ダーク・ファンタジー小説

黒いリコリスの教団【修正版】
日時: 2017/10/20 12:48
名前: シリアス

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物

ルシール・アルスレン:本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてルフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。

ミシェル・ヴォーン:教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。

ロベール:ルシールの右腕である老神父。種族は人間。教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。

ナザエル・ド・ラシャンス:セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。騎士団の中でも謎が多い人物である。

クリスティア・ピサン:セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のNo2。種族は『大天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
聖団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『堕天使の審問』を愛用している。

キルエル:イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『大天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


用語集

リコリス教団:イスラフェル聖団に不信を抱いた者達が集って結成された裏組織。ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団:ルフレールの守護を宣言した組織。大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。治安維持のためルフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。組織の紋章は羽の生えた少女。

ルフレール:フランス西部に位置する架空の孤島。1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教:ルフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様

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Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.51 )
日時: 2018/06/28 21:43
名前: シリアス

時間は川の流れのように過ぎていった。
太陽は夕日となり沈み夜が訪れようとしていた
もうすぐ今日という1日が終わり明日へと繋がる。

食堂は料理の香りが漂い時も時刻で賑やかだった。
任務から帰った戦士達が共に飲食を楽しみ盛大に盛り上がっていた。
例えるならまるで祝いの行事、今日の失敗など偽りに塗り替えられたかのように広い一室は明るい雰囲気に満ちている。
羽を休める憩いの場とも言えるその中にソフィとリク、クロムの姿もあった。
「任務お疲れ様、クロムさん。今日は大活躍だったらしいですね?」
見習いの料理人がにこっと笑顔を見せた。
彼は"そんな事は・・・・・・"と軽く照れながらワインボトルを1つ注文する。
冷水に浸けられていた冷たい葡萄酒を受け取り数人分の木製グラスと一緒にテーブルへ運ぶ。
「賑やかな場はどうも好きになれん。騒々しさが耳に障る。」
ソフィが慣れない環境に文句を零していた。
「俺はこういうの嫌いじゃないよ?お祭りみたいで気分が高揚する。」
「リクがそう言うなら私は別に構わないが・・・・・・」
そこへクロムがやって来た。
「お待たせ!冷えたワイン持って来たよ。」
リクは待ちわびていたと言わんばかりの嬉しそうな顔で我先にとボトルを取った。
3人は酒を注いだグラスを手に取りそれを高く掲げた。
「俺達の武勇と無事に生還できた事に・・・・・・」
声を揃えて乾杯しワインで喉を潤す。
「ぷはあ!ワインがここまで上手く感じるとはね・・・・・・!」
「死にかけた後に飲む酒は格別だって昔、酔っぱらった父さんが言ってたよ。」
クロムのジョークにリクは愉快に笑った。
「任務は失敗に終わったけどルシール達はよくやっってくれた。あれだけの奇襲部隊で作戦を成功させちゃうんだから。」
「ああ、教団の強さを奴らに知らしめた忘れられない日となったね。誇り高い気持ちだよ。」
「私達も大いに活躍したな。リクにクロム、貴様らの戦いぶりも鬼神のようだった。正に精鋭と呼べるだろう。」
ソフィもふっと爽やかに微笑み空になったグラスをテーブルに置いた。

「しかし、これはまだ始まりに過ぎない。本番の戦はこれからだ。」
リクは急に口を平らにし、しゅんとした顔をした。
共にいた2人も彼に表情を合わせる。
「ディーノが言っていたエデンの熾天使、あいつらをどうにかしない限り騎士団を倒したとは言えない。だが、果たして俺達が敵う相手なのか・・・・・・」
「そうだね・・・・・・僕達にとってあいつらは恐らく最大に敵になる。彼女達と戦う日は必ず訪れるだろうね・・・・・・」
クロムも自信のない弱気な口調で言った。
「・・・・・・何を怯えているのだ?大の男達がみっともない。」
ソフィだけは弱音を吐かなかった
何かを憎むような凶暴な人相で男2人に鋭い歯を見せ演説のように語る。
「我が種族は天使と対を成すもの・・・・・・あんな奴らに恐れを抱いていたら悪魔の面汚しもいい所よ。例えエデンの熾天使だろうが何だろうが私は戦うぞ。教団の妨げになる者はすべて排除すべきだ。」
「・・・・・・ソフィ、君の言う通りだ。俺達精鋭がビビってしまったらそれまでだよね。」
リクが静かに台詞を述べる。
そしてこちらを睨む彼女を見て無理に明るい笑顔を作ってみせた。
しかし、クロムは暗い面持ちを緩めなかった。
「だけど問題は山ほどある。今回の戦いで騎士団を敵に回しあの熾天使に顔を見られた。報復を喰らうのは時間の問題だと思う。その上、情報を聞き出すはずだったアルベルナは死んで僕達はまた振り出しを辿る羽目になった。次の出陣はいつになるか次今度はどこを攻めればいいかという事も・・・・・・後先が心配で仕方がない。」
「しかし、前向きに捉えればこうも考えられる。我々による教会襲撃は騎士団に大打撃を与えたはずだ。幹部である大天使が死んだのだ。いくら口封じのために排除したとはいえアルベルナの死は奴らにとっても大きな痛手となるだろう。彼女の死はこの国だけではなくカトリック教会諸国にも影響を及ぼす事も十分にあり得る・・・・・・だが、現実を見ればこちらの被害も甚大だ。今回の戦いで3人が重傷を負い戦場に復帰できるまでには長い時間が掛かる。認めたくはないが次の戦は大分先の話の話になるかも知れん。」
「また訓練ばかりの日々が続きそうだね。」
リクは呑気に2杯目のワインを嗜む。

「そしてルシールが捕らえたダークエルフの暗殺者。確か、ナデージュダと言ったか?彼奴を捕虜に出来た事は不幸中の幸いだった。これからたっぷり尋問して知っている事を吐かせるとしよう。因みに彼奴は今どんな状態だ?」
「ディーノから聞いた話じゃナデージュダは武器を全て没収され地下牢に収容されてるみたいだよ?鎖で縛ったり手荒な扱いはしてないみたい。捕虜は罪人ではないからね。」
「私達の仲間をあんな目に遭わせた奴だぞ?拘束もせずにただ監禁しているだけなど手緩過ぎる。私なら3日間、食事と水を一切与えないが。」
「恐いなあソフィは・・・・・・まあでも共感はできる。もしあいつも教団の妨げになったり不穏な動きでもしたら、その時は容赦なく斬り捨てるけどね。」
「・・・・・・」
「どうしたのクロム?」
黙っているクロムにリクが問いかける。
「・・・・・・ジャスティン姉さんの事が心配だ。ごめん、ちょっと医務室に行ってくる!」
クロムはいても立ってもいられなくなりワインを一気に飲み干し席を立った。
2人に短く別れを告げ姉のいる医務室へ走り去っていった。
「おいちょっと・・・・・・!行っちゃった・・・・・・」
「放っておけ。姉の事が心配で仕方ないのだろう。無理もない、彼奴は故郷を離れて以来、唯一の家族はジャスティンだけなのだからな。」
「気持ちは分かるよ。俺もソフィに何かあったらこんなにも落ち着いてはいられなかったよ。・・・・・・とにかく、君が無事でよかった。」
「わ、私に気遣いなど無用だ・・・・・・!悪魔の騎士をなめてもらっては困る・・・・・・!」
ソフィは恥ずかしそうな顔を背ける。
素直になれず酔いではない赤らめた頬を隠した。

「ははっ、だね。ソフィは誰よりも強いから心配する必要なんてないかな・・・・・・でも、俺もクロムの言った通りこれから先、どうなるかが心配だな。態勢が崩れかけている今、攻められたら一巻の終わりだ。最悪な事態を迎える前に早く奴らを叩かなければ・・・・・・」
「弱音を吐くなと言ったはずだ。天使がいくら束になって来ようが私の敵ではない。仮に大隊を率いてやって来ても無傷で返り討ちにしてやる。それに私には及ばないが頼れる仲間達がたくさんいる。少なくても情けない最期を遂げる事はないから安心していいぞ?言いたい台詞はまだ色々あるが今日は疲れを癒そう。葡萄酒、私にももう1杯くれないか?」
「ああ、勿論。今夜は飲もう。悩むのは後回しにした方がいいね。」
リクは彼女のグラスに2杯目のワインを注ぐ。そしてまた改めて乾杯した。
強いアルコールの心地よい感覚が染み渡り不安を和らげる。
だが、その快感が永遠に続かない事をリクは分かっていた。
(大事に至らなければいいが・・・・・・レフレールの守護神ル・メヴェルよ、どうか我らに加護を・・・・・・)
リクは本心を言葉に出さず心の祈りを囁いた。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.52 )
日時: 2018/07/12 21:34
名前: シリアス

柔らかい何かに感触に包まれながらカティーアは意識を取り戻した。
長い間、閉ざしていた目蓋を静かに開け彼女は自分が横たわっている事に気づく。
次第に晴れていく霞んだ視界、そこはベッドの上だった。
窓から差し込む夕暮れの日差しを浴びている。
「・・・・・・っ!」
ふいにカティーアははっと我に返った。
跳ね上がるように上半身を起こし興奮した吐息で辺りを見回す。
だが、そこは戦いの部隊となった教会ではなく隠れ家の医務室の中。
ベッドが並ぶ広々とした空間、向かいを見るとルナリトナやジャスティンが安静にしていた。
彼女達は戦服を脱がされ露出した肌に包帯や傷薬の湿布が張られている。
カティーア自身も冷静になって下を向くと同じ身なりをしていた事に気づく。
ここが安全の場所だと知り安堵したもののどこかやり切れない気持ちが余ってしまう。
「おっ、カティーアもやっと起きたのか!いい夢見れたか?」
ルナリトナが目を覚ましたばかりのカティーアをからかい友好的に手を振った。
「あれからずっとピクリとも動かなかったから死んじゃったんじゃないかって心配してたんだぞ・・・・・・いてっ!いてて・・・・・・」
そして痛そうに血が滲む包帯の下の肩を押さえてうずくまる。
「カティーアさんも大事に至ってないみたいですね・・・・・・よかった・・・・・・」
ジャスティンも笑顔で話しかけてくる。
「僕達はあのナデージュダとかいうダークエルフに大怪我を負わされて・・・・・・それで気絶していたところを他の皆がここへ運んでくれたんだ。」
「ルシールさん達から話を聞きました。私達は皆、危ない状態だったと・・・・・・今、こうして健全に話ができるのも奇跡かも知れません。」
2人は交互にこれまでの経緯を具体的に話す。

「そうか・・・・・・私は戦いに敗れ意識を失い・・・・・・お前達!教会での戦いはどうなった!?我々は勝ったのか!?」
するとルナリトナは落ち込んだ表情を背け頭を軽く横に振った。
「残念だけど・・・・・・アルベルナは死んだらしい。任務は失敗に終わったって・・・・・・」
「外の部隊と合流し追い詰めた際、エデンの熾天使の1人が現れ彼女を殺したそうです。恐らく騎士団の情報を知られないよう口封じのために・・・・・・」
「ミシェル・・・・・・ミシェルは!?あいつは無事なのか!?」
カティーアは任務の失敗など意に介さず真っ先に親しいミシェルの事を問い詰める。
ルナリトナは"言うと思った"と呆れた薄笑いをして
「あの子なら怪我はないし心配する必要はないよ。それに今回は凄く大活躍だったとか・・・・・・」
「私もルシールさんから聞きましたがミシェルちゃんの魔法があったからあのナデージュダを倒せたとか・・・・・・今、あの暗殺者は捕虜として地下牢に監禁しています。」
「そうか・・・・・・よく分からんが逃げずに最後まで戦っていたのか・・・・・・強くなったな、ミシェル・・・・・・」
ここにはいない彼女の誉め尊敬したが
「だが私は・・・・・・戦士として失格だ・・・・・・」
自身にはその裏腹に非難を浴びせた。
「はあ?どうしたんだよ急に?自分を責めたりなんかして?」
彼女らしくない弱音に驚くルナリトナ。ジャスティンも目を丸くする。
「私は同じ境遇の中を生きてきたミシェルを何があっても守り抜くと誓った・・・・・・それなのに天使でもない者に後れを取りあの子を危険な目に遭わせてしまった・・・・・・終いには助けられ・・・・・・これほどの屈辱は他にあろうか・・・・・・自分はこんなにも無力なんだと思い知らされた・・・・・・」
「そんな事はありません。5人係で戦ってもナデージュダには勝てなかった。あなたが決して弱いからじゃない。だからそんなに落ち込む必要はありませんよ。」
「ジャスティンの言う通り、僕達がやられてもカティーアだけはたった1人で勇敢に立ち向かっていたじゃないか。僕達にはとても真似できない教団の鑑だよ。」
「しかし・・・・・・!」
カティーアは納得いかず歯を強く噛みしめる。
悔しそうに毛布を掴んだ拳は小刻みに震えていた。

「戦い慣れた教団の精鋭達がこんなにもいとも容易く・・・・・・私達が相手にしている騎士団は余程の手練れ達が揃っているのでしょう。これから先の戦いも油断は出来ませんね。」
「こっちに死人が出なかったのが奇跡と言ってもよかったんじゃない?正直、今回の戦いで人生が終わるのかと思っていた。任務は失敗に終わったけど清々しい気分だよ。」
その台詞を最後に3人は会話を途切れさせる。
何とも言えない空虚な気持ちに苛まれ誰1人、言いたい言葉が浮かばなかった。
疲れていたわけじゃない・・・・・・なのに何故か身体に妙なだるさがあった。
静寂な時間だけが1秒また1秒と流れ過ぎ去って行く。
「・・・・・・いつまでもずっと、皆と一緒にいられるかな・・・・・・?」
しばらく間を開けてルナリトナが口を開いた。
彼女はぼんやりと沈もうとしている太陽を一望できる窓の外を眺めていた。
空へと羽ばたく白い鳥の群れの行く先を目で追う。
「・・・・・・何か言いました?」
風が吹いたような囁きに気づきジャスティンは何食わぬ顔で隣を向いた。
「ううん・・・・・・何でもない・・・・・・」
ルナリトナは生返事を返すと倒れるように横たわり毛布に包まった。
「とにかく、今は余計な事を考えずゆっくり休みましょう。怪我を治さない限り行動は起こしようがありませんから。」
「はっ、そうするべきだな。まずは損失した戦力を回復させて次の機会に備えるとしよう。」
闘争心を燃やすカティーアは軽く運動し凝り固まった肉体をほぐす。
腕や首、胴体を捻じる度、聞き心地の悪い骨の音が鳴る。

「あっ、カティーアさんもようやく意識を取り戻されたんですね。安心しました。」

横から弱気な声がしカティーアは鋭い眼差しを送った。
白い髪に犬の耳を生やした獣人の青年、クレイスが歩み寄って来る。
彼は薬瓶と少なめの夕食が乗ったプレートを運んでやって来たのだ。
それをベッドの横にあるテーブルに置くと一歩足を下がらせ一礼した。
「かたじけないなクレイス、随分顔色がよさそうだが体調は改善したのか?」
「は、はい!お陰様で!皆さんにご迷惑をかけてしまった事を大変申し訳なく思っています!」
クレイスは緊張を見え隠れさせながら返事を返した。
カティーアは僅かに顔をほころばせ
「相変わらず硬い性格だな。私達は仲間なんだ。もっと気軽に接してもいいんだぞ?」
「ぼ、僕はいつもそのつもりですけど・・・・・・」
クレイスも無意識に苦笑しボサボサの髪をかいて撫で下ろす。
「じゃあ、僕はこの辺で・・・・・・山積みになった仕事を片付けなければいけませんから。」
「・・・・・・ちょっと待て・・・・・・その、お前に言っておきたい大事な話がある。」
医務室から立ち去ろうした後ろ姿の彼をカティーアが呼び止める。
「・・・・・・?はい、何でしょう?」
ビクビクとした顔を振り向かせクレイスは再び彼女の傍へ戻った。
カティーアは彼の右手を優しく包み、真剣な表情で訴える。
「クレイス、私はまだ若いし存分に戦えるが戦に出ればいつ死してもおかしくない立場だ。もし、私の身に何かあったらその時はお前が代わりにあの子を・・・・・・ミシェルを守ってくれないか?」
突然の頼みにクレイスは"えっ?"と発した口を開けたまま何を言い返せばいいか戸惑う。
無意識に合わせた視線を後ろへ逸らすと2人の様子を心配そうに窺うジャスティンが視界に映る。

「頼む。あの子にちゃんとした世話をできるのはお前しかいないんだ。親友のルシールもいるがあの者はあまりにも幼過ぎる。」
「だけど、僕はカティーアさんほど強くないし・・・・・・戦闘だって得意じゃない・・・・・・守れる自信なんて・・・・・・」
「きっと大丈夫だ。賢さがあり自制心もあり皆から慕われている。気づいてないと思うがお前は自分が思っているより遥かに実力がある男だ。もっと己を力を信用しろ。」
「・・・・・・」
クレイスは照れているのか悩んでいるのかはっきりとしない面持ちで少しの間悩んだ。
やがて顔を上げると手を離さないカティーアを見下ろし
「すぐには"分かりました"なんて言えません・・・・・・ですが、カティーアさんの真剣な思い、深く胸に伝わりました・・・・・・確かにミシェルは僕にとっても大切な仲間です。あなたの言う通りあの子を守るべき者が必要なんだと思います。それに僕が相応しいのかは疑問ですが少し時間を与えてくれませんか?・・・・・・ゆっくり考えたいんです。」
それを聞きカティーアは厳しかった表情を緩め微笑み返した。
「ああ、無理に決断を下さなくても構わん。そして、1人だけで抱え込むな。他の者達を頼ってもいい。」
「ど、どうも・・・・・・じゃあ、さっきも言いましたけど多くの仕事が残ってますからそろそろ失礼させてもらいますね。」
クレイスは頼まれた役目を胸に抱え今度こそ医務室を後にする。
扉が閉まりその後ろ姿が見えなくなるまでカティーアは彼の背中を見送った。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.53 )
日時: 2018/08/05 22:43
名前: シリアス

太陽が姿を消してから一時が流れ世界は完全な夜になっていた。
晴れた黒い空には数えきれない星々が宝石のようにちりばめられている。
そんな幻想的な天井の真下に静まり返った街があった。
灯された明かりがほとんどない建物が建ち並んでいた。
その中に人一倍高く聳える教会の屋根に座り1人の少女が満点の星々を見上げていた。
冷たい夜風に髪を小さくなびかせただ呆然と眺めていた。
バルコニーに垂らした両足をぶらつかせその表情はどこか切なさを感じさせる。
「あっ、ミシェル!ここにいたんだ。」
ふいに横から声がしたかと思うともう1人の少女が床の扉から顔を覗かせていた。
彼女も屋根を渡りミシェルと呼んだ少女の隣に腰掛けた。
「絞った果物の果汁を持って来たよ。冷やしておいたから美味しいよ。はい。」
「ありがとうルシール。」
ルシールと呼ばれた少女は可愛く微笑んだ。
ミシェルも軽く明るい表情を合わせる。
「この場所が好きなの?」
「うん、まあね。」

2人は瓶の蓋を開け冷えた果汁を一緒に飲む。
甘い香りと味、冷たく喉を潤す感覚はこの涼しい外の空間にぴったりだった。
ルシールは口を離さず一気に飲み干し爽快な息を吐き出した。
彼女は空ではなく白い満月が水平線を照らす海を眺める。
「不安になった時や何かを考えたい時、いつもここに来て星空を眺めてるんだ。」
飲みかけの瓶を膝に置きミシェルが言った。
「そうなんだ。因みに今はどんな事を考えてたの?」
その問いにミシェルは頭を下げ落ち込んだ声で
「お父さんの事・・・・・・考えてた・・・・・・」
「お父さん・・・・・・?」
やや深刻な表情でルシールは隣にいる幼馴染みを見つめる。
「私が今よりも幼かった頃、私とお母さんを残して出て行ったきり戻って来なかった・・・・・・理由は分からない。だけど、凄く悲しかった・・・・・・泣いても泣いても悲しみは癒えなかった・・・・・・愛してなかったから私達の事、捨てたんじゃないかって・・・・・・そう思っていつも絶望していたの・・・・・・」
「ミシェル・・・・・・」
「だからね、この星空を眺める度に思うの・・・・・・お父さんは今頃どこで何をしているのか・・・・・・私と同じ綺麗なこの空を見上げているのかなって・・・・・・」
「もし、お父さんが戻って来たらミシェルはどうしたい?」
ルシールが聞いてミシェルは悩ましく唸って
「そうだね・・・・・・まず最初に二度と私とお母さんを置いて行かないでって叱って・・・・・・そして思いきり抱きしめてあげたい。いつかまた3人で一緒に暮らせる、その願いが叶うなら他には何もいらない。」
「きっと叶うよ。」
「・・・・・・え?」
ルシールは自信ありげに言って仰向けに横たわる。
少しばかり美しい空を見上げ再び無邪気な笑顔を作った。
「人間も魔女もエルフも自分の家族を愛さない者はいない。ミシェルは優しくていい子だから愛されていないなんて絶対にあり得ないよ。あなたのお父さんにだっては何か大事な理由があったんじゃないかな?それが済んだら必ず帰って来るよ。信じて待とう?悲しむ必要なんてない。」
「・・・・・・ありがとうルシール。」
ミシェルは涙ぐむ目を拭い余った果汁を全て飲み干すと自身も横たわりルシールの傍に寄る。
お互い何も言わずぼんやりと空の景色を楽しむ。2人はいつまでもまだ消えない星空を眺めていた。




バサバサッ・・・・・・2つの月が浮かぶ夜空の真ん中で翼を羽ばたかせる音、黒い影が空を真っ直ぐ通過していった。
その正体は2人の天使の少女だった。
生やした翼は身長よりも大きく向かい風を漕いでいる。
月沿いを飛ぶ天使は胸元まで垂らせる金髪を背中へなびかせ右手には両端が刃となっている大弓を軽々と運んでいた。
上機嫌とも言える楽しそうな面持ちで広がる光景を眺めすれ違う鳥達の行方を見送る。
隣にいる天使は何事もせず無表情だった。
白い長髪を右腕の手首に銀のガントレットを身に着けた彼女はまわりの環境などまるで興味を示さずただ、行きたい所へ飛び続けていた。
「いつ見てもこの世界は綺麗だよね〜?それに比べ人間の世界は汚過ぎて身体が臭くなるかと思ったよ。クリスティアちゃんだってそう思うでしょ?」
クリスティアと呼ばれた天使は彼女に振り向く事なく
「人間の世界なんて興味はないしどうでもいい。私は騎士団の信条と主に従うだけ。キルエル、あなたもエデンの熾天使ならそれらしく振る舞いなさい。」
「もう〜クリスティアちゃんもアルベルナちゃんみたいな事言うんだね?もっと私みたいに性格を柔らかくした方がいいと思うぞ〜?」
キルエルの提案をすんなり無視し
「アルベルナ・クディニー、いくら組織を守るためとはいえ彼女の死は私達にとって大きな痛手をもたらした。人間界で勢力を拡大しているカトリック教会諸国にもかなりの悲報となり今後の戦争にも影響が出るのは間違いない。」
「ま、人間がいくら殺し合おうが私達には関係ないよ。勝手に死んどけって感じ。アルベルナちゃんだって騎士団に相応しいとはお世辞にも言えなかった。私達と比べたら能力も階級も低い下等な存在、捨て駒の死に悲しむ必要なんかないよ。」
「彼女はあなたの事、尊敬していた。共に戦える事を誇りに思うと。」
キルエルは嬉しそうな表情を一切作らず
「そう?私にとってはいてもいなくてもどっちでもいい子だったけど?」

しばらく空の先を行くとやがて2人の前に浮島が見えてきた。
天を浮遊するその島は生い茂った森林に囲まれた小さな城を乗せていた。
それは偉大な聖職者達が集う教会、またはカテドラルにも見える。
夜に包まれ静寂に満ちているが塔の頂上に薄っすらと明かりが灯っていた。
クリスティアとキルエルは翼の動きを変え低空飛行で城へと繋がる階段へ降り立った。
城門付近には鎧で身を固めた天使の騎士達が2人に対し一斉に跪く。
その中心に翼のない1人の男が立ち尽くし到着を待ちわびていた。
素顔をフードで覆い隠しローブに似た戦服で胸元にはナイフが仕込まれたレザーベルト、腹部は金属の鎧で覆われている。
右腿には天使の柄頭を持つ長剣が鞘に収められていた。
「クリスティア、キルエル・・・・・・ようやく来たようだな。」
フードの男の口が開く。その口調は不気味な程の平静さを感じさせる。
クリスティアは男の前に寄ると胸に手を当て一礼し
「ナザエル様・・・・・・あなた直々にお出迎えに来られようとは恐れ多い限りです。」
と礼儀正しく敬いの言葉を送った。
「遅れてしまい申し訳ありませんね。フランスでアルベルナちゃんの葬儀をしたもので。」
キルエルは実に不快な顔を作り一応敬語で事情を説明する。
「ご苦労、2人の働きは騎士団に多大な富をもたらすだろう。アルベルナの事は非常に残念だったが彼女の死を惜しんでいる暇はあるまい。ついて来い。『ミ・ロード(上主)様』がお前達を待っている。」
「ちっ、天使に気に入られただけの人間風情が偉そうに・・・・・・いつかこの手で殺してやるから・・・・・・!」
キルエルは舌打ちし聞こえない声で呟いた。
ナザエルの後に2人が続き扉が木がきしむ音を立てて閉ざされる。
それを合図に騎士達は屈んだ姿勢をやめ元の構えに戻った。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.54 )
日時: 2018/08/19 19:00
名前: シリアス

城内へ足を踏み入れた3人は誰もいない薄暗い廊下を進み上階へ向かう。
右脇にはいくつもの部屋、左脇には庭園と呼べる美しい中庭を見下ろせる真っ直ぐな廊下を辿っていく。
次は螺旋階段の段差を一段一段乗り越え更に上へと向かった。
時間を掛けて塔の頂上に到着すると室内の明かりが漏れる一室の前で立ち止まる。
「ミ・ロード様、クリスティアとキルエルをお連れしました。」
先頭にいたナザエルが扉を指裏で叩き部屋の中へ呼びかける。すると・・・・・・

『"その声はナザエルね?お役目後苦労様。3人共中に入りなさい。"』

内側から返事が返って来た。
吟遊詩人のような聞き心地がいい透き通った若い女の声だ。
優し気な態度に対しても3人は緊張感のある生真面目な表情に持ち替え入室する。
部屋は充実した生活ができる豪華な個室となっていた。
衣服を収納する銀細工のキャビネット、少女が少年に口づけする天使の名画が壁に飾られている。
机のテーブルには紋章のページが開かれたままの魔導書が置かれている。
そんな華やかなで立派な空間を天井にぶら下がるランプが僅かに照らしていた。
正面のベッドに声の正体であるミ・ロードらしき人物がいるがカーテンで覆われているため姿が見えない。
しかし、映った影の背中から鋭く巨大な翼が伸びており一見するとただの天使ではないと窺える。
「ミ・ロード様、睡眠を妨げる真似をし申し訳ありません。こんな夜更けに無礼なのは承知ですがあなたに伝えなければならない大事な知らせがあるもので。どうかお許しを。」
ナザエルは相手の表情さえも知り得ない影の前で膝を床につけ屈み込むと自身の非礼を謝罪する。
ミ・ロードと呼ばれた女は何が可笑しいのかクスっと短く笑うと

『"ナザエル、あなたが私の『身代わり』として指導者を偽ってくれているから誰にも邪魔されずに計画を練られるわ。
人間達を欺き心酔させるその魅力、悪魔らしくて素敵。あなた程の人間が味方にいるのは心強い限りよ。"』
「私などには勿体なきお言葉、ありがたき幸せでございます。このナザエル・ド・ラシャンス命尽きるまであなたに忠を尽くすつもりです。
では、知らせたい内容というのは・・・・・・クリスティア、作戦を指揮したお前が話した方が分かりやすいだろう。報告を頼む。」
「御意。」
クリスティアは何食わぬ顔で肯定し立ち位置を譲り受ける。
彼の態度にキルエルは不服でしかめた顔を横に逸らした。
「レフレールの街の1つであるリンデールの教会でアルベルナを含む同胞達が反逆組織である教団の襲撃を受けました。アルベルナを護衛していた部下達は全員死亡、追い詰められた彼女自身も口封じとしてキルエルが抹殺しました。騎士団の秘密を守るためとは言え彼女の死は苦渋の決断、胸が痛みます。」
『"そう・・・・・・アルベルナも死んでしまったのね。あの子の母親とは親友だった。私は新たな母として我が子同然に育てて来たのに・・・・・・"』
「私だって、やりたくなかったです!もし私達が援軍として駆けつけていればもっと違う結果に・・・・・・!」
キルエルも後ろから口を挟むみ作り泣きを始めるが

『"・・・・・・仕方ないわ。いかなる犠牲を払ってでも騎士団は目的を果たさなければならない。これが正しかったと言い聞かせるしかないわ。悲しんでいても始まらない。それでクリスティア、人間界での現状を教えてくれないかしら?"』
「はい、我々の助力により第4回十字軍は勢力を取り戻し遠征を再開しました。エルサレム奪還も恐らくは時間の問題です。ヨーロッパ諸国の支配はモスクワ以外、既に完了しており戦争が終われば中東を我々の支配下に置くのも容易い事でしょう。」
『"ふふ、計画は順調のようね。支配は暴力ではなく繁栄によって誘うもの・・・・・・その教えが私達、天に住む者達を栄光へと導いてきた。"』
「しかし、ミ・ロード様。我々には1つ悩みの種があります。さっきも言いましたがレフレールに潜む教団の輩です。あの忌々しい鼠共が・・・・・・!」
今度はナザエルが話の途中に割り込み教団に対しての誹謗を吐き捨てる。
『"確かに彼らは我々にしてみれば目の上の瘤。でも、その件に関しては心配は無用よ。彼らは直に内部から崩壊する。"』
「教団が内部から崩壊!?何故そう言い切れるんですか・・・・・・?」
自信に満ちた宣言にキルエルは目を丸くして問いかけた。

『"教団の隠れ家に『密偵』を密かに入り込ませているからよ。彼が敵を罠にはめ器用に陥れてくれるわ。だから心配はいらない。私達はこのままやるべき仕事を果たしていくだけ。"』
「では、ミ・ロード様。私達はこれからどうすべきなのでしょうか?騎士団の栄光のため僕である私達に使命をお与え下さい。」
クリスティアは忠誠心が溢れた眼差しで彼女を睨んだ。
『"キルエル、あなたは部下達を率いエジプトに向かいなさい。イスラム軍の本拠地を攻略するのよ。あそこが支配下に入れば騎士団にとってもかなりの利益となるでしょう。"』
「はあ・・・・・・分かりました。」
キルエルは納得しきれずため息を漏らしながらも下された命令には素直に肯定した。
『"クリスティア、あなたはレフレールに戻り他の幹部達に警戒を厳しくするよう伝えて、ついでに各支部に騎士団を動員してほしいの。それからあの国に残ったル・メヴェル教信者を暗殺しなさい。彼らを放っておけば事は厄介な方向へ進んでいくでしょうから。"』
「御意。」
『"そしてナザエルはアルベルナの死を教団の凶行だという真実を人々に広めなさい。民を敵に回せば彼らも大胆な行動には移れないはず。"』
「ミ・ロード様のご命令なら断る理由などありません。」
『"誰も私の意見に不満はないわね?なら、3人共下がっていいわ。あなた達も今日は休みなさい。任務の成功を祈っているわ。"』
「必ずや役目を果たして参ります。」
『"エデンの夜明けのために。"』
「「「エデンの夜明けのために。」」」
合言葉のような別れの挨拶を交わし3人は部屋を後にした。
扉が閉ざされ立ち去る足音は次第に遠くなり聞こえなくなった。
静寂な室内に残ったミ・ロードはベッドに横たわり
「もう少しね、人の世は醜い。私は天使の女王となり全ての生ある者に秩序をもたらす・・・・・・」
と呟きそっと目蓋を閉ざすと深い眠りに落ちた。

Re: 黒いリコリスの教団【修正版】 ( No.55 )
日時: 2018/09/08 21:14
名前: シリアス

2018年夏小説カキコ大会で銅賞を受賞させていただいたシリアスです。
入賞作品を一覧を見て私の作品が載っているのを見て一瞬、言葉を失ってしまいましたww

黒いリコリスの教団が始まってからもうすぐ1年が経とうとしています。
最初のページを投稿したあの日がまだ最近の出来事だと感じます。
これまでの事を振り返ると色々な思い出が浮かんできます。

この作品を書き始めた時、最初は受け入れてもらえるか正直不安でした。
ですが、たくさんの皆様からオリキャラを提案して頂き嬉しさを感じやる気に満ち溢れました。
お陰で黒いリコリスの教団は自分が想像しようとしていた物よりずっとより良い作品になったのです。

私の実力なんてほんの少ししかありません。
皆様が協力や発想が一体となり成り立っているのが黒いリコリスの教団なのです。

オリキャラを提供して頂いたそーれんか様、つっきー様、Leia様、エノク・ヴォイニッチ様、リリコ様、Rose様、あいか様、ブレイン様、本当に感謝しております。

決して楽ではない道のりでしたが小説を書いてて本当によかったと心の奥底から思っています。
苦労で得られたこの感激はしばらくは治まらない事でしょう。
この日を忘れずこれからも創作を生き甲斐にしていくつもりです。

今後ともこのシリアスをよろしくお願いします!
本当にありがとうございました!

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