【色々】世界でひとり、恋をしよう?【短編】

作者/ささめ ◆rOs2KSq2QU

嗚呼昔の貴方は何処へ?


《暴力有なので閲覧注意、苦手な方は戻ってください》





 「……まひ、ろ……?」
 

 ぴちゃん、と雫の跳ねる音。
 その音で私は夢から覚めた。妙に気だるい。背筋に存在する痛みを感じる。あ、そっか。私台所で寝ちゃってたんだ。
 そして、未だ正常に作動しない脳内に浮かぶ、名前。

 「…………ゆ、うりーぃ……」

 すぐに口から零れ落ちたその言葉は、愛しい彼女の名前。苦笑した。何で私はこんなにも痛めつけられて、傷つけられて、壊されかけても。それでも、彼女のことを想わずにはいられないのだろうか。
 ああ、愚問か。と一人眉をひそめた。
 そもそも彼女と私の愛には言葉なんて必要ないのだから。そして、邪魔する壁や害為す者も。

 「……ま、まひろ……」

 恐怖に彩られたその、醜く脆弱な声。
 その声のする方に首を向けると、恐ろしさで顔中を涙でぐちゃぐちゃにしている優莉(ゆうり)の姿。ああ、可愛く愛しい。何であんな表情でも、優莉はあれ程清らかなのだろうか。
 ………それは、優莉は今私とだけの空間にいるから。それが答え。それしか答えというアンサーは見つからないのだ。


 「……なのにさ、ゆうりー、ぃ」

 
 貴方は、その禁忌を犯したよね?
 そう――――私の中には貴方、貴方の中には私しか居ちゃいけないという、最大であり最高の禁忌に。
 それは罪だよ? 優莉。貴方の中に私以外の人間は、居ちゃいけないの。例えそれが家族であっても、動物でもあっても、だよ?

 「だ、かーらぁ…………これは、その罰、だね」
 「っ、たいっっ!! まひろ、痛、っ、わ」

 ゆらめく視界に映るのは、私が用意した鎖に繫がれた愛しい彼女。その彼女の陶器のような滑らかな肌に、痣を残していく。何度も何度も拳を打ち据えて。
 苦痛に歪む彼女の顔、綺麗だ。凄く、凄く。悲鳴? ああ、美しいよ。まるで私の為の賛美歌のようだ。

 「……はは……」
 「痛い、まひっ、ろ、痛いっ、から、やめっ」

 狂ってるって? 別に良いよ、優莉の為なら。
 だって、私が狂ってるっていうのは優莉が中心核に常に居てくれるっていう最高美的センスをくすぐる最高峰の幸運いえ幸せじゃないか。

 「だけど、優莉は、そんな私を痛めつけたよね傷つけたよね壊そうとしたよねねえ優莉私が見てないとでも思った全部全部見てたんだよ貴方が3組の日向ちゃんと仲良く笑ってたのそうあの時は確か3時間目が終わった休憩で私は優莉に会いに行こうとしてたんだよだって優莉が好きだから愛してるからだけどさ」

 一息つく。脅えた表情の優莉。
 やめて、そんな目で見ないでよ。
 私はただ、優莉のことが好きでいたいだけなのに。

 「……なのにさ」

 血まみれの拳。口の端を切った優莉。涙と血が混じって、奇妙な色彩で床を濡らしていく。嫌だよ、こんなの、私はこんなのこと望んじゃいないのに。

 「何で……優莉は私のこと好きって言ってくれないの……愛してるって……大好きだよって……言ってよ、ねえ……」

 沈黙が、私の涙腺を緩ませていく。優莉の脅えた視線が、じょじょにぼやける。ああ、今自分は泣いているのだ。たった1つの、想いの為に。

 「ゆうりーぃ……お願いだからぁ……そんな、泣かないでよぉ……悲しいよ……やだよー、そんな優莉は……辛いよ、見たくないよ……」


 ぽろぽろと零れた想いと涙が、黒い服に染みを作っていく。恐かった。優莉が自分から離れていくのが、自分以外の人との世界を作り上げていくのが。

 ふと、優莉を見る為に顔をあげると―――――優莉の、微笑みが見えた(何で?)。
 そして、柔らかく私を抱きしめ、頭を撫でられる。
 何で、優莉と聞く前に、鎖が大きな音をたてて軋んだ。ああ、歪んでる。

 「……泣いてるのは真広じゃん、馬.鹿」

 
 歪んだ音を奏でつつ、彼女は笑った。