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*11*
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アイさんとの話し合いは、夜の9時に本拠地近くのレストランで行うと決めて、アイさんにも連絡した。僕の両親には、2泊3日でタクムの家に遊びに行くと嘘をつき、適当にやり過ごした。
そうして、アイさんが来るまでの時間で、僕は今まで起きたことを整理した。
13層攻略があった今日。
? 詠唱中のサユリさんを守るため、ジェイソンに僕は立ち向かった。
? アイさんはジェイソンに背中を切られ、重傷を負った。
? 次に僕が首をはねられて、死亡した。
? しかし、「もう一度セーブ画面に戻りますか」というポップアップの指示に、「YES」のボタンを押すと、
? 攻略1か月前の、僕がレジスタンスに入団した日に戻ってしまい、
? アイさんも僕も生き返っている
というわけだ。
以上のことを頭の中で整理するには、アイさんが1か月以上前に行っていたこの世界は作られた世界であり、本物の世界は別にあるという発言も重要かもしれない。なぜなら、この世界は誰かによってつくられたからこそ、もう一度過去を繰り返すという、通常ではありえないことが起こっているかもしれない。
でも、そうするならば、
僕以外の人たちも、あの画面が表示されてもおかしくないはずだ。
あの画面というのは、「前のセーブ画面に戻りますか」「YES or NO」のあの画面。もし、そうならば、この世界で死んだ人には、あの画面が表示されて、過去に戻っている可能性もあるということだ。
でも、それは今考えても仕方がない。
多分、この整理した事項を並べると、
僕は未来から来たということになるだろう。
未来から、悲惨な未来を変えるためにやってきたと考えるのが自然だ。
今はアイさんに、その事の次第を説明するのが先決。
そんなこんなで、頭の中を整理していると、アイさんがやってきた。時間通りにくる正確さは、いつ考えてもすごい。僕が修行しているときも、そうだった。アイさんが時間に遅れたことは一度たりともなかった。
時計は、ちょうど九時を指し示していた。
「待たせたな。ユウキ君。どうした?そんな思い悩んだ顔をして」
「アイさん。ありがとうございます。きてくれて」
「なに。君が尋常ではない顔をしていたからな。レジスタンスの本拠地に来てから、様子がおかしいと感じていたが。なにか、あったのか?」
アイさんは席に座ると、この店のサンドウィッチを店員に頼みながら着席した。
「アイさん・・・」
「どうした、神妙な顔をして」
「話したいことがあるんです」
「ああ、どうした」
「僕は・・、未来からきたかもしれないんです」
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僕は今までにあったできごとを全て洗いざらい話した。僕は一か月後の未来から来たのではないかという結論から、その結論に至った背景まで。全部。
するとアイさんは合点がいったような顔をして、「そうか・・」と一言だけ言うと考えこんでしまった。
え、いや、それだけ?僕にとってはめちゃくちゃ重要なことだったんだけど、アイさんにとってはさして新しいことでもなかったのだろうか。もしかしたら、今までもそうした未来から来た人間に会ったことがあるとか。
「アイさん、どう思いますか」
「うむ、一つ質問してもいいか」
「はい」
「君がジェイソンのこと、13層攻略の時期のこと、そして、私の背中を見たことは、全て未来に怒った出来事が関係しているということだな」
「その通りです」
「そうか・・、合点がいったよ。君がレジスタンスの攻略計画を何から何まで知っているから、私は肝を冷やしたよ。どこかで自分が酒におぼれて口走ったのではないかとな」
「お酒飲まれるんですね、アイさん」
「それはそうだ。リーダーという立ち位置も、どうにも責任とかやらなければならないこととか、マネジメントとか、そういう雑務諸々で疲れることもあるのだ。骨折り損のくたびれ儲けだよ」
骨折り損のくたびれもうけ・・・・、どんな意味だったか完全に忘れているので、僕は内心ではスルーしたが、要約すると、働いても割に合わないみたいな意味なのだろう。正直、知らないが。
「今日の私の背中を見て、ブラジャーの色を確認したことは、無罪放免にするとしよう、そういう事情があったわけだしな」
「あははははは、よかったです。怒ってるかと思ってたので」
「怒ってなどおらぬ。だがな、ああいうことをされたのは、初めてだったのだ。それで、少し気が動転してしまっただけだ」
アイさんが頬を赤らめ、赤面する。
赤面するアイさんが一番かわいいと心の中で僕はそう思っていた。
「ご注文のサンドイッチでございます」
すると、そうこうしているうちに、アイさんが注文したサンドイッチが運ばれてきた。
「有難うございます」とアイさんは店員さんに一瞥すると、
サンドイッチをまず一口食べて、話の続きを始めた。
「君が未来からきたのは、間違いないだろう。ここが本来の世界ではないと前提のもとに立つと、猶更そうしたリセットという機能がこの世界にあってもなんら不思議ではない」
「はい、スミマセン、そんな機能使っちゃって」
「いや、謝ることじゃないよ。なにせ、君は我々レジスタンスが負け行く運命を変えたのだ。自分を誇りに思え。ユウキ君」
「負けゆくっていっても、僕がいなければ、勝てたかもしれません」
事実、僕があの時にジェイソンの攻撃を受けようとしていなければ、アイさんは僕を庇って死ぬことはなかったんだから、状況はもっと好転していたに違いない。
「いいや、それは違うよ。サユリは、大魔術や、回復魔術も扱える非常に優秀な魔術師だ。ジェイソン戦でも、主力のアタッカーであり、ヒーラーでもある。しかし、その分詠唱には時間がかかり、敵のエイムを受けるリスクも高まる。だからこそ、彼女を守った君の功績は高いというべきだろう」
「でも、結局、アイさんに守られてしまって、僕はなにもできませんでした」
「自分を責めるな。時として自分を過剰に責めることは、君の成長を鈍化させる。それに、君には今、経験がある。ジェイソンが未来で急襲をかけてくることも、サユリが詠唱時間のスキに襲われることも、君の盾がジェイソンの大鉈には通用しないことも。君は今沢山の情報を知っているわけだ。それならば、我らの勝率が高まったと考えることもできよう。だからユウキ君、君は何もできていないことなんてない。君は13層での戦いで,生還し、今ここにいる。それだけでいいんだ」
「でも・・・」
「おそらく、いや確実に一か月後の13層攻略に君は参加していた。そうして、大樹の根とジェイソン・ボーヒーズを前に惨敗した。しかし、それでも君が諦めず、私にもう一度ついてきてくれるというならば、教えてくれ。過去の戦闘の記憶を。そして、我らレジスタンスに、勝利をもたらしてくれ、ユウキ君」
「僕は・・・」
僕が、あの時。僕にできることは何一つなかった。
ジェイソンのチェーンソーと大鉈を前にして、
僕にできたことは、サユリさんが大魔術を撃つまでの時間稼ぎくらいだった。
しかし、結果的に、その時間でさえも稼ぐことはできず、アイさんに重傷を負わせてしまった。
だからこそ、
「僕は僕にできることをします、アイさん」
アイさんがもう一つの世界があると言ってから、僕は一か月間この世界のことを考えていた。
この世界はどんな世界なのか、この世界での死は何を意味するのか。
だから、僕はあの時のポップアップメニューで、YESのボタンを押せたのかもしれない。
アイさんがもう一つの世界の可能性を感じさせてくれたからだ。
僕が僕にできることは、前回の記憶を次回の13層攻略に活かすこと。この知識をみんなに共有して、全員で作戦を練ることだ。そして、アイさんも生きて、隊長たちと、他の隊員のみんなと、全員で13層を攻略し、14層に到達する。
それが僕にできる唯一のことだ。
「ジェイソンは、まず僕たちが進行してくるのを先読みして、地面を掘って僕たちに近づいてきます。前回の攻略では、森の中の開けた場所でジェイソンは顔を出しました・・・・。そうして・・・・」
僕はアイさんに、前回攻略であったことをすべて話した。
「となると、ジェイソンの大鉈にレベル50程度の盾は効かない。だとするならば、ローグ職や魔術師職の方がユウキ君には・・・
そうして、アイさんと二人で作戦を立て、一か月後に13層攻略をすることを決めた。
二人して作戦会議が終わると、アイさんは去り際に僕にこういった。
「君が、未来から来たというのは、みんなには内緒にしておいてくれ。もちろん、ジェイソンがいる前で、それを言うなよ」
意味深な発言を残して、アイさんと別れた。
あれは、なんだったんだろうか。
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