ダーク・ファンタジー小説

黒いリコリスの教団
日時: 2019/07/01 15:43
名前: シリアス

初めまして、シリアスでございます。
文章はいかにも素人ですがこんな私でもよければ・・・・・・
悪口や皮肉、いたずらコメントなどは決してしないでください。
舞台はファンタジージャンルがぴったりの11世紀の中世時代です。
天使や悪魔、魔法や錬金術などが存在し一部の人しか知られていないという設定。
主人公は秘密の教団『リコリス』の指導者として敵組織である『セラフィムの騎士団』の支配を終わらせるために戦うというストーリーです。

オリキャラを募集しておりましたがここで締め切りとさせて頂きます。
たくさんのキャラクターを提供してもらい深く感謝しています。
どうもありがとうございました!


登場人物


【リコリス教団】

ルシール・アルスレン

本作の主人公。種族は人間と食人鬼のハーフ。
かつてレフレールの悲劇を終わらせた英雄のブレードガントレットを愛用している他、あらゆる武器を扱う事が可能。
14歳の少女ながらも剣技や暗殺などのスキルは抜群で仲間からの尊敬を集める。
リコリスの教団の長として仲間を率いセラフィムの騎士団と戦う。


ミシェル・ヴォーン

教団の一員でありルシールの親友である人間と魔女のハーフ。
特殊な魔族の家系を持ち魔女の魂を吸収し能力を向上させる特殊スキルを持つ。
幼い頃、ルシールと共に教団に加わって以来相棒として活動している。


ロベール・ド・カルツ

ルシールの右腕である老神父。種族は人間。
教団のまとめ役で主に情報を団員に提供する。
彼もまたル・メヴェル教信者殺害事件の被害者であり娘を失った。
そのため犯人として騎士団を疑っているが命懸けの任務をルシール達に任せている事に心を痛めている。


ルナリトナ

リコリス教団の一員。種族は人間。
錬金術や薬の調合に長けておりその技術を武器とする。
戦闘よりも仲間の援助が得意で剣術はとてもじゃないが苦手。
ディーノと気が合い共同で研究や発明に明け暮れている。


ソフィ・ツヴァイフェル

リコリス教団の一員。種族は人間と悪魔のハーフ。
双剣を使った剣術と黒魔術を得意とする。
悪魔と人間の混血ということで人間からも悪魔からも忌み嫌われているため身分を隠していた。
しかし、相棒のリクに対しては心を許しており行動をよく共にする。
反対に稽古の際に不覚を取らされたミシェルをライバル視している。


リク・フォーマルハウト

リコリス教団の一員。種族は人間。
好奇心が強く誰に対しても明るく接し純真無垢で真っ直ぐな性格。
誰かを守りたいという思いから最強の戦死になろうと努力している。
武器は普段、背中に背負った大剣を使用する。


ジャスティン・リーベ

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
礼儀正しく真面目で純粋、人懐っこく誰とでも仲良くしようする性格。
教団に入る前は聖職者で魔を浄化する力で人々を救済していた。
弓を得意とするが武器がなくても戦えるようにと護身術程度だが肉弾戦もできる。


クロム・リート

リコリス教団の一員。種族はエルフ。
賢く冷静で、何事も要領よくこなす優等生。ジャスティンの異母弟。
一方でお節介ともいえるほどの世話焼きな面もあわせもつ。
魔法石の杖を扱い回復魔法や光属性の魔法が得意だが戦闘の際には闇属性や攻撃的な魔法を主に使用する。


カティーア・ヴァイン=トレート

リコリス教団の一員。種族は魔女と天使のハーフ。
19歳になるまで天使だけの小さな村に住んでいたが混血である事が原因で他の住民から迫害を受けていた。
そのため高潔で傲慢な性格と天使をいつも目の敵にする。
しかし、可愛いものやお菓子が好きで褒めると調子に乗る癖がある。
種族が同じという理由でミシェルとは親しくなり本当の姉妹のような関係を築いた。
武器はレイピアだが天聖滅拳(てんせいめっけん)という対天使用の拳法も使用できる。


ディーノ・アインス

リコリス教団の一員。種族はホムンクルス(クローン)。
好奇心が強く知らないものにはかなり興味を示す性格。"やはり俺は天才だ!"が口癖。
武器は魔法のカードで召喚獣を具現化させて戦わせる。
クローンのプロトタイプとして生み出され 人体実験の被験体として扱われてきた。
しかし、ある日生みの親である魔術師に連れられ、魔術師見習いとして修行していた。
ルナリトナと仲が良くしょっちゅう共に新たな発明に明け暮れている。


リベア・グロリアス

リコリス教団の一員。種族は人間。
数は少ないが大らかな感性を持ち基本的に優しい性格。争いや喧嘩が大嫌い。
かつて鬼神、邪神、破壊神などと呼ばれ人々を恐怖に陥れた堕天使アプスキュリテが封印されていた漆黒の魔剣を武器として扱う。
剣の中の堕天使が復活しないよう魔を祓う力を持つレナと共にいる。


レナ=ルナリア

リコリス教団の一員。種族は聖女。
男勝りで勝気、常に強気。抜け目がなく何があろうとも余裕な表情を崩さない意志の強さを持つ。
しかし、あまり他人に特別扱いや色目を使われるのを苦手としているため正体を明かさないようにしている。
女神に生み出された聖女で魔を祓う力を持ち純白の聖剣を扱う。
リベアの持つ魔剣の監視兼護衛のためリベアと共にいる。


テオドール・ヴェル・ドンゴラン

リコリス教団の一員。種族は竜人。
ほとんど全滅してしまった失われた種族、竜人の青年。
物静かで穏やかな性格だがその反面、戦略を練るのが得意な野心家。
戦闘の際は竜化し硬い鱗で覆われた鋼色の巨大なドラゴンになる。
他にも幻惑魔法も使用でき他人を操る事ができる。


【セラフィムの騎士団】


ナザエル・ド・ラシャンス

セラフィムの騎士団の指導者。種族は人間。
紳士的な態度で国民に接するが顔を覆い隠しており素顔を見た者はいない。
騎士団の中でも謎が多い人物である。


クリスティア・ピサン

セラフィムの騎士団に所属するナザエルの右腕で組織のナンバー2。種族は『エデンの熾天使』。
普段は淑女のように振る舞うが敵と失敗者には容赦しない非情な性格。
騎士団の中でも右に出る者がいない程の才色兼備の持ち主。
武器はブレードガントレット『アルビテル』を愛用している。


キルエル

イスラフェル聖団の高位の大幹部を務める少女。種族は『エデンの熾天使』。
明るく無邪気だがどんな非情な命令でも楽しそうに実行する残忍な性格で人間を見下している。
聖天弓フリューゲルを扱い敵の殺戮を楽しむ。


ナデージュダ・ペトラウシュ

イスラフェル聖団に雇われている暗殺者。種族は『ダークエルフ』。
各地で差別され酷い仕打ちを受けておりダークエルフという理由で両親と妹を人間達に殺された過去がある。
1人生き残った彼女は暗殺組織に拾われ以来、暗殺の世界に生きる事になる。
イスラフェル聖団に雇われる形でルシールと対峙するが実際は聖団に団員達を人質に取られおり無理矢理従わされている状態。
多彩な武器に黒魔術や死霊魔術も扱える。


用語集


リコリス教団

セラフィムの騎士団に不信を抱いた者達が集って結成された秘密結社。
ルシールが設立し教団のメンバーは聖団の実態を探ろうと活動している。
組織の紋章は黒いリコリス。

セラフィムの騎士団

レフレールの守護を宣言した組織。
大半が天使で構成されており人間などの他種族はほとんどいない。
治安維持のためレフレールを併合するが国民からの信頼は薄く良くない噂も流れている。
組織の紋章は羽の生えた少女。

レフレール

フランス西部に位置する架空の孤島。
1192年にカトリック教会諸国の属国となりイスラム軍と戦った。
文化を吸収され宗教対象がキリスト教となる。

ル・メヴェル教

レフレールが属国となる前に崇拝されていた宗教。
1192年に信仰を禁止されカトリック教会が建てられた。


……オリキャラ提供して頂いたお客様……

そーれんか様
つっきー様
Leia様
エノク・ヴォイニッチ様
リリコ様
Rose様
あいか様
ブレイン様


【お知らせ】

2018年夏の大会では皆様の温かい評価により銅賞を受賞しました!
本当にありがとうございました!腕の悪い素人ですがこれからもこのシリアスをよろしくお願いします!

読みにくいページの修正を開始しました。文章はほとんど変わっておりません。

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Re: 黒いリコリスの教団 ( No.64 )
日時: 2019/07/09 20:28
名前: シリアス

 一方、デオドールは馬車を引いていた天使を車席から降ろし、道の外れへと移動させる。すっかり怯えきった捕虜に対し、彼は睨んだりはせず、にっこりと温和な面持ちで

「恐がらなくてもいいんですよ。あなたには少しの間だけ、僕の操り人形になってもらいますので」

「ひっ・・・・・・やめて!な、何をするつもりなの・・・・・・!?」

 額に手をかざされビクッと身震いをする捕虜。デオドールは何かしらの呪文を呟き、手から発した禍々しい妖気を彼女に流し込んだ。心地いい感覚に不安をかき消され、捕虜は顔をほころばせる。目を細め、まるで催眠術にかかったかのようにガクンと頭と俯かせた。

「あ、あんたら、一体何者だ?俺達を助けてくれるのか?」

 閉じ込められた囚人の1人が気を許さず、用心しながら尋ねる。

「味方とは言い難いけど、少なくとも天使の連中よりはマシな存在だ」

「私達の事は誰にも口にしちゃだめ。こいつらみたいに死にたくなかったらね」

「あ、ああ!この事は誰にも言わないと約束するよ!だから早くここから出してくれ!」

 リベアが施錠を壊し、鉄格子を開ける。自由の身となった囚人達が我先にと列を押し、護送車の外へ流れ込んだ。彼らは恩人である2人に礼すら述べず、そそくさと街の方へ走り去っていく。最奥にいる1人を除いては・・・・・・

「おい!君はどうして逃げないんだ!?」

 最後の囚人は背の高い少女だった。整えられた茶髪を肩まで下ろし、大きな目と精悍な顔を持つ。両足を横に伸ばした姿勢で、こちらを見上げ、視線を逸らさない。

「リクッ!目を開けてくれ!リクッ!」

 ソフィは何度もリクに呼びかけるが、やはり反応がない。矢傷から流れ出た血が、服に染み込み、赤い円が広がっていた。

「悪魔令嬢、離れてくれないか?俺と魔術師で応急処置を行う」

 ディーノとクロムは悲しみに暮れるソフィを下がらせ、怪我の状態を確かめるため鎧を外し、服を破った。生臭く、血で汚れた醜い背中を目の当たりにし、3人は苦い顔を背ける。

「うぇ・・・・・・!」

 傍にいたミシェルも気分を害してしまい、口を覆った。

「矢が深く刺さっているな・・・・・・鎧を身に着けていなかったら、間違いなく胸部を貫通していただろう」

「ディーノさん、非常にまずいよ・・・・・・!この位置、恐らく心臓まで達してる・・・・・・!」

「だが、死んではいないんだろ?」

 ディーノが冷静さを保った普段の口調で聞く。

「一応、呼吸はしてるみたい!これだけの致命傷を負っても生きてるなんて、奇跡と言ってもいい・・・・・・!」

「治せるか?」

「治癒魔法を施すには、まずは矢を抜き取る必要がある!でも、そうしたらショックで、心臓が止まるかも知れない・・・・・・」

 クロムは結果を予想した。その表情はかなりの深刻さを露にしている。

「なあ・・・・・・リクは助かるのだろう・・・・・・?頼む・・・・・・そうだって・・・・・・そうだと言ってくれっ!!」

 ソフィはそう強く訴え、顔中を涙でぐしょぐしょに濡らす。

「・・・・・・お願いだ!!リクを見捨てないでくれ!!」

「悪魔令嬢、よく聞くんだ。俺達はいつの時でも、死と隣り合わせである事を忘れてはならん。時には、大切な者を失う運命を辿る事さえある。それを乗り越える勇気がなければ、教団の精鋭は務まらない」

「待って!まさか、リクを見殺しにするの!?」

 残念そうに首を振るディーノの言葉に、ルシールは当然、反感を抱く。

「矢を抜き、更に心臓を傷つければ、こいつは死ぬ・・・・・・そして、死者は決して蘇らない。ならいっそ、楽にした方がこいつのため・・・・・・」

「嫌だっ!!リクを死なせないでくれっ!!」

 ソフィは、今度は自分がリクに覆い被さり、死に物狂いで泣き叫んだ。

「俺だって辛い。だがな、この世界で生き延びたければ、甘さを捨てるしかないんだ」

「嫌だっ!!何があっても、私はリクと一緒だっ!!リクを殺すなら私も殺してくれっ!!」

「いい加減にしろっ!!」

 ディーノが力強い怒鳴り声を上げた。憤怒に驚き、ソフィは叫ぶのをやめ、しゅんと静まり返った。絶望に染まった彼女の両腕を掴み、顔を寄せ

「お前は誇り高い戦士なんだろ!?なら、この残酷な現実を受け入れる強さを持て!辛いのは自分だけとは思うな!これは俺達の宿命なんだ!お前だってこうなる事を覚悟して、この戦いに加わったんじゃなかったのか!?」

「だって・・・・・・リクは私にとって・・・・・・たった1人の・・・・・・!」

 そう強く言い聞かせるが、ソフィは仲間の死を受け入れられるはずがなかった。

「私も此奴の意見は好きになれんが、ディーノの言う通り、リクはここに置いて行くべきだ。今までの数多い戦いの中、心臓をやられた戦士を何百人と見てきた。私からすれば此奴はもう助からん。それに護送車を奪い取ったとはいえ、ここに立ち往生していれば、直に別の敵部隊がやって来る。そうなれば、全てが水の泡だ」

 ナデージュダもディーノに賛成し、これからの計画を重視させる。

「聞いたな?各員、天使の亡骸を隠すんだ!それと、大剣使いもだ。今回の戦いが済んだら遺体を回収し、隠れ家に連れて帰ろう」

「嫌だ・・・・・・嫌だ・・・・・・リク・・・・・・!」

 再び泣き始めるソフィにルシールも涙を流し、そっと優しく抱きしめる。方法を見い出せない自分の無力さに、クロムも悔しそうに握った拳を震わせ涙を堪えていた。


「私なら、その人を助けられるよ」


 ふと、透き通った美しい声がどこからか消えた。その台詞が耳に行き届いた時、精鋭達ははっとし、注目の視線が同じ場所へ集まる。視界に映った正体は、唯一、逃げなかった囚人の少女だった。

「リクの命を救えるの!?」

 希望を見い出し、少女に駆け寄ろうとするミシェルをナデージュダが引き止め、警戒する。

「動くな。こいつの致命傷を治癒できるだと?嘘をついているようには見えないが、お前は一体何者だ?魔術師か?」

 ディーノはカードの力を発動し、雷撃魔法の狙いを定めた。恐れる兆しを表さない少女は微笑みながら首を横に振り

「とにかく、時間がない。この人の命はあと数分。今やらなきゃ、手遅れになる。ここは私を信用してくれないかな?」

 そう言って少女はディーノとナデージュダの間をすれ違い、リクの元へ向かう。

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.65 )
日時: 2019/07/21 19:41
名前: シリアス

「ねえ?本当にあの人、何者なんだろうね?」

 クロムが囚人を逃がした2人に問いかける。

「さあ?檻から解放してあげたのに、どうしてかこの人だけは逃げようとしなかったんだ」

「錬金術師じゃないだろうね。ましてや、王宮魔術師にも見えない」

 リベアとレナもよく分からないと言った仕草で、質問の内容と差ほど変わらない返答を返すだけだった。

「リクを・・・・・・リクを救えるのか・・・・・・!?」

 ソフィが涙声で言って少女を見上げる。

「うん、安心して。だからもう、泣かなくてもいいよ」

 少女はソフィを下がらせると、膝をつきリクの背中に左手を乗せた。これから何が起こるのかと、期待と不安を募らせながら、精鋭達はその様子をじっと眺める。

「あなたはまだ、天使の国へ誘われるべきじゃない。この世での使命を果たすため、再び生の地を歩みなさい」

 少女が言葉を発した時、彼女の手は光眩しく輝きを放つ。聖の力が宿った証に、リクの背中に紋章が浮かび上がる。深々と刺さった矢を抜くと、血が噴き出す事なく、傷穴は瞬く間に塞がった。

「う・・・・・・うう・・・・・・」

 死を免れ、意識を取り戻したリクがゆっくりと目蓋を開く。痛みのない感覚を不思議に思いながら、上半身をゆっくりと起き上がらせる。

「信じられません・・・・・・死に至る寸前の者をこうも簡単に救済してしまうなんて・・・・・・奇跡だ」

 神の恩恵とも言える治癒魔法を、離れた位置から眺めていたデオドールは目と口を丸くする。

「リクゥゥゥ!!」

 悲しみを一変させ、歓喜に狂ったソフィは嬉しさのあまり、リクを抱きしめ体を強く締めつける。頬に頬を擦り寄せ、離そうとしない。

「いててててっ!痛いよソフィ!」

「よかった・・・・・・本当によかった・・・・・・!」

「・・・・・・ふふ、ありがとう。ソフィも無事でよかった。君を守る事ができて、誇らしい気分だよ。危うく死ぬとこだったけどね」

 リクも表情を緩やかに和ませ、相棒の頭に手を乗せる。

「何者かは知らないが、感謝する。この恩は一生忘れない」

 ソフィが礼を言って、少女も笑顔で抱き合う2人を見下ろす。

「お礼なんて必要ないよ。私は当然の事をしただけ」

 少女はそれだけ言って、その場を立ち去ろうと振り返ると、カードの矛先を向けたままのディーノと対面する。油断を許さなかったリベアとレナも彼の行動に息を合わせ、静かに後ろへと回り込む。

「まだ、こっちの質問に答えてなかったな?改めて聞くが、お前は一体何者なんだ?魔術師にも見えんし、ただの人間にこんな奇術を行えるわけがない。まずは名を教えろ」

 敵意のある尋問をされても、少女はやはり、緩やかな表情を崩そうとはしなかった。逃走を目論む気配もなく、冷静沈着な態度で

「私は『ノエル・ネルティクス』、かつては騎士団に所属していた『エデンの熾天使』だよ」

 と敵意のない口調で答えた。

「なっ・・・・・・!?」

 ディーノは思いもよらなかった告白に言葉を詰まらせる。空気を深刻に一変させ、精鋭達はそれぞれの武器を構えると、ノエルを中心に集まった。命を救われた恩を差し置いて、リクとソフィも包囲網に加わる。

「・・・・・・」

 ノエルは何も言わず、前後左右を交互に見回し、再びディーノの方へ向き直る。

「エデンの熾天使だと・・・・・・厄介な者を救い出してしまったものだ」

 ナデージュダは戦わずとも、苦戦を強いられた苦い顔でマチェーテを強く握った。額から伝った汗が顎の下から流れ落ちる。

「どうする?此奴の息の根を止めるなら、逃げ場を遮った今がチャンスだぞ?」

「待つんだソフィ、相手がエデンの熾天使だと言うのが本当なら、無暗に襲いかかるのはかえって危険だ。ひとまず、ここは相手の様子を窺おう」

 リクは腕を前に出し、ソフィを一歩下がらせると、彼女だけに聞こえるトーンで囁いた。

「ど、どうしよう?せっかく、護送車を奪い取ったのに・・・・・・」

「大丈夫、例えエデンの熾天使でも、あっちは武器も鎧も身に着けていない。それにこうして囲まれた以上、下手に動けないはず。まずは相手がどう動くか、観察しよう」

「・・・・・・そうする」

 ルシールとミシェルもリク達と同じ、衝動的な行動は控える。

「なるほど。ではノエル、騎士団の大幹部であるはずのお前が何故、囚人として連行されていた?詳しく理由を説明してくれるか?できれば、自分の素性も偽りなく明かしてくれればありがたい」

 ディーノは再び、質問を持ち掛けた。ノエルは不服な反応はせず、素直に頷き要望に従う。

「私はかつて、56もの天種族で結成された12万の連合部隊を率いる隊長として、悪魔との戦争に出向き、幾度もの戦果を上げた。宝物拠点の奪還に成功すると両軍の間に休戦協定が結ばれ、その後はしばらく故郷に落ち着いた。その際にナザエル様と出会い、騎士団の一員となった私は新たな舞台を与えられ、第25空挺部隊に配属されたの」

「ナザエル・・・・・・騎士団の指導者か・・・・・・」

 ルシールは横から口を挟むように、独り言を口にする。

「では何故、そこまで優秀だったあなたが捕まったんですか?」

 デオドールがおもむろに聞くと

「最初は騎士団の仕事に誇りを感じていた・・・・・・でもある日、知ってしまったの。秩序をもたらす事を名目に、人間の世界に降臨した騎士団の真の目的は平和な統治ではなく、ただの弱者に対する支配なのだと・・・・・・」

 その時初めて、ノエルの明るい表情が曇る。

「やっぱりね・・・・・・僕達、教団が睨んだ通り、騎士団はこの世界の征服を企んでいたのか」

 読みが的中した事にクロムが納得し、ノエルが改めて続きを話す。

「騎士団の邪悪な陰謀を知ってしまった私は、この事を天界の元老院達や大天使であるミカエル様に報告しようと、組織の目を盗んで逃げだした。でも、結局は逃亡がバレて捕まって・・・・・・裏切り者への制裁は酷いなんて言葉じゃ、足りなかったよ。もし、このまま助けが来なかったらアザエール砦で処刑されてただろうね。あなた達は命の恩人だよ」

「もしかして・・・・・・君に翼がないのは・・・・・・」

 レナが予め悟っていた言い方をすると

「うん、騎士団の裁判にかけられた後、見せしめとして切り落とされた。もう、空へ羽ばたく事もできないし、二度と故郷の天界には帰れない・・・・・・翼のない天使に価値なんてないよね・・・・・・」

 ノエルは落ち込んで肩に手を乗せると、かつては翼が生えていた自身の背中を振り返る。分かりづらいが、服が被さった肩甲骨部分には血らしき染みが滲む。

「そんな事ない!ノエルがリクの命を救ってくれたから、誰も絶望しなくて済んだ!あなたも私達にとって命の恩人だよ!だから、価値がないなんて言わないで!翼がなくても、ノエルは立派な天使だよ!」

 ルシールは必死になって、ノエルの後ろ向きな発言を否定し、彼女を慰める。救われた事を改めて実感したリクとソフィは良心の呵責に苛まれ、突きつけた剣先を地面に下ろす。

「あっ、さっきの不思議な力の事?実はこれも奇術で種があるんだ」

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.66 )
日時: 2019/08/04 20:40
名前: シリアス

 ノエルは左手の人差し指にはめてあった1つの指輪を外し、手の平に置く。銀のリングには何かしらの文字が刻まれ、丸い緑の宝石が埋め込目れている。まるで、光の欠片にも例えられる美しい輝きを放つ。

「綺麗な指輪・・・・・・」

 ミシェルはその宝石細工に見惚れ、瞬く間に釘付けになった。

「それが奇跡の力の正体なのか?」

 ナデージュダも興味深そうに詳細を聞くと

「これはね、『リベラティア』と言って私の家系に代々受け継がれてきた家宝なんだ。エデンでとれた霊銀と聖玉で作られてるの。身に着けた者に治癒と再生の力を与え、どんな怪我や病気もたちどころに治す」

「それがあれば、どんなに味方が負傷しても再起可能ですね。まるで使っても減らない秘薬だ」

 真剣に腕を組んだデオドールが上手く物に例える。

「もし、私が処刑されたら、これはラファエルに奪われていただろうね・・・・・・翼を失ってもこれだけは失いたくない・・・・・・!」

 ノエルは大事そうに指輪を包んだ両手を胸に当て、頭を浅く俯かせた。

「・・・・・・で、結局こいつはどうするつもりだ?このまま逃がせば、俺達の計画をばらされる可能性があるぞ?」

 ディーノは改めてノエルの問題に携わった話を持ちかける。

「ディーノさん、もしかして彼女を殺す気なのか!?」

 クロムが肯定に反した口調で仲間の理性を疑う。

「命の恩人だろうが、この女は騎士団の幹部としてこの世界に混沌をもたらした事は、洗い流せない事実だ。こうして抵抗すらせず、友好的に接しているが敵意を秘めていないとも限らん。剣や弓で傷つけ合うだけが戦いじゃない。本当の戦と言うのは如何に相手を欺き、陥れるかだ」

 淡々と述べられる意見が正論であっても、賛成の意を示す者は1人もいなかった。ディーノ以外、全員がやり切れない様子で躊躇いを抱く。

「ディーノは正しい・・・・・・いつも皆の安全を重視してくれる。だけど、私にはできないよ・・・・・・」

 ミシェルが最初に口を開いた。

「私もこの子同様に反対だ。与えられた恩を忘れ、恩人に刃を向けるなど獣以下としか言えまい」

 ナデージュダに続いてリクとソフィも

「私も此奴を殺めるのは遠慮しておく。誇り高き悪魔は恩人を斬らぬ。例え、相手が敵であってもだ」

「はあ・・・・・・自分の命を救ってくれた人に剣を構える行為が、こんなにも恥ずかしいなんて・・・・・・」

 リベアとレナも

「無抵抗な者を傷つけるのは、教団の掟に反するしね」

「右に同じ。しかも、相手は怪我人。そんな人に危害を加えたら、この世界の秩序を乱してる騎士団と同類にになっちゃうよ」

 と害意のない意見を合わせる。たった1人という、少数派の立場に立たされたディーノは、やる気の薄いため息をついた。流石の彼も、この状況には手も足も出せず、困惑しているようだ。

「どうも俺は、こういう状況には弱いらしい・・・・・・こうなってしまってはお手上げだ。嬢ちゃん、しつこくて悪いが教団の長はお前だ。この熾天使を生かして逃がすか、ここで殺すか、決めてくれ。それに異議なく従おう」

 しかし、ルシールの下した決断は

「そのどちらでもないよ」

 彼女は自分よりも何倍も背が高いノエルを見上げた。

「ノエル。私達、教団に加わって。あなたが協力してくれれば、これ以上の心強さはない。騎士団の過ちを正したいのなら、一緒に戦おう?」

 その判断に精鋭達は心を騒がせた。目を丸くする者、互いの顔を見合う者、どう議論すればいいか分からず戸惑う者。

「私が・・・・・・?」

 常識を覆す提案にノエルも耳を疑い、思わず聞き返してしまう。しかし、ルシールの眼差しは本気だった。

「私達が護送車を襲ったのは、本物の囚人と入れ替わってアザエール砦に潜入するため。そこでラファエルを暗殺し、囚われた人々を解放する計画なの」

「そんな、危険過ぎる・・・・・・あなた達は一体・・・・・・?」

「このまま放っておけば、ラファエルは罪のない人々を虐殺し続ける。奴の悪事の連鎖は誰かが断ち切らなければならない。それにあの砦には・・・・・・」

 ルシールは同じ事を考えてるだろうナデージュダの方を向いて

「彼女は暗殺者集団の長で、元々はあなたと同じ騎士団に属していたんだ。でも、奴らの卑劣な行いで親友を失い、私達組織に手を貸すと決めた。アザエール砦には彼女の部下が大勢囚われてる。彼らはもうすぐ、用済みとして処刑されるかも知れない。だから、一刻も早く砦に行って救い出す必要があるの。手遅れになる前に」

「私からも頼む」

 ソフィも前に出て懇願する。

「天使に頼るのは悪魔の名が泣くが、今の私達だけの戦力ではあまりにも不利だ。エデンの熾天使は1人だけでも数万の戦力に匹敵すると聞いた。恩人に欲張るのは恥じるべき好意だと知っている。しかし、ここは共に剣を取ってくれないか?」

「僕からもお願いします。ノエルさんがいれば、たとえ相手が軍隊でも恐くない」

「わ、私もノエルさんがいれば、砦の戦いは有利になると思う」

 とルシールに賛同した。

「お前ら・・・・・・!衝動的な感情にかられず、もっと冷静に物事を・・・・・・!」

 ふいにデオドールは後ろから、すぐに気を許してしまう仲間達に慌てるディーノの肩に手を乗せ

「信じてあげてもいいんじゃないですか?彼女は自身の翼を切り落とした騎士団を恨んでるはず、少なくとも、簡単に寝返ろうとはしないでしょう。それにエデンの熾天使がこちら側につくとなれば、我々は強大な勢力を得られたも同然、悪い話ではないと思いますよ」

 と温和な表情で言った。

「はあ・・・・・・後で後悔しても、俺のせいじゃないからな?」

 多数決に負けたディーノは、ひとまずは魔力を弱めたカードをしまい武装を解く。そして、自分だけは認めないと言わんばかりにノエルを睨んだ。

「本音を明かせばこんな事、猛反対だが状況が状況だ。今だけは信用してやる。だがな、俺達を裏切ったら翼をもがれるよりも酷い仕打ちが待ってるぞ?見張ってるからな?」

「心配しないで、私を自由にしてくれた恩を仇にして返したりはしない。約束するよ」

 そう言ってノエルはまた、笑みを取り戻す。

「その誓いが本物だったらいいけどな・・・・・・!全員、天使共の死体を隠したら護送車に乗れ!アザエール砦へ向かうぞ!」

「ディーノさん、捕虜を幻惑魔法で操りました。この子がいれば、砦への潜入も楽になるかと・・・・・・」

 デオドールは捕虜を前に差し出した。操られた天使は、忠誠を誓うように胸に手を当て、深くお辞儀をした。

「流石だな竜人、頼りにしてるぞ。さあ、お前も後始末を手伝え。すぐにここを出発するからな」

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.67 )
日時: 2019/08/18 22:32
名前: シリアス

 アザエール砦


 不毛地帯とも呼べる広大な荒地の上に、その砦が陣を構えていた。分厚い石造りの砦壁は塔のように聳え、幅も果てしなく広い。強固な城壁は、内側を四角い構造で八方から取り囲んでいる。砦周辺にも大勢の天使が地上と空を行き来し、厳重な警備を行う。監視塔にも弓兵がいて、スピアが装填されたバリスタが設置されていた。そこは最早、大勢力を迎え撃つための攻撃拠点と言っても過言ではない。

 教団の精鋭達が乗った護送車が、間もなく砦に辿り着く。ルシールを含む数人は鉄格子の中から要塞を見上げ、ナデージュダやクロムがまわりの様子を観察する。外側では重武装した見張り達が、決して逃がすまいとこちらを鋭く睨んでいた。

「これが、アザエール砦・・・・・・」

 遠くから眺めた時とは比べ物にならない凄まじい迫力に、ルシールは威圧感を露にした。隣にいたナデージュダも全く同じ感情を抱き、緊張を膨らませる。

「噂では聞いていたが、まさかここまで軍備が整った要塞とはな・・・・・・くそ、ラファエルめ。こんな場所に閉じこもるとは、いかにもあいつらしい」

「それにしても、でかい砦だな・・・・・・一体、どれくらいの囚人が収容されているんだ?」

 思わず苦笑したリベアが独り言を零したのに対し、レナは彼とは異なる推測をした。

「そんな事より、問題はこの砦の中にどれだけの敵兵がいるかだよ。周辺だけでもこんなにも警備が堅いんだ。きっと、内側にはもっと大勢の天使共がいるはず・・・・・・」

「おい、静かにしろ!周辺にいる奴らに聞かれたらどうする!?」

 ディーノが鼻に指を当て、粗暴に囁く。2人はすぐさま沈黙し、大人しく下を向いた。

 護送車が門の前で停車する。そこへ部隊長らしき天使がこちらへ近づいて来た。そいつは囚人に成りすましたルシール達を、ここまで連れて来た輸送兵に確認を取る。

「随分と遅かったな?到着予定時間はとうに過ぎてる。何かトラブルがあったのかと心配したぞ。ラファエル様を怒らせでもしたら、私の立場も危うくなるからな」

 デオドールの幻術で操られた馬車引きの天使は、ゆっくりと部隊長の方へ視線を送り、一礼すると

「到着が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。囚人の1人を乗せるのに手こずってしまって・・・・・・」

 と少し様子に違和感がありながらも、上手く嘘偽りを演じた。

「ん?確か、お前の部隊は重要人物の輸送を任されていたはずだ。他の兵達はどうした?一緒じゃないのか?」

 その問いにルシール達は、ビクッと一瞬の動揺を見せた。自分達の正体が明るみに出てしまえば、その場で殺されてしまう。逃れようがない危険性に全員が不安を募らせる。

(まずい・・・・・・このままじゃ・・・・・・!)

 ソフィが衝動にかられ、隠し持った双剣に手を伸ばしたが、リクがその手を掴む。

(だめだソフィ。こんな所で剣を抜いたら、せっかくの計画が水の泡だ。しかも、俺達は檻の中にいる上に奴らに囲まれてる。こんな状態で戦闘になったら、ろくに抵抗もできず全滅してしまう。ここは堪えてくれ)

(ルシール、本当に大丈夫なの・・・・・・?)

 ルシールの背中にしがみつき、今にも泣き出しそうなミシェル。クロムもぐっと歯を食いしばり、最悪な事態を避けられる事を祈った。

「重要な死刑囚がいるのにも関わらず、何故、同胞達がいない?答えろ」

 部隊長は口調をやや厳しく、改めて問いただした。操られた天使は、相変わらず動じない態度で

「オイエルセフィからここへ来る途中、我々を追って駆けつけた伝令に呼び止められまして。何か重大な問題があったらしく、護衛を任されるはずだった兵士達は皆、そちらの任に当たれとの命令でした。私は護衛なしの輸送は危険と訴えましたが、ここいらの一帯は安全だと告げられ、仕方なく1人で輸送任務を行う事に」

 と長々と嘘の事情を並び立てる。部隊長は訝し気な表情を絶やさなかったが、"そうか"とやがて納得の意を示した。

「では、一応、捕らえた囚人の詳細や処置について説明してくれ。手短にな」

「そちらに知らせを行き届かせた通り、騎士団を裏切った熾天使、ノエル・ネルティクスを連行して来ました。死刑執行はラファエル様本人が自ら行う予定です。他にも殺人罪や反逆罪、異教徒などの罪人も数名います」

「了解した。任務ご苦労、砦への立ち入りを許可する。門が開いたら、第3収容エリアに向かってくれ」

 部隊長は護送車を離れ、上に合図を送った。城壁にいた番人が舵を回し、太い鎖が引き上げられる。鉄の扉が鈍い音と共に時間をかけて開き、砦の内側へと通路を繋げた。

(危機一髪だったな。死を覚悟したのは何年ぶりだろうか?)

 ナデージュダが苦笑し、額にかいた汗を拭う。ルシールも一旦は緊張を緩め、未だに怯えているミシェルを抱いて、震える背中を摩った。

(くそっ、寿命が30年縮んだぞ・・・・・・!)

 クロムも胸を撫で下ろし、これほどのないスリルに文句を吐き捨てた。

(1つ目の難題はクリアだな。しかし、竜人。お前が操ったあの天使、本当に上手く誤魔化したな。あの証言はお前が言わせたのか?)

 流石と言わんばかりのディーノにデオドールは得意気に

(幻術と言うのは正気を錯乱させ、精神を乗っ取る事で相手を操る事ができます。僕の場合は、操る対象の頭や心の情報を除く事ができるので、今のような芸当が可能なんですよ)

(名軍師には敵わんな・・・・・・お前が味方でよかったよ)

(ふふっ。僕にかかれば、これくらいわけないですよ)

Re: 黒いリコリスの教団 ( No.68 )
日時: 2019/09/08 20:16
名前: シリアス

 護送車は門を潜り抜け、教団の精鋭達はアザエール砦への侵入を果たす。先ほどの部隊長が言っていた場所とは違う、ここは恐らく第1収容エリア。警備は外よりも厳重に行われており、レナが予想は的中する。そして、彼らは地獄とも言える悲惨な光景を目の当たりにするのだった。

 ここにいる囚人達は人間であり、家畜並みの扱いを受けていた。積み重ねられた檻の鉄格子の間から痩せ細った手を伸ばし、救いを求める飢えた老人や子供。天使達は平然とその腕を斬って落としていく。地面に関節の先と赤い体液が溜まり、悲鳴が響き渡る。

 女は服を剥がされ磔にされた挙句、無慈悲に拷問されていた。天使達は女の体をゆっくりと深く刃物で刻み手足の指や皮を引き千切る。どれくらいで息絶えるかを競り合い、金貨を賭ける者もいた。一帯の隅には、既に処刑された無残な死体が粗末に放置されていた。かつては生きていたとは思えないほどに、全身が黒く変色し、吐き気を及ぼすほどの異臭を放つ。腐敗した肉塊に無数のハエがたかり、宇治が溢れる。

「何だよ・・・・・・ここ・・・・・・」

 残酷の一言だけじゃ、到底片付けられない処刑場にリベアは絶句した。

「これがアザエール砦の正体だよ。入ったら最後、囚人は死ぬまで奴らに狩られる獲物として一生を送らなきゃならない。ゆっくりと絶望しながらね・・・・・・」

 檻の外側を眺め、ノエルは言った。彼女の拳は震え、猛烈な怒りに眉をひそめる。

「これが・・・・・・天使のやる事なのか?」

 ソフィも視界に映る世界を受け入れきれず、ナデージュダも視線を足元に逸らした。

「私も暗殺者として数多の非道を行ってきたが、これほど非道に満ちた行いはした事がない。長年に渡って仕えてきた騎士団が、こんな恐ろしい裏側を隠していたとは・・・・・・」

「流石の俺も、この場所は慣れそうにないな。ここにいるだけで理性が崩壊しそうだ。いかん・・・・・・頭痛が・・・・・・」

 ディーノが気分を害し、頭半分を抱えた時

「うっ・・・・・・!おえぇっ!」

 漂う異臭と狂った環境に精神を犯され、ミシェルが嘔吐した。消化物をぼたぼたと床に垂らし、苦しそうに咳込んでまた胃の物をぶちまける。

「ちょっと、ミシェル!大丈夫!?」

 親友の異常事態に慌てるルシール。ディーノとナデージュダがとっさに対処する。

「気をしっかり持て。上を見上げてみるんだ。少しは楽になるはずだ」

 ナデージュダも幼い背中を摩り

「鼻で呼吸するな。ゆっくりと息を吸って吐き出せ。ゆっくりとだ」

「え、何!?もしかして吐いちゃったの!?こんな狭い場所で!?もう勘弁してよ!」

 顔をしかめ、ミシェルから遠ざかるレナ。そんな彼女をリクが睨んだ。

「何言ってんだ!仲間が大変なんだぞ!?お前も手伝え!」

「おぇ・・・・・・げぇ・・・・・・!」

「大丈夫だよミシェル。私がついてるからね?」

「ううっ・・・・・・ありがとう、ルシール・・・・・・私は平気だから・・・・・・」

 やがて護送車は指定された場所で車輪を止めた。ルシール達は鉄格子を開けると、見張りの目を盗んで茂みに身を潜める。

 第3収容エリアは砦の奥部、海沿いに位置する場所だった。先ほどのエリアとは違い、牢獄は配備されているものの隅に置かれ、中心に広大な平地が広がる。見張りに監視され、ダークエルフ達が強制労働を強いられていた。波止場では輸送船らしき1隻の船が浅瀬に浮かぶ。

「ここが、第3収容エリア・・・・・・」

 ルシールが誰に言うわけでもなく呟く。

「ここもあまり、さっきと大差ないね。見てるだけで胸糞悪くなる」

 リクの台詞にソフィも"全くだ"と露骨に顔をしかめる。

「あそこに船があるね?」

「あれは多分、この国の資源を運ぶための輸送船なのでしょう。行き先は恐らく、フランス。ヨーロッパとヨーロッパ諸国と中東諸国の戦争が激化する中、十字軍にとってこの国は重要な物資拠点ですから」

「ふ〜ん、デオドールって色々と詳しいんだね?」

「こう見えても、しっかりと世界の仕組みについて学んでいるのでね。大体の事は知っています」


「とりあえず、砦への侵入は成功したわけだな。ここまでは順調だ。だが、これからが正念場だ」

 リベアが言って、護送車の影から収容エリア一帯を窺い、頭を引っ込める。

「ナデージュダ。ここに収容されているのが、あなたの部下達?」

 ルシールの問いに、ナデージュダはこくりと頭を縦に振った。

「ああ、間違えようがない。全員が知ってる顔だ。私の誇り高き同胞達を奴隷として扱うとは・・・・・・ラファエルには無慈悲な死をくれてやる。だが、少しばかりホッとした・・・・・・生きた彼奴らと再び会える日が訪れるとは・・・・・・」

「さっきから、私達には運が味方してるね。ここに運び込まれて、かなりの好都合だったよ」

 レナが軽く口角を上げた時だった。

「ひっ・・・・・・ひいいい!!」

 突然、そう遠くない向こうから、誰かが女々しい悲鳴が聞こえた。

 檻の隙間からを顔半分を覗かせると、1人のダークエルフが真っ青になって、こちらを横に通り過ぎる。どうやら、砦の仕打ちに耐えられなくなり脱走を図ったらしい。

「なんだ?ひょっとしてあいつ、逃げ出したのか?」

(バカッ!頭を下げろ!見つかってもいいのか!?)

 ディーノがリベアの服を掴み、強引に身をかがめさせる。

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