完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~ 20~ 30~ 40~ 50~ 60~ 70~

*30*

 更新遅くなってごめんなさい。
 最近調子が悪くて、思うように筆が進みませんでした。
 大変お待たせして申し訳ありません。
 続きです!

 ――――――――――――――――――――――――

 〈こいとside〉

「協力してもらえるとは思っていませんでした」
 わたしはポツリと言った。

 ベッドの上で正座をしていたけど、足が疲れて来た。
体制を整えようと、腰を少し浮かして両足を伸ばす。

「ふーん。なあ、そっち行ってもええ?」

 荷物を整理し終わった宇月サンから返ってきたのは、なんとも曖昧な返事。
 自分の評価が低くて落ちこんでいるんじゃない。
ただ単に、そこまで気にしていないようで、ニッコリ笑っている。

 彼の口調につられて、ついついわたしも、「うん?」とから返事をしてしまった。
 普通こういうときは、怒るか、黙るかするものじゃないっけ。

「よっしゃ。おりゃっ」
 呆然とするわたしは気にも留めず、宇月サンはベッドに駆け寄る。
「え、あの、ちょっと!?」

そして、そのままダイブ! 
 布団の海に体を預けて、「わははははっ」と子供みたく無邪気な声を出した。

「あ~、ベッドって最高やなー。桃根ちゃんもそう思わん?」
「い、いやぁ。う、うち、アパートに住んでたので、布団の方が慣れてるって言うか」

 良い歳した大人が、子供の前で飛び込みますかね?
 ちょっとばかりの苛立ちと、自分もやってみようかなと燻る思考を抑える為に、わたしはわざと突き放した言葉遣いをとる。

「そうなん? この包容力には抗えんわぁ。あー、もう仕事したくなーい。だるーい」
「数分と絶ってないのに、この人もう堕落を極めてっ」
「ふっふっふ。これこそが寝具の力。これこそが寝具の沼やでぇ。きみもハマろー」
「寝具の沼……??」

 彼は、どこか周りとは違うような……どこかかけ離れているような、大人びたオーラをまとっている。良くも悪くも冷静で落ち着いてる。だから物事を俯瞰できる。

 しかし時々、ほんの稀だけど、こうやって子供っぽい一面をのぞかせることもあった。
 コマリさんにも、いとこの美祢さんにも隠しがちな素の表情を、わたしにだけ見せてくれる。
 なんだか自分が特別扱いされているみたいで、正直かなり嬉しい。

 ただ。
(口には出さないけどね)

 だって、わたしにとっての一番は、由比だもん。
 側にいてほしい人は、隣で笑ってほしい相手は、昔からずっと変わらない。
 由比若菜――大切なクラスメート。

 宇月サンは、わたしの—―桃根こいとの『特別』ではない。
 これはコマリさんも、美祢さんも同様。
 どうしたって彼らは由比を超えられない。わたしにとっては友達でしかない。

 それでも彼らの元を離れられないのは、協力を頼んでしまうのは、きっとわたしが弱いからだ。
 ひとりぼっちが嫌で、寂しくて、たとえ打算でも人と群れたかった。
 自分の涙を自分で守るだけの強さがなかったんだ。

「――羨ましかったんや」
 不意に、宇月さんが言った。
 いつの間にか彼は、寝転がりながら、ベッドの横の棚から取ったタブレットを操作している。
 小さい音だけどBGⅯが鳴っていることから予測するに、多分ゲームかLINEかインスタ? かな。

「何の話?」
「さっき言うてたやろ。なんで協力してくれたのかって」

 目線は画面に落としたまま、宇月さんは淡々と話を続けた。

「ボクな。昔っから人と関わるんが下手くそやったんや。今もやけど、誰かを頼ったり、逆に頼られたり、そういう経験をせんまま大人になって」
「……頼らなかったのは、なにか理由があって?」
「立派な理由ではないんやけど、まあな」


 ――誰かを頼るのは、自分が弱いって証明してるようで嫌いだったんや。

 宇月さんが膝を抱え、スンと洟をすすった。
「助けてください、しんどいんですって、ホントは叫びたかった。やけど、自分が何もできひんって相手に話したら、自分でそう認めたことになるやんか。それがずっと嫌で、だから、言えなかった」

「………」

「馬鹿やって、自分でも思ってる。ありもしないプライドで己の首絞めて、なにが得するんって。でも、気づけばいっつもその繰り返しで。いっつも、前後になにか付け足しては、それで人を傷つけとった」

 
 その言葉にハッとする。
 一年前の、あの、屋上での出来事を思い出したんだ。
 
 フェンスに手をかける友人の後ろ姿。私は聞いた。「なんで」と。「なんで、どうして」と。
 あの子は―由比は、問いかけるわたしに「ごめんね」と言って、柵に足をかけて……。
 最期の最期まで、なにがあったのかを教えてくれなかった。これは言葉に置き換えると、『墓まで持って行った』ってことだ。

 由比も、同じ気持ちだったの?
 弱い自分が、赦せなかったの?

「誰かを助けたいと必死になれる桃根ちゃんを見て、なんか、すごく情けなくなって。同時に、ボクでええんやって………やから」

 宇月さんは、そっと、こちらへと手を伸ばす。
 そして、肩の上に垂れていたわたしの髪を、指ですくった。
 
 目と目が合った。

「……っ」
(なに? なになになになになになになに?)

 驚きすぎて、身体が上手く動かない。動かなきゃ、何か言わなきゃ。頭ではしっかり考えているのに、カチコチに固まっちゃって一ミリも動かない。
 頬がほてって、頭がくらくらする。目元に涙が溜まる。

「やっぱりツインテールの方が好きやわ」
 宇月さんは、ふふっと笑った。
 いつもの、陰のある笑顔じゃなくて、心の底からの純粋な笑顔だった。

「ありがとう。ボクを頼ってくれて。……栄えある一番目のフォロワーに、なってくれて」



 ※次回へ続く!

29 < 30 > 31