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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
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*55*

 10月から本編更新予定でしたが、プロットを書いてたらまたまた書きたい欲が抑えきれなくなってしまいました(確か第2章開始時も同じこと言ったような気がする)。
 ということで、ちょっと早いですが始めちゃいます。よろしく!

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 〈コマリside〉
 
 ゴールデンウイークが終わった。
 溜まっていた宿題も(トキ兄の手助けのおかげで)無事終わった。

 私は今、ともえ中学校2年3組の扉の前に立っている。廊下側の窓から流れ込んだそよ風が髪を揺らす。数日間通っていなかっただけなのに、なぜかとても懐かしい気持ちになる。

 さてさて。それではさっそく。
「おっはよぉ!」
 ガラガラッと、扉を開け、大きな声であいさつをする。
 何事もあいさつが大事だからね。落ち込んでいる時も、返事だけは明るくしようって思っているんだ。

 何人かの生徒が、「おはよう」と返してくれる。その中には、幼稚園からの幼馴染である杏里(あんり)と大福(福野大吉だから大福ね)の姿もあった。

「おはよう月森さん。今日も元気だね~」
「委員長!」

 扉のすぐそばに立って、黒板けしを掃除していた鈴野(すずの)さんが、のんびり言う。
 肩まで伸びた長い黒髪。鼻先にちょこんと乗せた黒ぶち眼鏡。スカートの丈も、キッチリひざ下。
 彼女はこの教室で、実行委員を務めている。私と鈴野さんは同じ図書委員で、毎週水曜日に図書館で本の整理をしているんだ。

「あれ、委員長焼けた? 珍しい」
「そうなの。G県に住んでいる大学生の姉の家に行ったんだけど、そのあと海に連れ出されてね。そんながらじゃないんだけど……」

 お姉ちゃんのことを『姉』と呼ぶところが、まさに優等生って感じでカッコいい。

「良かったね。いいなあ、海。私ずっとアパートにいたよ。宿題が終わんなくて」
「言ってくれたら教えてあげたのに。LINEも一応繋がってるでしょう? 家も比較的近いし、良かったらまた一緒に勉強会をやりましょう」

 学年首位に教わる勉強かあ。実際彼女に教えてもらったクラスメートの子が、『短時間の勉強会だったけど、要点を抑えて解説してくれて、すっごくわかりやすかった。正直、塾の先生よりわかりやすかった』と絶賛してたっけ。これは期待できそう。

 うーんでも、トキ兄の説明もちょっと……いや、かなりわかりやすいんだよなあ。逆憑きの効果で点数は下がるものの、この前の中間テストの数学テストは56点取れたし。

「ありがとう。また考えとくね」
「うん。いつでも待ってるから」

 鈴野さんはフフッと上品に笑い、黒板のほうに向きなおった。
「まあ、とりあえず鞄をおろしてきたら? 星原さんと福野くん、ずっと待ってるよ」

 あ、そうだね。話は荷物を片付けてからだよね。

 教室に入り、自分の席に向かう。
 3組は先月席替えをし、出席番号順の並びからランダムな並びに変わったんだけど、どうやら休みの期間に配置が直されたようだ。一番左の列の最後尾だった私の席の位置は、中央列の前から二番目(つまり教卓から一番見える場所)になっていた。

「うっわ。またあそこかぁ……。これじゃ授業サボれないじゃん」

 仕方ない。次の席替えまで我慢しよう。
 私は机の横のフックにリュックの紐をひっかけ、椅子に腰かける。直後、このタイミングを見計らったかのように、教室の後ろにいた大福が駆け寄ってきた。彼の隣にいた杏里も、嬉しそうに席の近くへ来る。

「おっす月森」「コマちゃんおはよー」
「おはよう二人とも。って、なんでそんなにウキウキしてるの?」

 二人は頬を真っ赤に染め、どこかうずうずしている。大福の両手はさっきからブンブンブンブン揺れてるし、大人しい杏里も今日は声のトーンが高い。久しぶりに友達に会えた喜びで、というわけは無さそうだった。

「それがさ。どうやら今日、この組に転校生が来るって噂なんだよ。俺日直でさ。職員室に名簿持っていくとき、偶然聞いてしまって」
「えっ? 転校生? この時期に?」

 珍しい。そういうのって普通、始業式の日とか学期の初めと被せるんじゃないっけ。
 ゴールデンウイークはある意味、休み明けだけど……。ってことはあの連休中に引っ越してきたのかな。

「それ、男の子なの? 女の子なの?」と聞くと、
「さあ。詳しいことはわかんねえけど、仲間が増えるのは素直に嬉しいよな」
「そうだね」

 2年3組の生徒は、男子13人女子13人の計26人だ。他のクラスの人数は30人。隣のクラスの騒めきに比べると、こっちのクラスは静か。時間の進み具合も、周りと比べてゆっくりな気がする。
 
 どんな子が来るんだろう。お友達になれるかな。
 私はワクワクしながら、のんびり朝の会の開始時刻まで杏里たちと喋ったのでした。

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 キーンコーンカーンコーン。
 朝の会の開始を告げるチャイムが鳴り、担任の河合(かわい)先生が教室に入ってきた。
 河合先生は国語担当の若い女の先生で、学年でも人気が高い。

「皆さんおはようございます。朝の会始めるよー。鈴野さん、号令」
「はいっ」

 朝の会の司会進行を担当する委員長が、席から立ち上がる。

「きりーつ、礼。着席。お願いします」
「「「お願いしまーす」」」

 クラスのみんなは既に大福から転校生の話を聞いており、一様に浮かれている。着席したあとも、隣の席の子とコソコソ話をしたり、チラチラと廊下を確認したり。
 私は先生の目の前なので、やりたくてもできない。

「それでは今朝の業務連絡です。1限目はショートホームルームで、課題の提出と係決め。2限の国語の時間は、連休明けの小テストを行います。範囲は中間試験でやった『少年の日の思い出』。長文読解と漢字中心に出題するから、しっかり解くことー」

 その後もどんどん話が進み、ついにその時がやってきた。

「じゃ、皆にサプライズです。今日から3組の仲間になる、転校生の紹介です。入ってー」

 来たっ。来た来た来た来たっ。
 クラスメートの視線が、廊下側の扉へと集中する。

 扉がスルスルと横にスライドし、待ちに待った転校生が廊下から教室に入ってきた。

 生まれつきかな。ウルフカットに整えられた髪は淡い栗色をしている。学校指定のワイシャツの上に、黒いセーターを着ていて、黒いネクタイを締めている。下に履いているのはスカートではなく、スラックス。身長は150センチ前後で、かなり小柄。
 くっきりとした二重まぶたに、ぱっちりとした目元。女の子のようだ。

「女子でズボンなんだ。めっずらしい」
 横の席に座る遠山さんが呟く。

 確かに。性の多様化を受けて、ズボン・スカートの選択権を導入したともえ中学校だけど、女の子でズボンを履いている子は今までいなかったよね。
 
「じゃあ、自己紹介宜しくね」
「はい」と女の子が答える。高くてかわいらしい声だった。

 転校生ちゃんは先生から渡された白いチョークを右手に持ち、黒板に自分の名前を書き記す。書道の先生かと疑うような、丁寧で正確な筆運び。

 番 飛 鳥

「何て読むんだろ」と再び独り言を呟く遠山さん。
「バン? とぶ……」

 女の子は私たちのほうに向きなおると、ハキハキとした強い口調で名乗った。
「つがい、あすか、です。よろしくお願いします」
 
 へえ。あの漢字、『つがい』って読むんだ。初見じゃ絶対に読めないや。
 古風で素敵な名前、いいなあ。私の場合はお母さんが語感の良さだけで決めちゃったから。

「じゃあ、飛鳥さんの席はあそこね。月森さんの前」
「わかりました」
「月森さん、番さんに色々教えてあげてね」

「は、はい」
(へっ!?)

 反射的にうなずいちゃったけど、頭は軽いパニックを起こしていた。

 わ、私の前??
 あ、そうか。出席番号順だもんね。『つがい』と『つきもり』は同じタ行だし、『つがい』が前だ。

 飛鳥ちゃんはスタスタと私の前の席まで行くと、ストンと席に腰かけた。そして、首だけをくるりと後ろに回す。


「よ、よろしくね、飛鳥ちゃん」
 慌てて返事をする。
 何事もあいさつが大事だからね。落ち込んでいる時も、返事だけは明るく……。

「あなたが月森さん?」
 飛鳥ちゃんは値踏みするような目で私を見ると、フフッと妖艶に笑った。

「これからは嫌なこと、起こらないといいね。よろしく」

 ………? 嫌なことって何だろう。
 私、逆憑きのこと誰かに話したっけ………?



 

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