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この世界を護るコト【完結】
作者: 実上しわす ◆P8WiDJ.XsE  (総ページ数: 44ページ)
関連タグ: 二次創作 
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*42*

 ――嘘だろ、泣いた……!?
「ヴルル……サイモンめ、許さん……!」
 サイモンのせいではないのだけど、俺はやるせない怒りを誰かに向けることしかできなかった。
 ――フレドリカをこんなにした奴め、絶対、許さん!
「私の記憶って、私って……なんなのかな?」
 ぽろりと落ちそうになった涙を、俺が手で受け止める。
「あ……」
「…………」
 やるせない怒り。
 誰にも向けようがない怒り。
 その感情はなしにして、今、やるべきことは――。
 俺は、黙ってフレドリカの顔を見つめる。
「…………俺が、ついてるよ」
 大丈夫。
 大丈夫だから。
 ――フレドリカは、安心してくれ。護ってやるから。
「それが、俺の正義……いや、俺のやりたいことだから」
「ツバサが……」
 一瞬驚いた彼女。
 だが、次には少し照れ臭そうな顔を浮かべ、上目使いで、同じように俺を見つめた。
「……うん」
 一瞬、ドキリとしてしまった。
 俺の頬が、少し桃色に染まった気がする。
「ちょっと遅れちゃったね、急ぎましょ」
「……ああ」
 だが――。
「ん〜? なあに赤くなってるのかな、ハイランダーくん?」
「おっ、ホントだ! ツバサ、フレドリカとチューでもしたか?」
「す――」
 三人組の二人、ラクーナとアーサーにからかわれ――。
「するわけあるか馬鹿っ!!」
 あとで思い切り否定の叫びを口に出してしまったことで、その感情は胸の奥にしまいこまれたのであった。

   ***

 ――〈エル・ツー〉
 
 ――〈エル・ツー〉

 ――〈エル・ツー〉

「……んぅ……?」
 機械的な声に呼ばれ、少女は目を覚ました。
 青い青い、どこまでも青い瞳が見えた。
「……ここは……」
 頭上にある、謎の機械――いや、少女にとっては、ただの機械なのだが――を発見し、見つめ、少女はためいきをもらす。
「あれから検索するしかないんだ……」
 立ち上がる。
 ふわり――。
 立ち上がってできた微少の風により、彼女のやわらかい茶色の髪がゆれた。
 ボタンをいじる。
 青い板状の画面が現れた。
 ――これだ。
「……ええと、こうして……こう、かな?」
 音を立てて現れた新しい画面。それに少女は注目した。
 その画面に映し出されていた文字に、少女は驚く。
 ‘グラズヘイム遺跡’――少女にとって、聞き覚えがある言葉。
「……グラズヘイム――」
 ――あたしが任務を任された、建築物のことだよね!?
「……《管理者確認 開始する》」
 バチッ!
 ――痛い!
「……くぅっ……!」
 紫色に鮮やかに光る、数本の電撃が少女に襲いかかる。
 顔が苦痛にゆがむ。痛い。とても痛い。だけど――あたしは。
「負けない――!」
 一度は倒れた体を、もう一度立ち上がらせる。
「痛くない! だから!」
 そして、少女は息を深く吸い込み、それを叫び放った。
「《管理者確認 続行せよ》!」
 
 ――〈エル・ツー 確認〉

 ――〈エル・ツー 認識完了〉

 ――〈これより 管理者検索の‘為’の認識を始める〉

「……これだから……」
 機械的な声が響く中、少女はためいきと愚痴をもらした。
 ビシャビシャッ!!
「うあああああーっ!!」
 愚痴は最後までいい終わることはなかった。
 無数もの電撃に襲われたからだ。

 痛い。
 
 痛い。

 痛い――痛い!

「っ――ああっ!」
 最後だろうと思われる、一本の電撃が背中をかすった。
「……これ……だか、ら……っ」
 少女の周りが静かになる。
 どうやら、認識は完了したらしい。
「…………人工知能がない‘ただの機械’は……!」

 ――〈エル・ツー に 告げる〉

「なにっ! あたしに命令口調なんて許さないよっ!」
 
 ――〈ワガアルジ ハ トテモ トテモ トテモ〉

「……? 機械が――」
 少女は訝しそうに機械を見つめた。
 少女の予感は、その数秒後に現実となった。

 ――〈トテモトテモトテモトテモトテモフカイフカイフカイフカイ〉

「――故障、してる!?」
 ブアンッ!
「な――ちょっと、あんた!? 上部のあたしになにをするの!?」
 少女は悲鳴を上げた。
 壊れた機械が振り上げた、機械にとっての足といわれるような部分。
 ――それが、少女の頭に振り下げられた。

 ――…………俺が、ついてるよ。

 ――……うん。

「ふ……ふれ――」
 歯ぎしりをする。
 体が自由になった感覚と同時に、俺の中からなにかがこみ上げてきた。

 ――フレドリカ。

「護るって……約束……したのに……!」

 ――それが、俺の正義……いや、俺のやりたいことだから。

「くそ……くそっ、くそっ!!」 
 涙があふれでる。
 なぜかはわからない。まったく、わからない。
 ただ、胸の中から熱いなにかが上ってくるように感じられる。
 ――フレドリカヲ、カエセ。
 カエセ、カエセカエセカエセッ!! 
「返せえええええーっ!!」
 ダダッ!
「ツバサ――ダメ!」
 ラクーナが悲鳴を上げた。
 その理由は――。
「ツバサーッ!!」

 少女は口を閉じ、目をウルウルさせると、突然左手を口に添えた。
「ふわあ〜……!」
 そして、盛大なあくびをもらした。
「「「「「…………」」」」」
 誰もがそののんきぶりに呆れるしかなかった。もちろん、それには俺も含まれていた。
「……ほえ……? おはよう、みんなあ……」
 次に、背伸びをしたあと深呼吸をする。
「ふう〜。ん、よしっ!」
 そして、虚空へと手を持っていき、なにかを操作するように指を動かした。
 ――ん? この動作、フレドリカの行為に似てるような?
 そう思ったそのとき、少女の周りに光の輪が出現した。
「え――!?」

「ツ……ツバサ! どうしたの、ツバサ!?」
「…………」
 私が答えても、ツバサは答えてくれなかった。うつむき、かたくなに口を閉ざしている。
「ツバサ! ツバサったら! ……ツバサッ……」
「…………さい」
「……え?」
「――うるさい」
 心がからっぽになった気がした。
 あれは、ツバサじゃない。
 ‘あれ’は、まるで――。
 冷たい床に、膝をつくように倒れる。
 ツバサはなお、私をうざったらしそうに見ていた。
 冷たい目で。
 私が倒れた、床の冷たさよりも冷たく――。

「――フレドリカ?」

 恐怖と悲しみが渦巻いていた中、懐かしい声が聞こえた。
 冷たくない。あたたかい。
 本来のツバサの声だった。

 二巻データより…

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