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*10*
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(僕は死んだんだろうか)
真っ暗な世界だ。でも、かろうじて思念はある。でも、自分の視界には何も表示されない。真っ暗な世界が広がる。一筋の光もにない。こんな世界でこれから、アイさんを助けられなかった苦しみをずっと感じながら、生きるのか。
(そうでないなら、死なせてくれ。たのむから)
そう心の中ですべてをあきらめかけていた時、僕のピコン!という音を立てて、ポップアップが表示された。
(?なんだこれ)
そこには、電子的なポップアップメニューの囲いの中に、一つの質問と、YES or NOの選択肢が表示されていた。
「一つ前のセーブ画面に戻りますか? YES or NO?」
なんだこれ。ひとつ前のセーブ画面に戻りますかって、こんなメニューがあるなんて僕は聞いたことがない。まずもって、セーブってなんだ?わかるようで分からない。なんのことを言っているんだ。
そうこうしているうちに、残り時間がポップアップ上部に表示される。
「残り時間、10秒?」
僕は何が何やら分からないまま、YESかNOの選択肢を押さなければならなかった。
残り時間は、9・・8・・・7・・・・6・・・・5とどんどん減っていった。YESかNOを押さねば、このカウントダウンは終わってしまう。なんとなく、ここでYESを押せば、何かが変わる予感がした。その予感がどこから来た知識なのか、僕にはわからなかった。
3・・・2・・・・・・・1と、0を刻むより前に、僕は僕の本能に従い、
「YES」
のボタンを押した。
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「ありがとう。ユウキ君」
僕が気が付くと、目の前にはよく見知ったその人がいた。
その人は1か月前に僕がレジスタンスに入団を決めた日と同じような顔をして、僕を見ていた。その眼にはうっすら涙さえ浮かべていて、冷や汗さえ浮かべていた。
その表情は、悲しみと喜びが混在する、何ともさみしい表情だった。
(アイ・・・・・・・さん)
目の前にアイさんがいることで、先ほどまでジェイソン戦で張りつめていた緊張の糸がプツンと切れた。
僕は気が付けばアイさんに向かって、走り出し、アイさんを思いっきり抱きしめていた。
「なっ!お、おい、ユウキ君。どうしたんだ急に」
アイさんがいる。ここにアイさんがいる。その事実だけで僕は泣き出してしまった。
「アイさん・・・、アイさん・・・!」
僕はアイさんのことをぎゅっと抱きしめた。
「ユウキ君・・・、なにかあったのか」
僕はアイさんを抱きしめながら、泣き出してしまった。
アイさんがここにいる。
まだ死んでいない。
まだ生きている。
まだ息をしている。
今ここに元気に立っている。
それだけで、僕の心は安堵し、その安心から涙があふれてきてしまった。
と、心が落ち着いてくると、アイさんがジェイソンから受けた傷のことを思い出した。
(・・・あ!背中の傷!)
「アイさん!後ろ向いて下さい!」
「えっ、後ろ?」
「いいから早く!」
「えっ、ええええっ!」
アイさんの後ろに向かせると、黒色の鎧がアイさんの背中を守っていた。おかしい。さっきアイさんの背中は、鎧ごと切り裂かれていたはず。なのになんで。
「アイさん!鎧脱がしますよ!」
「ふぇ?」
「失礼します!」
そういってアイさんの背中の鎧を外して、その同じく黒色のシャツをめくり背中を確認した。しかし傷なんてものは1ミクロンたりともなく、アイさんの黒いのブラジャーがあるだけだった。
「そんな・・・馬鹿な」
そんなはずはない。あの時確かに、アイさんは重傷を負っていたはず・・、
「いいぞ、いいぞ!もっとやれ少年!「アイ、顔が赤いぞ「あらあら、なかなかエロいのねぇユウキ君」」」
とまあ僕がアイさんのケガの具合を見ていると、隊長たちの声も聞こえてきた。なぜここに隊長たちが?さっきまでジェイソンとの戦いにいたはず。というか、ここはどこだ。僕が周りに気を配ると、どうやら見知った光景だった。100人ほどいる隊員たちが30卓ほどのテーブルに座り、驚いた様子でこちらを見ている。そして僕を囲むようにして、隊長たちがいる。この光景・・、どこかで。
「ゆ〜う〜き〜く〜ん!!!」
「へ?」
あ、やばい。アイさんの下着出しっぱなしだった。
「す、!スミマセン!」
急いで上にずらしていた黒いシャツを下におろして、ブラジャーを隠し、鎧をかぶせた。
「すみません!悪気はなくって、あの。ごめんなさい!」
僕は急いでスライディング土下座をして、アイさんに向かって平謝りした。アイさんも、赤面しているが、さほど怒っている様子はなく、「まったく」と言ってため息をついて、身だしなみを整えていた。
「いや、別に、君が急にそういうことをするから、みんなの前で。わたしも、こういうのはあまり、け、経験がなくてだな、えっと、だから、つまり、驚いただけだ、まったく・・」
アイさん、意外と怒ってないな。
赤面するアイさんを見ながら、僕は再び安堵し、涙がちょちょぎれた。アイさんの悲痛な顔しか見てこなかった気がする。だからこそ、アイさんの恥ずかしがる顔を見れたのが、たまらなかったのだ。
でも、どうして、今僕はここにいるんだ。
隊長3人も他のレジスタンスのメンバー100人も、アイさんもここにいる。ここは間違いなく、僕が1か月間お世話になった本拠地に違いない。そしてこの場面、レジスタンスのメンバーが全員卓に座り、隊長たちも全員集合して、アイさんの嬉しさと悲痛の入り混じった顔。あれに僕は見覚えがある気がする。
ジェイソンの戦いの後に、僕が気を失って、ここにいるということか?
それにしては、アイさんの背中の傷がない。
ここはどこで、いつなんだ。
「大丈夫か?ユウキ君、何かあったんじゃ」
僕が思案していると、アイさんが僕を気にかけてくれた。
でも、僕は聞かずにはいられなかった。今日闘って、負けた相手のことを。
「ジェイソンを倒しに行ったのは、今日・・・・ですよね」
「!!!!・・・・・、ユウキ君。なぜそのエネミーの名前を・・・・、君が知っているんだ」
「えっ・・・・・、あああ、いや、それは、その・・」
アイさんは怪訝な顔をしながら、僕の顔を覗き込んだ。
すると、何かを察したように顔をあげて、話を切り替えた。
「ン.まあいい。今日はあんなことがあって疲れたろう。ゆっくり休んでくれ」
「あんなこと?」
「?・・ああ。すまん言葉足らずだったな。今日、君がケルベロスに襲われたことだよ」
「!!!!」
今日、ケルベロスに襲われた????
そんな馬鹿な。僕が襲われたのは、ちょうど1か月くらい前のはず。
僕は今の僕のレベルを確かめるために、僕のレベルの画面を確認した。
「レベル・・・・・、8?」
レベル・・、8?
僕のレベルは13層攻略の当日にはレベル50にはなっていた。みんなの戦力になるために、頑張って修行してやっと50まで届いたんだ。それなのに。
「アイさん…」
「ん?なんだ」
「僕らは、13層攻略に挑むのは、1か月後ですよね」
「ン・・・?そうだな、1か月後には作戦を実施したいと考えている。でも、なぜ君がそれを知っている?まだ伝えてはいないはずだが・・・。まあ、いい。それまでに修行し、強くなっておくのだぞ、ユウキ君」
(そんな…馬鹿な。時間が、戻っている??)
僕のレベルが8だったのは、ケルベロスを倒した直後のことだ。そのあとは、僕はアイさんを守りたくて、ゴウの隊員になり、ゴウに修行をつけてもらった。1か月でアイさんを守れるくらい強くなるために、頑張ったはず。その記憶は確かにある。なのに、
何もかもが、リセットしている。
「よし、ユウキ君。今日はひとまず、親御さんの元に帰るのだ。ご両親も、帰りが遅く、さぞ心配している事だろう。もう黄昏時だ。日没まで、時間はない。早めに帰りなさい」
アイさんが僕に向かって、実家に帰るように促してくる。しかし、当の僕はそんな信条であるはずもなく、ただ茫然と、その場で起こった出来事を整理しなければならなかった。
「今日は、帰りません。アイさん、少し話があるんです。本拠地に泊まってもいいでしょうか」
「えっええ!」
アイサンが驚いた様子で僕の方を見てきた。
そして、同時にリュウとゴウ、サユリさんが茶化しに入る。
「おおうおう、愛の告白か!少年!「なかなかの根性だな「あらぁ〜、お姉さん男らしくて好きよぉ」」」
そういうことではないのだ。今は、この状況を確かめる必要がある。でも、今全員に報告するわけにはいかない。アイさんに報告しなければ。
「ととと、泊まる場所はある。私の部屋というわけには無論いかないが、ステイスペースでの寝泊まりは可能だ。親御さんにはメールか何かで連絡しておくといい。話はあとで聞くとしよう」
「はい。ありがとうございます」
そうして、僕の、僕だけの13層攻略の日が終わった。
今は、この謎を突き詰めなければならない。
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