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魔天使マテリアル 「涙のしずく」 【完結】
作者: マヤ  (総ページ数: 49ページ)
関連タグ: 魔天使マテリアル ファンタジー 
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10~ 20~ 30~ 40~

*26*

ここは、ウィンドミル。
今は、6時ごろ。小学生が外に出る時間ではない。

「…あ―――っ!」

「うわぁっ」

バサバサバサ―――――ッ!

紗綾の大きな声に驚き、黎夜が本を下に落とす。
紗綾と黎夜がいるのは、休憩室。
いつもなら店の手伝いをしているが、悪魔との戦いで精神的にも疲れていたので、伊吹がやらなくていいと言ってくれたのだ。

「サーヤ…どうしたんだ?」

黎夜は、とりあえずお茶を一口飲む。

「破魔の笛、落としちゃった!」

「え―――――!?」

ブッと黎夜がお茶を吹きだす。

「ゴホッゴホッ…たぶん、あの公園だ。行こう」
「うん…」

ドタドタドタッ

急いで階段を駆け下り、伊吹に声をかける。

「伊吹さんっちょっと出かけてきますっ」

「え?ああ」

そして、急いで公園に向かう。



ゼーハーゼーハー・・・

「あっあったぁ!」
「じゃ、戻ろう」

公園に着いてから、約1分。
早くも笛を見つけ、紗綾たちは帰ろうとしたが。

「…?声がする」

紗綾たちはそっとそこに近づいていく。
そこにいたのは…

「…しずくちゃん?」

しずくが、歌って、踊っている。
踊るというよりは、舞う、という感じで。


♪悲しみに溺れて光もなにも見当たらない
 闇に溺れたわたしはなにもかも失った♪

♪大切なあなたは闇にとらわれ
 ここにあるのは悲しみだけで♪

♪泣いても泣いてもどうにもならない
 傷が深まる それだけで♪

♪あなたを探す そのために
 故郷を離れ旅に出る♪

♪それでもあなたは見つからない
 あなたの笑顔が見たいのに♪

♪ああ―――思い出の中のあなたは
 いつもいつも笑っていたね♪

♪いつものことがなくなって
 わたしの笑顔は消えていた♪

♪ああ―――あなたの笑顔は
 わたしを支えていた なのに♪

♪あなたは闇にとらわれて
 ずっとずっと帰ってこない♪

♪お願い―――お願い―――
 これだけでいいから♪

♪わたしの大切な人を
 返して―――♪


その美しくきれいな歌は、とても悲しくて。
すぐに分かった。しずくが波香を想って作った歌だと。

「し…ずく…ちゃ…」

泣きそうになる紗綾を、黎夜がそっと抱きしめる。

「紗綾…大丈夫。君には、僕がいる。しずくのことも、もちろん支える。」

黎夜が、初めて「紗綾」と呼んだことに、紗綾は多少驚いたが。
紗綾も、黎夜やしずくのことを支えたいのは変わりない。
それに、「サーヤ」ではなく、本当の自分を認めてくれた気がした。

「うん、わたしも支えるよ。黎夜…」


しずくは、泣いていた。
その泣きながら歌っている姿は、儚くて。
しずくを支える、そう決心したけれど。
今にも、涙と一緒に消えてしまいそうで、紗綾はなんだか怖くなった。

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