ダーク・ファンタジー小説

リアルゲーム
日時: 2017/06/21 00:50
名前: 電波

皆さん初めまして、電波と申します!
ここで投稿するのは初めてなので少し緊張しているのですが、よろしくお願いします。
また、文才ないのでうまく書けないかもしれませんがご了承ください!
それとそれと!
この作品には過度な暴力表現とグロテスクな描写が(たまに性的描写も)あります。それがダメな人は回れ右してください!

・注意事項

暴言や荒らしなどの行為はやめてください。


以上です。

・ゲームのルール

1.『全校生徒で殺し合いをする』

2.『期間は7日間。それまでに校内の生存者は2人にしておくこと。また、期間内に規定の人数に到達しなかった場合、全員失格。死刑になる』

3.『ゲーム途中に校外へと出た者は罪(ペナルティ)となり、失格となる』

4.『全校生徒にはそれぞれ戦うための異能(スキル)が配布される』

5.『殺し方や戦い方に縛りはない』

6.『校舎内に『鈴木さん』が徘徊する』

7.『クリア条件は2種類。1つ目は7日間以内に生存者を2人にすること。2つ目は校舎を徘徊する『鈴木さん』を殺すこと。その場合は、生存者の数に関係なくゲームがクリアとなる』


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Re: リアルゲーム ( No.146 )
日時: 2017/07/15 21:12
名前: 電波

 保健室では、田中と三戸部の二人は、グラウンド側に面している箇所に集まる。彼ら二人のこれからの行動はこうである。保健室から体育館までの距離が、およそ百メートル。窓側の扉から出て、左に曲がって真っすぐに進めば、体育館に辿り着く。ただそれだけである。聞いてみると、ただなんの考えもないような案だが、そうではない。根拠は、このゲームのルールにある。

 『ルール6、鈴木さんは校舎内を徘徊する』

 察した者もいるかもしれないが、逆説的に言うと『鈴木さん』は校舎から出られない可能性があるということだ。文章には敢えて校内ではなく、校舎内と言ってることがその証拠である。こちらにもルールがある通り、向こうの化け物にもルールがつけられているようだ。

  
「ここから出て真っすぐ行けば、体育館があるっす。たぶん他の生徒もいると思うんで、そこに行けば安心です」
「え、あなたは?」
「俺はまだここで残ってる人がいないか探してきます。でも、今はあなたを送り届けてからっす」

 そう言って、外の様子を窺う。目に見えるのは、いつも見慣れたグラウンドとその手前のアスファルトの道。普段とは何も変わらない光景。死角になっている場所は角度を変えて覗き込もうとするが、なかなか見えない。ドアノブに手をかけ、田中は声を掛ける。

「少し扉を開けるっすよ。そん時、なにか――」
『元気シとおや』

 言葉を止め、彼は声のする方へと視線を向けた。我が目を疑った。田中の隣にいた彼女の背後、まるで彼女の身長に合わせるように背を曲げ、不気味な笑みを浮かべた面のあの『化け物』が立っていた。

「ッ!!」

 驚愕を表す田中。彼は慌てて彼女の手首を握り、扉へと体重を移動させる。彼は神居のように戦闘ができるわけではなく、ナイフを一突きされたらすぐに死んでしまう程に、か弱い存在だ。なら、このまま倒れるように外へと出れば、相手も追っては来れない。

「きゃっ、なに!?」

 小さく悲鳴を上げる三戸部。

「『鈴木さん』だ! 逃げるぞ!」

 そう言った直後、グイッと彼の首の襟の後ろが引っ張られた。貧弱と言えど彼は平均的な男である。並大抵の相手じゃ、引きずるのも難しいだろう。だが、全体重が掛かって倒れこもうとする彼の体を簡単に浮かせた。

 ガシャン

 気づけば彼の体は廊下に通じる扉を突き破り、廊下の壁へと転がっていく。壁に叩きつけられた衝撃は、彼の臓器を殴った。悶える暇もなく、鉄の味がした液体が口の中に溢れ、制服にぶちまける。てっきり胃の内容物がでるのかと思った彼は、それに旋律した。

「きゃあ!!」

 視線を動かすと、彼女が宙に浮いていた。正確には吊るされていた。彼女の首を片手で掴み、首を傾げて彼女を眺める『鈴木さん』。三戸部は息が出来なく、必死にその手を外そうともがいていた。

 内部で暴れまわるような痛みに耐えながら、彼は立ち上がり、『鈴木さん』に走り出す。一歩踏み出すごとに、内臓が揺さぶられているような感覚に襲われる。またこみ上げる物を感じながら、何とか踏みとどまり敵に近づく。距離が二メートルくらいにまで縮まった時、敵は一切彼の方を見ず、ぽいっと彼女をこちらへ投げつけた。
 
 あっさりと彼女をこちらに飛ばしてきて、彼はそれに対応を遅らせる。投げつけられた三戸部を受け止め切れず、そのまま彼女と一緒に後ろへ飛ばされる。ちょうど廊下側の扉の辺りで、二人は落下した。

「いっつ……」
「う……」

 彼の体の上に三戸部が横たわる。

「大丈夫っすか!?」
「なんとか……」

 唸るような声で返す三戸部。死んでいないことに一先ず安心する彼だったが、最悪な状況に変わりはない。向こうの『鈴木さん』は、スッと突然面をこちらに向ける。

 曖昧な意識が正常に変わった。

「行くぞ!!」
「ッ!!」

 田中は立ち上がり、彼女を引っ張り上げる。不安定ながらも、何とか態勢を立て直し、田中に引っ張られ、走る彼女。後ろを振り向けは走って追いかける、化け物の姿があった。

―――

 視点は変わって、唯腹 勝平に移動する。彼らは現在、体育館の扉の前に立っていた。カーテンで仕切られたガラス張りの扉へと近づき、軽くノックをする。数秒の間の後、カーテンが僅かに開き、誰かがこちらを覗く。そして、彼らの姿を確認すると、以前勝平達が入った時に応対した男がカーテンを開けてきた。

 男は無言で扉を開ける。

「お前ら……」
「うっす!」

 服部が軽くそう返すのに対し、男の表情は渋かった。特に柏崎を見てからは、男は少し項垂れるほどに。この時点で男が何を言わんとしているか。勝平は察した。はぁ……と男は重い口を開ける。

「お前ら、校舎に行ってたそうだな」
「ああ、外の様子を見にな」

 服部がニコニコと間の抜けた笑みで返す。そこでもう一度、はぁ……と男は溜息を吐く。

「お前ら、すぐに生徒会長の所に行け。二階にいる」

 やっぱりな、と勝平は内心言い知れぬ不安を感じる。彼らは男からの身体検査は受けず、そのまま体育館に入っていく。

「あと柏崎、会長からの伝言だ。あとでゆっくり協調性というものを教えてあげます、だそうだ」
「なっ……!」

 彼女はたちまち絶望に叩き落されたかのような表情を浮かべ、体が固まった。

―――


 体育館、二階の会議室にて。彼らが部屋に来て早々に、部屋の空気が冷たかった。比喩的表現ではなく、物理的にその空間は冷えていた。五月半ばと言えども、思わず身震いしたくなるほどに寒い。物の配置も以前来た時と変わらず、部屋の中心には長机が置かれている。左右には柏崎を除く、生徒会役員が腰かけ、そして奥には机に両肘を着き、指を重ねて待つ生徒会長の姿があった。

「体の方は万端のようだな、生徒会長」
「おかげさまでね」

 皮肉気に桐ケ谷は答えた。確かに彼女の瞳には光が宿っており、正気に戻っていることが理解できる。ただ、その他に余計な感情が勝平へと向けているのが分かった。と言うよりかは、伊吹から会長の言葉を聞かされているため、それがどういうものかも知っている。そのおかげで、勝平は会長に会うのを一瞬躊躇っていた。

「ところで、俺たちを呼んだのは何か理由があるのか?」

 服部がポリポリと頬を掻きながら、能天気に問いを投げかけた。

「校舎の中の様子、そして外の様子はどうだったかしら?」
「リークが早いな」
「ええ、伊吹君が教えてくれたわ」

 あの野郎……と勝平は時化た笑みでこちらを見る伊吹の姿が思い浮かぶ。怒りを抑えつつ、彼は淡々と今までの経緯を話し始めた。堂本に出会ったことや、屋上での光景、『鈴木さん』との遭遇。全てを偽ることなく話した。一通り聞き終わると、彼女はゆっくりと瞼を上げる。

「……そう」
「は? それだけ?」

 柏崎が声を出した。

「あなたはこれ以上私に何を求めているのかしら?」
「もっとこう……お疲れ様的なものを期待していたんですが!?」
「じゃああなたには十分に、労ってあげる」

 生徒会長がそう返すと、彼ら三人に冷たい空気が背筋を駆け巡る。特に柏崎に関しては、顔色が良くなかった。蛇に睨まれた蛙とはよくこういったものだろう。勝平は彼女に同情の念を抱きつつ、話の話題を変える。

「生徒会長は何か分かったことはあるか?」

 少し桐ケ谷は黙ると、口を開き始めた。

「避難してきた生徒達の治療ついでに、色々な情報を集めてきたわ」

 村上さんお願い、と全ての報告を彼女に任せる。村上 榎並は席から立ち上がり、机に置かれた資料を手に取って読み始めた。

「私たちが集めた情報は、ゲーム開始直後の生徒の状況。何か変わったことはなかったかを主に重点を置いて調べた」

 村上は説明を続ける。

「結果から言うと、我々が調べた内容にはおかしな点はなかった。平常通りに生徒達は教室で待機していたそうだ」

 なによそれ、と柏崎は目を細めた。

「だが、ここで思ってもいないことが分かった」
「………?」

 彼女は資料に書いてある内容を目で追いながら、話し続ける。

「敵、つまり『鈴木さん』がゲーム開始時に襲ったクラスは三クラス。最初に襲ったのは特設クラス、そして次に襲ったのが二年A組。そして次は、会長が在籍しておられる三年C組だ」

 その言葉に勝平が妙なとっかかりを得た。ゲーム開始数分で襲ったにしては、『鈴木さん』の行動が早すぎるのだ。確かに勝平もあの化け物の速さはその目で確認している。だが、それを加味しても三クラスの生徒を襲うことができるのだろうか?

「時間は始まって三分が経過した頃には、会長の教室に奴が現れていたそうだ」


 視点は変わって田中。彼らは外を目指して走っている。彼女の手を引っ張り、安全な場所へと廊下を進む。未だに後ろには、彼ら二人を八つ裂きしようと走っている『鈴木さん』。

「もう少しです! あともう少しで着くんで!」
「う、うん!!」

 階段の踊り場まで差し掛かった時だった。彼女の腕の手応えが軽くなった。まるで三戸部の体が空気に変わったんじゃないかと思う程に体重が感じられない。違和感を感じた田中は彼女の方を見て、言葉を失った。

 腕だけ。彼の腕を掴んでいたのは腕だけだった。彼女自身はそのまま床へと倒れこむ。

「ああぁあぁぁあああぁぁぁ!!」

 腕を押さえ、絶叫する三戸部。そして、田中の視界の端には、血で混じった銀色に輝く刃。彼女の横に立つ、人物。彼女の後ろには、ちゃんと追いかけているはずのハンターがいるはずだった。

 会議室で、勝平はようやく口を開く。

「ということは、複数」
「そういうことだ、最低二人」

 田中は茫然と階段の踊り場に立つその人物を見ていた。その悲しそうな表情の面は、先ほどの『鈴木さん』とは違う不気味さを感じさせた。誰をも恨むのか、悲しむのか分からないその面を、田中に向ける。

 桐ケ谷が口を開く。

「『鈴木さん』は、二人以上存在する」

 哀しみの面の『鈴木さん』は、一瞬で彼に近づくと、握っているナイフを天高く上に上げ、真っすぐ田中の方へと落下させるのだった。

 

Re: リアルゲーム ( No.147 )
日時: 2017/07/24 17:29
名前: 電波


 生徒会室にて。彼、伊吹 和麻は窓から見える外の様子を眺めていた。いつも通りの見慣れたグラウンドの景色。学校の周囲には木々が並び、その向こうには自分が暮らしている街が見える。すぐそこにあるのに、行くこともできない。まるで陸の孤島のようだ、と伊吹は心の中で呟いた。

「伊吹さん……?」

 ふと後ろで席に座っている彼女が声を掛けてきた。

「ん、なんだ?」
「その、何か考えごとでもしていたのですか? 私で良ければ、相談に乗りますよ」

 柔らかな笑みで彼にそう問いかける。この状況でなんでそんな表情ができるのか、少し興味を持ちつつ、質問に答える。

「ただのホームシックだ。今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなる。普段過ごしてきたことが、何より幸せだったってこの状況になって思える」
「伊吹さんの気持ちはよく分かります。私も色々と生活で苦労してきましたが、そんなことは些細な事、寧ろ幸せだったのかもしれません」

 死んでしまったら何もできないですから、と付け足して言った。神妙な面持ちで伊吹は滝沢を見つめる。

「ですが、私は負けません」
「………」

 彼女は笑みを浮かべたまま、両手の小さな拳を胸の辺りにまで上げた。

「生きたいです。辛いことは沢山ありますけど、その倍は良いことがあります。だから、伊吹さんは諦めないで、しっかり希望を持ってください!」

 前向きな人間というのはこれほどまで、明るく考えれるのかと素直に感心する伊吹。これが、今までの彼女の人生が今の滝沢を作ったのだろう。

「強いんだな」
「あ、いえ……私は伊吹さんが言う程強くなんか……」

 苦笑いを浮かべながら、彼女は返した。

「強くねぇとあの男と一緒にいることも出来ねぇよ」
「はは……」

 困ったように笑う彼女を見て、気持ち的に少し穏やかな気分になった。彼女は彼女なりに、クスッと笑う。あまり大きな声は出せないものの、二人のこの空間はゲーム前の平穏な日々の一コマのようだった。

「そう言えば、初めて対面したとき、なんで私の名前を知っていたのですか?」

 ふと思い出したように、彼女は口を開く。

「自慢じゃあないが、学年全員分の名前と個人情報は知っているつもりだ」

 伊吹は楽しそうに語る。彼女が口を開けたまま、笑顔になっていることに気が付きながらも。

「個人的に趣味の話だが、人間観察もしている。良いぞ人間観察。人のちょっとした癖や人間関係、何が好きで何が嫌いかよく分かる。それをクラス全員にやってみろ、あいつらの行動パターンが手に取るように分かる。まるで、舞台の上の人形みたいで面白いぞ」

 一般の生徒から見たら、ドン引き確定の発言をペラペラと話す。しかし、そんな彼に対してこの女性も些かアレだったようだ。

「すごいです! 伊吹さんは周りの生徒さんのことを気遣うため相手のことをよく知り、互いに良好な関係を築くことが好きなのですね! それ程までに皆さんの事を考えている方はそうそういるものじゃありません!」

 両手を合わせ、満面の笑みで素直に感心される。自分の伝えたいことが、全然相手に伝わっていなかった上に、それを変に良い方向へと捻じ曲げられてしまった。彼は呆気に取られ、お、おうと反論することもできない。

 その時、コンコンと扉の前を叩く音が部屋に木霊する。一瞬にして、部屋を包んでいた平穏も緊迫した空気へと変わった。彼は表情を引き締め、扉の前に立つ。

「誰だ?」
「呼ばれたから来た」

 少し溜息を吐き、彼は向こうの相手に問いかける。

「周りに奴はいるか?」
「いない」

 伊吹はゆっくりと扉を開け、外を見る。いるのはボロボロの制服を纏った神居ただ一人。神居の姿を確認すると、彼を部屋に通し、扉を閉めた。

「やぁ、元気にしてた? 滝沢さん」

 入って早々、神居は彼女に挨拶をする。

「あ、桐ケ谷さん! お怪我の方は大丈夫ですか!?」

 彼女はパァと表情を明かる気に彼へと向けた。

「ああ、見ての通り……って目が見えないか。一応万全かな」
「あはは……」

 とんだジョークを滝沢に浴びせながら、神居は話の内容を変える。

「で、もう図書館に行くのかい?」
「そうだな、なるべく早くに行動は移しておいた方が良い」

 伊吹はそう言うと、フッと笑みを浮かべた。突然笑みを浮かべる彼に、神居は眉を寄せる。

「それ、なんの笑い?」

 彼は盲目の少女の方へと指を差し、口を開く。

「きっちり奴のお守りをしておけよ、ナイト」


―――

 一階の廊下にて。静寂の中、呻く声と共に血液が廊下の一端を染めていく。その血は、床に突き刺さったナイフを包み込み、そして次へと進む。泣き顔の『鈴木さん』は動作を行わず、ナイフを突き刺したままの姿勢で数秒いた。

 ついさっきまでいた田中の姿はなく、いるのは右手を切り落とされた三戸部。そして、二人の『鈴木さん』。彼女の後ろを追いかけていた笑い顔の『鈴木さん』は、重症の彼女の所まで追いつく。

『寝る子は育ツ。寝る子は育ツ』

 そして、笑いの面の『鈴木さん』は裾からナイフを取り出し、彼女にナイフを振り下ろす。狙いは彼女の首元。真っすぐに進むナイフの切っ先。あと数センチ下せば貫く所で、笑いの『鈴木さん』の手は止まることになった。

 ズシャ

 肉を裂く音と共に、彼女の首に一本のナイフが突き刺さる。ナイフは三戸部の首元に突き刺さり、パクパクと口を開閉させる。目を見開き、苦しそうに一瞬もがく。その後、浮いた体が床に落ちた。

 笑いの『鈴木さん』は彼女を刺そうとしたそのままの姿勢で、首をぐるっと悲しみの『鈴木さん』へと向けた。相手もじーっと笑いの『鈴木さん』を見る。笑いの『鈴木さん』はゆっくりと立ち上がると、一言悲しみの『鈴木さん』に向けて放った。

『何でヤねん』

 悲しみの『鈴木さん』は何も返さず、真後ろの階段へと方向を変え、上っていく。笑いの面の『鈴木さん』はジーともう片方の『鈴木さん』の後ろ姿を眺める。階段から姿が見えなくなると同時に、階段の奥から童謡が聞こえてくる。

『とおりゃんせぇ〜とおりゃんせぇ〜こぉこはどこの細道じゃあ』

―――

「で、これは?」

 体育館の会議室にて。苦々しい顔を抑えながら、勝平は金谷から受け取った一枚の紙を桐ケ谷に見せつける。内容はこうだ。

『我々、唯腹 勝平と服部 駿河は生徒会に全面的に協力することを誓います』

  
 下には名前を書く欄があり、そこは空白。勝平達にサインを書かせるためのものだろう。なぜこんなものを書かせようとするのか、疑問が解けない勝平。そんな彼に、当然の如く彼女は平然と答えた。

「誓約書よ。ここにいる以上、団結しないことには生き残ることはできないから」
「お断りだ。俺はつい先日まで敵だった奴らとは組みたくないね。結果として洗脳は解けたが、お前らのやることが俺と合う気がしない」
「建前ね。そんなのは都合の良い口実。実際、私達の洗脳を解除するのに伊吹 和麻と協力関係になっていたじゃない」

 勝平は眉を少しピクッと反応させ、口を開く。

「一時的なものだ。奴とはもう組んでいない」
「そう、まぁ良いわ。あなたが私達と組みたくないのは十分分かったわ」

 けど、と桐ケ谷は言った。

「これはあなた一人の我がままで済ませられないのよ。こうしている間にも人がどんどん死んでいく。現に、体育館内で避難してきた生徒数人が怪我が悪化して死んだわ」
「………」

 確かに、ここへ来る道中、布団で寝かされてる生徒の中に数人、白い布を顔に被せられている者を勝平は見かけた。あれが会長の言っている、死んだ生徒のようだ。

「確かに死んだ奴がいる以上、俺も何もしない訳にはいかない。だけど、それでお前らと組むということとはまた別だ」

 すると、さっきまで無言を貫いていた村上がバンッと机を叩いて立ち上がった。キッと勝平の方へと向けると、怒りで口元を歪ませてこう言った。

「この期に及んでまだ協力しないのか貴様は!?」
「村上さん、落ち着きなさい」
「いいえ、落ち着けません。この男が無責任に勝手な行動を起こすから、余計に人が死んでいくんです!」

 語気を荒らげ、村上はさらに言葉を続ける。

「知っているか!? お前のような自己中心的な考えを持つ奴が真っ先に周りから孤立する! それでいざとなれば助けも来ず、惨めにただ―――」

 暴走する彼女が言葉を発していた途中、彼女の目の前で何かが遮った。村上の目と鼻の先でトスッと、机に突き刺さった物は、彼女を冷静させるのに十分だった。机に刺さっていたのはナイフのように鋭く、片手を覆いつくす程に大きな氷だった。

「いい加減にしておきなさい。それでもあなたは生徒会なの?」

 冷たい瞳を彼女に向け、冷ややかに放った言葉は身をも凍らせそうだった。

「し、失礼しました……」

 我に返った彼女は一言詫びを入れ、席に着いた。表情は、桐ケ谷に指摘されたせいなのか些か暗く、俯いていた。桐ケ谷は再び勝平の方へと視線を向ける。

「まだ話すこともあるけど、一旦休息も必要でしょう。金谷さん、彼らを案内してあげて」
「は、はい!」

 金谷がそそっと勝平達に歩み寄り、こちらですと前を先導する。言われるがままに勝平と服部、そして柏崎も行こうとする。その時だった。

「柏崎さん、あなたどこに行こうとしているの?」
「ッ!?」

 ギクッと体がびくつく柏崎。恐る恐る振り向く彼女は、会長の目を見て震えた。冷ややかな目に宿るのは怒り。そして、それを引き立てるのは小さな笑み。完全に忘れていた、と柏崎は絶望した。

「さぁ、お勉強の時間よ?」

 カタカタカタ、と肩を震わせる彼女を横目に勝平と服部は、柏崎が無事に帰ってることを祈りながら、おどおどする金谷を連れて部屋から退出した。

Re: リアルゲーム ( No.148 )
日時: 2017/08/13 19:42
名前: 電波


 勝平達三人は、金谷の先導の下に先を案内される。会議室の部屋から出てすぐ前にある階段を下り始める勝平と服部。木で出来た階段を踏みつける度に、キシキシと音を鳴らす。何気ないこの音が、やけに神経につっかかるような不快感を感じながらも、勝平は階段を下っていく。ふと、前を下っていた金谷が口を開いた。

「嫌わないでね、村上さんを」
「え?」

 ポカンとする彼ら二人に、尚も金谷は続ける。

「いつもは真面目過ぎて空回りしたり、ちょっとおっちょこちょいな所もあるけど、優しくて、世話好きな人なんだよ」

 優し気な声色で彼女は話す。

「今はちょっと不安定みたいでね、あまり周りに目が行かなくて……ほら、さっき会長が生徒数人が怪我が悪化して亡くなったって言ってたでしょう?」
「あ、ああ」

 服部が戸惑ったように返す。

「その生徒の中の一人が村上さんの友達なの」
「………」

 彼女がそう言った所で、階段を全て下り切り、今度は階段のすぐ傍にあるステージの上へと上り、体育館を横切るように歩き始める。彼らもそれについて行く。

「目の前で友達が死ねば、そりゃあ平常心でいられないよ。きっととても悲しいはず。さっきはああなっちゃったけど、あの人もあれが本心じゃないから気にしなくて良いよ」
「………」
「どうしたカッペ」

 服部の問いかけに、勝平は目を細めて、なんでもないと答える。若干不貞腐れたような言い方だが、服部はフッと笑い、そうかと口にする。金谷が舞台の脇へと入っていく。後に続く二人。薄暗い空間が広がる中、一つの階段が上へと続いていた。彼女はそれに上り始める。男二人もそれについて行く。

「ところで金谷さんだっけ?」
「呼び捨てで良いよ。同級生だし」

 金谷は笑みを含んで言った。

「そうか、じゃあ金谷」
「うん、なにかな?」

 彼ははっきりとその先を見上げて、まるでそこへと語りかけるように言った。

「お前、クマさんが好きなのか?」
「っ!?」

 金谷は急いでスカートを押さえ、後ろにいる服部へと視線を投げた。頬は羞恥で真っ赤に染まって、動揺しているからか瞳はプルプルと震えている。勝平はと言うと、視線を下に下ろしており、自分はこの騒動には関与してないですよ、とアピールする。

―――

「ここが休憩場所だよ。時間がきたらまた呼びに来るから、それまで何してても良いよ」

 薄い笑みを浮かべて、金谷は部屋から退出した。残された二人は部屋を見渡す。部屋の中はざっと、物寂しい雰囲気だった。あるとしたら、部屋の隅にソファが置いてあり、その前には授業用で使われている机が横一列に並べられている。そして、部屋の出入口の横には小型の冷蔵庫が設置してあることだった。必要最低限の物のみを置きました、とでも言いたいような部屋だ。

 服部はフー、と深く息を吐いてソファに近づき、腰を下ろした。それとは別に、勝平は入り口の扉を閉めると、近くの冷蔵庫に近づき、身を屈める。膝くらいまでしかない冷蔵庫のドアを開け、中身を確認する。

「なぁ、カッペ。あの人達、どう思う?」
「生徒会のことか?」

 そう、と服部はソファの背もたれに両腕を掛けて、天井を見上げた。

「別に何とも思わねぇよ」

 勝平は冷蔵庫の中身を見ながら答える。

「俺さ、あの人達に協力しても良いと思うんだよ」
「………」

 彼は話し続ける。

「純粋に皆を守ろうとしてるし、ああいう人達って大概裏表ないから信用できるっていうか」
「お前の言いたいことは分かる。確かにあいつらがやろうとしてることに何か企みがあるとは思えない」

 だけど、と勝平は言う。

「俺は嫌だ。お前には悪いが信用できないんだ」
「裏切るかもしれないってことか?」

 静かに勝平は頷いた。半分困った表情を浮かべる服部。人間の本質は簡単に変わらないものなんだな、と服部はらしくないことを考えながら、彼へと視線を移した。

「そんなこと言ったら、俺だって裏切るかもしれないぞ?」
「長い付き合いだし、それはねぇよ。ただ、優しい奴だろうとすぐに信用するのは出来ない」

 服部は少し彼に揺さぶりをかけてみようと試すが、軽々と躱される。そこまでの信頼を持ってるのは素直に喜ばしいことだが、服部自身それではダメだ、と判断し、さらに問いを投げかける。

「たまには、俺以外の奴を信じてみたらどうなんだ?」
「信じたくとも信じられねぇんだよ。お前も分かるだろ」

 目を細め、忌々し気に言い放つ。しかし、服部は引かない。

「分かってるからこそだ。ぶっちゃけ言うが、お前、俺以外にあまり友達いないだろ?」
「……っ!」

 突如放たれた言葉に不意を突かれたのか、彼は少し体がビクついた。そして、ぎろっと鋭い目線が服部を射抜く。

「う、嘘だって! そりゃあ何人かいるよな!」
「………」

 再び彼は冷蔵庫へと視線を向ける。慌てた服部はホッと安堵のため息を吐くと、話の路線を元に戻した。

「だけど、実際頼れる奴は多いに越したことはないだろ?」

 服部はそう言って席から立ちあがった。彼の言っていることは正論だ。閉鎖された空間で、集団での行動を拒否することは『死』を意味する。何かしらの繋がりを持っておかないと、最悪、見捨てられるか、利用される。しかし、そんなことは勝平も重々承知だった。集団生活の中での孤立は致命的であることを。かと言って、それで彼女らを信頼できれば苦労はしない。なぜなら、かつて勝平は、それで『失敗』している。

 考え込むようにその場から動きを見せない彼に、服部は声を掛けた。

「確かに簡単には出来ないだろうけど、ここいらで他の奴と信頼深めて、お前のトラウマを克服しないと、いつまで経ってもお前は弱い自分のままだ」

 このままだと勝平はトラウマを乗り切れずに死ぬ。それを拒むかのように必死に彼を説得しにあたる服部。勝平はそのままの状態で、答える。

「本当に、俺は今の自分を変えないといけないのか?」
「……ああ」

 勝平は少し開いた口をギュッと噤(つぐ)み、顔を服部へと向ける。

「少し、考えて来る」

 冷蔵庫から水の入ったペットボトルを手に取ると、立ち上がってそのまま部屋から退出する。急にどこか行こうとする彼に言葉をかけるが、彼は立ち止まらなかった。ガチャン、と寂しい音を残して、部屋には静寂が広がった。

―――

 体育館にて。人が呻き、すすり泣く声が充満する室内。重症の怪我人は満足に治療を受けることも出来ず助けを求め、軽症の者は傷が化膿し、皮膚が壊死していく。そして、どんよりとした人の空気。既に死んだような眼で何もない場所を見つめている者もいる。

 精神的に傷を負っている者も多数おり、その中でも数人の生徒は会話すらままならなかった。そんな空間の中を勝平は壁際に凭れるように座っていた。阿鼻叫喚に包まれる彼らの姿。この事態を嘆き、苦しんだのちに諦めた彼らの姿を、他人事のように勝平は眺める。少ししたら、自分がそうなっているかもしれないというのに。

「……おかしくなれば、こうやって考えずに済むのか?」

 ボーっと見ていて、独り言を呟く。目を下へと向け、見慣れた体育館の床をジーと眺める。このままでは、皆と孤立する。孤立すれば、『死』。そんな言葉が頭の中で堂々巡りを繰り返す。ただ、彼にとって『死』は恐ろしいという感情はない。唯一恐れているのは、裏切られること。信頼していた者達に裏切られた時の身を切られた衝撃は計り知れない。それを経験している彼だからこそ、周りを信用としないのだ。

 ふと、いつも自分を優しくしてくれた者たちの姿を思い出す。服部に出会う前、彼がまだ人を信じられていた頃の記憶。優しく頭を撫でて、体の弱い自分をいつも守ってくれた人達。

「………」

 すぐに彼はその記憶を有耶無耶にした。これ以上思い出すと、彼もまた何をしだすか分からなかった。そんな不安定な気持ちを抑えながら、彼は目を瞑る。

「アンタ、何してんの?」
「………」

 ふと目を開け、声のした所へと向ける。そこにはピンクの二本束のピンク髪を垂らした少女の姿があった。覗き込むように彼を眺め、不思議そうな表情を浮かべている。

「柏崎……」
「やっほーって……アンタ、テンション低いね」

 いや、いつもこんな感じか……と呟きながら、姿勢を戻す。

「そういうお前はテンション高いな。会長の話は終わったのか?」

 嫌々付き合うように勝平は返した。確か、彼女は生徒会長にお灸を据えられていたはずだった。今更のうのうと戻ってこられるものなのか、と少し興味を持つ。

「ああ、別に大した問題じゃないわよ、あんなの」

 腰に手を当て、なんてこともないように目を閉じて話す。

「怒られるのにも慣れてるし、やったことに対しては今後どういうことを心がけていくかとか、その場で適当に言えば良いわよ」

 それはダメだろ、と心の中で呟きながら勝平は柏崎を見る。

「で、私よりアンタよ」

 すると、彼女は片目を開けてさっきの話題へと切り替えた。

「アンタ、休憩所で休憩してたんじゃないの?」
「別にお前には関係ねぇよ」

 冷たく言い放った言葉に、柏崎がムスッとした表情で近づく。

「良いじゃない、一緒に校舎の中を探検した仲でしょ?」

 鬱陶しそうに彼は答える。

「だから何だってんだよ……一緒に行動したのはお前が無理やり付いてきたんだろうが」

 鋭い視線で彼女を威嚇する。だが、そんな行動をとっても彼女にとってみればちょっとテンションの低い彼だった。少し機嫌が悪い程度にしか捉えない。

「まぁ、結果的にはね。でも、一緒に行動したらしたで仲間みたいな感覚あるんじゃない?」
「ねぇよ……そんなのは勘違いだ。仮にそう感じていても、相手はそう感じていないかもしれないんだぞ」

 その発言で、さっきから彼が不機嫌な理由が分かると、柏崎はああ、なるほど……と呟いた。

「アンタ、もしかしてさっきの村上さんの件気にしてるの?」

Re: リアルゲーム ( No.149 )
日時: 2017/08/31 23:20
名前: 電波


おはようございます、こんにちわ、こんばんは、電波です。皆さん如何お過ごしでしょうか? なんて堅苦しいですよねw

単刀直入ですが、この度、『リアルゲーム』がシリアス・ダーク版にて『銀賞』を受賞しました!

これも、皆様が投票して頂いたおかげです! ありがとうございます!

いやぁ、長かったです。何回か受賞してやろう受賞してやろうと野心を持ち続けていましたが、なかなか受賞できないできない。半ば諦めてたんですが、今回受賞できて本当に嬉しかったです。

この勢いで次は『金賞』狙いたいですねw

日頃読んでくださる皆様、投票して頂いた皆様、本当にありがとうございます! なかなか早くに更新できないですが、応援してくださると幸いです。

Re: リアルゲーム ( No.150 )
日時: 2017/10/12 22:39
名前: 電波

 勝平は目を細めて彼女を見る。柏崎の言っていることは、半分正解で半分間違いだった。確かに彼は村上の件に関して、気にしている。しかし、それは彼の過去が原因で生じたものだ。それを今克服するかしないか、その決断を彼は迫られていた。

「さぁな。とりわけ気にしてるわけでもねぇよ」
「本当なの?」
「ああ」

 視線を横にずらし、彼女と目を合わせないようにする。何か言いたげに彼を見つめる柏崎だが、それらを溜め込み、あ、そう、と返す。

「アンタがそう言うならそうなんでしょうけど、何か困ったことがあるなら、誰にでも良いから言いなさいよ?」
「…………」

 意外そうな表情で彼女を見つめる。

「何よ?」
「やけにあっさりしてるな、と思って」
「今からでも問い詰めても良いのよ?」
「遠慮する……」

 ここで変に突っ込まれると面倒くさいだろうな、と感じた勝平は丁重に断った。ふと、彼女は腕を組んで、勝平の隣へと移動する。そして、地獄絵図のようなあの光景を眺めながら言葉を発した。

「まさにこの世の終わりね」

 冷静に且つ、客観的に彼女はそう言った。どこぞの生徒会長を彷彿させるような言い回しで、一瞬違和感を覚えたが、彼はいつものように返す。

「こんな状況に出くわしたら、そりゃあ、ああなるだろ」
「アンタは何も感じないの?」
「感じない訳ないだろ」

 人が苦しむさまを見るのは、勝平にとってもそれほど良い気分ではない。彼だって、一般的な人間と変わらない価値観を持っている。胸に異物を押し込まれたような不快感をさっきから感じつつ、変わらぬ口調で続ける。

「お前はどうなんだよ?」
「勿論、同じ」

 柏崎は言葉を続ける。

「これを見て何も思わない奴なんて、人間じゃない」

 勝平は無言でジーと彼女を見つめる。そんな彼の行動が不快と思ったのか、彼女は目を細めて勝平を見下ろす。

「何?」
「いや、お前がまともなこと言ってて……」

 瞬間、彼女のシリアスな空気が大きな音を立ててぶち壊された。

「私は元からまともよ!」

 体を彼に向けつつ、両手を握り拳に変えて、大声を上げる。勝平は心底安心した。その場の空気を読まずに大きな声を上げる様は、やはりいつもの彼女だ、と。しかし、同時に周りからの視線がこちらに集中したことに気が付くと、やってくれたな、この女……と心の中で毒づきもした。
 
 彼女も勝平同様に周りの反応に気が付いたのか、すぐに大人しくなり若干不満ありげな声で話の路線を戻す。

「私はこんな状況から早く抜け出したいし、皆がああやって悲しんでる姿なんて見たくないの」
「………」

 何も答えない彼に、彼女はさらに口を開く。

「アンタがイメージする通り、私はバカだし考えることは単純だけど、他人を見捨ててまで生き残ろうとする程、人間腐ってないわよ」

 何となく、彼女が生徒会にいる理由が分かった気がする。どんなに自分が大切であろうと、結局他人を優先してしまう性格。結果的に自分が損な役回りをすることになると分かっていても、それでもやってしまう。校舎の中の探索や今回の心境もそれが表れている。その性格を、他の第三者から見たらどう思うかはそれぞれだが、勝平はこう思った。

(なんて悲しい性格なんだろうか……)

 他人を優先するという言い方は聞こえが良いが、逆に言うと自分を大切にしないということと同義だ。他人の為に自分を犠牲にし、それに伴う対価はなし。例を挙げるなら、今この現状で誰かの助けを聞きつけ、そこに走り出して治療する。それを休みなく永遠に繰り返すとしよう。果たして、これは割に合うのだろうか?

 合うはずがない。結果として得るのは、自分がボロボロになって倒れる結末。おまけに、周りはその治療で助かる保証もない。失うものはあっても、得るものがない。それは、勝平の考える理屈の中で最も納得のいかないやり方だ。

「アンタには分からないだろうけど、例え知らない人でも困ってるなら、手を差し伸べてあげるのが私のやり方」

 すると、彼も口を開き始めた。

「本当に分からねぇよ」
「まぁ、そうだよね」

 彼女は当然のように返事をする。

「自分が傷つくだけ傷ついて、他がのうのうとしていられるのはおかしいだろ。困ってる奴なんて、助けてもらった時はその場では感謝するが、少し時間が経てばすぐに掌を返す」

 勝平は続けて言う。

「実際の所、相手からしてみればただの表面上の付き合いだ。こっちの事を何も考えていないし、自分さえ良ければ何でもいいと考えてる奴のが多い」

 苦虫を噛み潰したような表情で呟く。今までずっと彼は他者に対して、心を開いたことはない。ずっと疑心暗鬼になりながら、自分の事を第一にして考えていた。誰かから受け取る親切心や、誰かからの何気ない言葉。日常生活での事細かな所まで、彼の深層では、他人に対して疑いが晴れることはなかった。だが、ここで柏崎がある矛盾点に気が付いた。

「じゃあ、服部も同じ?」
「あいつは……」

 勝平は言葉を詰まらせた。

「服部もアンタが言う信頼できない相手かもしれないのに、なんでつるんでるの?」
「あいつは……俺と同じなんだよ」

 彼は思い出すように、語りだした。

「あいつ、中学ではハンドボール部のキーパーをしていたんだ。チーム自体そんなに強くなかったが、服部自身の実力もあって県大会には出場できていた」

 だけど、と付け加えた。

「服部の活躍をあまり良く思わなかったハンド部の先輩が、あいつに対して陰湿な嫌がらせを始めた」

 例として挙げるなら、と続ける。

「あいつのユニフォームを汚したり、靴を隠したり。服部も最初こそは笑っていたが、次第に嫌がらせはエスカレートしていって、本人に面と向かっての罵詈雑言、最終的に暴力にまで発展した」
「…………」

 彼女は何も言わず、暗い表情でそれを聞いていた。

「さすがのあいつも心を病んで、部活も止めて、学校を休むようになった」
「アンタと服部の付き合いもそこからって訳?」

 勝平は、ああ、と返事をする。

「学校にも行かず、公園のベンチに座って、毎日何もすることもなく虚空を見てた。帰り道によくその公園を通ってたから、ふと声を掛けたことが切っ掛けなんだよ」
「で、そのあとどうなったのよ?」

 彼は答えた。

「時間は掛ったけど、少しずつ立ち直って学校に行けるようにはなった」
「そっか……」

 だけど、と言葉を続ける。

「もう二度と、運動部に所属できなくなった」
「……なんでよ?」

 彼女は不穏な表情で聞いてくる。

「遊びでスポーツをやる分には良いが、運動部に入ると、前に先輩から受けたトラウマが蘇るんだ。その証拠にここのハンド部に入ったが、一か月も経たずに退部してる」
「…………」

 人間は、立ち直ったとしても一度受けたトラウマは永遠に消えることはない。如何に克服しようともだ。それを経験している勝平は、彼の気持ちに共感できる。だから、勝平は服部を信頼できるのだ。一度苦しみを味わった仲だからこそ、彼は自分を裏切ることはない、と。

「だからこそ、俺はあいつのことを信頼できる。俺と同じように、辛い経験をしているあいつならな」

 彼女は、表情を変えずにポツリと呟いた。

「なんか、嫌」
「…………?」

 すると、勝平は眉をピクリと反応させた。

「どういう意味だよ?」
「どうもこうも、そのままの意味よ。トラウマがあれば友達になれるって、なんか悲しい」 

 特に、彼は大きなリアクションを取ることはなかった。今まで自分の意見を持って、それを終始実行してきた彼。それを否定されたというのに、不思議と落ち着いていた。

「お前や周りから見たら、俺はおかしいのか?」
「……おかしい」

 勝平は静かにその言葉を受け止めた。薄々感じていた。彼が服部と先ほどの会話をしていた時から、歯車が少し噛み合わないことを。それはかつて受けた、勝平のトラウマによる影響もあるのだろう。人との関わり方を、歪んで捉えてしまっているのがその証拠だ。
 
「そうか……」

 彼は顔を上げ、特に代わり映えのしない天井を見上げた。

「なぁ、俺はどうすれば良い?」
「知らないわよ……」

 呆れたように言いながら、壁に凭れ、目を閉じる。

「…………」

 勝平は考えながら、手に持っていたペットボトルの蓋を捻り、蓋を取るとそのまま口に流し込もうとする。何してるんだ? と勝平の様子を確認しようと一瞬片目を開けた柏崎。すると、柏崎の顔色がみるみる変わる。

「ちょ、ちょっ!! それはダメ!!」
「なっ!?」

 口をつける直前で、柏崎は勝平にのしかかる勢いで持っているペットボトルを薙ぎ払った。ペットボトルは宙に高く飛んでいき、代わりに彼女の体が彼へと降ってきた。小柄な彼女の体重は基本、他の女子と比べて軽いものだが、降ってきたら話は変わる。落ちてきた時の衝撃は、凄まじかったようで冷静な彼でも思わず、いっつ!! と声を上げるほどだ。痛みに悶えながら、彼は彼女を睨みつけた。

「お前……」

 彼女は慌てて彼から離れ、立ち上がった。

「しょ、しょうがないでしょう!? アンタが飲もうとしたの睡眠薬入りの水なんだもん!」

 顔を真っ赤にして、声を上げる。

「なんて物を冷蔵庫に入れてやがる……」
「こんな状況じゃあ、なかなか眠れないから一本キープしておいたのよ」

 まったく……と彼は不満を漏らしながら、痛む箇所を摩る。しかし、完全に嫌な気持ちかと問われればそうでもない。彼女のような騒がしい人を見ていると、自分が先ほどまで考えていたのがバカみたいだった。不思議と先ほどまでの怒りはなく、気の抜けたような安心感に包まれた。それに、彼女みたいな人間がいるなら、まだ世の中捨てたものではない、と思った。

(こんな奴がいるなら……まだ……)

 勝平は立ち上がり、小さな彼女を見下ろす。

「な、何よ……まだ文句あるの?」
「そう言う訳じゃねぇよ……」

 呆れたように返す。次の言葉を言おうとするが、彼は気恥ずかしい為か、なかなかうまく言い出せない。彼女が、不審そうな表情で彼を見つめると、

「……ありがとう」

 彼はちゃんと彼女の目を見て、言い辛そうだがはっきりと言葉にした。言い終えると、どこかへと走り出していった。置いてかれた彼女は呆然と彼の背中を見ていたが、フッと口元に薄く笑みを広げる。何かやることがあったのか、それとも恥ずかしくて走り出したのかは分からないが、何か吹っ切れたようで、安心したようだ。

「ばーか……」

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