完結小説図書館
作者: 裕 (総ページ数: 10ページ)
関連タグ:
*7*
[生君へ]
初めてウチに来た時はびっくりしたよ。何も持たないで 僕を匿って欲しい って言ってきたからね。
あれからもう結構経ったね。生君はいつまでも元気だね。僕は生君に迷惑かけたりしてなかったかな。急に荒れ狂うこととかもあったし、料理だってそんなに上手いわけじゃ無かったし。でも、生君は文句言わずに居てくれた。たまに言ってくれた「美味しい」ってのが嬉しかったな。
初めて一緒に作ったこの陶器。覚えてる?
僕、どんなに荒れても、これだけは壊せなかった。もう二度と作れないと思ったから。生君、気は長い方だけど、一度やったことって二回も三回もしない子でしょ?僕、この作品だけは残そうって思ったんだ。ちゃんと生君の元にね。
ごめんね。こんな形でしか言えなくて。僕、生君と一緒に居れて幸せだったよ。生君はどうだったかな?まあ、そんなでもないんだろうな…。僕ろくなことしてなかったもんね。ごめんね。
生君、一つ約束してほしいんだ。
螢ちゃん、お母さんとお父さん居ないけど本当は――…
そこに綴られた文字は、とても想像できなかったことだった。螢が…
本当は 螢ちゃんが殺したんだ。
虐待ってわかるかな?螢ちゃん、両親から虐待を受けてたんだ。ここには警察が少ないよね。螢ちゃんの話は聞いて貰えなかった。近所の噂で済んだものなんだ。だから螢ちゃんは両親を殺してしまった。一度は捕まったさ。でも、僕が引き取った。あの家で暮らしてたのは螢ちゃんの希望。僕が言いたいことは、
螢ちゃんを一人にしないであげて。これは、生君にしか出来ないことだと思う。僕が言うのもおかしいけど、
約束だよ。 伯父さんより
「螢が…殺っ…」
「生ちゃん?」
「っ…!?…螢。」
「どうしたの?」
「い、いや…何でもない。」
「…。手紙?伯父さんからの?」
「あ、ああ。」
隠すつもりは無いんだと思う。螢だから。ただ、辛いってことは分かる気がする。
「あのさ、螢。」
「何?」
「お前…」
〔ぐうううう…〕
「…。腹減ってるのか?」
「ごめん。朝から何も食べてないんだ。」
「…何か食うか。家に戻ろう?」
「…うん。」
「何が良いかな…。適当にパンで…」
陶器屋から出ていこうとする俺に、螢は飛びかかってきた。
「け、螢…!?」
「生ちゃんの背中って、伯父さんに似てる。私ね、人の性格って背中で決まると思うんだ。伯父さんは優しかった。…生ちゃんは、照れ屋で腐ってるけど、伯父さんと同じ。優しい。」
「…。お前、両親殺したって?」
「…っ。…うん。」
「虐待って…。」
「うん…。伯父さんはね、一人身の私に生ちゃんのこといっぱい話してくれたよ。性格のこととか、家族構成とか、ここに居る理由とか。でも、どうでも良かった。私、伯父さん大好きだった。人殺しの私を引き取ってくれた。生ちゃんは良くしてくれた。」
「…俺は…」
「伯父さん言ってたよ。生ちゃんは、何があっても伯父さんと私の見方なんだ、って。伯父さんにとってはスーパーヒーローなんだ、って。伯父さん、生ちゃんのこと大好きだって。自分の息子みたいだって。いっぱいいっぱい幸せにしてあげないといけないんだって。だから、協力してって。」
「…。っ…。」
「…生ちゃん、幸せになれた?」
「…っ。ったりまえだろ…っ。バカか。バカ…かよ。」
俺は泣くもんかってずっと思ってたんだ。こいつの前では泣かないって決めてたんだ。でも、せき止めてたダムが壊れて、目からあふれてくるんだ。沢山沢山、涙が出てくるんだ。止められないくらいに…。
俺はその日、声を殺しながら螢の胸の中で泣いた。
「…ひっく…。この乳無し野郎がぁ…。」
でも、螢の腕の中は暖かくて落ち着いて、こんな俺でも、螢を守りたいって思えた場所だった。