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僕は夢の中の君に恋をした【短編】 『完結』 番外編更新
作者: 電波  (総ページ数: 15ページ)
関連タグ:  恋愛 ファンタジー 
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10~

*6*


 次の日、俺は再びユメが出てくる夢を見た。

 いつもと変わらない風景にホッとするもやっぱりと俺の中の謎が一つ解けた。どうやら俺は起きている間はこの夢のことを忘れてしまうらしい。

 昨日、俺は起きた瞬間にはユメのことを忘れてしまっていた。夢を見ていたということは分かっているのだがどんな内容だったのか全く思い出せない。そして今日も同じだった。なぜか、急に胸が苦しくなるような思いに駆られたがその訳が分からなかった。

 しかし、この夢をみるとなぜだか思い出す。

 
 その理由は全く分からないが、何らかのルールが設けられてるのだと思う。

 
 俺は呆然と立ち尽くしながら、その時を待つ。


 そして、


 「やっほぉぉ!!」


 やっぱり来た!

 二度経験した衝撃にも慣れ、俺は何とか耐える準備はできていた。ドン、そんな音が鳴り響きながらも俺は一切の態勢を崩すことなく踏みとどまった。

 「えー、何で倒れないのー?」


 聞き覚えのある声。


 聞き覚えのある喋り方。


 ああ、間違いない。ユメだ!

 
 俺は自分の背中に感じる確かな温もりを感じながら、微笑んだ。相変わらずの登場の仕方だった。まるで変わらないじゃないか。昨日の言葉が恥ずかしくなってくる。


 「当たり前だろ。だって二回も突進されたらそりゃあ倒れないぞ」


 すると、向うの方からはなぜだかすぐに答えが返ってこなかった。それに違和感を感じた俺はふと昨日のことが脳裏に過る。


 『会った当初の記憶のリセット』

 二日目に会った彼女は最初に俺と出会った時のことを忘れていた。そして彼女にこのことを伝えたら、もしこのことが本当ならまた忘れてしまうと言っていた。

 だが、彼女はこうも言っていた。


 『忘れないよ!』

 保障も何もないこの言葉になぜこうも信用するのか分からない。ただ、自分がそう信じたかったからだと思う。そうでもしないと不安で仕方なかった。

 しかし、この夢を前にして俺の中の不安が漏れ出しそうになっていた。心臓の鼓動一つ一つが大きな重低音を刻み、速度を早めて今にも吐き出しそうだった。


 俺は懇願するように思った。

 何で喋らないんだ…。

 何で黙ったままなんだ…。
 
 何か言ってくれ…。


 
 しかし、そんな俺が願ったことはあまりに非常で残酷なことであると後で思い知らされた。




 「え?今日初めてあなたにしたんだけど」


 

 悪意もなく不純もなく純粋に放たれた言葉は俺の願いを打ち砕いた。目の前が真っ暗になりそうだった。自分のことを忘れないと言ってくれていたユメが自分の事を忘れてしまっていた。その事実に胸の辺りが苦しくて仕方なかった。



 「ど、どうしたの!?」


 ユメが俺の様子を変に感じたのか覗きこむようにして俺を見た。しかし、その行為こそが逆に昨日の辛そうなユメを思い出してなお辛かった。


 「なんで、泣いてるの?」


 気づけば頬には一粒の涙が伝っていた。




 ―――――――――――――――――


 俺は今までの事を話した。初めて会った時の事や、相談に乗ってもらったこと。一緒に遊んだこと。そして、自分に『忘れないよ!』と約束してくれたこと。


 最初の内はちょっと驚いたように聞いていたユメも最後の辺りでは申し訳なさそうにしていた。


 「ごめんね。全部忘れちゃって…」


 「……」


 「私、何も思い出せないの……」


 「……」


 「自分が育った場所や家族。友達とかも全然思い出せないの。まるで何もないところから生まれてきたみたいで不気味だよね」


 ユメは苦笑しながら話していた。俺はと言うとただ何も言わずユメの話を聞いていた。たぶんその表情はとても酷い物らしく、会話の途中に度々大丈夫?と心配されていた。

 「でも、ふと気が付くと目の前に人がいるじゃん。今までまともに人と接してない私にとってとても嬉しかったんだ!」


 ユメは後ろで手を組んで陽気に前を歩きながら振り返った。

 
 「だから、あなたがまた私に会ってくれると嬉しいなーって思う!」

 
 正直、彼女の言葉は冷酷で残忍だった。一から積み上げたものをすべて崩され、また積み上げても崩され……を繰り返すのになぜまた積み上げなければならないのか分からなかった。


 そこで俺の足は止まった。それに気が付いたユメも足を止めて振り返る。


 結局は俺が辛いだけであって彼女は全て忘れて何も感じない。所謂、他人事のような言い方である。


 その言葉に心底、悲しくなったし、腹も立ったし、辛くもなった。しかし、そう思う一方でどうにかしてらなくてはと思考する自分もいた。俺自身、矛盾しまくってる自分の感情に訳が分からなくなった。


 混濁する感情の中、俺は何か答えを言わなくては…と口を開いた。
 

 「忘れるな、なんてもう言わない。けど、諦めるな!何に対して言っているか分からないけどそれしか言葉が見つからない!」


 「でも、明日にはその言葉も忘れちゃうよ?」

 自分の頭の中がぐちゃぐちゃしてるのもあるが彼女の言葉に腹が立ってきた。


 「そしたら俺が毎日言ってやる!何度忘れても俺が毎回毎回言ってやる!覚えるまで言ってやる!」


 面食らったかのような表情をするユメだったが少ししてあははっと笑い始めた。その様子に何がおかしい!と顔を真っ赤にして言い放つが確かに冷静になると少しおかしいのかもしれない。


 笑いの為か、涙を浮かべながらユメはこう言い放った。

 「じゃあ、楽しみにしてる!」


 涙を拭った彼女はそう言うと俺に近づいて、


 「また明日ね、ミンミン君」


 笑顔でそう言うと俺の横を通り過ぎて行った。


 「ミンミン君!?」


 少し呆然とする俺だったが今のユメの言葉に疑問を持って振り返った。一体どういう意味なのか問い詰めようと思い、振り返ったのだがそこにユメの姿はなくただの植物の海が広がっていた。


 その日以降からだった。



 俺の呼び名がその日ごとに変わり始めたのは。
 

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