完結小説図書館
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*1*
何気ない昼下がりのことだった。
「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」
≪to:ユウキ よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫
スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。
そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。
「≪to:タクム わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」
たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。
町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。
僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。
「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」
「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」
「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」
「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」
「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」
「あら、そうなの?それならいいんだけど。ちゃんとレベル相応の所行かなきゃだめよ。自分のレベルよりも5以上下の森周辺よ。わかった?」
「わかってます。おばさん」
この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。
僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。
この薬局ショップの隣が、僕の家だから。
もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。
すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。
「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」
「え、10本しかないんですか?」
「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」
「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」
「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」
「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」
「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」
「そう。気を付けてね」
薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。
「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」
すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。
「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」
「あらそうなの。いってらっしゃい。本当に、気を付けてね。別にお父さんみたいに稼ごうとしなくていいんだから。夜までには帰ってきなさい」
「わかった。父さんは?」
「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」
「わかった。別に遊んではいないけど」
「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」
「・・・・いってきます」
「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」
「・・・・」
僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。
・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。
僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。
そのお金で僕らは衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。
狩りのクエストを将来やりたい人は、幼いころからレベル上げを積極的にやって、一人前の戦士になる。エネミー狩りとかは、危険と隣り合わせの分、収入が良い。王様が住む帝都に住む住民は、ほぼすべてがエネミー狩りで成り上がった戦士たちだ。
そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、危険度がないお手伝いクエスト。
おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。
でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。
僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。
危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。
僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。
でも、同時にエネミー狩りは危険と隣り合わせのクエストでもある。
99層迷宮は、死人が良く出る。
そうこの世界では、死ぬんだ。
僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。
自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えてしまう。
だから住民は、自分のレベル相応のダンジョンや迷宮・森にしか行かない。
お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。
一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。
だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。
「いつになることやら、だけどさ」
僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。
ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。
「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」
現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。
僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。
「はやく、強くなりたい」
ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。
そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。
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