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*37*
・ 雪狼の王者 ? ・
「“ロングスラスト”ッ!!」
バシュッ!!
返り血がついた。槍を放った俺にも、もちろん、スノードリフトにも。
雪の毛に赤がついて、まるで紅白の合戦だ――合戦には、ちがいないのだが。
――まだいける、かも。
跳ぶ。スノードリフトが俺をターゲットに選んだようだ。ぎらついている瞳で、じっと俺を見つめている。
「下にも注目しろよ!」
少年の声に、狼が気づく。だが、もう遅い。
少年が、最近覚えた技を使おうとする!
「リン……酸素……! 炎の術式を進化させたもの――」
カチャッ
篭手を向けると同時に、魔方陣が展開されていく。炎の属性だから赤色だった。
「“大爆炎の術式”ィッ!!」
炎が渦巻く。サーカスが始まっていく。スノードリフトが、まるで炎の輪を通り抜けるライオンみたいになっていく――。
でも、アーサーの思惑はこれで終わりじゃない! 輪を通り抜けさせる訳には――行かない!
「“火の術式”! 術式! 術式ッ!!」
“火の術式”を三回発動させた。それは壁のようにライオンの行く手をさえぎった。だから、勿論ライオンは出られずにまっくろ焦げになる。
つまり。
スノードリフトは、炎の中に閉じ込められたのだ。
――よし! 弱点をおさえたぞ!
そうだ。‘スノー’がついているからして、きっと弱点は火属性――だから、アーサーの術式があれば楽勝だ。
だからって、安心はできない。
槍を振るう。ラクーナも槍を。サイモンは剣で、フレドリカは銃で攻撃した。
奴の尻尾が暴れる。尻尾だけでも痛いのに、なんて奴だよ、たくっ。
「暴れるな――」
気を高める。あの技を使うんだ。あの、幼馴染から教えられた技を――。
「“シングルスラスト”ッ!!」
この技は、自分の体力と引き換えに、攻撃力を高めて槍を振るう技――。
――だから。
ブシュッ!
「な――」
サイモンが驚く。当然だ。
――だって、俺の腕に傷ができて、出血したんだから。
「これが、“シングルスラスト”の副作用なのか?」
「ああ、そうだよ。仲間の体力を犠牲にするものもあるけど」
「……命の息吹よ、“キュア”」
メディカエキス入りの絆創膏を貼ってもらった。
出血は治まったけれど、まだ、怪我が治っていない。
じりじり痛い。まるで日焼けをしたかのようだ。
「ありがとう」とサイモン。いやあ、照れるなあ〜。
「……あと一息で倒れそうだが、どうする?」
――それは、もちろん。
と、みんながいった。
もしかして、と思うでもなく――。
「「「ツバサ」」」
――俺が決めるのだと悟った。
そして――。
また、跳んだ。
“シングルスラスト”を放つのではない。
初級のあの技でも決められるだろう。
だから――放つ!
「先に――進むんだああぁっ!!」
ザシュッ!!
“ロングスラスト”。
技が雪狼の王者に命中し、王者は野面へと倒れていった。
――スノードリフト、討伐完了――。
その出来事が起きたあと、すぐに街に知らせが舞い降りた。
――それは、皇帝ノ月、五日のことだった。