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*30*
更新遅くなってごめんなさい。
最近調子が悪くて、思うように筆が進みませんでした。
大変お待たせして申し訳ありません。
続きです!
――――――――――――――――――――――――
〈こいとside〉
「協力してもらえるとは思っていませんでした」
わたしはポツリと言った。
ベッドの上で正座をしていたけど、足が疲れて来た。
体制を整えようと、腰を少し浮かして両足を伸ばす。
「ふーん。なあ、そっち行ってもええ?」
荷物を整理し終わった宇月サンから返ってきたのは、なんとも曖昧な返事。
自分の評価が低くて落ちこんでいるんじゃない。
ただ単に、そこまで気にしていないようで、ニッコリ笑っている。
彼の口調につられて、ついついわたしも、「うん?」とから返事をしてしまった。
普通こういうときは、怒るか、黙るかするものじゃないっけ。
「よっしゃ。おりゃっ」
呆然とするわたしは気にも留めず、宇月サンはベッドに駆け寄る。
「え、あの、ちょっと!?」
そして、そのままダイブ!
布団の海に体を預けて、「わははははっ」と子供みたく無邪気な声を出した。
「あ~、ベッドって最高やなー。桃根ちゃんもそう思わん?」
「い、いやぁ。う、うち、アパートに住んでたので、布団の方が慣れてるって言うか」
良い歳した大人が、子供の前で飛び込みますかね?
ちょっとばかりの苛立ちと、自分もやってみようかなと燻る思考を抑える為に、わたしはわざと突き放した言葉遣いをとる。
「そうなん? この包容力には抗えんわぁ。あー、もう仕事したくなーい。だるーい」
「数分と絶ってないのに、この人もう堕落を極めてっ」
「ふっふっふ。これこそが寝具の力。これこそが寝具の沼やでぇ。きみもハマろー」
「寝具の沼……??」
彼は、どこか周りとは違うような……どこかかけ離れているような、大人びたオーラをまとっている。良くも悪くも冷静で落ち着いてる。だから物事を俯瞰できる。
しかし時々、ほんの稀だけど、こうやって子供っぽい一面をのぞかせることもあった。
コマリさんにも、いとこの美祢さんにも隠しがちな素の表情を、わたしにだけ見せてくれる。
なんだか自分が特別扱いされているみたいで、正直かなり嬉しい。
ただ。
(口には出さないけどね)
だって、わたしにとっての一番は、由比だもん。
側にいてほしい人は、隣で笑ってほしい相手は、昔からずっと変わらない。
由比若菜――大切なクラスメート。
宇月サンは、わたしの—―桃根こいとの『特別』ではない。
これはコマリさんも、美祢さんも同様。
どうしたって彼らは由比を超えられない。わたしにとっては友達でしかない。
それでも彼らの元を離れられないのは、協力を頼んでしまうのは、きっとわたしが弱いからだ。
ひとりぼっちが嫌で、寂しくて、たとえ打算でも人と群れたかった。
自分の涙を自分で守るだけの強さがなかったんだ。
「――羨ましかったんや」
不意に、宇月さんが言った。
いつの間にか彼は、寝転がりながら、ベッドの横の棚から取ったタブレットを操作している。
小さい音だけどBGⅯが鳴っていることから予測するに、多分ゲームかLINEかインスタ? かな。
「何の話?」
「さっき言うてたやろ。なんで協力してくれたのかって」
目線は画面に落としたまま、宇月さんは淡々と話を続けた。
「ボクな。昔っから人と関わるんが下手くそやったんや。今もやけど、誰かを頼ったり、逆に頼られたり、そういう経験をせんまま大人になって」
「……頼らなかったのは、なにか理由があって?」
「立派な理由ではないんやけど、まあな」
――誰かを頼るのは、自分が弱いって証明してるようで嫌いだったんや。
宇月さんが膝を抱え、スンと洟をすすった。
「助けてください、しんどいんですって、ホントは叫びたかった。やけど、自分が何もできひんって相手に話したら、自分でそう認めたことになるやんか。それがずっと嫌で、だから、言えなかった」
「………」
「馬鹿やって、自分でも思ってる。ありもしないプライドで己の首絞めて、なにが得するんって。でも、気づけばいっつもその繰り返しで。いっつも、前後になにか付け足しては、それで人を傷つけとった」
その言葉にハッとする。
一年前の、あの、屋上での出来事を思い出したんだ。
フェンスに手をかける友人の後ろ姿。私は聞いた。「なんで」と。「なんで、どうして」と。
あの子は―由比は、問いかけるわたしに「ごめんね」と言って、柵に足をかけて……。
最期の最期まで、なにがあったのかを教えてくれなかった。これは言葉に置き換えると、『墓まで持って行った』ってことだ。
由比も、同じ気持ちだったの?
弱い自分が、赦せなかったの?
「誰かを助けたいと必死になれる桃根ちゃんを見て、なんか、すごく情けなくなって。同時に、ボクでええんやって………やから」
宇月さんは、そっと、こちらへと手を伸ばす。
そして、肩の上に垂れていたわたしの髪を、指ですくった。
目と目が合った。
「……っ」
(なに? なになになになになになになに?)
驚きすぎて、身体が上手く動かない。動かなきゃ、何か言わなきゃ。頭ではしっかり考えているのに、カチコチに固まっちゃって一ミリも動かない。
頬がほてって、頭がくらくらする。目元に涙が溜まる。
「やっぱりツインテールの方が好きやわ」
宇月さんは、ふふっと笑った。
いつもの、陰のある笑顔じゃなくて、心の底からの純粋な笑顔だった。
「ありがとう。ボクを頼ってくれて。……栄えある一番目のフォロワーに、なってくれて」
※次回へ続く!