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*7*
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時は過ぎ、あれから一か月の間。
あれから僕は各隊長とアイさんから、超絶スパルタ修行をつけてもらい、レベル上げを行った。メインの隊長に選んだのは、ゴウさん。ゴウさんの隊に入隊し、ゴウさんに盾の手ほどきなどを一か月間死ぬほどの思いをしながら、学んだ。
かつてレベル7だった僕のレベルは、今では50になった。各隊長のレベルが90台で、アイさんに至っては99レベルだから、まだまだではあるが、一端の隊員として活躍できるレベルになった。かつてのタクムよりもレベルが高くなった瞬間は感慨深いものがあった。
各隊長のことも深く知ることができ、一緒に同じ飯を食べ、一緒の布団で寝た。
このギルドが、アイさんが一人一人に声をかけ、大きくなっていったこと。リュウや、ゴウ、サユリさんとの出会いもたくさん教えてもらった。
各隊長やアイさんと99層迷宮の二層や三層に行くこともあった。徐々に、みんながアイさんのためにレジスタンスで働く意味が分かってきたような気がしてきた。
全員が、アイさんのような人間になりたいのだ。
ピンチの人を守り、
自らが率先して危険に立ち向かい、
誰にも優しく接し、
人の話を深く聞いてくれる。
そんなアイさんという人間に、皆ある種惚れているのかもしれない。
あんな人間になってみたいというオーラが、アイさんにはあった。
そんなこんなで、レジスタンスにようやく僕が馴染んできた一か月後というこのタイミング。
ついにアイさんが、99層迷宮の13層の攻略会議を行うというアナウンスを告げた。
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攻略会議は、いつものレジスタンスの本拠地で行われた。
アイさんからの作戦説明も終わり、会議自体も終わりに差し掛かろうとしていた。
「きたる、明日。我らレジスタンスは、99層迷宮13層攻略作戦を実行する。13層のボスモンスターは既知の通り、ジェイソン・ボーヒーズ、大鉈とチェーンソーを武器とする大男だ」
99層のボスモンスターは、ジェイソン。どこかで聞いたことがある名前である気もするが、どこで見たのかは鮮明には覚えていない。だが、レジスタンスのメンバーが何人も犠牲になり撤退したという、まさしく宿敵ということになるだろう。今の僕ならば、アイさんの役に少しでも立つことができるかもしれない。
僕の今の職業は、盾戦士。
かつてのタクムや、アモン、コータと同じ二次職を選んだ。大きく分けて理由は二つだ。
一つ目は、今の僕にできることは何だろうと考えた結果、この二次職に決めた。なんやかんやで、動き方を予め知っていたのは、大きな要因だろう。タクムやアモン、コータの盾の扱いを近くで見ていたから、盾の扱いは少々心得があったんだと思う。
そして二つ目は、彼らを超えたい、という気持ちだ。彼らとの記憶を乗り越えたいという想いも、内心では二次職に盾戦士を決めた理由にもなっているだろう。
今度は僕がアイさんを守れるように、この盾でアイさんを守りたい。
「苦しい戦いになることが予想される。だが、断じて我らは諦めない。99層に到達し、本来の世界に戻るその時まで。戦おう、みんな」
「オオオオオオオーっ!!!!!」
レジスタンスの隊員全員のすさまじい雄たけびが、本拠地の中に響き渡った。
来たる13層攻略は、明日の朝に迫っていた。
「・・・・」
とうの僕は、いまだ不安をぬぐい切れていないまま。
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13層攻略の前夜、僕は本拠地近くのレストランで、四人掛けの机で一人食事をしていた。次の日に迫る決戦を前にして、どうにも気持ちが落ち着かなかった。これまでの特訓の成果は十分だったろうか、ちゃんと明日の攻略ではアイさんの役に立つことができるのかとナイーブになっていたからだ。
「不安だな」
ここ最近で、自分のナイーブな側面は解消したはずだったのに、いかんせん解消できていなかったらしい。アイさんを自分が守れるのかとか、いらないことまで考えてしまっていた。
「僕・・・、明日の攻略にいるのかな」
そんなフルオブナイーブな状況な中、鎧をカチャカチャと鳴らして、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしと、僕の前方からやってきた。僕が見上げるサイズ感のその見知った人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。
ゴウだ。
「どうした。今はみんな本拠地で、明日のための武器の整備や防具の手入れをしているぞ」
ゴウは僕が座っている四人掛けのテーブルの目の前の席に座ると、店員を呼び、僕と同じくサンドウィッチを頼む。
戦闘前日や前夜はあまり酒は飲まず、こうしてサンドウィッチなどの軽食で済ませて、おなかの調子を良くしておくことが望ましいと、そういえばゴウさんの特訓で教わった。
「そうですよね・・・スミマセン。なんか。一人になりたくて」
「・・・不安、なのか?」
「えっ」
「いや、今のユウキ君と同じような顔を、良く戦闘前にしていた人間が、昔にいたもんでな。ソイツも内心の不安が、顔に出やすいタイプの人間だった」
「そんな人・・、ゴウさんの知り合いでもいたんですね」
「ははは。そうだな。そいつは今レジスタンスで、隊をまとめる隊長をやっているよ」
「え・・・、それって誰なんですか?」
「それを聞くか。君は」
「あ、スミマセン。失礼でしたよね」
「ふふ。まあいい。その臆病者はな、私だよ」
(えっ・・・)
一瞬ゴウさんの話が信じれなかったが、ゴウさんの瞳を見ると、その瞳には一点の曇りもなく、それが本当のことだということを物語っていた。
「私は、このレジスタンスには2年前にきた。当時の私は君と似ていたよ。下手すれば君よりも臆病で、怖がりだった。前線にでてエネミーに対して剣をふるう度胸もなかった」
今の全線で勇猛果敢にタンクを務めて、レジスタンスの前衛のリーダーでもあり、騎士隊の隊長でもあるゴウさん。そんな人が、僕と同じだった?にわかには信じがたかった。
「私が剣も振るえずにいたあるとき、私は私の家族と99層迷宮の2層に狩りに行った。よく家族で、2層に狩りに行く習慣があったのだ。討伐クエストでの金稼ぎと、私の特訓も兼ねてな。私の父と母は剣使いの中でも指折りの猛者だった分、今思えば、私の両親は慢心していたのかもしれんな」
そういいながら険しい顔をゴウさんはした。今までそんなゴウさんの顔をみたことは一度たりともなかった。
「2層のボスエネミーに、両親は殺されてしまった」
「!」
ゴウさんの両親が、殺された?
僕の父もよく99層迷宮の2層ボスを狩って、お金の足しにしてくれている。2層のボスがそんなにも強いとは聞いたことがない。なんで、手練れであるゴウさんの両親が死ぬんだ。
「99層迷宮では、ごくまれにボスエネミーが変わることがある。乱数の問題で、レアモンスターが通常時にポップするボスエネミーの代わりに出現するのだ。私の両親は、それに出くわした、外れくじを引いてしまったわけだ」
外れくじ・・。確かに、99層迷宮区では、ボスエネミーが4000分の一とかの確立ではあるが、超絶強いレアエネミーに変わることはある。しかし99層迷宮区の最初の層付近のエネミー戦では、逃げることもできたはずだ。なぜ・・
「両親は慢心をしていた。私を守りながらでも、絶対に勝てるはずだと。まだ剣もまともに触れなかった私を背後に抱えても、勝てると舐めてかかっていた。しかし、私を守りながら、レアエネミーに勝つことはできなかった。レアエネミーの強さが想像以上だったのだ。結果、私を置いて、二人は死んでしまった」
「・・・・・・そのあと、ゴウさんはどうなったんですか」
「はは、おびえてしまって、その場で硬直してしまったよ。私を守る両親は二人ともレアエネミーにやられてしまって、残された獲物は私一人だった。もうダメだ。両親と死ぬしかない。本気でそう思った。その時だ、私がアイと出会ったのは」
アイさんとゴウさんとの、経緯か。なんだか、僕と似た境遇だ。
「アイは漆黒の閃光のように、レアエネミーに突進していった。アイは私を守りながら、レアエネミーをたった一人で倒した。その時にはもう、彼女についていくことを心に決めていたのかもしれんな」
ゴウさんは、あの時のことを思い出しながら、くすっと笑った。
「その日中には、レジスタンスに入団を決めた。両親のために強くなることはもう叶わないが、私を助けてくれた命の恩人のために、働こうと決めたのだ。そして、私は騎士職になった。人を守りながら、エネミーに勝つことは至難の業。そのことを誰よりも知っている私なら、騎士職ができるのでは、と」
僕の盾戦士は、3次職である騎士職が絶対に通る道だ。僕もアイさんのナイトになりたいと思って、この職を選んだ。でも、今のゴウさんと比べて、僕の実力差は歴然。火を見るよりも明らかだった。
「明日、足手まといになるかもしれないんですよ」
「足手まといか」
「はい。僕のこの盾じゃ、誰も守れないかもしれない。守りながら戦う事の難しさを、この特訓の1か月でゴウさんに教わりました。けど、僕にできるでしょうか。アイさんを守りながら、闘うことが」
「はは。できるさ、君なら。アイに救われ、アイのために盾を持つ戦士になったものは、皆いい騎士に成長していく。気持ちが乗っているからだ、盾に。誰かを守りたいという気持ちで、君はこの1か月間の特訓に耐えて、1か月で40レベル近くも成長した。1か月頑張った自分を信じるんだ。ユウキ君」
・・そういわれると、なぜか少し力が湧いてくる。
僕はこの1か月、ゴウさんメインでみっちり指導をしてもらい、今のこのレベルに達することができた。アイさんが作戦立案などの他の仕事で忙しい中、僕にほとんど付きっ切りで教えてくれた。
ゴウさんのためにも、明日、頑張らなきゃ。
絶対に13層を攻略しよう。そう心に誓ったのだった。
そして、夜は更け、日はのぼり、13層の攻略の当日の朝がやってきた。
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