完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*3*
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「なんでこんな森にケルベロスが・・。99層迷宮に住むエネミーのはずじゃ・・」
「gururururururururuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
「ヒィィ!な、なんかの間違いだよな。な。俺らここで死なないよな?な?」
コウタとアモンが口々にうろたえる。
ケルベロスはアモンが言った通り、99層迷宮の5層ボスに位置するエネミーだ。なんでそんな化け物がこんな森にいるんだよ!
僕のステータスは、まだレベル7。先の戦闘でポーションはすでに5個しか残っていない。
仲間の戦力も、アモンとコウタはレベル30。タクムはレベル40だけど。
ケルベロスの推奨レベルは、40と出ている。
前衛3人のレベルの平均をとっても、たった33レベル。推奨レベルには到底及ばない。
「怯むな!推奨レベルが40だからって、別に40レベルないとだめってわけじゃねーだろ!」
タクムが全員を奮起させるために声を上げる。一方、アモンとコウタは足がすくんで動けないらしい。ところで、ぼくの方は言うと。
(死ぬのかな。僕)
死期を感じていた。
さっき3人がしていたひそひそ話。もし、3人がピンチになったら僕がおとりになるとか、そんな話をしていたんだと予想する。ということは、
ぼくを置いて、逃げるつもりなんだろうか。
ぼくより素早さのステータスが3倍も4倍も高い彼らには、絶対足の速さでは追いつかない。もし置いてきぼりにされたら、確実に僕だけ逃げられない。
いやだ死にたくない。
「gるるるahahhhhhuruuruuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!!!!!!!!」
っ!
ケルベロスの咆哮が森中に響いたと同時に、森中の小型の鳥エネミーが飛散する。と同時に、ケルベロス特有の3つの口から、それぞれどす黒い色の魔炎弾を吐いてきた。
「🔥🔥🔥」
3つの口からそれぞれ、タクム、アモン、コウタに向けられる。全員が戦士職の二次職である盾戦士である彼らは、各々の盾でその魔炎弾を防ぐために、盾を構える。
「来るぞ!」
というタクムの号令と同時に、魔炎弾が3人の盾に爆音をあげながらぶつかる。
3人の盾さえ砕けなかったが、タクムを含めて3人のHPがごそっと、半分近く減っていった。この時3人は同時に気が付いた。強敵の攻撃を一度食らっただけで分かる、あの現象。
絶対にコイツには勝てない、とわかったのだ。
全員がおびえながらケルベロスをみるなか、アモンが震えたタラコ唇を開く。
「たた、タクム。や、ややばい。っつつ、強すぎる、おおおおぉ俺ら負けちゃう。に、逃げよう。さっき言ったみたいに、おおおおお置いてこう、ぁぁああいつ」
次に、足をがくがくに震わせたコウタが口を開く。
「そ、そ、そうだよ、アモンの言うとおりだ。むムムム、無理だって、今の俺らじゃ、っぁかか、勝ててない・・」
二人から逃げる指示をするように仰がれたタクムは、二人よりも切羽詰まっていた。
タクムが切羽詰まっている中でも、ケルベロスはグルルルルという声を立てながら、次の魔弾を吐き出すMPをためているのが、ケルベロスのHP・MPゲージを確認して分かる。
このままじゃ、さっき陰で話してたみたいに、僕は置いてかれるのか。でも、タクムは意外と強いし、頼りがいも少しはあるし、戦力的にも互角なんじゃ・・。
「ぃひぃひいいいいいいいい、にに、逃げろ!!!!!!!へたっぴ置いて、逃げろォォぉぉおおおおお!」
そんな悲痛な声が、森中に響き渡った。
こんなタクム、僕がこのクランに入ってから初めて見た。
いやでも、そんなこと言っている場合ではない。僕を置いて逃げる?あんまりだ。
いくらなんでもそれはない。この状況なら、盾で防ぎながら4人で逃げかえることだってできるのに。なんで。
「そ、そんな!僕、ポーションでみんなを回復して戦うのに!!」
ぼくからの悲痛な叫びをするも、それは残念ながら他の3人には届かない。
「おまえ!!ポーションあるんだから、逃げながら回復できるだろ!!俺らが逃げる方角に連れてくるなよ!絶対だぞ、絶対だからな!!!」
そういってタクムたち3人は、僕の3倍以上はある足の速さで森の奥に消えていこうとする。
「そんな、待って!ぼくたち、クランの仲間じゃ!」
「お前みたいなへたっぴ、仲間にした覚えねぇよ!はなっから、ポーション役だお前は!」
「そ、そんな・・。ま、待って!僕も、連れて行って・・・!」
僕がクランメンバーをめがけて走りだそうとした次の瞬間、非情にもケルベロスは逃げ遅れた僕を待ってはくれなかった。
「GURURURUURaduqadaedadqfaefsrmkvkewr-svfw-e-raaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
ものすごい轟音を挙げて、今まさに、3つの口から魔炎弾が放たれようとしていた。
まずい。逃げなきゃ。
とっさにそう判断して、開けた場所から森の奥に逃げようとする。もちろんタクムたちと同じ方角に。タクムたちと逃げれれば、生き残るチャンスはある。
しかし、そんな甘い考えをかき消すかごとく、
「GYAAAAAAAAayayyaaaaaaaaaaaamaennnnnnnnnnnnnnnnnnnnneaaaaaaaaaaaaaaaam」
魔炎弾が僕とケルベロスの周囲を取り囲むようにして放たれた。
「っ!」
魔炎弾の残り火が、僕を逃げられないよう包囲している。
そんな四面楚歌状態の僕を、魔炎弾の残り火から見つめる3人の姿があった。
3人はおびえた顔でこちらを見ている。しかし、そのおびえた顔には少なからず安堵感がにじみ出ているようにすら感じられた。
「い、今のうちだ。にげるぞ!」
そういって、ついにタクムたちは森の奥に消えていった。
しかし、今の僕にはこの魔炎弾の残り火を乗り超えて、3人を追いかける手段はない。
魔炎弾の残り火に近づけば近づくほど、僕のHPは削られていく。
万が一、炎を超えられたとしても、やけど状態になるのは必至だ。
その状態で僕一人で森の中の敵を倒しながら、村に帰るのは不可能に近い。
やけど薬も持っていない。ポーションもあと5つしかない。そんな中、レベル7の僕がこの森を一人で抜けることは、不可能なことだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は今の状況を分析して、途方に暮れてた。もう打つ手はない。
この炎を渡って森に行っても生き残る手段はない。
推奨レベル40のケルベロスに、レベル7の僕が勝てる手段もない。
ましてや、この残り火をかき消す水系の呪文も使えない。
もう、何も打つ手がなかった。
「・・・・っくそ」
分かっていたことだった。タクムたちに仲間だと思われていないことは。
でも、タクムなら、と心のどこかで思っていた。
クランリーダーなら、もっとなにか手を尽くしてくれるかと思っていた。
でも、僕が馬鹿だった。
クソ。クソ、クソ。僕が馬鹿だった。
クソ。クソ。クソ、クソ、クソ!僕が甘かった。
クランだからって安心してた自分が馬鹿だった!
クランなら万が一の時があっても守ってくれるって
どこかで甘いこと考えてた。
クソ!なんだ、全然僕らは仲間同士じゃないっ。
始めっから、ポーション要因として利用されていただけだった。
これじゃあ、希望を持っていた自分が馬鹿みたいだ。
これなら、誰も信じない方がましだったのに。
「クソ!クソ!クソ!ぅうううううううううう、う、うう」
いたたまれない声が森中に響き渡る。
しかし、そんな僕の泣き声を、ケルベロスの咆哮がかき消した。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
待ちくたびれたぞ、と言わんばかりに僕のことを見つめる、ケルベロス。
僕の周りを取り囲んだ、魔炎弾の残り火によって、僕の体力はじりじり減っていく。
対してケルベロスの体力は、魔弾の残り火によっては減る様子もなく、依然としてHPゲージは満タン。
5個のポーションと自分の力でコイツを倒す、それができれば帰れるかもしれない。
しかし、勝てるわけがない。レベル差は歴然。魔炎弾の威力は、レベル30以上のタクムたちをHPゲージを半分まで削るほどの威力。
どうみたって勝ち目はなかった。
だから、僕に唯一残されている選択肢は、
たった5個のポーションで、可能な限り長く延命することだけだった。
「ふふふふふっ、ハハハハハははははは」
笑えてきた。一周回って。
家の出も貧しく、あんなにへたっぴと蔑まれて、金を貢がせられ、ポーションを買わされ、終いにはこれだ。笑うしかない。
僕が信じていた友情とかは全くなかった。
あったのはいじめられていた事実と、パシリにされていたことだけだった。
全く散々だ。散々な人生だ。
散々な人生だから、
あいつらに復讐してやる。
あいつらに、一生の罪を抱えさせてやる。
「こいっ!!!僕を、殺せ!!」
僕があげた怒鳴り声とともに、ケルベロスの3つの首が同時に雄たけびをあげた。
ハハ・・。
お前らが散々蔑んだ僕が、ここで死んでやる。
しかもありったけの時間をかけて。
僕がお前らを助けてやる。
ポーション5個使って、ケルベロスの攻撃を避けて避けて避けまくって。
お前らが村に戻れるくらいの時間を稼いでやる。
そうして、伝えろ、僕の存在を。僕がいた過去を。僕がいた証明をしろ。
そうして、そうして、お前らは・・。
「見捨てた人間に、生かされた記憶を抱えて、この先、未来永劫、生き続けろ!」
僕の独白と同時に、ケルベロスが僕に向かって3つの魔炎弾を放つ。
「ッ!」
間一髪で3つとも避けるが、熱すぎる魔炎弾の残り火が、自分の元居た場所に広がる。その熱気でHPを削られ、もうHPは半分になってしまった。
「くそ、一本目のポーション」
一本目のポーションを飲み干すと、次の魔炎弾の攻撃に備えて、身構える。どうやらこのケルベロスは魔炎弾しか放ってこないらしく、攻撃パターンは予測しやすい。ダメージも避けられるかは、別の話だが。このままだと、魔炎弾の熱気のダメージも換算すると、避けても僕のHPは底をつくことは間違いなかった。
「へへへへ、・・・・・望む、ところだ。」
いいさ死んでやる。このまま死んであの世にでもなんでも行ってやる。
そしてあの世から、生き残ったあいつらを笑ってやる。
見捨てた人間に助けられた記憶を抱えて、未来永劫無様に生きろ。
そして、その姿を見て、あの世から僕はお前らを呪ってやる。
だからここで、僕は、
「しんでやる!!!!」
僕はケルベロスの方を向きながら、そう叫んだ。
もうそれを伝えるべき人間はもうここにはいない。
対するケルベロスの方も、3つの首をそろえて、魔炎弾を僕に向かって撃ち込もうとしてくる。
ここから、多分もって2・3分だろう。それくらいあればあいつらは逃げて帰れる。
そうして、あいつらは俺の残像を感じながら、この先一生生き続けるんだ。
ははは、ざまあみろ。
ケルベロスの魔炎弾が僕に向かって放たれる。
もう、今死んでしまってもいいか。
多少の誤差は、大丈夫だろう。あいつらも村に逃げれる分の時間稼ぎはできたはずだ。
もう疲れた。
魔炎弾を受け入れ、焼け焦げて死のう。
そう思って、両膝を地につけた。
そうして魔炎弾が、僕に向かって降り注ぎ、僕の体を焼失させ・・・・・・、れなかった。
今思えば、今から起きる出来事は、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。
「よく耐えたな。少年」
見知らぬ声が、僕の耳に届く。同時に、バゴーーーン!!という衝撃音が僕の前方で鳴り響く。3つの魔炎弾をかき消された音だとわかるまで、コンマ1秒程度かかった。
何事かと思い前を向く。
その先には、
2本の黒い長刀を手に持った、一人の少女がいた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
このわずか、10秒前。
「赤いコンソール・・・・・・・・・・。」
ついに、見つけた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★