複雑・ファジー小説

守護神アクセス
日時: 2018/02/23 00:40
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM  (dami-dayo@docomo.ne.jp

異能バトルはいいぞ(黙れ)

この名前、見たことがあるあなたはきっと昔からいるお方。まあ知り合いや読者は少なかったのですがね!
違う名前を使うようになったのですが、ゴリゴリとドンパチするような異能ファンタジー書くので、形から入るために名前を戻しました。

以下目次です。

▽メインストーリー
 File1:知君 泰良 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6
 File2:王子 光葉 >>9 >>10 >>11 >>12-13 >>14
 File3:奏白 真凜 >>16 >>17 >>18

▽寄り道

▽用語集
 >>8 File1分
 >>15 File2分

▽ゲスト
 日向様(>>7にイラストをくれました、感謝。What A Traitor!作者)



僕も私も異能アクション書いてるの!って子は宣伝目的で来てくれても構いません(参考にする気しかない)

Page:1 2 3 4



Re: 守護神アクセス ( No.14 )
日時: 2018/02/16 00:32
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM

「守護神アクセス」

 先ほどまで実体を持ってその場に鎮座していた彼女は、途端にその姿が薄れていく。まさかこのまま消えてしまうのでは、そう焦りそうになってしまったその時、半透明の状態で彼女は留まり、宙へと浮き上がった。触ろうと思っても触れられない。空中を泳ぐようにしてそこに居はするのに、手で触れられない。蜃気楼みたいだとふと思った。
 そして、彼女の体から漏れ出たエネルギーがオーラのように俺の体にまとわりつく。そのまま肌から浸透するようにして俺の体内へと入ってくる。温かくて、とても心地よい。心の底からは勇気が、体の内側からは力が漲ってくるような、不思議な感覚。守護神アクセスを行うと身体能力が向上されるというのもあるのだろうが、きっと……彼女が見てくれているというのが大きいのだろうな。
 桃太郎に背を向けた状態で、俺は自らの守護神となった人魚姫を見上げた。先刻までもずっと可愛らしかった彼女だが、まるで憑き物が落ちたかのように満面の笑みを浮かべているその様子は、もっとずっと可愛らしかった。
 ぼうっとしている俺たちだったが、桃太郎もそれは同じだったようだ。目の前で起きている光景が信じられないといった様子で、ただただ唖然としていた。こんな偶然あり得てたまるものかと、震えた手で抜き身の刀をこちらに向けているだけだ。

「そんな、馬鹿な。ガーデン出身の守護神が契約者と出会えた試しなど、これまで一度も……」

 そんな話、俺はいくらでも聞いていた。同年代の誰よりも守護神に憧れ、調べつくした俺だからこそ、よくわかっていた。フェアリーガーデンの自分の守護神が住んでいる、その言葉がどれだけの重みをもっている言葉なのかは。
 けれども、運命は悪戯にもそんな決定的な絶望を吹き飛ばした。ずっと会えないと決めつけていた自分だけの守護神は、ふとした時に出会えた。それも、憧れの兄貴を助けるため、世間を恐れさせるフェアリーテイルと立ち向かうその時に。ピンチになってやってくる、王道のヒーローみたいだ。
 どうせなら、ピンチになる前に颯爽と現れたいものだけれど。そんな風な軽口を心の中で呟いてみた。そんな憎まれ口を聞いてしまった理由はとても単純で、ずっと憧れていたそれになれた喜びが強くて、何だかとてもくすぐったくなってしまったからだ。ふと気を緩めると顔が緩んでしまいそうになる、そんな自分を引き締め、律するために厳しいことも言わねばならない。

「まあ良い、それなら少しでも経験を積む前にその芽を摘むだけのことじゃ」

 桃太郎も、まだ少しの動揺が残っているようだが、俺たちのことを倒すべき敵だと認識を改めたようである。あまりに強力な自身の能力に驕って、能力のほとんど使えない今の状態でも素人の俺になら勝てると踏んだのだろう。
 だが、こんな日が来るって信じてたかつての俺は愚直に水泳による体づくりの傍らブドウの鍛錬も怠っていなかった。最後に鍛えたのは確かに遠い昔のことだが、経験が全くないずぶの素人よりはずっとましなはずだ。

「王子くん」

 耳元で人魚姫が話しかけてきた。その状態でも会話はできるんだなと知る。ただ、守護神は元々アクセス中は契約者と会話ができるということらしいので、別段特別でもないかと納得した。彼女の言葉に俺は耳を傾ける。

「桃太郎はああして強がっていますが、私たちの方が圧倒的に優位です」
「ああ、あいつは守護神ジャックしてないからな」
「それだけではありません。私たちはジャックも行えますが、守護神アクセスを行った方がより元来の能力を引き出すことができます」

 フェアリーガーデンの守護神は己のエネルギーを糧にして実体を持って顕現する。そしてそこいらにいる人間のエネルギーを使って能力を使える。しかし、人間から奪えるエネルギーの量よりも実体化に使っている自身のエネルギーの方がよほど大きい。
 しかし、守護神アクセスを行っている際は実体化せずともこちらの世界に顕現し、契約者に己の能力を行使させることができる。そのため、本来実体化に回さなくてはならなかった自分の膨大なエネルギーを能力発動のために回すことができる。それゆえに、彼女たちは守護神アクセスを行った方が有利なのだ。できるできないの話は、さておき。

「分かった、ところで俺たちの能力は」

 何なんだと人魚姫に尋ねようとしたところだった、桃太郎が踏み込んできたのは。先ほどは捉えられなかったその動きが、何とか今度は目にして観察することができた。草履をざりっと地面に擦る音のみを後にして、刀を構えた桃太郎は俺の懐のうちへと踏み込む。このままだと斬られる、不味いと思った俺は突破口を探す。
 ふと、視界の隅に窓ガラスが入る。そう言えばさっき、人魚姫は窓ガラスに飛び込んでいた。どういう能力かは分からないが、試してみる価値はある。桃太郎がその手に持つ刀で一刀両断するその前に、俺は手を伸ばしてガラスの表面に触れた。触れたと思った途端に俺の体はそこにするりと吸い込まれた。何事だ、そう思って吸い込まれる前に自分のいた方向を見る。すると、俺はガラスの内側の世界に入り込んでいた。建物の中ではなく、ガラスの中。それはまるで、鏡の中の世界に迷い込んだように。
 しかし、桃太郎は追撃の手を緩めない、俺が入り込んだガラス目掛けて、剣の切っ先を向ける。ほんの少し後ろに引いたかと思うと、腕の前方への可動域全てを使うようにして、全力で俺の方に突き刺した。耳をつんざく音が路地裏の壁中に反響する。俺たち以外に人一人いない廃れた空間を無機物の鋭い悲鳴が駆け抜けた。
 え、これ死ぬのかとうっかり走馬灯が走りかけたが、自分が立っていた足場を失っただけのようで、先ほどまで侵入していた鏡面の中の世界から俺は弾き出された。勢いよく弾き出された俺は都合よく桃太郎自身に直撃し、揃って転がる。

「よかった、間に合ったみたいで。私の能力の一つ目は鏡面に潜り込む能力です」

 今みたいに窓ガラスに潜り込むことができるように、他にも水面や鏡そのものにも入り込むことができる。

「人の目玉とかはどうだ?」
「無理です。私たちが潜り抜けられるだけの大きさでなければ、入り口を通れないということで入り込むことはできません」

 なるほどなと納得する。あくまでも鏡のようにこちらを映している面を入り口とする能力であり、どんなところにでも忍び込める能力ではない。それでも十分、緊急避難をすることは可能だ。そして今彼女は言わなかったが、今自分が存在している場所を壊されれば、強制的に外の世界へと弾き出されるのだろう。鏡ごとバラバラ死体になるのでも、二度と出られなくなるわけでもなく。
 それにこの能力、奇襲を仕掛けるにも使えそうだ。地味だが使い勝手がよさそうな能力。流石はフェアリーテイルの仲間というべきだろうか。

「他にも能力はありますが、私自身かなり消耗してしまっているのであまり強力な能力は使えません」
「いや、とりあえず今回はそれでいい」

 先ほど桃太郎の動きは見切れたため、何とか多少は渡り合えるだろう。この鏡やガラスに潜り込む能力を活用すれば体術で劣る自分でも何とか互角以上に立てるはずだ。そのための作戦を考える。どのように勝負を決するか決めれば、後はその局面に持っていけるよう詰め将棋をするだけだ。

「くっ、キビ団子一つどまりならこの程度か」

 悔しそうな表情で、桃太郎はその場で起き上がった。ただし、特につらそうにしている様子は見受けられない。ただ単に隠したと侮っていた相手を仕留められなかった自分を叱咤しているだけのようだ。
 おそらく通常の守護神にアクセスナンバーがあるように、フェアリーテイルやその仲間たちにも序列はあるのだろう。人魚姫の序列は分からない。それでもきっと、シンデレラや赤ずきんといった連中とおそらく同程度に高いのだろう。だからこそ、大きく能力の制限された状態でもこうして立ち向かってくるのだろう。
 勝利の自信があるからか。俺はそれを察して不敵に笑った。傍目には薄気味悪く見えていたかもしれない。でも知るものか、俺にとってその自信は乗り越え甲斐のある壁でしかない。恵まれた才能があり、それを発揮できる人間は、それはそれはさぞかし自信に満ちているだろうなと、相手に皮肉を言うようにして、むしろこれまでの自分を卑下した。
 でもこれからは違う。俺にだって力はあるんだって、ずっと見失っていた自分への信頼を取り戻す。そのための第一歩が、彼女に、人魚姫にハッピーエンドになってもらうこと。バッドエンドにならずにいてもらうことなんだ。
 彼女は大切な知り合いが、現世で特に重罪を犯したフェアリーテイルとなってしまったようである。きっと親友の姿に彼女は戸惑っていることだろう。だからせめて、その彼女らを取り戻すための手伝いくらいはしてあげたい。たった今俺に夢を思い出させてくれた彼女に対してできる唯一のお礼は、それだとしか言えなかった。
 小柄な体躯に似合わない、凛々しい表情で俺をにらみつけ、再び桃太郎は踏み込んだ。しかし、今度は先ほどのように直線的に突っ込んでは来なかった。彼の中で俺に対する警戒度合いが上がったのだろう。上等、ニッと笑って俺は桃太郎を迎え撃つ。
 一歩目は真っすぐ踏み出したかと思った。しかし二歩目、彼の進路は大きく左へずれた。目で追うも、今度は彼は跳び上がる。空中に跳び上がったため、好機かと思いこちらから仕掛けようとするも、甘かった。すぐ近くの建物の雨どいを手でつかみ、腕の力でぐいと彼は、身軽にさらに上へと進路を取る。取ったかと思ったその時、たどり着いた配水管をそのまま蹴りつけて、急降下してきた。
 斬られる、そう思った俺は瞬時にサイドへ跳び退いた。甲高い音がして、刀と地面とがこすれる。強靭な彼の日本刀は刃こぼれ一つすることなく、むしろ固い地面に傷口を付けた。
 そこで手を緩めるほど彼が優しくないのはもう分かっている。振り下ろした刀を振り上げられないように、刀を握った両手を右足で上から押さえつける。何とかして刀から手を離させなければ、その考えはあっさりと読まれてしまったようで、桃太郎は敢えて刀を振り上げず、真下に力を逃がして抜き取るように手元に戻した。
 位置取りは丁度いい、俺はしめたとばかりに一歩後ろへ下がった。それを追うようにして桃太郎は飛び掛かる。今度は小細工なしで正面から。その白銀に光る刀身は、今度は俺の首を刎ねんと迫っていた。よしとほくそ笑んでしゃがみこみ、俺はその凶刃を浴びることなく桃太郎の懐の内に入り込んだ。
 刀の一閃は俺を捉えることなく、廃ビルへと繋がす水道管をスッパリ切り裂いた。流れる水道水が噴水のように飛び出る。陽の差し込んだその空間に、小さな虹がかかる。
 人魚姫だったら、これくらいの能力はあるだろうと、その水を操れないかどうか念じてみる。当たりだった、ただ水道管から漏れ出るだけだった水流が意志を持って桃太郎に襲い掛かる。勢いを増したその水の本流は軽量級の桃太郎をそのまま押し流して、そのまま壁に叩きつけた。

「ぐぁっ!」
「よっしゃ!」
「今がチャンスです、歌の能力で月の瘴気を浄化してください!」

 月の瘴気という言葉が気にかかったが、何とか人魚姫の指示通りに能力を発動しようとする。思っていたよりもこの能力というやつは、概念すら分かっていれば己の意のままに操れるようだ。実際のところ能力を行使しているのが守護神である人魚姫だから、だろうか。
 闇を光が打ち消すようなイメージを思い浮かべながら、何らかの旋律を喉の奥から奏でる。どんな言語を口走っているのかは分からないが、この曲には聞き覚えがあった。先ほど彼女を追いかけてこちらへ訪れる際に道しるべとなった旋律だ。そうか、これは浄化の歌だったのか。
 初め、彼女は誰を浄化する気持ちでこの歌を唄っていたのだろうか。しばし考えて理解する。俺が追いかけて追いつくような速度でしか移動できなかった彼女だ、おそらくはきっと、自身で抗っていたのだろう。ほとんど能力を使えない状態で、苦しくて仕方がないのに自力で浄化の能力でフェアリーテイル化を解いた、彼女がフェアリーテイル化していない理由はそれで納得できた。
 つまり、彼女の能力さえあれば目の前の桃太郎も未だ知らぬシンデレラ達も赤い瘴気の呪縛から解き放ち、元の姿へと戻ることができる。なるほど、皆を救うのにふさわしい能力ではないか。一段と俺は歌声を響かせる。
 文字通りその声は言葉だけでなくそれ自体が自分のものでは無かった。俺の声帯を通して人魚姫本人の歌声が届けられているようで、美しい女性の歌声が広がる。それを耳にした桃太郎は苦しみ始める。
 浄化の能力に当てられた瘴気が、抵抗するようにあらぶっているようだった。光と闇、二つの力に板挟みになり、小さな桃太郎は苦悶に呻く。がんばれ、乗り切ってくれと願う。しかし、その努力をあざ笑うかのように桃太郎は腰の巾着から二つ目のキビ団子を取り出した。

「仕方ない、今回は無理しようぞ。じゃがな貴様ら、次はこう上手くいくと思うでないぞ!」

 二つ目のキビ団子を桃太郎は丸呑みした。まるで、咀嚼する時間すら惜しんでどこかへと逃げ去りたいかのように。能力のためにエネルギーを消費したためか、のぼりと刀の実体化が弱まり、その輪郭がぼやけた。その分彼の体には活力が満ち満ちる。ほんの少しだけ背が伸びて、青年に近づいた桃太郎が口惜しそうに俺たちを睨む。

「ここで相手どればおそらくその後儂は終わる。たとえ貴様らに勝とうともな。ならここは潔く撤退じゃ」

 わずかばかり低くなった声で彼はそう告げ、左右の建物の壁を交互に蹴りつけて颯爽と上へ上へと駆けのぼる。あっという間に廃屋の屋上にまで到達した桃太郎は振り向きもせずに去っていく。そのあまりの俊敏さは、強化されたと思った俺の感覚ですら、ほとんど線が動いているようにしか見えず、全く捉えられなかった。あの時、刀の実体化が溶けていなかったら……死んでいたのではないかと、今になって格の違う相手との交戦に慄く。
 俺たちのリンクもいつしか限界に達したようで守護神アクセスは中断され、俺と人魚姫は二人に分かれた。何度も継続的にアクセスすることで二人の意識が重なりやすくなり、アクセス可能な活動限界が増えていく。
 ほんとにヒーローになりたいのなら、これからも鍛錬は欠かせないな。桃太郎が去っていった方向を目にして俺はまだまだ真っ暗な道のりに眩暈がする。それでも、奈落の闇に光は差し込んだ。
 たったの一筋だけど、俺はそれを掴みたい。振り返り、彼女の顔を見てより強く思う。

「それでは王子さん、これからよろしくお願いしますね」

 実際異世界の存在だけれど、この世の者とは思えないほどの綺麗さに、俺はどぎまぎする。緊張で、声が上ずって堪らなかった。

「えっと、自己紹介から、初めてもいい……かな?」

 はいと、笑いながら元気に答える彼女の声が俺の耳に届くのが、本当に心地よかった。


File2 王子光葉・hanged up

Re: 守護神アクセス【File2・完】 ( No.15 )
日時: 2018/02/17 16:10
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM

File2の用語とキャラクターの裏話について

守護神アクセス
何と守護神側も守護神アクセスと呼んでいた、おいおい話すがこの用語は本来守護神側が呼んでいた用語、それまで人はcallingって呼んでた

フェアリーガーデン
異世界の一つ。フェアリーテイルは皆ここ出身。
昔話、童話、おとぎ話の色んなキャラクターが存在している。
ちなみにこの世界出身の守護神全員がフェアリーテイルと呼ばれているのでなく、人間界で暴走している個体のみフェアリーテイルと呼ぶ。
人間界とは一番近い異世界ゆえに、無理矢理アクセスしようとすると次元が崩壊するかもなのだとか。

最上人の界
読み方はさいじょうびとのかい。
ゼウスとかアマテラスとか、主神、最高神扱いされる人たちが住んでいる。
神様扱いされてるけど結局のところ最強はELEVENである。ドンマイ。

ELEVEN
十一人の最強の守護神。
作中で例を挙げると、名前のみ出てる琴割さんの守護神がこれに属する。
能力は揃いもそろって反則だが、それ以上に耐性が反則。
どう反則かは今後を見てくれると嬉しいです。

守護神ジャック
守護神が、人間をジャックして己の養分として生命エネルギーを得るための仕組み。
現実世界に現れたフェアリーガーデンの守護神が能力を使うのに欠かせない。
ただし守護神アクセスした方が結局強い。


キャラクター

王子光葉
元々は違う小説の主人公だった。気づいたら今作二人目の主人公に。
元々は、世渡り上手なのはそのまま、もっと傲慢なチャラ男みたいな性格が人魚姫と出会い真面目になる予定だった。
しかしそれだと少し知君との温度差が大きすぎたのでこういう性格に。
「俺がお前をハッピーエンドにしてやる」から「俺がお前をハッピーエンドにしたいんだ」と上からでなく横から目線に。
彼を煽るときは「きゃー私だけのお、う、じ、さ、ま(ハート)」とか言うと面白く反応してくれる。

人魚姫
圧倒的に見て分かるヒロイン。
真凜さん?知りませんよあの子美人なだけで恋愛脳からっきりないじゃないですか。
今語れることはあまりないというのが本音、ネタバレ対策大事。

王子太陽
兄貴。このままではあまりにも不憫。
守護神のアイザックはニュートンがモデル。
そのうちかなしろニキと絡ませながら活躍の機会が設けられる。
口癖は俺ももう三十路かぁ、である。
弟とは13歳差。

桃太郎
繰り返し湧いて出てくるライバル。
なぜかショタ。吉備団子食べると成長する。
彼は最終的に三、四回王子の前に立ちはだかる。
そのしつこさはまるでFFXのシーモアのようだと作者の中で評判である。
裏設定だがアリスより弱い。というかアリスが強かった。
幼女(の操るトランプ兵)に敗北する少年、何と不憫であろうか。

Re: 守護神アクセス【File2・完】 ( No.16 )
日時: 2018/02/19 08:17
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM  (dai-macky.1543@docomo.ne.jp

 夢を見ていた。それは、彼と初めて出会った日の映像を再生しているようで、夢というよりかはむしろ自分自身の記憶をただなぞっているような感覚だった。
 もう何度も目にした大きな会議室、そこは『その日』から、フェアリーテイルの対策課の本部にもなっていた。大きなスクリーンが下ろされ、スクリーンの近くの照明は切られていた。大きな幕の上には、きらびやかなドレスに身を包んだ一人の女性がステップを踏む様子が映し出されていた。流麗に舞うその華麗な体裁きは、実際の姿を目で見ている訳でもない私の心をも奪うようであった。
 中世の女性、それも気品と上流の階級とを持ち合わせたような人間が着るようなドレス。コルセットもしっかりつけているようで、胴はしゅっと細くなるよう締め付けられ、現代でいうモデルのようだった。ガラスでできた透き通ったハイヒールを着用しており、絢爛豪華を謳ったようなティアラが頭の上にはちょこんと居座っていた。セミロングの髪の毛が、彼女の舞踏に一泊遅れるようにして付き従い揺れる様子は、まるで叶わぬ恋を追う男性のようだった。
 それが、地上に初めて『フェアリーテイル』として観測された守護神、case1シンデレラだった。フェアリーガーデンの守護神だと後に知った私は、その事実を驚くよりも先に納得した。その異世界に住まう守護神たちは絵に描いたような、あるいはお人形のような美男美女ばかりの世界だと聞いていたからだ。歴史上観測されている、こちらの世界に実体化した守護神の観測記録からもそれは事実らしい。
 何にせよ、美に興味を示さない人生を送り続けてきたこの私の目を引き、思考を一瞬忘れさせるほどの感動を呼び起こすほどに彼女は、そして彼女の踏むステップは美しくて、虜になると言う言葉の意味を初めて知った。あれほどまでに心が惹きつけられるような出来事が起きたのはいい意味でも悪い意味でも一度しかない。
 会議が始まって最初に行われたのは当然、シンデレラについての周知だった。異世界についての解説やら、フェアリーガーデンの守護神の特徴といったものは説明を省略された。というのもその程度の知識を持っていないとこうして捜査官になっていないためである。警官の中でも特に凶悪な守護神犯罪を取り締まるための人員が捜査官であり、そうなるためには筆記の試験もいくつか突破しなくてはならない。
 今回起こっている出来事がどの程度深刻な事態なのか、その説明をするためにとある人物が現れた。肌や顔つきは若々しいのに、どうしてだか頭髪は真っ白な人物。それも、染めているという訳でもなくただただ純粋な白髪であった。狐のように人をつまみそうな糸目をしており、その表情からはどんな感情も読み取れない。
 この人物は警官なら知らなくてはならないような男だが、世間的にもあまりにも有名な人物であった。現代日本の治安を守る第一人者、国を守る最強の人物。現存する中で最古の守護神アクセスを為した男、琴割 月光その人だった。その身に宿す守護神は、最強の名をほしいままにするELEVENが一人、鋼鉄の処女、またの名をジャンヌダルク。

「今日は急に集まってもらって悪いなあ」

 関西方面の方言をベースとしているが、各地に点在して暮らしていたため様々な地方の言葉が混ざっているのがこの方の喋る特徴らしい。実際、こうやって目の前で話している際のイントネーションにはかつて訪れた京都の参道、その途中ですれ違った際に聞こえた舞妓さんの抑揚の付け方とよく似ていた。
 それにしても、声が本当に若々しい。齢にして百を超えるらしいが、彼の肉体の年齢は三十代後半のまま止まっているらしいというのは事実のようである。ジャンヌダルク、彼の守護神はあらゆる者を拒む能力を有すると言う。己にあだなす『害』も、己の『死』や『老い』さえも拒絶する。そして彼は己が進む道を阻む障害を拒絶することで、志してわずか数か月で警視庁の総監へと昇りつめ、以降五十年以上その席に座り続けている。
 反則じみた力を持つ男、琴割は異世界を研究する施設とも強いコネクションを持っている。というのも当然で、彼が最高のスポンサーであり、最高の研究サンプルだったからだ。彼自身の持つ守護神のオーラや琴割 月光本人の脳波などを科学的に測定、解析し複雑な機械により次元解析を重ねた結果、数多の異世界に関する情報や、守護神アクセスに関するデータが得られたらしい。
 何やらきな臭い研究さえも行っているという黒い噂もあるが、それ以上に現代の社会へ貢献した実績があるので誰も彼をなじるようなことはしない。彼が居なければ守護神犯罪が無かったという者もいるが、守護神がこの世の中にもたらした良い変革は様々ある。
 そして何より、彼の存在そのものがこの社会における守護神犯罪を抑制する装置となっているのも確かだった。と言っても、日本や全世界を対象にして、その範囲内で犯罪が起こることを拒絶しているのかと言うとそうではない。ELEVENの能力は強力だが、その分本人に降りかかる反動も大きいらしい。そのため、彼の拒絶の能力を絶え間なく使用させようと思うと、その守護神を中心に半径数百メートル範囲が限界のようである。そのため、彼のごく近辺でしか犯罪活動が拒絶されるようなことは起きない。
 しかしそれでも、こと戦闘においては誰よりも強い。己への攻撃やダメージどころか、抵抗や逃走さえも拒絶。それどころか、身元を隠す標的の居所が掴めないと言う事実さえも否定することで、ほとんど全ての人間の身元や所在地を特定することも可能である。
 あまりに力を乱用すると、己の老化や死を拒絶する分に能力を回せなくなるため、基本的に能動的に活動することはできない。私たちの持つ守護神の能力は超能力というよりもむしろ、魔力が切れたら使えなくなる魔法の方がよく似ていた。

「分かっとるとは思うが、ワシは基本守護神を乱用できひん。じゃからいつもみたいにお前ら若輩に頼るしかない」

 下の者を軽んじているような言葉遣いだが、これは彼の常であるため誰も気にかけない。ただでさえ長いこと人の世を見てきたのだ、何度も呆れて何度も人間というものを軽蔑してきたのだろう。口は悪いが誰よりも正義に近い男、一度警察に入りその信念や働きを目にした者、話を耳にした者ならば誰もが口をそろえて言う。無理に長生きしているのも、守護神や異世界に関する研究に関して自身をモルモットにしてまで進めたのも、ELEVENを管理しているのも全て、平和な世の中を自らの手で作り出し、維持するために必要だからだ。
 そしてそんな彼の強大な能力も、その老衰と衰弱死を免れるために使用する以外には、使用できないと彼は自らを律した。それは自分を巻き添えとすることで戦争の火種にも、火付け役にも、燃料にも成り得るELEVENの乱用、暴走を防ぐためだった。
 そのため、日本国内のみで深刻な出来事が起こったとしても、まずは一般の捜査官にその鎮火を命じる必要がある。そして『その日』、前代未聞の脅威、シンデレラに関する情報がまず初めに開示された。
 シンデレラが表れたのは北海道の海岸だったらしい。その日北海道では、現地でさえもう初夏に差し掛かろうとしており、路上の氷はその大半が溶けてしまっていたというのに突然吹雪が巻き起こったということだった。夕刻になると天候は荒れ狂い始め、日付が変わると元の天気に戻る。そんな異常気象が三日三晩続いたのちに、彼女は初めて姿を見せたのだと言う。
 その時纏っていたのは、今スクリーンに映し出されている純白のドレスだったという話だ。彼女が足踏みし、くるりと回り、手で目の前の空間をなぞるようにして感情を表現する度に、宙を舞う雪が一層激しくなる。まるで彼女自身が雪の精で、降り注ぐ雪は彼女の踊りを讃えているようであった。

「毎晩十二時になる度に姿を消すんと、その容姿からこいつがシンデレラじゃ言うことは分かった。やっとることまるきし守護神の能力としか思えへんからな」

 守護神ジャックの存在は知られていても、実験室外で生身に行われる守護神ジャックを目にするのは人類初めての経験だった。とりあえずその近辺の署で働いている腕利きの警官が彼女の鎮静を図ろうかとチームを組んで突入したらしく、その際の映像が流された。そしてそれは、瞬く間に決着したのである。
 その場で急いで録ったのだろう映像は、画質こそ良かったものの音は入っていなかった。シンデレラが何を語り、どうして踊っているのかを特定するものは何もないとのことだ。ただ、彼女が何を以て北海道の警官たちとの交戦に踏み切ったのかは映像と証言により分かった。
 地元の漁師たちに話を聞いてみたところ、シンデレラと同じ容姿の何かを見ていた者は少ないながらも存在した。彼らはシンデレラと目が合うどころか、こんなところで踊ったら寒いぞなどと助言したにも関わらず、今も生きている。
 しかし、警官たちのphoneを目にしたその瞬間に、case1、彼女の眼の色は文字通り一変した。深い海のような藍色が、段々と真紅に染まっていく。どこか暗く濁ったその瞳は、今や見慣れてしまったフェアリーテイル独特の瞳の色をしていた。
 流麗な動きで舞う彼女が、フィギュアスケートの選手のように勢いよくその場で回転する。彼女を中心として吹き荒ぶ寒気に、波が打ち広がるようにして放射状に大地が凍り付いていく。辺り一面が氷に覆われて、よく滑るようになったところで、彼女は今度は、スピードスケーターも顔負けの速度で、スケートリンクのような戦場を光陰のごとく横切った。
 それから起きた悲劇は、ほんの短い時間で完結した。

Re: 守護神アクセス【File3・開幕】 ( No.17 )
日時: 2018/02/20 22:29
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM

 それから起きた悲劇は、ほんの短い時間で完結した。雪のように白い、穢れ無きドレスが宙に舞い、ばさりと音を立てて翻る。空中に跳び上がったシンデレラが駒のように回転すると、先ほど大地を凍らせた事を思い出させるように、さらに強力な猛吹雪が彼女を核として渦を巻くように周囲に広がったのがカメラでは観測された。
 何とか堪える現地の警官だが、制服の裾の方は霜が降りるどころかそれ自体が凍り付き、耳や指先といった体の末端は霜焼けのように真っ赤になる。抵抗しようと守護神アクセスしようにももう手遅れで、あまりの大寒波にあらかじめphoneのバッテリーがやられてしまい、アクセスすることができなかった。唯一、予め守護神アクセスしていた者はあふれ出る己の守護神のオーラに保護されてphoneがオフになってしまうことを防いだ。
 シンデレラが地面に着地する。しかしなおも吹雪の勢いは収まらない。初夏に入ったせいで薄着で勤務している彼らは見る間に体温を奪われていく。アクセス中の一名はそれほど寒波が障害にはなっていないだろうが、残る全員にとってはもう体を動かすのが億劫なほどのようだ。
 この守護神は危険だと、立ち向かうことを決定したのは、きっと彼らの勇気だったのだろう。しかし、悲しいことに彼らには実力が足りていなかった。固くて脆いガラスの靴、それもピンヒールだと言うのにそれが足かせとなるようなことも無く、自然な体さばき、足さばきで彼女は踊り続ける。
 流麗なターンを決めたシンデレラは、フィニッシュのポーズをとってその場に静止した。左手を天空に掲げ、右手を自身の胸にあてがう。そして物憂げな表情で左手の指し示すその先をじっと見据えてみせた。
 その瞬間、映像を見ていた誰もが彼女に目を奪われていた。会議は確かに静謐の中で行われていたが、それ以上に静かな、魂を奪われたかのような静寂に満たされていた。それはきっと録画したものを見ている私たちだけでなく、現地にいた彼らもそうなのだろう。抵抗や抗戦を忘れてしまった彼らは、食い入るようにシンデレラの姿を見つめていた。まるで、初恋の人を見て幼い日の淡い憧れを思い出したかのように。彼らが意識を完全に持っていかれたその時、冷徹な惨劇は足元から忍び寄る。
 心奪われた一人の警官が彼女の方に向かおうと一歩踏み出そうとした時、足を持ち上げることができないことに気が付いた。どうして。疑念を持った表情で訝しげに足元をのぞいてみると、そのくるぶしから下は氷に覆われていた。そしてその氷は、少しずつ侵食するように根を伸ばす。大きく口を開けて叫んでいるような映像が続く。音声は記録されていないが、むしろそれでよかったと真凜は納得した。
 残ったのは、守護神アクセスできた一人だけだった。周りに氷漬けになってしまった仲間の剥製が出来上がったのを見届けると、すぐに我を忘れたのか、涙と憤怒を携えながら一直線にシンデレラの方へ走り出した。
 配布された紙の資料に載っていたが、それによると彼の守護神はサラマンダー、幻獣界に住む火を吐くトカゲのようだった。氷に炎は効果的なので少しは検討するのだろうかと思ったが、フェアリーテイルはそんなに甘くない。突進をしかける最後の捜査官を目にすると、化粧直しの準備をする。細くて白い、陶器のように滑らかな右手の中指と親指を合わせる。そのまま親指で反動をつけて中指を手の平に軽快に打ち付けた。
 パチンと軽やかな音を上げたのだろう、彼女の来ていた純白のドレスは、首の方から足元の裾の方まで、波が走るように端から端へと緑色に染め上げられた。コケのような濃い緑色ではなくて、そのドレスは春先の新芽のように鮮やかで黄色みがかった緑をしていた。
 この能力は一体何であるのか、確かめる余裕はきっと無かった。彼女は再び踊り始める。戦場をまるでステージに見立てて、優雅に舞い踊る。これが戦いだとは、氷漬けになってしまった警官たちを見なければ分からないだろう。
 そして、今度のシンデレラの踊りは先ほどまでは少々違っていた。先ほどはフィギュアスケートのように時々腕や足を折りたたむようにしてコンパクトな動きを見せていたが、今度は腕も足も全て使い切り、豪快に全身で表現するように体を動かす。
 竜巻が生まれたのはその時だった。あまりの風圧に、地面に張った薄氷に亀裂が走り、天空へ向かって走り出す。氷の結晶がキラキラと光を反射しながら竜巻に巻き込まれて天へと昇っていく様子は、さながら天界へつながる光の螺旋階段が生み出されたようだった。ダイヤモンドダストのようでとても神秘的な光景だと言うのに、それにも負けずにシンデレラは、渦巻く突風の中心で踊り続ける。
 ドレスの色が白から緑へ、それと同時に彼女の能力も氷から風へと変化した。この場にいる者はおそらく全員が察したであろう。シンデレラは少なくとも、ドレスの色だけ能力を有していると考えた方がいいことを。
 カメラは海辺の様子を観察して害鳥なんかが来ないように地元の漁師が仕掛けたものだったが、固定していた棒ごと、竜巻に巻き込まれて天空遥か彼方へと飛んでいく。その後は雲の上まで登った後に、農家が家畜に与える牧草の山の頂上からその中心まで潜り込む映像が続き、終わった。
 最終的に、シンデレラに立ち向かった警官は一人を除いて水晶のような氷に閉ざされて凍死、最後の一人はというと竜巻に巻き上げられ、上空では氷の刃に体表面をずたずたにされた後に墜落して絶命したと言う話だった。

「ほんの数分でこんだけの被害や。起きとることの重大さは、分かってくれたか?」

 映像が止まり、数秒の沈黙が訪れていた。それを打ち払うかのように、琴割総監が私たちに問いかける。返答できる者は一人としていなかった。誰もが今映像で見た光景に慄き、沈黙を守っていた。
 それはきっと、その危険性を認めて怖いとでも言おうものならば立ち向かう気骨が折れてしまうと、分かっているようでもあった。だが、強がるほどの自信は、あの映像を見た後には中々持てない。
 警視総監が質問してから、また一分ほどの時間が流れる。誰もが、呼吸をすることすらはばかっているようだった。首を回さず、目だけきょろきょろ動かして、誰か何とか空気を変えてくれないかと期待する。私はそんな中、落ち着きなくキョロキョロ見回すのでなく、隣に座る兄の様子を一心に窺った。しかし兄さんはというと、まるで意に介した素振りも無くずっと黙っている。他の者と比べてみると、恐れすらほとんどしていないようだ。

「そしてこのシンデレラが表れたのはつい三日前の話や。その後の被害は出とらん。一応儂が睨みを効かせとる」

 シンデレラはその性質上、真夜中の十二時になると必ずどこかへ姿を消す。そのため、初めてその残虐性が観測されて以来、シンデレラに狙いを絞って現世へ顕現してこないようにと独断で拒絶の能力を働かせていた。

「じゃがのー、そろそろ他の連中にバレんとジャンヌダルクの能力を使うのも限界や。せやからここに、フェアリーテイル対策課の結成を宣言する」

 フェアリーテイル、お伽噺を指す英国の言葉だが、耳慣れぬ用語に私たちは皆首を傾げた。琴割総監の話によると、このシンデレラを例とするフェアリーガーデン出身の守護神、そのうち凶暴な姿となって世に害をもたらす存在を指すそうだ。

「待ってください、総監」

 私はその説明に、何となく虫の報せが働いた。もう一度、同じ会議室に集められた面々の顔を確認する。兄や同僚の評判、警察学校時代の噂によって聞く限り『腕利き』『ベテラン』と呼ばれる面々が集まっていた。加えるならば、私自身のような『期待の新人』だろうか。実際に私に力があるかはさておき、私と共に戦う守護神、メルリヌスの序列は並み居る数多の守護神を差し置けるだけに高い。
 そんな人間を数十名わざわざ集めて集団でかからねばならぬほど、シンデレラ一人が脅威になるとは思えなかった。そしてさらには、フェアリーテイルと言う総称の存在。総称が存在する、ということは。

「フェアリーテイルはもしかして、シンデレラ一人ではなくて……」
「お、ド新人のくせにええ勘しとるな、そん通りじゃ」

 もう一つ映像があると言われ、次のビデオが再生される。今度の映像には音声も入っているようだった。動画が流されている間にも、琴割の説明は続いた。こちらの映像は、高速道路の入り口の監視カメラに映った映像だった。先ほどと同じくらいの映像の質で、画面の中心には多数の車が乱雑に散らばり、大渋滞の原因となっているようだった。
 一体この映像が何だと言うのかと最初は油断したようなものだった。しかし、それは突然だった。内臓を揺らすような轟音が鳴り響いたかと思うと、画面の中心からやや逸れた位置、黒い煙と赤い炎を上げ、三、四台の車が燃え上がっていた。何事かと思っていると、急にガラスが割れる鋭い音が幾重にも重なりあい、オーケストラのように鳴り響く。何が原因なのかと思っていると、乱射された銃弾の雨あられが理由のようである。
 嵐のような銃撃に、画面の中の車はどれも穴だらけになっていた。その昔昆虫の博物館で見た蜂の巣の様子によく似ていた。しかしそれと違うところと言えば、フロントガラスに背面ガラスが、運転手や同乗者の血潮で真っ赤に染め上がったところであろう。

「これが、フェアリーテイルcase2、赤ずきんや」

 エンジンオイルに引火したのか、そのまま動力部が爆発を起こした車が数台吹き飛び、その隙間から少女の様子が顔を見せる。欧米の昔話に出てくる田舎娘のような出で立ちに、名前の由来になった真っ赤な頭巾を被っている。髪はおさげになっているようで、赤茶色の髪の毛の端の部分が、首の両脇からその顔をのぞかせていた。そばかすが浮き、あどけない少女の顔立ちだが、その瞳は先ほど暴徒と化したシンデレラと同様に、濁った紅に染まっている。その腕には藁で編まれたバスケットを下げており、その中からはパンとワインボトルとが顔を覗かせていた。

「あーあー、これがカメラ、ってやつっすかね。どもども、あたしの名前は赤ずきんっす、以後よろしくお願いしまーす」

 まるでスポーツ選手が試合前に敵チームのメンバーと朗らかに接するような態度で、監視カメラの方を遠くから真っすぐに見据えて彼女は名乗った。その背後には、おそらく守護神ジャックされたであろう女性が、気を失って倒れている。彼女一人だけが傷一つ負わず大切にされているのは、そうとしか考えられなかった。我々に宣言するようにして、赤ずきんはカメラに向かって指さしている。

「今まで全然あんたらの前に出てこなかったあたしたちっすけど、今日この場で赤ずきんの名において宣戦布告するっす。赤い月の加護にかけて、私たちフェアリーガーデンの守護神は人間界へ進行することになったんすよ。そんな訳で、あんたら全員近いうちに……」

 背後に一人残っていた一人の方を見て不敵な笑みを浮かべる。狼さん、と呼びかけると、飢えて涎を滴らせた、凶悪な顔つきの狼を呼び出した。灰色の体毛に覆われているが、その牙と爪だけは黒ずんで汚れていた。その体長、体高はおよそ現存するどの狼をもはるかに上回る巨躯だった。そんな狼が飼い犬のように赤ずきんの命令に従い、その大きな口をがばっと開いた。鋭利に尖った、殺傷力の高いナイフのような牙が何本も顔を見せる。そのどれもが地で汚れており、そのおぞましさに私は何となく身震いしてしまった。
 その口はというと、赤ずきん自身が守護神ジャックを行った女性の方へと向いていた。

「こうしてやるっすよ」

 大きく開いたその口で、狼はその女性を一瞬で丸呑みにしてしまった。鋭利な牙で咀嚼するようなこともせず、蛇が卵を呑むようにして丸呑みにする。

「猟師のおっちゃん、よろしくっす」

 彼女の背後に、髭を蓄えた大柄な男が現れる。羽根つきの帽子を被り、土や木の幹といった背景に紛れられそうな茶色の服に身を包み、猟銃を構えている。先ほど銃撃を狂気すら感じるほどに乱射したのはこの男かと察する。それはまるで、守護神赤ずきんにさらに契約している守護神のようであった。
 赤ずきんの人差し指は、依然こちらを指したままだった。

「それじゃ、また会うそん時には、覚悟するっすよ」

 バン! と呟いて彼女は指し示した先にあるこちらを打ち抜くようなジェスチャーをした。それを合図として、髭面の漁師は引き金を引く。画面の暗転とほとんど同時に、銃の火薬が炸裂する音が鳴り響いた。
 そしてそれが、私たちと彼女との戦争の始まりを告げる雷管の号砲のようであった。

Re: 守護神アクセス ( No.18 )
日時: 2018/02/23 11:49
名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM

 そしてそれが、私たちと彼女との戦争の始まりを告げる雷管の号砲のようであった。

「さて、シンとする時間はもう要らん」

 先ほどと同様に静まり返られては堪らない。そう思った琴割は予め切り出した。これからここに集められた者にはこのような守護神の対処に当たってもらうと。

「お前らが自信あるかどうかは知らん。けどな、こいつら何とかせなあかんいうことは事実じゃ。儂への当てつけか知らんけど、海外の連中が手伝ってくれる兆しはない。何せまだ日本でしか被害出とらんからなあ」

 そのため、せめて国内の優秀な戦士を集めることにしたと彼は言う。自衛隊は、守護神の関与しない重火器による自衛を主とし、警視庁は代わりに守護神による治安統治を行っている。そのため、人知を超えた守護神を相手どるにはこうやって警察、その中でも捜査官が呼び集められた。

「さて……自信無いやつはおるんか?」

 底意地悪く彼は問う。逃げるなら今の内だと追い立てているようだった。しかし、そこで自分が怖気づいたと言い出すには、彼らのプライドが邪魔をする。それに、表立って琴割 月光に逆らえる者がいないというのもある。
 私には、辞退する理由なんてさらさらない。だから、怖気づく他の警官を差し置いて生意気にも答えた。

「私は、喜んで任に就かせていただきます」

 多くの捜査官の目が私の方へと集まった。ある者は驚き、ある者は呆れて、そしてまたある者は私の言葉を無謀だと笑ったようだった。

「こん中やと最年少の奏白 真凜やな。ええ返事するやんけ」

 嬉しそうな声こそしているが、その表情からは一切の感情が読み取れなかった。ふと気を許しただけで騙されてしまいそうで、無害そうな顔の裏に潜む蛇のような冷酷さが感じ取れて、体の芯が冷たくなる。一体この人は、百年を越える生の中でどれだけのものを見てきたのだろうか。彼の生きた歳月、その四分の一も生きていないこの私にはちっともわからない。

「さて、若いのが一番活きがええけど、お前ら男どもに年食った女どもは情けなくないんか?」

 初めから針の穴のように細かった退路が、さらに狭まる。もう引き際なんて残っていないと言った方が正しかった。下手に私があんなことを口走ったからだろう。しかし、そんなこと当時の私にとって知ったことではなかった。先輩たちの威厳なんて、面子なんて考えたことも無かった。
 その時の私にとって大切だったのは何よりも自分自身のことだった。尊敬する兄に認められたい。その一心で私は、前に踏み出すことしか知らなかった。後に私はこの時の態度を後悔する出来事は何度か起きた。
 それもこれも、きっとあの少年のせいだ。そんな風に思うことも、この時の私はまだ知らない。

「そんなお前らのために、一人儂の秘蔵のガキを紹介したる」

 こっち出てこい。琴割にそう呼ばれて現れたのは、捜査官と呼ぶにはあまりに若すぎる少年だった。都内にある、文化祭が毎年派手だと有名な高校の制服を着ている。手を合わせて指を動かしながら緊張している様子は、年端もいかない男の子らしく、頼りない。ぴょこんと頭の上から飛び出たアホ毛のようなものが、その弱弱しい態度さながらに垂れている。一般的な男子高校生よりもおどおどしている点以外は、どこにでもいそうな子供という印象だった。

「ち、知君 泰良……です。ふつちゅか……すみまっ、不束者ですがよろしくお願、いします」

 彼の自己紹介が進み、高校二年生と分かったその時、阿鼻叫喚が会議室中にこだましたことは、もう思い出したくもない。


 もう思い出したくもない。そういう私の想いに応えるようにして、夢から覚める。Phoneから鳴る電子音が朝の七時を告げている。ここはどこだ。見慣れぬ部屋の景色に当惑するも、すぐにそこが警視庁内の療養室だと思い出す。昨日、アリスの検挙を終えた後に、疲れただろうからと私と兄さん、そして知君くんは安静にしておくよう言い渡された。正直なところ私はハートのジャックのおかげで回復していたし、兄さんもとっくに元気になっていた。
 しかし知君くんは怪我こそないものの昏倒しており、すぐさま近くにある民間の病院へと搬送された。ただの栄養失調であり、点滴で済むとのことだったが、諸般の事情によりその病院にしか収容できないとのことだった。琴割総監とそこの院長が旧知の仲だから、そう言われたのだがどうしてただの点滴を打つだけなのにその病院を選ばなくてはならないのか、私にはその理由が分からなかった。
 そんなことよりも、私にはもっと目障りでならないことがあった。それは私達がわざわざ自宅でなく療養室に泊まらなくてはならなかった元凶である。テレビをつけたそこには、自分と兄の姿が映っていた。昨日のアリス討伐、その功績のせいで昨日安静にしていながら取材を受けさせられる羽目になった。おそらく今にして思うと、安静を言い渡し家へ帰らせなかった原因は私達兄弟に取材を大人しく受けさせる目的があったのだろう。
 今更になってようやくのフェアリーテイル解決の兆し。失いつつある警察への信頼を取り戻すため、私達第7班を英雄のように祭り上げようと言う魂胆だ。そんな目的はあけすけで、前線を退き肥えた役員たちが私たちの顔色を窺い、しかし紛れもなく私たちにイメージ向上を狙った仕事をさせようと指導した。
 疲れているせいで抵抗する気力も起きず、強引だったのは役員だけでなく取材に来た人たちもだったので仕方なく応じた。それにしても、こんな風にタレント気取りな様子で取り上げられるつもりは無かったというのに。私は、深い深いため息をつく。

「こんなの、全然私の実力じゃない」

 あの場に居たのが初めから知君くんだったら、彼はきっと窮地に立つどころか苦戦すらしなかったであろう。私たちが全く手も足も出なかったトランプのジャック、その内の二体をいとも容易く飼いならし、アリスを止めて見せた。それも、無理やり拘束すると言うよりも元凶となる謎の瘴気を取り除いて、だ。
 固く握りしめた拳を壁に叩きつける。非力な私の力では、大げさな音は響かない。ただ、じんじんとしびれるような痛みだけが拳に走って。でもそれがどうでもよく感じられるくらいに私が舐めた苦渋は、耐えがたい痛みをもたらしていた。
 失礼しますと言って、同期の婦警が一人部屋の中に入ってきた。夜勤明けなのか眠たそうにしている。彼女とは会ったことがなかったが、あちらは私の事を知っているようであった。しなくてもいいくらいにこちらに気を配り、同い年だと言うのに敬語で接する。もっと普通に接してくれはしないものだろうかと思うが、それはきっとできない。
 世間的に、ただの高校生が警察に力を貸していることは伏せられている。税金を貰って働いている我々が一介の市民を協力させていると知られれば糾弾は免れない。厳しい報道規制がかかっているため、三人目の班員の存在は公表できないことになっている。
 そのせいで、私たちがアリスを検挙するのに最も尽力した者として取り上げられているのである。こんな、貰い物の栄光など欲しくも無かった。取材が終わった後に兄は、やはり知君は強いなと笑っていた。自分の事のように、誇らしく。どうしてそれが向けられるのが、ずっとその背を追ってきた私でなく、ふと現れた少年だと言うのか。理由は分かっている、私はただひたすらに、無力だった。
 アリスの検挙に貢献するどころか、兄の足を引っ張ったその側面が強い。何度不甲斐ない局面で兄さんに助けられたことだろうか。驕っていた自分の未熟さに臍を噛む。私は、平和を守る捜査官だから、悪に屈してはいけないのに。
 守るべきだと思っていた少年。ただの足手まといだと思っていた彼。そんな人に逆に守られ、救われ、助けられた自分が惨めで仕方なかった。確かに知君くんは琴割の秘蔵っ子なのかもしれない。それでも彼はまだ遊び盛りの高校生で、何不自由無い平和を謳歌するべきで、我々大人が護ってあげなくてはならないはずだ。訓練だってろくに受けていない華奢なその体に、私たちの期待だなんて重たいものを載せる訳にはいかない。
 しっかりしなくてはと、私は自分の頬を叩いた。まだ眠いのだろうかとこちらの様子を訝しんだ同僚は、首を傾げながらも私に渡すべき資料を差し出した。初めに目を引いたのは、オレンジの付箋で印をつけられた、アリスの処遇が決定したというものだった。
 私が報告したアリスと知君との交戦時の情報からして、アリスは正体不明の赤い瘴気の影響で凶暴化していたと判断された。その赤い瘴気は未だ正体の知れぬ不思議な何かでしかないが、それを知君が全て除去した以上、アリスはこれ以上危険なことなど無いと判断された。アリスが気を失ったことで、守護神ジャックも強制的に終了したようである。アリスを自宅へ招いた男も、ガラスの修理代を受け取り、無事に今は家にいるとのことだった。
 そして今、大事をとってアリスは琴割が懇意にしている異世界研究者が管理している研究施設で暮らすことになったらしい。現状守護神ジャックもアクセスもできないため、アリスはか弱い女の子に過ぎない。そのため、言ってしまえば軟禁状態になるのだが研究施設の中に閉じ込めている間は安全という訳だ。フェアリーガーデンには例の月の瘴気がまだ残っている可能性が非常に高いため、帰らせるわけにもいかない。向こうにいる間に瘴気に憑りつかれたというのだから、帰ることができないという判断はふさわしいものだった。

「お兄さんはアリスの麻酔薬の影響で、もう少し回復を待ってから戦線復帰するそうです」

 そう言えば、昨日も気を抜くと転びそうになると言っていた。医師の判断によると三日もすれば復帰できるとのことだ。最悪でも、アリスから話を聞きだすことができる以上、今後ずっと快復しないというようなことにはならないだろう。
 知君くんはまだ意識が戻っていないようだと言う。一時は低めだった血糖値も今では正常に戻ったらしく一安心する。当然、仲間の無事を喜ぶ安堵ではない。安堵には変わりなかろうが、これは一市民である知君くんが私たちの責任で払拭できぬ傷を負うことが無かったと言うものだ。私はたとえ、彼が自分以上の実力者だとしても、自分以上の功績を残したとしても、きっと彼を仲間だなどと認めない。もし私が彼のことを仲間として認める日が来るとすればそれは、数年後に彼が本当に捜査官になったその日だ。
 なぜなら、仲間だと認めてしまえば縋ってしまいそうになる。頼ってしまいそうになる。私は、己の精神の弱さを知っている。余計なプライドが心を固まらせ、折れやすくなっている。気丈に振る舞うのは弱さの証だと、私は身をもって知っている。
 自分で言うのも傲慢だが、私は自分が優秀なことを知っている。それこそ、生まれつきだ。枕元に置いてある、黒色のphoneを手に取る。まだ手にしてから三か月程度なのに、もう表面が擦れてきているような気がする。彼女のおかげで、私は生まれながらにして恵まれた。
 メルリヌス、アクセスナンバーは224。端的に言うと、地上の人間の中で125番目に強い能力を持つ守護神が私の背中を押してくれる。それだけでも恵まれていたが、さらに優秀な兄に恵まれた。兄さんは私にとってずっと、憧れでもあり目標でもあり、お手本だった。
 その後を追うようにして私は今ここにいる。少しだけ警察を志した理由こそ私たちは違うけれども、その胸の内の正義感は揺るぎなく同じものだった。兄はたまたま戦闘能力に恵まれたからそれを活かそうとして、私は私の思う大切な日常を守るためにこの道を選んだ。
 きっと、私にしか助けられない人々がいて、私にしか討てない悪党がいる。そう考えると、私自身が平和を享受する側に回る訳にはいかなくなった。才能に恵まれた者は、他者のために力を使うべきだ。資本主義とはかけ離れているなと、クールに思われがちな自分に似合わない理想が恥ずかしい。けれども、本心を隠して欺き続けるのはきっと、もっと恥ずべきことだ。
 私は、私にできることをやらないとな。
 一度顔を洗おうとした、その時だった。警報が、署内に鳴り響く。

「緊急事態です。署内に待機している捜査官は至急、ロビーに出撃可能な状態で集まってください」

 アナウンスが鳴り響く。私は最近のフェアリーテイル騒動で、あることを忘れていた。フェアリーテイルは言ってみれば天災だ。そのため私は人災のことが頭からすっぽりと抜け落ちていたのである。
 そして鳴り響いた警報、その原因とはメルリヌスに優るとも劣らない守護神、アレクサンダーとその契約者によって引き起こされたテロであった。

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