌われ者になりました! これはもう修復不可か!?)

 見た目とは反し、内心では滅茶苦茶早口で言葉を羅列させていた。普段使わない言葉もふんだんに取り入れ、自分の気持ちを紛らわせるように呟いていく。数分、その状態でいた彼だったが、ある一定の時間に達すると、その動作も電源が落ちたかのようにストップした。そして、表情をスッと落ち着きのある表情へと戻し、立ち上がった。

 パチンッ、両手で両頬を軽く叩き、ある決心をする。

「よし、謝ろう!」

 ここでクヨクヨ考えても始まらない。まず、こっちから行動を起こそうと思ったようだ。彼は、扉に向かって歩き出す。そして、扉の前まで来てドアノブに手を掛けた。ガチャッ、と扉を開けた先に、見覚えのある顔がいた。少し息を切らし、こちらをジーッと見上げる。

「カッペ」
「悪い……俺が、悪かった……」

 思ってもいない言葉に、服部は肩の力が抜けた。


———

 勝平は部屋に着いた時、服部に自分の心境の変化を語った。と言っても、僅かだが……。しかし、ただ自分の先入観で決めつけて、逃げていたことを彼は認めた。彼の急な風の吹き回しに、服部は少し戸惑いながらも、それを温かく聞いていた。一通り話すと、ここが本題と言うかのように彼は話を切り替える。

「俺の落ち度を認めた上でここから勝手に話を進めるんだが、良いか?」
「ん、何を話すんだ?」

 ソファに再び腰かけ、服部は返す。

「さっきお前が俺に提案をしたろ?」
「ああ! 受けて入れてくれるのか!?」

 パァ、と表情を明るくする彼に、勝平はぎこちないながらも、頷いた。

「ただ、奴らに協力するのは条件付きだ」
「条件?」
「と言っても、あくまで理想の話だがな。どう見ても、状況的にあちらが優位的な立場だし、こちらの勝手な条件を鵜呑みにするかと言われれば、怪しいな」

 勝平は窓の体育館内に広がる光景を窓越しで見下ろしながら、答える。

「じゃあ、却下されたらどうするんだ?」
「そん時は、雑用なり何なり適当にこなして出世するつもりだけどな」

 出世とかそういう問題なんだろうか? と微かな疑問を持ちつつ、服部は口にしなかった。

「で、条件っていうのは何だ?」
「条件としては、生徒会の参謀として席を置かせてもらうこと。できない場合は、雑務でも良い」

 そんなに都合が良くいくかどうかは置いといて、服部は彼の積極的な行動に感心する。しかし、数秒遅れてあることに気が付く。

「お前、戦線には出ないのか?」

 彼は眉間に皺を寄せ、答える。

「……出ねぇよ」
「なんでだ?」

 はぁ……と溜息を吐く。

「毎日ゲーム三昧で、飯は一日二食。栄養価は片寄ったものばかりで、量も少ない。それに日頃、運動もしていないような奴がどうして、戦線で活躍できると思うんだ?」
「だってカッペ、あの生徒会長に勝ったじゃん」

 語るのもめんどくさいと、内心思いながら彼は座っている服部へと視線を動かした。

「あの時は俺と手を組んでた伊吹せ……伊吹先輩の手柄だ。あいつがいなかったら、死んでたさ」

 一瞬、伊吹の事をどう呼ぶか迷った勝平だったが、命を救ってくれた恩人として敬意を込めてそのように呼ぶことにした。気恥ずかしさはあったとは言え……。

「またまたぁ〜」

 ひょうきんな笑みを浮かべて服部は言った。

「いいや、無理だった。足は走る度に関節が悲鳴を上げて、肺も急に激しく使ったせいか呼吸もままならなかった。そんな状態であんな女をずっと相手にするのは、どう考えても敗色濃厚だ」
「………」

 服部は少し考えた素振りを見せると、口を開いた。

「そっか、どんまいだな!」
(殴ってやろうか)

 勝平の額に薄っすら青筋を立てるが、すぐにそれは落ち着いた。実際、あのままだと勝平は負けていた。体力や肉体的な面でもそうだが、精神的にもそうだった。相手が圧倒的な力を持っていると、自分と相手との差を感じて絶望する。スポーツでも似たような経験があると思うが、それも同じだ。勝平はあの時、ほぼ心が折れていた。折れて、絶望しているときに伊吹が助けに来た。それがあったからこそ、なんとかなった。これを勝ちとは、彼にとっては言えなかった。

 『鈴木さん』と相対した時も、複数人いたからこそなんとかなった。思い当たる二戦は全て、誰かのサポートがあったからこそ。もし戦線に赴いて、孤立させられた場合、勝平は何もできずに殺される。伊吹から作って貰ったスキル『意識介入(デュアル・シフト)』があれば何とかなると思うかもしれないが、相手が複数の場合だとその効果も意味も成さない。一人を操っても、他の奴が抜け殻の勝平を襲うだけの事。もう一方のスキル、『虚無返還(オール・マイティ)』は効果すら把握していないので使い方も分からない。

 必然的に、彼は参謀や雑務などの直接的に戦闘に関わらない動きで行くことになる。少ししこりのある計画だがそれも仕方なかった。

 その時だった。

「ゆっくりできましたかー?」

 開いた扉から覗き込むように、彼女が出てきた。生徒会書記、桜山 千里。起きているのか寝ているのか分からない糸目で、のほほんと笑みを浮かべて入ってくる。彼ら二人は呆気に取られながら、彼女へと視線を注ぐ。滑らかな茶色のショートヘア—を靡かせながら、二人を交互に見る。

「確か、生徒会の桜山」
「おー、名前覚えててくれてたんですねぇ。嬉しいですぅ」

 いえーい、と一定のテンションを保ちながら喜びを表現する。

「生徒会長が呼んでるのか?」
「その通りですー。返事が聞きたいそうですよぉ。あっ、あと村上さんもさっきの件で謝りたいそうですよぉ?」

 
 彼女から出た意外なワードに勝平は唖然とする。

「あいつが?」
「そうですよー。あ、信じられないですー?」
「そりゃあな」

 信じてやれよぉ、と服部は心の中で呟きながら彼らの話を聞く。

「来てみたら分かりますよぉ?」

 それもそうだな、と勝平は納得しつつ服部に目を配らせる。彼もそれに同意したようで、軽く頷く。

「大丈夫ですかぁ?」
「ああ、問題ない」
「では、付いてきてくださーい」

 相変わらずの笑みを浮かべて、部屋の出入り口へと歩き出す。勝平と服部もそれに合わせて、彼女の後ろを付いて行った。

 

Re: リアルゲーム ( No.152 )
日時: 2018/01/13 02:29
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)


今更ですが、明けましておめでとうございます!

無事に年が明けて、皆さんどうお過ごしでしょうか? 自分は日頃の疲れが溜まってるせいか寝てばかりでしたねw

そのせいで投稿の方もすぐに出来なかったですし、リアルがちょっと忙しかったというのもありました。ここでお知らせなのですが、もう少し投稿の間隔を開けていこうと思います。

理由としましては、四月から専門学生になるからです。新しい環境下で色々といっぱいいっぱいで小説に気が回らないと思いますので、このような形になりました。

また投稿の目処がたち次第、追って連絡します。今年も、電波と『リアルゲーム』をよろしくお願いします!

p.s
あ、大会銅賞受賞ありがとうございます! 更新していないのにも関わらず、票を入れてくれた皆さんに感謝しています!

Re: リアルゲーム ( No.153 )
日時: 2018/07/15 08:32
名前: 電波 (ID: fhP2fUVm)


お久しぶりです。電波です。
皆様どうお過ごしですか?
もうすぐ夏休みですね!
色々楽しみではありますが、事故には気をつけて下さいね!
川や海など水の事故が多くなる季節でもありますので、注意していきましょう!
それと、本題で、生活の方もだいぶ慣れてきましたので、七月中にまた投稿してきたいなーと思っております。
長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
あと、今までのような投稿が難しくなると思います。学校の方は慣れはしたものの、なかなかやることが多いので、ちょっとここに投稿する頻度が落ちます。
ご了承ください。
それでは、また次の投稿をお待ちください!

Re: リアルゲーム ( No.154 )
日時: 2018/07/30 00:05
名前: 電波 (ID: iruYO3tg)

「すまないっ!」

 会議室に入って早々、彼らは謝られた。お手本にしたいほどに綺麗な姿勢で頭を下げる彼女、村上を目の前にし、呆然とする男二人。

「つい先程はカーッと熱くなってしまって、言葉の配慮が足りなかった!」
「………」

 彼女は頭を下げたまま、はっきりと口にした。反応に困る勝平。こういう場合、なんて言葉をかければ良いのだろうか。最初の言動から一転して、自分の非を認め始めた彼が言うのもなんだが、ちゃんとした回答が見つからない。

「彼女もこう謝ってるから、許してあげなさい」

 少し離れた席から生徒会長が声を掛けてきた。目を閉じた状態で、両手を組んで肘を着かせる。先ほどの張り詰めた空気から、少し柔らかな雰囲気を放っていた。彼は再び目の前の村上へと視線を移す。こういう空気の中で、言葉を発するというのは本当に気まずいなと内心漏らしながら、言い辛そうに口を開く。

「俺も、悪かったよ……」

 そう言うと、村上は顔を上げる。触っただけで火傷してしまいそうな赤面の顔。そして、今にも涙が流れ出してしまいそうな瞳。勝平の瞼が通常より少し上がった。

「…………」

 その時、パチンッと音が鳴った。皆、一斉に音の鳴った方へと視線を向ける。

「よし、無事に仲直りできたということで! よーし、次に話を進めようか」

 両手を合わして、ニコニコと笑みを浮かべた状態で言う服部。一人は呆気に取られ、一人は冷ややかに彼を見つめ、一人は目を閉じて動じず、一人は彼の勢いに便乗する形でおー、と片手を上げる。良くも悪くも、彼は今日も空気を壊していく。

———

 詩織一家と唯腹一家の交流が二年が経過した。その間、吉谷(よしたに)、和夫(かずお)、花咲里(かざり)の兄弟と勝平は順調に仲を深めていた。主にこの三兄弟が彼に積極的に話しかけている状態ではあるが、最初と比べると彼の表情も幾分かはマシになってきていた。優しい表情で尚且ついつも笑いかける吉谷。調子者だが持ち前のハイテンションでその場の空気を和ませる和夫。しっかり者で、面倒見の良い花咲里(かざり)。この三人に少し振り回されはするものの、彼も何かと付き合っていた。

 そんな日常が続いていたある日。テレビのモニターを前にして、勝平はコントローラーを握りしめていた。表情は真剣そのもので、何者をも話しかけさせることを許さないオーラを放っている。戦略型ゲーム。相手の行動を先読みし、その上で自分はどんな攻撃をするか選択する。相手の本拠地を制圧すれば勝ち。逆にこちらの本拠地を制圧されれば、負けの至ってシンプルなゲームだ。

(あともう少し、あともう少し……)

 あともう少しでステージをクリアできる、その時だった。

「あっ……」

 拍子抜けするような声を彼は漏らした。画面は暗転し、ゲームオーバーの文字が並び始める。過度な集中が続いたためか、相手の行動を十分に把握しきれなかったようだ。拠点は攻め込まれて、あっという間に壊滅に追い込まれた。言い知れぬ不満を抑えつつ、彼は再びコンテニューを押す。

「何やってるんだ?」

 ふと、勝平の背後から声が聞こえる。

「戦略ゲームだよ。自軍と敵軍でどちらが先に相手の拠点を取れるか勝負するんだ」

 勝平は振り返ることもせず、背後にいる吉谷の質問に答える。

「へー、面白いのか?」
「まぁ、面白いよ。ただ、操作性があまり良くないんだよね。お陰でこのステージがどうしてもクリアできなくて、さっきから数時間ぶっとうしなんだ」

 吉谷は再びゲームを開始する勝平をジーっと眺めながら言った。

「勝平はさぁ、外の友達とは遊ばないのかよ?」
「遊ばないよ。話してて疲れるし、趣味も合わないし、付き合いがめんどくさい」

 流れ作業のように返す彼に、苦笑いを浮かべる吉谷。

「そっかぁ、なら仕方ないか……でも、こういう事も覚えておけよ?」
「あっ……何すんだよ!」

 吉谷は勝平の持つコントローラーを後ろから奪い取ると、何やらボタンをポチポチと押し始めた。文句を垂れ流す、勝平をよそに何かを終えると、ほれっ、と大人しくコントローラーを渡す。

「ちょっと動かしてみ」
「………」

 不機嫌そうに頬を膨らませながら、ゲームを再開する。すると、始めて数秒である変化に気づく。

「あれ、操作がしやすい……」
「そうだろ」

 ニコッと吉谷は笑って見せた。

「お前、素直にゲームの初期設定の操作で慣れようとしすぎてるんだよ。やりにくかったら操作設定変えれば良いだけの話だぞ」
「そんなこと知らないって! 操作変えれるなら先に言って欲しいよ!」

 こういうのは説明書に書いてあるんだよなぁ……とほのぼのとした言い回しで言う吉谷に、勝平はぐうの音も出なかった。続けて、吉谷は言う。

「それと、ゲームついでに言っとくが、もし状況を変えたい時があったら、まず変わるのは自分の方だからな勝平」
「………?」

 何を言ってるんだ? と首を傾げる勝平。しかし、そんな彼に対して吉谷は微笑んで続ける。

「操作設定を変更したろ? あれと同じで操作がうまくできなきゃゲームも進まないだろ? それと同じように、現実の世界でも自分から変わる努力をするんだよ」
「……まぁ、考えとく……」

 いまいち心に響いてなさそうに、死んだ目ではいはいと彼は答えた。せっかくここまで語っておいて心響かなくて、恥ずかしさと拍子抜けのような気分を吉谷は味わった。勝平の背後で悶える男の声が聞こえる。

「だけど……」

 ふと、勝平は呟くように言った。

「ありがとな……ヨシニィ」

 一瞬、呆然とした表情をした吉谷だったが、少しの間の後、フッと笑みを浮かべた。

「当たり前だろ」


———

 体育館内にて。避難してきた生徒達は言い知れぬ不安を抱えながら、身を寄せ合っていた。狂気、恐怖、不安、体育館の中に充満し、今にもそれだけで窒息死してしまいそうな負のオーラが充満している。

 そんな中、舞台に一人の生徒が横から歩いてきた。その生徒は、中央に置いてある教卓の所までで立ち止まると、視線を体育館にいる生徒達に向けた。すらっとした手を教卓に乗せ、凛とした視線はこの空気を断ち切る鋭いもの。桐ケ生徒会長、桐ケ谷 綺麗 は教卓に設置されたマイクの電源をオンにし、開幕早々こう言った。

「いい加減に目覚めなさい」

 ざわざわとする、体育館。注目が集まる中、会長は冷ややかな視線を全生徒に返しつつ言葉を続ける。

「私達は、ここに隔離された。誰も助けには来ないし、呼ぶことも出来ない。おまけに、外には人の姿をした化け物がいる」

 彼女は絶望的なこの現実を、突き付けていく。突き刺さったナイフをぐりぐりと押し込むように。

「端的に言うと、絶望的よ。私たちに助かる術があるなら教えを乞いたい程に」

 生徒たちの不安は加速する。誰でも分かっていた事だが、学園の支持率の殆どを獲得している会長の言葉は、一般の生徒が言う言葉とは比べ物にならない程に重みがあった。体育館内に再び、すすり泣く声が聞こえ始める。

 しかし、彼女はそこで、だけど、と付け加えた。

「まだ、終わりじゃない」

 生徒達は呆然と会長を見つめる。

「私達には、普段の生活では決して経験することのない物を持っている」

 そこで、全生徒はこの会長が何を言おうとしているのか、察しがついた。

「異能(スキル)」
「ふ、ふざけんな! それで俺たちを外に出させるつもりかよ!」

 瞬間、体育館内にいた生徒の一人が立ち上がり、否定の意見を述べた。不安や恐怖を抱えつつも、何とかこの場にいることで精神を保っていた生徒だったが、会長の発言によっていよいよ耐えられなくなった。この状況で会長が演説をするということは、自分たちを使って外の怪物と戦わせる他ないのだ。それはもう、自分たちに死ねと言っているようなもの。
 
 後に続くように、抗議の嵐が巻き起こった。俺たちを殺す気か! テメェで何とかしろ! ここから出て行け! と色々な罵詈雑言が一人の女性に向けられた。声で体が微かに震え、並大抵の人間では立ちろいでしまう生徒たちの声だったが、会長のとある行動に一瞬にして静まり返った。

 微笑んでいた。それは、何の変哲もない日常で使われているようなもので、それ程違和感のあるものではない。しかし、この会長の笑みはいつも通りのはずなのに、狂気的な何かを滲ませていた。

 これ以上声を上げていれば、命に関わるような罰を受けるのではないかという先入観の下に、生徒たちは黙った。黙らされた。

「皆、元気があって良いわね。これなら当分は大丈夫でしょう」

 穏やかにそう言う会長。その時、不意に固まる生徒の中、一人の生徒が手を上げた。

「あの……質問して良いですか?」
「ええ、良いわよ」

 気弱そうな生徒が一人立ち上がり、質問する。

「噂で聞いたのですが……会長たち生徒会は、昨日の晩に私たちを利用して、何かをやらせようとしていたと聞いたのですが……本当ですか?」

 ざわ……と辺りがどよめくが、会長は戸惑う様子もなくこう返す。

「ええ、本当よ。正確には、あなた達を傀儡にして鈴木さんと戦わせるつもりだったと言うべきかしら

 その発言に、再び周りが騒がしくなり始めたが、会長の一声ですぐに静まり返る。

「で、では……なぜそのまま私達を傀儡にして『鈴木さん』と戦わせなかったのですか?」
「答えは簡単よ。素のあなた達の方が強いから」

 会長は淡々と言葉を述べる。

「傀儡にしたあなた達を利用しても個人の所持しているスキルを十分に使うことが出来ない。だから、私はあなた達をそのままの状態にした」

 言い終わると、フッと自分を侮蔑するように微笑んだ。

「いいえ、違うわ。本当はあなた達のことが大切だから……」
「会長……」

 会長はごめんなさい、と言い、次の言葉を言う。

「今回のこの演説も私はあなた達を守りたいから。でも、私の力なんてたかが知れてる。守れる人数なんてこれっぽっちもいない。だから、協力してほしいの。私に……」

 生徒達はまだ、完全に彼女の事を信用できなかった。なぜなら、言葉だけならどうとでも言えるからだ。会長は、その考えを察して言う。

「そうね、信用できるはずがないわね」

 そう言って、彼女はバンッと机に手を広げて置いた。もう片方の手にはいつの間に作ったのか、三十センチ程の氷柱が振り上げられていた。角度的に手前の位置にいる生徒達からはよく見えていた。何が起ころうとしているのかも、簡単に分かってしまう程に。


「これから行うことは、少々過激になるわ。見たくない人は目を瞑ってなさい」

 ざわざわと一斉に声が上がる。中には悲鳴があがり、止めるよう声を上げる人物も現れるがこの会長はもう止まらない。振り上げた氷柱は振り下ろされ、ざわめきを裂くように肉の引き裂かれる音が響いた。


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