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THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
作者: 多寡ユウ  (総ページ数: 20ページ)
関連タグ: 異世界、リープ、AI 
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10~

*8*


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13層攻略の朝は、肌寒い朝だった。総勢100名のレジスタンスメンバーは、帝都近くにある転移ゲートにいた。
99層迷宮は99層という地下に長い迷宮であるため、もし1層から13層に歩いて向かおうとすると、途方もない時間がかかってしまい、途中でボスを再度倒す必要もある。だから、もうすでにボス部屋までのルートをマッピングしてある13層まではこの転移ゲートで、移動するというわけだ。転移ゲートを使うことで、13層のスタート地点に瞬間移動することができる。というわけで、99層迷宮の入り口ではなく、ここ帝都の転移ゲートに朝一できているというわけだ。

昨日ゴウさんと話をしたおかげで、心なしか緊張も解けた。強敵を前にする不安という魔物が正直、心の中にまだ居住を構えているものの、大丈夫だ。大丈夫。と僕は自分に言い聞かせていた。

そうして、手に人の文字を3回書き、口で勢いよく吸うという、お決まりの動作を僕がやっていると、アイさんが声をかけに来てくれた。

「ユウキ君。どうだ、調子は」

「あ、アイさん。万全です。頑張ります僕」

「ハハ、そうか。あんまり気張るなよ」


そういって、アイさんは僕の背中をバンバンと叩く。これもアイさんなりの励まし方なんだろう。ただ、力が強い、強い。戦闘前にダメージを受けそうなくらいには強い。


「ぐはっ、頑張ります」


アイさんは僕の返事に、「よしっ」というと、リーダーらしく付け加えた。


「もし君にもしものことがあったら、その時は私が君を助ける。絶対に死なせない。だから、安心してくれ」

「ぼ、僕もアイさんを守ります!いつまでも守られっぱなしじゃ、いやです!」

「!」

アイさんが僕の発言に驚いた様子を見せた。無理もない、僕のレベルは50に対して、アイさんは実質この世界では一番強いレベル99なんだから。
でもアイさんから言われたのは、あきれた一言でも、心のこもっていないありがとうでも、どうせ私が助けるといった諦めでもなかった。


「そうか。ありがとう、ユウキ君。信じているよ、君がいつか私を救い出してくれると」


アイさんが普段見せない、悲しげで悔しげな顔から出たのは、アイさん自身の悲痛な叫びに、僕には聞こえた。


「はい、必ず。なにがあっても」


僕の返事は、もちろん決まっていた。今思えば、ずっと僕は自分に正しい道に進んでいた。ただ、救い出すという言葉の意味を、この時はわからないまま。

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アイさんの事前説明では、13層:ジェイソンがボスエネミーであるこの層は、死海と呼ばれ、生い茂った大樹が生える森の迷宮らしい。薄気味の悪い濃霧と、膨大な数の大樹が、人の方向感覚を失わせる。そして、厄介なのはこの大樹、ひとを喰らう大樹らしい。大樹に寄りかかって休憩している人、足が遅い人を、ご自慢の太い根っこで次々と地中へと引きずり込み、喰らっていく。集団行動はマストになって来るダンジョンだ。

レジスタンスがマッピングできてるのは、ごくわずかな範囲だけ。ボスのいる空間と、13層の入り口を結んだルートだけらしい。アイさんの透明化のスキルによって、全体を見た感じでは、1万キロはあろうかという広さらしく、今までの1層から12層の中では比べ物にならない広さらしい。前回ジェイソンに負け、多くのレジスタンスの仲間が、森中に離散。そのまま100人の隊員が行方知れずになってしまった。

アイさんが残った隊員100人を13層の入り口まで非難させてから、残りの行方不明になった100人の無事を確かめるために透明化のスキルで森全体を視認すると、すでに行方不明者は大樹に飲み込まれた後だったという。

結果的に、
生存者は103名。
しかし、死亡者・行方不明者は101名にも及んだ。

死亡者・行方不明の内訳は、騎士隊が24名、ローグ隊が22名、魔術師隊は一番損害を受け52名だった。

けがを負った身で樹海をさまよった挙句、足が遅い隊員は大樹に飲み込まれ、残りの足が速い隊員も負傷のため木に寄りかかるなどして、木に食われてしまったのだという。
その中でも、一番足が遅く、MPポーションが尽きると、厳しい戦いを強いられる魔術師が最も損害を受けた。


(もう、これ以上、アイさんの仲間を危険な目には合わせたくない。)

そうして100人の転移が終了した。

僕たち100人の隊員は、13層入り口に転移されると、アイさんが全体に注意勧告をする。

「みんな、この森は、濃霧と人食い大樹の生い茂る死海だ。作戦通り、100人全員が高速で動き、ボスのいる空間までたどりつく必要がある。リュウたちローグ班は、根っこを切り刻みながら進んでほしい。ゴウたちナイト班は、誰かが襲われそうになった所を盾で防ぎながら進行してくれ。サユリたち魔術師班は、人食い大樹の根っこの攻撃を防ぐ防壁を張りながら、また火炎弾で応戦しながら動いてほしい」

アイさんは先日の作戦会議の内容を、反復するようにみんなに伝える。

「集団行動がマストだ。みんなお互いの距離感を近めて、ボスのいる空間まで無傷でたどり着こう」

「「「「はいっ!」」」」

全体の気持ちいい返事の後、僕らはジェイソンがいる空間に向かった。
僕らはこの時、ボスが既存の空間からすでに移動しているとは思いもせずに。

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死海の奥底。先天的な病により奇形になった顔、黒いジャンパーを着た大男が大樹の根っこの上に座っていた。不気味な息遣いとうめき声をあげながら、13層の入り口付近の敵に気が付き、目を覚ましていた。そのジェイソンの脳天には、深く刻まれた刺し傷があり、その奇怪な顔をより一層際立たせている。


「ugagagaaaaaaaaaaaaaaa,あああぁぅあ類、wake up、何か月ぶりの客人だin ages. 」


ジェイソンの下の大樹の根っこでさえも、うめきながら返事をしているようだ。
ジェイソンのその言葉は、なにか言葉であって、言葉ではない。そんなまがまがしさを感じさせる言語だった。

「sorry to keep your f###### waiting, お出迎え,し、二ヒ!」


ジェイソンはその奇形な顔に、真っ白なホッケーマスクをかぶり、白いインナーシャツの上に黒いコートを羽織り、黒いズボンを履いて、戦闘態勢に入った。

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「火炎弾!シールド!」

魔術師が迫りくる大樹の根っこに向かって、効果抜群の火炎弾を放ちながら、敵に降りかかる根っこに関しては、シールドで防ぐことを繰り返し、進行する。

「シールドアタック!」

魔術師が襲われた時には、盾をもつ騎士職の隊員がシールドで根っこの攻撃を防ぐ。

「スラッシュ!」

そして弱った根っこを、切断していくローグ隊。

完全に役割分担はできていて、誰一人としてかけることなく、森の中の開けた場所に着くことができた。開けた場所なら、大樹も周りになく、もし大樹が森の中から攻撃してきても、ある程度対処できそうであった。というわけで、アイさんの号令で、ここで一度休憩ということになった。

「ひとまず、ここで休憩しよう。みな、ポーションやMPポーションで、回復をしてくれ」


「ふぅ」

ようやく一度呼吸が置けた。入り口からずっと緊張の糸を張っていた。誰かが襲われたときにはシールドアタックで、根っこの攻撃を防いでいた分、周りに気を配っていたのだ。僕がポーションで自分のHPを回復していると、ゴウさんが話かけに来てくれた。

「どうだ。調子は?」

「ぼちぼちです。周りのことを気にしながら進むのに慣れていないので、少し大変ですが」

「そうか、まあ無理はするな。HPが足りなくなったら、隊の中央に行くんだ。根っこの攻撃に合わなくて済む」


隊の中央にいれば、その周囲の隊員が根っこに対して攻撃をしてくれる。その分、楽ができるというわけだ。だから、HPがなくなったり、MPがなくなった魔術師が、隊の中央に戻り、ポーションで回復。その後、もう一度前線に戻るようにして、隊の外側で根っこと戦うという形で、ここまで移動をしてきた。


「HPの減りには気をつけて進んでいけば、大丈夫です。だから心配ありません」

「頼もしいな。君の頑張りは、この一か月で特訓を担当した私が保証しよう。君なら絶対に・・」


ゴウさんがその言葉を言うよりも前に、チェーンソーの不気味な機械音が突然森中に響き渡った。


「!?」


(チェーンソー!?の音?)
アイさんの説明では、ボス部屋まではまだまだのはずだったのに、なぜチェーンソーの音が聞こえるんだ?数ある選択肢の中である可能性は、チェーンソーを持っている他のエネミーが近くにいること。もしくは、ボスエネミーであるジェイソン本人が近くにいること、この二つだ。
(ジェイソン以外っていうのは、希望的観測すぎるか・・)


「っ!全員、戦闘態勢に移れ!」


あまりの唐突な出来事に、アイさんは困惑しながらも全員の士気を下げることなく、全体に指示を出す。ボスのいる空間までは距離があるはずだが、あきらかにチェーンソーの音が聞こえてくる。アイさんたちレジスタンスの隊員100人を死に追いやった張本人のものなのか。この時点では判別はつかない。しかし、アイさんの作戦説明によれば、チェーンソーをもっているエネミーは一体しか確認されなかったという。それがボスエネミーであるジェイソンだ。

となると、このチェーンソーの音は、ジェイソン本人が近くにいるという可能性にほかならない。


「警戒を怠るな!どこから飛び出してくるか分からないぞ!」


アイサンの説明だと、ジェイソンは森を味方につけているために、根っこに攻撃されることはない。加えて、根っこの蠢きが、ジェイソンの大柄な足音をかき消す材料になっているのだという。

(どこだ!どこにいるんだ)

ジェイソンの体長はだいたい4m。武器は鉈とチェーンソー。しかし、一番やっかいなのはその体や、武器ではない。一番のやっかいなことは、不死の体であることだ。

ジェイソンは先のレジスタンスの攻略の際に、アイさんが脳天に向かって放った斬撃をもろに受けており、脳を一部損傷している。

前回攻略の際にはしっかりと言葉を話していたらしいが、アイさんに脳天を貫かれてから、凶暴性を増したらしい。推測だと、脳天を貫かれたことによる言語能力障害や、理性障害を引き起こしている可能性が高く、より一層凶暴化・錯乱化しているという。

(脳を貫かれても死なない体で、そしてなお強くなるって、バケモンだ)

レジスタンスの隊員全体で、四方八方、上を確認する。チェーンソーの音は段々大きくなっていくが、いまだジェイソンは姿を現さない。
と、レジスタンス全体で不安感があるとき、


「まーしった、dayo💛」


ジェイソンが真下からまるで巨大モグラのように出現し、その場にいた10人ほどの隊員を空中に吹き飛ばしながら、出現した。


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