ダーク・ファンタジー小説

逆十字の聖魔戦争
日時: 2017/04/30 01:07
名前: そーれんか

吸血鬼、人間の血を飲む怪物と呼ばれる生き物。耳が尖っており、吸血鬼かどうかはすぐ見分けられるが人間はごくまれに耳が尖っているものを産む。その人間は迫害され、捨てられ、最終的に魔術師になるケースが多い。

魔術師、元人間や吸血鬼など、様々な種族が魔力をもち不死身になった生き物をまとめてそう呼ぶ。元人間、と言うのは魔力をもった際に人間の記憶を忘れる為。吸血鬼はそうならない。他に精霊族や人狼族など色々な種族がいる。

聖戦士、神と人間によってつくられた通常の人間より遥かに強力な術を手に入れた吸血鬼と魔術師を消す為だけに存在する部隊。


ーーーーーーーーーー
初めまして!そーれんかです。去年から妄想してたやつを小説書く練習がてら書こうかなと思ってます。語彙力のない中学生なので至らぬ点が多いだろうとは思いますがアドバイス等宜しくお願いします_(:3」∠)_
追記
宗教に対する批判的なセリフがありますが、決して実在する宗教を批判する意図で作った訳ではありません。そこはご理解頂けると幸いです。グロテスクな所も少なからず登場します。苦手な方はお控え下さいm(*_ _)m
登場人物を移動させました。そして題名もはっきり決まったので変更しましたヾ(:3ヾ∠)_

登場人物
>>66 異端側
>>67 聖戦士側

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Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.87 )
日時: 2017/05/17 03:27
名前: そーれんか

主に仕えて、主を親として見てきた。本物の親の顔すら記憶にないのだから、主達が本物の親になってくれるって。そう思って生きてきた。でも、いくら覚えていなくても本物になんかなれない。もし主がクローンであったとしてもそれは本物に限りなく近い偽物。まぁ、それくらい少し考えれば分かることなんだろうけども。

「〜〜〜、どうしたの?」
ジンリンは笑顔で腰を抜かして震えているミサとスオに手を差し伸べる。だが二人にはその笑顔がどうしようもなく恐ろしく思えた。
「〜〜〜。ねぇ、二人は私の事をどう思ってた?四大魔術師の中ではまともな方だとか?」
「え...ま...まともな方...だと...」
スオはミサの胸に埋まり体を一層震わせる。ミサは震えるスオを抱きしめ、自身も震える体を必死に落ち着かせようとしている。
「〜〜〜。そっか、じゃあもう一個...というより注意してほしい事かな?」
ジンリンは椅子から立ち、目線をミサ達に合わせるようにしてしゃがみこむ。
「...二人共しっかり私の眼を見て話を聞いてくれる?」
ミサの肩を掴み、スオは横顔でそっとジンリンの方を見る。
にっこりと瞳が少しも見えない笑顔で話し始める。
「〜〜〜...魔術師は特に信じちゃいけないのよ?こんな屋敷に不用意に立ち入ったりもね。チキちゃんみたいな吸血鬼に仕えていたとしても、主が今この場にいなければどんな事だって出来ちゃうんだから」
ジンリンはカッと眼を見開く。何時もの綺麗な深緑色の瞳ではなく言葉で言い表せない濁った色をしていた。そしてその瞳に刻まれている魔法陣が紅く光り出す。
「二人共まだ不死になっただけの"もどき"なのよ。心も体も未熟。だからその分改造しやすいのよ」
「かいぞ...ッ!?」
「あら?今言わなかったかしら?魔術師を信じてはいけないって。主がいなければ何でもできるって!」
ジンリンは黒い羽根を生やし、狂気に顔を歪ませる。
「っ!スオ、立ちなさい!」「う、うん...!」
ミサはスオの手を引き、逃げようと走り出す。ジンリンは追いかけずにそのまま走る様を見ていた。
".....もう少し何とかならなかったの?"
幻影は呆れた様子で見る。ジンリンはクスクスと笑いだし、幻影の方に振り向く。
「〜〜〜、あら?私は嘘はつかないし、こういうのはオブラートに包まずズバッと言った方がいいのよ。双子の話はあの子達の事だし」
"いや...そうじゃあなくてね、あの部屋に連れて行きたいのなら素直に連れていけばいいのにって。左のドアに行ってたらアウトだったじゃない"
「ウフフ、その時はその時よ。それに私はわるーい魔術師だからね。そうでなきゃあんな顔できないでしょ?」
ジンリンは幻影に向かって少しはにかんでみせた。

ーーー
ただひたすらに屋敷内を走り回った。息も絶え絶えになりながら二人がたどり着いた場所のすぐ横に地下へと続く階段があった。
「ど、どっちに行く?」「お姉さん、ここの扉開いてる...内側から鍵がかけられるみたいだからこっちの方がいいんじゃないかな...」
二人はギィ、と扉を押し中に入る。入った途端に電気がついた。あたりを見渡す限り武器や何かを入れているケース、たくさんのものが置かれていた。しかも埃っぽい臭いに血液、そして謎の液体が混ざった臭いが胃を直接かき回されているような感じで気分が悪くなる。植物の良い香りとは一変、ここだけ機械質で別世界にいるような感じがした。
「...スオ、何か盗っていこう」「えぇ!?何言ってるの!?」「ここにいたってその内来るんだから...抵抗しなきゃ」
ミサは手当り次第に部屋を調べていく。スオは少しオロオロしながらもミサと一緒に調べていく。
「これ!」「.....!」
ミサとスオは同時に武器を引き抜く。引き抜いた武器の箇所には名前らしきプレートがつけられていた。
ミサが引き抜いた赤く熱を帯びる剣と盾の名前は

"鳳剣盾ライヤーズ"

スオが引き抜いた黒く光る短剣の名前は

"鏡剣闇の鎮魂歌"

だった。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.88 )
日時: 2017/05/18 03:19
名前: そーれんか

700hit超えありがとうございます(*^^*)毎度毎度閲覧感謝です
ーーー

汝はその力を手にするか?
安心するが良い
きっと守りたいものを守れる
ただし..........な。

「...スオ、聞こえた?」「うん。守りたいもの...かぁ。最後のあたりは聞き取れなかったけど...」
二人はそれぞれ手に取った武器をきゅっと握る。
「運命...なのかな」「うん...チキに出会った時と似た感じがする」
「うんうん!運命!でもおにごっこはまだ終わってないんだよ?」
ニコニコと笑いながら鍵をかけたはずの扉を開けゆっくりと近づいてくる。
「〜〜〜?フフ、その二つの武器をどう使いこなしてみせるのか見たいわぁー」
わざとゆっくり話し、より二人の恐怖を引き立たせる。
「あぁ安心して?チキちゃんに見せられないような姿になるまで痛めつけたりはしないから」

"精霊樹の茨"

ゴゴゴゴと地面から音が鳴ったかと思えばボコっと穴を開けてミサ達の数倍もある巨大な茨が数本姿を現す。
「試験よ。精神攻撃なんて卑怯な真似はしない。今から使う魔術は全て肉体攻撃。恐れずに攻撃してくるといいわ!!」
ジンリンはそう言い終えると次々と魔術を唱え始める。周りには無数の魔法陣が現れ一発種のようなもので攻撃したと思えば消えていく。それでもかなりの数で弾幕のようにバシバシと連撃される。
「そうだ、盾...!」
そう思った瞬間に脳に言葉が流れ込んできた。
「アイドゥーサ...オルタ...ヒューマン...」
流れてきた言葉をそのまま口に出すとほのかに暖かった盾が急激に熱くなる。焦って手から離そうとするも握った腕が動かず熱さによる痛みで思わず泣き叫んでしまう。
「ジ、ジンリンさん!!ちょっと待ってください!!」
スオは焦ってミサの方へ駆け寄る。ジンリンは手を止めるが、厳しい表情を崩さなかった。
「〜〜〜...でもそれを選んだんだから簡単に手放すなんて言わない事ね。それ位の痛みで泣いてちゃあ大切なものを守るなんて無理」
そう冷たく言い放ち再び詠唱を再開する。
「はーっ...はーっ...」
ふらふらと立ち上がり剣を握る。涙を拭い爛れた腕の痛みを必死に耐えまた流れてきた言葉を呟く。どんどん熱は上がりスオが近くにいるのもやっとなくらいになる。

"術式完成・炎星夢盾"

地面にめり込ませそう叫ぶと盾に埋め込まれていた紅い宝石から炎が勢いよく吹き出してくる。その炎はミサとスオの周りを包み全ての攻撃を炭に変えていく。
「やれば出来るじゃない。さ、スオちゃんもよ?」
「う...。私はどうなるんだろ...」
スオにも言葉が流れてきていた。その言葉を思い出しつつ呟いていく。
「ダーウィル...スレーブ...アゾット...」
そう呟くと背筋が凍りつくような冷たさの手に触られる。氷、いやもしかすればそれ以下の冷たさかもしれない。それも一つや二つではなく、無数の手が。恐ろしくて振り向けず、呟き続けている為どんどんその手は増える。最初こそ触れるくらいだったが増えていくと引っ張られるような感じになっていく。
「!!」
手を振りほどき短剣を力強く握りしめる。柄に埋め込まれた黒い宝玉が妖しく光った。

"術式完成・愚か者への鎮魂歌"

短剣の刃は真黒なオーラに包まれ長剣のようにその範囲を広くする。
巨大な茨を容易く断ち切りそこから生みでたブラックホールのようなものに吸い込まれていく。
「...よし。そろそろ終わりましょうか?お疲れ様、合格よ」
ジンリンはにっこりと笑い魔法陣を全て消す。ミサはまだ警戒を解かずに近づくジンリンに対してスオを守るように盾を向ける。
「あ、さっきああ言ったばっかりだから無理もないかぁ...。ま、ここでやれることは全てやり終えたし、手当てでもするといいよー」
ジンリンはくるっと周り部屋を後にする。スオは腕を押さえているミサを抱え自室へと戻る。

スオは気がついていた。いや、もしかしたらミサも気がついているもかもしれなかったが。ジンリンがあれだけの攻撃をしていながら擦るくらいしかしなかったのか。きっと...
ミサは自室に戻るなりベッドへと倒れ込みそのまま眠ってしまう。スオは呆れながらも爛れた腕に包帯を巻き姉の頭を撫でる。しばらくポーッとしているとドアがノックされる。
「起きてる?」
「あ、ジンリンさん...」
「ウフフ、ごめんね。ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
ジンリンはクッキーと紅茶をテーブルに置く。スオはクッキーを頬張り紅茶を一口飲む。
「あの...ジンリンさん、ありがとうございます」
「んむ?何のことかしらー?」
ジンリンは知らぬふりをしてクッキーを食べ続ける。少し頬を赤らめているのがスオには見え、ふふっと笑った。
「それじゃあ、ミサちゃんが起きたら最終試験ね」
紅茶をくいっと飲み干し、満面の笑みでそう言い放った。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.89 )
日時: 2017/05/19 02:50
名前: そーれんか

「死鬼さん」
チキは黒い姿のまま死鬼を呼び止める。数発攻撃が当たったネメシスは膝をついて咳き込んでいた。
「何?」
「その、案があって...」
チキは耳打ちをし何かを呟く。死鬼はそれはいいと言わんばかりの表情でぽんと手のひらを叩く。
「んじゃあよろしくね、チキちゃん!」
死鬼はチキとハイタッチをした後、屋敷の方へと走っていった。驚いた聖戦士達は追いかけようとするもチキに遮られる。
「目の前の敵を追え。見えぬ敵を先に追うな!!」
ネメシスはそう叫び足に力を入れ立ち上がる。荒い息をしながらも幼体化しないのでまだ力は残っているのだろう、とチキは突き刺した槍を引き抜く。
「貴方達が私達を追い続けるなら、私はいくらでも貴方達を殺し続ける。いくらでも堕ちてやる!私達が存在しているだけで罪なら...その罪をもっと深くしてやる!!」

"血醒月光・原罪"

チキが槍を空に掲げた瞬間、気候が変わることのないこの屋敷周辺に赤雲が現れ赤い雨を降らす。時折雷も落ち、聖戦士達はパニック状態に陥ってしまう。
「っ黙れ異端が!これ以上...これ以上私の部下を殺すなぁぁぁぁ!!」
雨で濡れた顔を拭いネメシスはチキの方へ飛びかかる。

"キネサス"

「殺して殺されて!!もう沢山なんだよ!!さっさとくたばれ!」
「何故こっちが一方的にやられなきゃいけないの!?大人しく殺られる奴なんていないわ!人間ってそんなに偉いわけ!?」
ネメシスの連撃にチキは槍で攻撃を防ぐ。一発一発がかなり重く、徐々に衝撃で手が痺れてくる。
「黙れ!偉い偉くないじゃない、人間の道を外れたから問題なんだ!道を外れ正しき道を歩んでいる人間を巻き込み外れさせようとするのがな!!」
「っ...!でも.....やっぱり、いい。時間は稼げた」
チキは一気に間合いを取るとにやりと笑った。
突然死鬼が聖戦士達の背後にずっと現れ、パチンと指を鳴らす。

"多重方陣・毀れた世界に喝采を"

「はー、一時はどうなるかと思ったけどちゃっと発動してくれたみたいでよかった...」
そう言うと死鬼はバタンとその場に倒れる。何も起こる様子はなく聖戦士達は捕らえようと死鬼の方へ近寄ろうとする。

"ーーー"

謎の声が死鬼の方から聞こえる。少し離れたネメシスの方にも聞こえたようで攻撃の手を止める。チキは槍を力強く握り、ゴクリと生唾を飲んだ。

"ーーーー、ーーー、ーーーーー"

死鬼は目を瞑ったままムクリと起き上がり、こう叫んだ。

"紅き影に触れる時、如何なるものも消え去るだろう。例え紅き存在とされる鬼ですらも"

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.90 )
日時: 2017/05/20 04:14
名前: そーれんか



ーーー贖え


幾つもの魔法陣から槍のように鋭く尖ったものが見境なく放たれる。その尖ったものに貫かれた聖戦士達の血で桃色の桜はすぐに赤く染まっていった。
「.....!!」
かなりいた聖戦士も、今は指折りで数えることが出来るくらい死滅している。どこを見ても赤、紅、朱。気が狂いそうになる。ネメシスは呆然と立ち尽くし、手で口を押さえる。チキは追い打ちをかけず、その姿をじっと見ていた。
「...神様.....」
涙を一粒こぼし、歯をギリッとならす。
「神様!!あなたは私達を救ってはくださらないのですか!!どうして...どうして見捨てるんですか!」
怒りと悲しみが混じりあった声で思いきり天にむかって叫ぶ。そして力なく座り込み、子供のようにしゃくりあげている。

「どうか泣かないで。全ての敵はあなたがとるのよ?」

"神風"

眩い光があたりを包み込んだ。赤い雨は止み、桜の色は桃色へと戻る。大きな羽を広げた天使はふわりと地面に降り立つ。
「.....ソフィア...」
「ほら、立って?敵はまだいるの。ここで泣いてちゃ呆気なく終わっちゃうのよ」
ソフィアはネメシスの手を引き、手に持った杖をカランとならす。
「異端よ、知らぬ者と戦い殺されるのは癪でしょう。自己紹介をしてあげます、私は十聖騎士の一人、天使族のソフィア・ミネルバ。ソフィアとお呼びなさい」
ネメシスに対する態度と一変してチキ達には少し傲慢な態度で自己紹介をする。
「それにしても...タイミングがよかったみたいですね。一匹弱ってるみたいで」
ソフィアは死鬼の方を見、にっこりと笑う。
「ゲホッ...ごめんねチキちゃん、僕の体力が持たなかったや...今回足引っ張ってばっかりだなぁ僕」
死鬼は胸元を押さえ、苦しそうに息をしている。ガクガクと震え、その場に倒れ込んでしまう。
チキは駆け寄ろうとするもソフィアとネメシスに遮られる。
「駄目ですよ、目の前の敵を見逃しては!」
ソフィアとネメシスが同時に襲いかかってくる。チキは槍で防御しようと力を入れた。


「殺さなければ大丈夫であったな...何、足止めする程度にしたいさ。...何?...そうか。...未練?無いわけ無い。寧ろ有り余ってるさ。だが...わちきがあまりここにいると死鬼が成長出来ないからな。それに、約束は約束であろ?」

"三千大千世界"

チキとソフィア達の少しの感覚に無数の刀が突き刺さる。驚き上を見ると、コハルが団子を食べながら扇子で扇いでいた。
「ほほほ。今世との別れじゃ、目一杯暴れさせてもらおう。愛刀村正よ、ゆくぞ!」

"雪月花"

刀が分裂し、舞いながらソフィア達を狙っていく。
「チキや、死鬼の元へ行って起こしてくるんじゃな。そして言ってくれぬか?花の散る様を目に焼きつけろ、とな」
「コハルさん...」
チキは目に涙をため、死鬼の方へと走り出す。ソフィアは逃がすまいと追いかけようとするが、刀の動きが予測出来ない為、なかなか動けなかった。
「今のお主達の相手はこのわちきじゃ、目の前の敵を見逃してはならぬのだろう?」
「くっ...さっさと地獄へ還りなさい!!」

ーーー

「死鬼さん...死鬼さん!!」
死鬼の身体を激しく揺らす。
「.....チキちゃん?あれ、僕気を失ってた?」
血を拭い、ふらつく身体を無理矢理起こす。明るく振舞っているものの、身体は結構なダメージを負っているのだろう。チキでも分かるほどだった。
「.....チキちゃん、何あれ」
引きつった顔で死鬼はチキに問いかける。コハルの方をさす指は微かに震えていた。
「...その...」
答え辛く目線を思わずそらしてしまう。
「...なんでマスターが戦ってるの?出るなって言ったのに...!」
止めようと死鬼は走ろうとするが身体がついていかないのか、その場に転んでしまう。
「コハルさんが...花の散る様を目に焼きつけろ...って」
二人はただじっとコハルが戦ってる様を見ているしかなかった。
その内重傷を負ったネメシスを抱えソフィアは撤退し、コハルはチキ達の方へと歩いてくる。
「どうじゃ?美しかったであろ?」
「...馬鹿」
か細い声で死鬼はそう言う。コハルは扇子で口元を隠しくすくすと笑う
「死鬼はまだまだ子供じゃのう、そう泣く事も無いだろうに。チキや、貰い泣きはするでないぞ?」
二人の頭を撫で、軽く抱きしめる。
「嘘はすぐバレるぞ。とっくに約束の数を超えていて、死鬼が頼んで迎えを延ばしていた事。嘘はいけないと言わなかったか?」
「.....っ」
死鬼はドキッとし、少し目線を逸らす。
「ほほ。わちきが居なくても大丈夫であろ。お主には仲間がいるではないか」
コハルの背後に扉が現れる。その扉には鬼の絵が描かれていた。
「おや、迎えかえ?はやい...とも言っておられぬな」
「.....マスター」
死鬼は涙を拭い、笑顔をつくった。少し引きつってはいるものの、限りなく自然に近い笑顔で。
「...僕の団子、もう盗まないでね!」
コハルは少し固まっていたが、またすぐに笑い返した。
「ほほほ...死鬼や、お供物は忘れるでないぞ?」
そう言って、扉の中へと消えていった。コハルが消えたすぐに扉も消え、ただシンとした空気が漂うだけ。
死鬼はため息をついた後バタンと地面に倒れ込む。仰向けになり、空を見つめる。
「...僕さ、もう嘘つかないや」
「死鬼さん...」
「だから...自分の気持ちに正直になるかなって。まぁ...今は流石にできないけど」
少し照れくさそうに頬をかく。チキには何だか分からなかったが、応援する他なかった。
「...じゃあ、応援してますね」
チキがそう言うと死鬼は満面の笑みで起き上がる。
「あはっ、嬉しいなぁ。...そろそろアピクの所に戻る?僕もそっちに行こうかなって思ってるんだけど」
「でも死鬼さん身体が...少し休んでからにしませんか?」
「...ん、断ろうと思ったけど今正直になるって言ったばかりだからなぁ。言葉に甘えて休もっかなー!」
二人は屋敷へと戻っていく。コハルが忘れていった愛刀を地に突き刺して。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.91 )
日時: 2017/05/22 03:34
名前: そーれんか

ねぇ、生ける屍...ゾンビっているじゃない?ゾンビには知性がないって言うじゃない。まぁ、脳も機能してないからそれもそうよね。でも、脳が別のモノ...だったら話は別よね。
私とあの子は"愛された傀儡"なのよ。

「ハハハ、やっぱり君達の身体は厄介だなぁ。魔術師の数倍速いや」
四頁は張り巡らしていた糸を一気に解く。ノウラやクトの四肢が飛ぼうが瞬く間に修復してしまうからだ。
『褒め言葉として受け取っておくわ。安心して、クトちゃんはまだしも私はそんじょそこらのゾンビと違って噛みついたりはしないから』
ノウラはニコニコとしながら話す。マフラーで隠された首元や二の腕の繋ぎ目、濁った瞳さえ見えなければ人間と変わりないくらいの知性と外見を持っていた。
「ハハッ、あんまり安心できるようなものでもないけど...死んでから異端に加勢するってのは最悪だからそうならないだけマシ...かな?」
四頁はぬいぐるみを抱きしめている少女を抱き抱え、襲いかかってくるクトを避ける。幸い攻撃速度は鈍い為、避けるのは簡単だった。
『もっと安心できるような情報をあげましょうか?私とクトちゃんにそんな感染させて下僕にする能力はないわよ。噛み付けば即死だけど』
「あー...あんまり安心できないねぇ、むしろもっと不安になったかもしれない」
『あら。それはごめんなさい。でもあまり喋ってばかりいて大丈夫?私だって攻撃できるのよ?』

"歪んだ愛の傀儡師"

巨大な手が空から糸を垂らし、その糸にノウラが触れる。糸はノウラに引っ付き、さながら人形の様に動き始める。
「うぇっ、あやとりとか操り人形は僕の専売特許だと思ってたのになぁ」
四頁は珍しく嫌そうな顔をする。よほど自身の特技が他人、しかも異端に使われた事が癪に触ったのだろう。
親指が動けば顔が、人差し指が動けばノウラの腕が、中指が動けば脚が。本当に操り人形のようだった。
『これは私の意志じゃないの、私の魔術の意思なの。だから次の発動する魔術が何かもわからない。逃げておいた方がいいんじゃない?逃す気はないのだけど』
クトは怪物化を解き、ノウラの近くへと飛び移る。ノウラの顔は口が裂け、目が不気味に笑い、ピエロのような表情になる。
それを間近で見ていた少女がヒッと小声で言った後、四頁の胸に顔をうずめた。
「こーんな子供にトラウマ植え付けるなんて酷い奴だなぁ。僕はこんな怖い人形操りたくないし観客として見る気にもならないね」
そう言い放つと少女を抱き抱えたまま通路の方へと走っていく。

"堕ちた女ネクロリア"

″堕ちた女の話をしましょう。
昔ある村にとても美しい女がおりました。その女は誰にでも分け隔てなく接し、村だけでなくその外の街や城にまで女の事が広まっていました。そのお陰で村は貿易が盛んになりました。
ある日の事、女は一人の青年に恋をしました。その青年はある街の出身でよく女に会いに来ていました。ですが村人達は結婚して女がいなくなるのを恐れ、女を監禁しました。
青年や女の噂を聞きつけてやって来た旅人には女は重病で寝込んでいるから会えない、と話しました。早く病が治るように、と旅人達や青年から多額のお金などが送られました。村人達は味を占めます。
女は怨みに恨みながら、自身の行いを思い出し始めます。そして、女はとても素晴らしい事を思いつきました。
それは村を消し去ることです。ある晩に女は油断していた見張りを殺し、鍵を奪って脱出しました。そしてじっくり一人一人殺していきました。ある者は皮膚を削ぎ、ある者は窒息死ギリギリで息をさせ、また窒息死ギリギリまで息を止めさせる。ある者は釘を刺し。気がつけば村は荒廃してしまいました。村が荒廃した噂が流れ、誰も来なくなりました。愛した青年も。復讐を遂げたと同時に愛する人も行方知らずになりました。青年を探しながらも自身を愛し、自身も愛したいと思えるような人を探し続けました。ですが結局...途中で死んでしまいましたとさ。めでたし″
「アハハ...めでたくねぇ!!なんだいこの話?僕聞いたことも見たこともないよ!!」
四頁はそう叫びながら降り注ぐ鋭利な包丁を避け続ける。その包丁は柄も刃も血塗れであり、その話を再現したかのような不気味さを醸し出していた。
『そう...貴方にはわからない。貴方達が絶対に知る事は無かった物語。そしてこれが私が人間に絶望した物語!!』
「んなっ...君の物語だったのかい!?.....ハハッ、その青年は意外と身近にいたりしてね...」
通路を抜け、再び広い場所に出る。この時間帯は人通りも多く、あまり攻撃されると死者が出かねない。ただ後ろを見ると包丁が一寸の幅もなく突き刺さっている。あれを防ぐのはどう考えても無茶に等しかった。

"大糸壁・英霊"

これでしばらくは防ぐしかない。無関係な人達が叫び逃げ惑っている。
どうか、死人を出さないで。糸が千切れる感触を手に味わいながら強く思う。少女を抱いているため片手しか使えないのもかなりのハンデになっている。一部が完全に千切れ、しゃがみこんでいた女性に包丁が当たりそうになる。
「がっ」
ギリギリで庇えたものの腹部に包丁が突き刺さる。服の構造上四頁の腹部には何の布も無い為直に刺さっている。
「ぅ...胸じゃなくて良かった、と思えるだけ幸いかな...にしても直は痛いや、でもこの服気に入っているしなぁ...」
と、どうでもいいことを呟きながら壁を修復する。修復できた後、包丁を引き抜きどくどくと留めなく流れる血を少女を抱えている手で押さえる。
「し...しーちゃん...」
震える声で少女は四頁の傷を見る。
「大丈夫大丈夫。ぬいぐるみは汚さないように持っておきなよ!...ってあれ、僕も結構なトラウマ植え付けちゃったかな?」
そう言っていると、背後から人影がすっと現れる。驚いて振り向くと、見慣れた姿がその場にあった。
「何やってんだノロマ!!心臓を貫かれなかったから良かっただと!?腹部にも大事な臓器は沢山あるんだ!ほら見ろ吐血してる...」
いつになく慌てた様子で三頁はタオルを取り出し止血作業を進める。
「ハハハ...よくここが分かったね、僕迷ってたというのに」
「お前が話聞いてないし地図見ないからいつまで経っても覚えないんだろうが!...一頁と二頁が壁はってるし五頁と六頁が攻撃してるからあんまり心配しなくていいからな」
七頁が少女の擦り傷などに絆創膏を貼っていく。
「にしても四頁が女の子守るなんて見直した」
ぺたぺたと絆創膏を貼りながら七頁は呟く。呟くと言うには大きすぎる声量だが。
「.....七頁って僕の事どう思ってたの?」
「あ、聞こえてたか?よく笑う不真面目なおっさんだなって」
おっさん。それだけが四頁の脳内に反響する。
「おっ...おっ...おっさん...なーんで僕だけおっさん扱いなんだよ!!僕外見はどう見ても二十歳前だろ!!」
「いや...外見はそうだろうけどお前何百年前生まれだよおっさんどころじゃねえだろ」
「いいいよねぇぇぇぇ!君は数十年前に生まれたんでしょーー!?子供じゃー痛だだだだ!!三頁!痛い!!」
三頁は黒い笑顔で四頁の包帯をきつく巻いている。ふいっと七頁の方を向き笑顔を崩さずこう言った。
「年齢の話は厳禁...な?」
「...すみません」
これは流石にいけない、とすぐ判断できる表情だった。
「ハハハ...んじゃま、戦線復帰と致しますか」
四頁は糸を解き、自身の手中に収める。少し傷がズクズクとするが大して気にしていなかった。



『その包丁が...ただの血塗れな包丁だとおもっていたら大間違いよ。効果?私も知らないわね』
五頁と六頁に向かって、歪んだ笑顔でそう言った。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.92 )
日時: 2017/05/24 02:37
名前: そーれんか

少女を安全な場所へと誘導し、三頁達は壁の外に出る。
「お前動いて大丈夫なのか?結構深く刺さってたみたいだけど」
「ハッハッハ!四肢欠損でもしたら休むよ。それまでは大丈夫」
ぐいっと背伸びをし、ひょいとビルの屋上へと飛び移った。
『......あら?』
不意にノウラの攻撃が止まる。そして三頁達のいるビル前へと近づく。
『見つけた...あぁ...見つけた...』
ノウラは繋いでいた糸を切り、目を潤ませて七頁の目の前に歩み寄る。
『私が愛した貴方にようやく会えた...あぁ...』
「俺はお前を知らない、人違いじゃないのか…?」
『忘れたなんて言わせない、私を置いて行方をくらませた貴方の事!私は死ぬまで貴方を探し続けた、街にも居ず付近の村にもいない!目撃情報はあっても!姿は無かった!!でも...ようやく見つけた…』
ノウラはぽろぽろと涙を流し、胸元に手を添える。その場にいた全員は呆然と突っ立っていた。
「...!」
七頁はノウラの事を思い出したようで驚きの表情を隠せないでいる。
『あぁ...よかった...嬉しいわ、貴方が生きていてくれて』
涙を拭い、満面の笑みでそう話す。だが妙な気が辺りを包んでいた。
「七頁!」
一頁がそう叫ぶと、その気は凄まじい殺気へと変貌する。
『本当に...生きていてくれてよかった...骨組みだけだと未完成のままだからね!!』

"狂った愛の傀儡"

『安心して、人形にするだけだから傷つけたりはしないわよ...』
白く濁った瞳に光が戻るようにキラキラとした表情で糸を張り巡らす。
「うはー...似た力だなぁ。違う所を言うとすれば君は捕らえるのを目的としてる位かな?」
四頁は頭をポリポリとかき、ぱんぱんと手を叩く。顔を少しでも動かせばその糸に触れてしまいそうなくらいで、軽く拘束状態にあった。
『独りぼっちは寂しいから貴方の仲間も連れていこうと思っているの』
ノウラはクトの手を強く握る。痛がるクトを無視しているのを見るあたり、握っていることすら気がついていないのだろう。
「...俺は...確かに昔のお前を知っている、だが俺はお前を愛した覚えはない」
『...どういう事?』
ノウラから笑顔が消える。
「あの村に行っていたのは別の用があったからだ!お前は毎回毎回俺に構ってきた奴だろう!?それにお前は村の女を理由なく殺していった!だからお前を捕えろと俺が言ったんだ!」
『.....』
ノウラは俯き、肩を震わせて笑い始める。その奇声は鼓膜を破りそうな勢いでビリビリと発せられる。クトを握っていた手は最終的にクトの指が弾け飛んでしまい、涙目で睨まれていた。
『アハハハハハハハ!!そうだったのね。でもそれが何だって言うの?私は貴方を愛しているから今まで探し続けてきたの!今でもそれは変わらない。さぁ、私の人形になって頂戴!!』
糸を解いたかと思えばその糸は七頁だけを拘束する。ノウラは糸を引っ張り近くに引き寄せた。
「...まずいですの。劣勢になりつつありますの」
「ハハハ、劣勢になりつつあるんじゃなくて劣勢だよ。人質に取られちゃったら下手に手出せないからね」
四頁がそう言うとノウラはブスっと不機嫌な表情になる。
『人質なんて嫌な表現使わないでくれる?生きた人形と言って欲しいわ』
一頁がガシャンとフェンスを蹴りつける。深々と被ったフードから黄緑の瞳が光って見えていた。
「人形だと?冗談は顔だけにしろ。七頁は絶対お前の人形にさせないからな」

"一頁目・白銀の刃"

繋いでいた糸がブチブチと切れ、七頁は地面に叩きつけられる。糸に棘があったのか、数箇所刺し傷があったがそれ以外は特に目立った箇所はなかった。
『切れた、切れた、糸が切れた、また縛らなきゃ、殺さなきゃ、貴方は私のものなの!!』

"ゼンブワタシノモノ"

地面がひび割れる。

皆理解するのに数秒かかった。

押さえつけられている。何かはわからないが、見えない何かに押さえつけられている。どんどん力は強くなり立っていられずに膝をつく。
「っ...かなり面倒くさい敵と対峙してしまったようですね、あなたは」
「は...ハハ...返す言葉もないや...」
ズキズキと傷が痛む。傷の方に目をやると紫色の液体が傷口から滲み出ていた。毒か?いや、毒なら既に回って苦しいはず。例えこの短時間で化膿したとしてもこんな色にはならない。痛み自体は大したことなく、ただ色がついただけと思う事にしたがどんどん滲み出てくる。仲間に余計な心配をかけるのも嫌でこっそりと糸を使い、傷口を半ば無理矢理縫合する。涙が出るような痛さで吐きそうだった。
『...このまま潰れるのも面白いかと思ったけれど、やっぱり死ぬのなら恐怖に怯えた顔で死んでほしいわ』
にこやかにそう言うと、押さえつけていた力が一気に抜ける。ただすぐに立てるわけではなく、ガクガクと震えながらゆっくりと立ち上がる事しか出来なかった。
「骨にヒビが入りました。これだから無駄な戦いは嫌なんです」
六頁は鎌を取り出し方陣をつくりだす。

"六頁目・赦されざる罰"

鎖がクトとノウラを縛りつける。ノウラはそれでも不気味に笑い続けている。
『ウフフフフ...嬉しい...そうやって睨んでくれる。そうやって私を認識してくれている!!』
「...お前とんでもない奴に好かれたもんだな」
二頁は飴をひょいと口に放り込む。ついでに七頁にも飴を渡し、ポンポンと背中を叩く。
「僕も飴欲しいなー」
四頁が横からすっと顔を出し、手を差し出す。二頁はぷいっと顔を背けた。
「四頁は俺の菓子盗み食いするからやらない」
「ハハハ。ケチ」
そんな様子をじっと見ていたノウラは下唇を噛んでいる。噛む力はどんどん強くなり、最終的にはブチっと気味の悪い音を立てて唇の一部が噛み千切られた。
『...相容れないのね、どうやっても。もう終わりにしようと思うの、結ばれない愛は絶対に結ばれないの。結ばれないと分かっていて追いかけ続けるのもバカバカしくなっちゃった』
鎖が砂のようにサラサラと消えていく。
『だからもう生かす必要も無いのよね。貴方達も、この場にいる全ての人間も、し』
言いかけている途中で、ノウラの首が何者かによって飛ばされる。
「私の家族が邪魔したね。この娘は少々気が早いんだ」
ルナテが弓を持って降りてくる。その場の空気が凍りつくような程の悪寒が皆を襲い、思わず後ずさりしてしまう。それでも攻撃しようと構えていた一頁を見て、ルナテは鼻で笑う。
「これは私の姿をした幻影みたいなもんだ、攻撃したって無駄だよ」
よく見ると身体全体が透けていた。ルナテの幻影はノウラの頭と身体を持ち、クトの手を引く。
「あぁそれと...言ってるかもしれないが、ノウラに受けた傷は大小関係なしに効果が分からないから早めに治すが吉だよ。尤も、治し方も知らないんだけどね。アハハハハ!」
幻影は笑いながら消えていき、少しだけ強い風が屋上に吹き荒れる。
「.....誰か治し方知らない?」
四頁がそう問うも一斉に首を横に振った。まぁ当然だよなと四頁と七頁の二人は苦笑いをする。
「んー...毒にしちゃ違う気がするんだよな、別に身体はなんともないし、傷はそう深くないし」
七頁は自身の手を握ったり開いたりする。傷自体は絆創膏くらいで隠れるような大きさの傷だった。
「けど七頁の傷ってピンポイントだよね、首筋だったり手首だったり」
「そういうお前は腹だろうが...ってなんだその色!?」
傷口から流れ出す液体は黒く変色している。だが四頁は特に苦しむような素振りを見せずにからからと笑い始める。
「ハッハッハ!別になんともないけどさっきから紫になったりしてね、これ何なんだろうね?血なのかな?」
「いや笑ってる場合じゃないからな!とにかく一旦戻った方が治療しやすいだろ、戻るぞ!」
三頁は目を血走らせ、二人の手を握る。
「あ待って、僕女の子迎えに行かなきゃ。七頁を先に手当しといてねー」
パシンと手を離し、屋上から飛び降りた。あまりに一瞬のことで止める間もなく、それに三頁は声にならない叫びをあげる。
「あーー!!!どう見てもあいつが一番重体じゃないか!そもそも俺達はあいつを迎えに来たはずなんだが!?」
「落ち着け。俺が残ってるからお前達先に戻って治し方を探していろ」
一頁はフードを更に深く被り屋上から飛び降りる。皆一瞬ぽかんとしていたがすぐに顔を見合わせ頷きビルの屋上を後にした。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.93 )
日時: 2017/05/25 03:20
名前: そーれんか


AM 7:20

現在地 教会から数十キロ離れた、○×街

ちょろちょろと小川が流れ、花々は咲き誇る美しい街並みで活気づいており、ぱっと見異端に悩まされているような感じは無かった。
編成は月星隠者、ヴィシャ、ヒューイ、スレイ。再興天使と聖人は別の件で教会を出ている。
「.....綺麗な場所ね...旅行で行きたいくらい.....」
隠者はいつになく嬉しそうにくるくると回り、鼻をスンスンとならしている。
そこへ一人の中年女性が向かってきた。
「あぁ、貴方達が異端を消してくれるという...?」
「そーだよ。おばさん、その異端はどこにいるのー?」
ヴィシャはずけずけと話に入りこんでいく。だが中年女性は微妙な顔をしちらりと後ろを見、そこからひょっこりと泣いている少年が顔を出す。
「すみません、この子の兄と姉がそうなってしまって...ずっと拒むのです」
皆驚いた顔でその少年を見る。少年は泣きながら隠者達を睨みつけた。
「おっ...お前達がっ...にーちゃんとねーちゃん殺すんだろ...っ...そんなの...俺がっ...許さねえからな!」
「こら!あんたの兄姉はもうバケモンなんだよ!いい加減諦めな!」
女性はそうやって少年の頭を叩く。が、歯軋りをしてそれに反論をする。
「バケモンじゃねえ!俺のにーちゃんとねーちゃんはまだバケモンになってないんだ!まだ...ちゃんと喋れてんだ...俺の事覚えてなくても...」
しゃくりあげる少年を見て、皆言葉に詰まる。少しの沈黙が流れた後、ヒューイが少年の前に行き目線を合わせる。
「じゃあ、殺さなければいいのか?君の兄姉はまだ危害を加えない状態。だけどこのまま放っておいたら確実に危害を加えてくる。そうなったら君の友達、親が死ぬかもしれない。勿論君も」
ヒューイはぎゅっと少年の腕を握り、目線をそらさずに話し続ける。少年は反論せずじっと聞いていた。
「私達は殺すんじゃない、救うんだ。今なら前と変わらない状態で救ってあげられる。どっちを選ぶかは君が決めていいけれど、間違った選択はしないで欲しい...私も間違った選択をして親を亡くしたから...」
「.....」
少年は涙を拭って、こくりと頷く。
「にーちゃんとねーちゃんを...救って...下さい...」
そう言い終わるとまたボロボロと泣き出した。ヒューイは少年のツンツン頭をわしゃわしゃと撫でる。
「じゃあ...今日はスレイの出る幕はないかな?ヒューイちゃんに全部任せちゃおっと!」
スレイは腰につけていた爆弾を少年の目に入らないような所にずらし、少年が兄姉がいる場所へと案内する。
「.....もしもの為に私達は外にいる...ヒューイ.....よろしくね」
隠者はふっと微笑む。それに応えるようにヒューイも微笑み返した。
「了解」


地下にある一つのドアをコンコン、とノックをする。しばらかしてカチャリと鍵を開ける音がし、二十歳前くらいの女が顔を出す。
「あら、お客さん?あの子以外に来るなんて初めてよ、さぁ入って!」
女は元気に挨拶をし、ヒューイを中へ招き入れる。
「はいお茶!こんな地下室でごめんね、私達ここに住んでるのよ。最初はあれだったけど住めば都ってやつね!」
この元気さが胸に引っかかる。今から殺さねばならないというのに、いくら救うと言っても...どうしても綺麗事にしか考えられない。ヒューイは出された茶をなかなか飲めずにいた。
「どうしたの?もしかして彼に用があるの?」
顔をのぞき込まれビクッとし、思わず焦ってしまう。
「あっ、いや、彼にも用があるし貴女にも用があるんですけど...」
わたわたとしていると別室のドアが開き、背の高い男が欠伸をしながら出てくる。
「クレア、あいつにあげるもの...ってお客さんか?珍しい」
「そうなのよ!あ、自己紹介がまだだったわね!私はクレア。こっちがイルよ」
一つ一つが胸に引っかかっていく。暫くしたらその名も意味をなさなくなるのに、と。それでも顔に出さずにっこりと返事をする。
「私はヒューイ。少し用事があってここに来たんです。今は挨拶回りをしていた所です」
「そうなのー!?じゃーあー、この街に来た記念にこれ持ってって!」
そう言って手渡されたのは少し歪な形をした十字架のネックレスだった。
「おい、そんな失敗作渡したって喜ばねえだろ。何考えてんだ?」
イルは呆れ顔でクレアの方を見る。
「うぅん...私達十字架見るとなんか目がしょぼしょぼするから上手く作れなくって...けど、十字架ってヒューイさんにぴったりだと思わない?」
ぴったりだ、と言われ少し顔が綻ぶ。二人は何やら言い合っているが気にせずにそのネックレスを首にかける。
「ありがとう、素敵なネックレスですよ」
「ほんと?うふふ、そう言われると作りがいがあるわー!」
「はぁ...悪いな、こんな代物で」
「代物ってなによー!!!」
こうやって見ていると本当に人間と変わらない。時間をかければかけるほど殺すのが億劫になってくる。

もう終わらせたい


だから


最期は異端らしく抵抗をして


そう思いながらヒューイは銃を手にかける。二人は驚き後ずさりする。
「...貴方達は...異端なんです。この街に来たのも貴方達を殺す様教会から命じられたから...」
「.....そっか。なんかおかしいと思ったのよねー、だって外に出たら変な目で見られるわ石投げられるわだったもの」
クレアとイルは色々察していたのか気を緩める。
「あ、じゃあ私達死ぬんだよね?じゃあちょっと待ってて、頼み事があるの!」
そう言ってクレアは別室に行きロケットペンダントを持って戻ってくる。
「これ、街のツンツン頭の男の子に渡してくれないかな?あの子だけが私達に会いに来てくれたの。恩返ししたくってね」
今から殺されるというのに、なんでそんなに優しい目が出来る?なんでそんな大事な事を頼める?ヒューイは向けていた銃口を下におろす。
「.....なんで...どうせなら抵抗して欲しかった...死ぬ事が怖くないんですか?なんでそんなに二人共優しい笑顔ができるんですか...!」
「抵抗するならしてやろうか?うわーやめてくれー殺さないでー...なんてな。教会の人...君なら間違いはないと思ってるよ。神様の所に連れてってくれるならな!」
そう言ってイルは豪快に笑う。つられてクレアも笑い、地下室には笑い声が響き渡る。
「.....勿論、聖戦士の名にかけて!」



そしてゆっくりと引き金を引いた



扉が開く。
「...ヒューイちゃん、お疲れ様」
ヒューイは優しい顔でありがとうと言い返す。きょろきょろと辺りを見回し、少年を見つけて駆け寄る。
「ほら、二人が君に渡してくれって」
「...!」
そう言ってチャラっとロケットペンダントを少年の首にかける。
「ありがと...俺、成長したらあんたみたいな強い人になる!」
「...頑張れ」
またヒューイは頭をわしゃわしゃと撫で、街の門で待っていた隠者達の方へと歩いていく。

けど私は強くない。

だから強くなりたい。

異端を抹する者として、親の敵を討つものとして。

大丈夫

一人じゃないって分かったから

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.94 )
日時: 2017/05/26 02:56
名前: そーれんか

再興...一旦衰えたものが勢いを戻すことを指す。同じ意味を持つ言葉に、復興ともある。

AM 9:45

現在地 教会中心部治癒域F7

再興天使は険しい表情で教会の中心部にある病院のような施設に聖人の手を引いて歩いている。聖人は天使の表情に怯えつつ引かれるがままに歩いていく。
バンと勢いよく扉を開ける。そこにいたのは三人の天使とベッドに横たわるネメシスだった。天使は険しい表情を崩さずじっと天使達を見つめる。
「...お久しぶりです。珍しいですね、三姉妹揃うなんて」
ぺこりとお辞儀をし、聖人もつられてお辞儀をする。ようやく聖人の手を離し眠っているネメシスの元へと歩み寄る。
「容態は?」
「肋三本、右腕、両足骨折、頚椎捻挫。肋折った時肺に刺さったみたいだけど、軽傷に入るんじゃないかしら」
一風変わった髪型をしている天使はカルテを見せようと再興天使に近づく。
刹那、バシンと音が響いたと思えば再興天使はその変わった髪型の天使の胸ぐらを掴んでいた。いつも見せない表情なだけに聖人は余計あたふたする。
「冗談はよしてくださいな、ロフ様。人間と天使は違うんですよ?私達天使は肺に骨が突き刺さろうが心臓を貫かれようが魔に侵されぬ限りは消えない。人間は軽い骨折でも状況が悪ければ死ぬんです」
胸ぐらから手を離し、大きな翼の天使を睨みつける。そして再興天使は口を閉ざす事なく話し続ける。
「ソフィア様、まさかとは思いますが盾にするような事はしてらっしゃいませんよね?」
「まぁ、天使がそんな事するわけないのは貴女が一番知っているのではないのかしら?それに救ったのは私です。それに感謝の言葉はないのです?」
二人の間に火花が散るような程異様な空気が流れ込んでいる。
同じ種族同士が喧嘩をするなんて聖人は見ていられなかったが、なかなか止めることが出来ずにいた。
「傲慢ですね。ソフィア様は仲間達には優しく接すると思っていましたが...どうやら私の思い違いだったでしょうか?」
「あら嫌だ。私がいつ貴女を仲間と思って?人間に近づきすぎた天使は異端と同じ扱いと天使界では常識でしょう?それすらも忘れたの?」
そうソフィアが言うと再興天使は俯き歯軋りをする。
「人間と天使は違うと言ったのは間違いないね。天使に近づいた人間は崇められ、人間に近づいた天使は異端と同等の扱いになる...」
前髪と後髪の長さがあまり変わらない天使は自身の背中を見、小さな翼をパサパサと羽ばたかせる。
「...なんて言おうが構いませんよ、レシリィ様。私は私なんですからね。自分を失ってしまう方が異端より酷いですから。聖人、ちょっといい?」
そう言って再興天使は聖人に耳打ちをする。
「う、うぇぇぇぇ...は...はい...」
ぶるぶる震えながらソフィア達の元へと歩いていく。
「す、す、すみませんんん!!」
聖人はそう叫び、ポケットからスプーンを取り出す。

"記憶の皿"

投げられたスプーンはソフィア達の頭を抉り白いものだけをすくい出す。聖人はスプーンを飲み込み、涙目でごめんなさいと繰り返していた。ソフィア達はバタバタと倒れすうすうと寝息を立てている。
「ありがとう、聖人様...」

"輝きの聖約"

再興天使はネメシスの傷を大方癒し、布団を剥がして抱き抱える。
「降りますよ。掴まって!」
窓をガラッと開け、そこから飛び降りる。聖人は大声で叫びながら再興天使の服を握っていた。
「...全く。聖人さんだったかしら?焦りすぎなのよ、全然違う記憶食べてるじゃない」
ソフィアは何事も無かったかのように立ち上がる。それに続けてロフも立ち上がる。
「でも、お姉様珍しいね。再興天使さんには何か特別な思い入れでもあるの?」
「あら、プライバシーというものを知らないの?いくら妹とは言え、これは内緒ね」
ロフはぷうと頬を膨らませる。そして二人はチラッとレシリィの方を見る。レシリィだけ本当に眠っていた。
そして二人の姉は口を揃えて言う。

「「起きろ!」」

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.95 )
日時: 2017/05/27 03:32
名前: そーれんか

ちく、ちく、ちく、ちく
ルナテは真顔でノウラの首に糸を通していく。時々身体がピクンと跳ね、その度にルナテは舌打ちをする。
「全く、世話が焼けるね」
「.......ノウラちゃん...だい...じょ..ぶ...?」
「あぁ。私が直すから安心しな。それにしても...ここ最近でよく喋るようになったね、この前まで単眼化の術すら解けなかったのに」
そう言ってクトの頭を撫でる。クトは顔を綻ばせ猫のように丸まる。
「...全くこの子達は好戦的で困るよ、なあアピク?」
窓際で煙草を吸っているアピクは話を何故振られたかわからないままポカンとルナテの方を見る。
「...おや、なんだいそんな顔をして。その煙草辛かったかい?」
「馬鹿言え、むしろ甘い。で、なんで話を俺に振った」
「振っちゃ悪いのかい?じゃあ少し言い直そう。君はこの二人をどう思う?」

暫くの沈黙。ルナテは答えを催促する素振りを見せず淡々と頭と身体を縫い続ける。その間アピクは一本、二本、三本とどんどん煙草を消費し続ける。五本吸い終わったあとにようやく口を開いた。
「別に...。何か言えと言うのなら、魔術師でもない死んだものを奴隷みたく使役するのはあんまり好きじゃない、とだけ言っとこう」
そう言うとルナテは肩を震わせ大笑いをする。
「アッハッハッハ!手元が狂う、笑わせないでくれるかい」
「聞いてきたのはそっちだろ」
「ハッハッハ...そうだね。私は別にこの子達を奴隷と思った事は無いよ、依存させるように仕向けてるだけさ」

パチン

糸を切る。

そして魔法陣を展開させ、ブツブツと呟き始める。

"輪廻の輪にすら入れぬ愚かで可哀想な者に 賢者の首を捧げよう 賢者の知力を残したまま 醜き姿で甦れ"

紫色の光が辺りを包み、そして強い風が吹く。
アピクが目を開けるとそこに広がっていた光景は、再び目覚めたノウラが怯えた顔で跪いている異様な光景だった。
「...何か言う事は無いのかい?」
ルナテは笑顔でノウラに問う。ただしその笑顔は他者に向ける優しいものではなく、自分より下のものに向ける見下しの笑顔だった。
「ご...ごめ...」
「違う」
ヒールをノウラの手の甲目掛け落とす。尖ったかかと部分がめり込み手の甲が裂ける。
「っ!!」
「学ばないね、君は。クトはこんなに短期間で喋れるようになってる。君はなんだ?絶対愛さぬ者にどうしたら愛してもらえるかなんて考えていたのか?」
グリグリとかかと部分を動かし更にめり込ませる。ノウラは涙目になりながらぶるぶると震えている。
「...続きは屋敷に戻ってからにしようか。屋敷の主がお怒りだ、なんてね」
じっと、ただじっとアピクはルナテの方を睨みつけている。色々な意味を込めた瞳で。
「邪魔したね、アピク。今度は私が好きな紅茶を入れてくれると助かるんだけど。もし用があればこっちにくるといいよ?...クト、お咎めなしなんて事はないからね」
少しビクッとしていたが、ルナテに手を引かれ消えていった。
アピクは十本目を吸い終わり、ふぅとため息をつく。最近吸うことを再開したが、こうも消費が早いとは。昔はこんなに吸う事は無かったはずなのに、どうしてこう急激に増えたのか?まぁそんな些細なことはどうでもいい。


また、魔術が使えなくなった


前は記憶そのものを奪われたから...だが、今回は使おうとすると、頭がズキズキして集中出来なくなる。簡単なものですら使えず、何も出来ない
ルナテは何か知っているようだった、あの笑みがどうも頭から離れない。

″用があればこっちにくるといいよ″

イライラする。昔から、ずっとルナテの事が苦手だ。
ただ、魔術師としての力はずっとルナテの方が上。ただ魔術師になってからの期間が短いだけで、元老の名はきっとあいつの方が相応しい。
そもそも...元老という地位さえ誰も欲しないのだが。地位に執着するのは大方人間のみだろう。

色々考えていたらまた頭が痛くなってきた。

アピクは壁を蹴りながら、もう一本煙草に火をつけた。

Re: 逆十字の聖魔戦争 ( No.96 )
日時: 2017/05/29 03:22
名前: そーれんか

「ただいまーアピクって煙草くっさぁ!!」
死鬼は屋敷に入るなり鼻をつまむ。
「一室ならまだしもこんな広い屋敷全部が煙草の臭いで充満するってのもなかなかないと思うんだけど、どんだけ吸った.....言わなくていいや」
辺りに散らばった燃えかすで大体察したようでぶつぶつ言いながら床に落ちている煙草を拾い上げる。
「どれだけ吸おうと俺の勝手だろ。で、バカ娘は?」
「チキちゃん?あれ?さっきまで一緒にいたんだけどなあ」
きょろきょろと辺りを見回し、死鬼は辿ってきた道を戻っていく。
「チキちゃん!?」
その声が聞こえ、甲高い叫び声も同時に耳に入ってきた。何事かとアピクも声のする方に足を向ける。

絶句。

いつも小さなコウモリの羽はチキの身長を超えるくらいの大きさまでになり、整っていた爪は赤黒く、そして20cm程の長さになっていた。
「死.....鬼さ.....兄.....さ.....ま...」
歯は尖り見るからに吸血鬼の容姿になっていき、目から赤い涙がこぼれていく。
「うぅん、前兆無しか或いは気がつけなかったか...かな。知ってる?ウサギって寂しいと死ぬんじゃなくて身体の変化をギリギリまで我慢するから手遅れになって死ぬんだよ」
「...バカウサギ娘」
長いな、と死鬼が笑ってる間にチキは爪で床を削らんばかりに引っ掻き喉が裂けるくらいに大きな叫び声をあげ、二人の血を飲もうと牙を剥き出しにして襲いかかる。
「どうする?拘束しとく?」
「...まぁそれ位しかないな。じゃ、俺が引き付けるから糞野郎頼む」
「頑張る。糞野郎ってのはまだ気に食わないけどさ!僕そんな悪いことした覚えないしー?」
二手に分かれ、チキはアピクの方に向かっていく。

ここまではいい。後は術が発動して拘束できるまで持ちこたえられるか、だ。いつもと違いスピードもかなり速い。自身も術を使うことが出来ない今死鬼に頼るしかない。

"血醒月光"

ここでチキの術が強制的に発動されたのか、威力こそ皮膚を少し切るくらいで小さいものの無茶苦茶な動きで攻撃の予測が難しい。攻撃が当たるギリギリの所で回避できているものの、双方からくると片方はどうしても当たってしまう。
それにしても、術を発動する時間がいくらなんでも長すぎる。
「おい糞野郎、まだ...?」
死鬼は胸元を押さえ、顔を青くし震える声で術式を唱えている。当然魔法陣もガタガタで完全に発動しそうにない。
「馬鹿!」
アピクはチキから大きく間合いを取り、死鬼の方に駆け寄る。
「いやぁ...さっきかなり力使っちゃってさ、ごめんごめん」
「お前はウサギか...」
少し話している隙にチキは距離を縮める。

扉が突如現れ、弓矢が飛ぶ。

"全指之戒・鬼之詩"

「忘れ物、忘れ物...と。フフッ、何だか面白いことやってるね?」
矢は全てチキの身体を貫く。床には血だまりができ、チキは元の姿に戻りゲホゲホと咳き込む。
「おっと。少しやりすぎちゃったかな?」
「うげ...る...ルナテ...」
死鬼はアピクの影に隠れるようにして不満そうな顔をする。
「おや?死鬼じゃないか。久しいね、会おうとすらも思わなかったけど」
ルナテは火のついた煙草を口にくわえ、チキの頭を掴んだ。そして微笑みながら話しかける。
「ねぇ混血児、血が足りないんだったよね?」
チキはこくりと頷く。
「そうだよね、私も吸血鬼だから気持ちはわからなくもないさ」
ルナテは自身の腕をチキの口元に近づける。
「ちょっと!魔術師の血飲ませるとどうなるか知ってるだろ!」
止めようとしてもルナテは不敵な笑みを崩さない。
「それは吸血鬼に対して、だろ?吸血鬼と魔術師の混血児に飲ませた記録は存在しない。吸血鬼で魔術師であれば吸血鬼としての血が濃いとされているが...混血だとどっちなんだろうね」
チキは少し震えながらも口を近づける。

ガリッと骨までもが削れるような音がなる。これには流石のルナテも少し苦痛に顔を歪めた。
だがすぐに興奮した表情になる。興奮で荒くなった息はチキの髪の毛を揺らすほどだった。
「フ...フフッ...あぁ楽しい!!さぁもっと飲みな!!」
チキは何も答えずただ無心で血を吸い続ける。目は光を失い表情もなく血を飲み込む音だけが聞こえてくる。
二人は思わず目を逸らし、死鬼に至っては耳を塞いでいる。
「おやおや、ここの魔術師達はこういうのに弱いのかい?」

アレの土台は出来た、後は好きに積み立てていくだけ...だけどこの積み方もちゃんとしなきゃね。壊れてしまってはどうしようもない。かと言って壊れないように慎重になりすぎても面白くない。壊れる寸前が一番面白いんだよ。

ルナテは気味の悪い笑顔を浮かべ、ようやく腕を振り払う。
「さて...と。もう充分だろ?こっちも自分の身を滅ぼす程飲ませたりはしないよ」
噛み傷は瞬時に癒え、溢れた血も蒸発するように見えなくなる。
ルナテは魔扉を開き、入る前にくるりと三人の方を向く。
「屋敷の扉を開けて待っているよ」
意味ありげな言葉を残し、魔扉ごと消えていった。
チキはハッとしたかのように瞬きをし、きょろきょろと辺りを見回す。
死鬼は手を耳から離し、ほっと一息をつく。
「あーよかった。僕ルナテ嫌いなんだよなぁ...アピクより狂ってそうだし」
「俺がなんだって?」
「何でもなーい」
ポカンとするチキをよそに二人はいがみ合う。いや、死鬼は楽しんでいるようだが。
「チキちゃん、身体大丈夫?」
「え?大丈夫です...死鬼さんも身体は...?」
「僕は大丈夫大丈夫。チキちゃんが大丈夫なら安心したや」
そう言って死鬼は胸をどんと叩く。
「はっ、さっき倒れかけたくせに...」
「うるさいなぁ、今は大丈夫だからいいでしょー?」
二人は再びいがみ合う。その光景に呆れつつもふふっと笑みをこぼす。
「何がおかしい?」
「え?兄様と死鬼さん...似た者同士だなって」
そう言われ二人は口を揃えて言う。
「「誰がこんな奴と似た者同士だって?」」
二人は真顔で見つめ合い、チキは吹き出す。




うん、笑える内に笑っとくが吉。
そのうち笑えないくらいになるからさ。

ルナテは水晶玉から三人の様子を見、呟いた後に水晶玉を投げ割った。

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