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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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*31*

 公式カップリングは、
 ・トキマリ(美祢×コマリ)
 ・月恋(宇月×こいと)
 ・ゆいこい(由比×こいと)です!
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〈コマリside〉
『夜の七時に、白雲公園前に来てほしい。大事な話がある』
 トキ兄の言葉に、私は目を見開いた。

 公園に行くことが不安なのではない。夕方、お菓子を買いにコンビニへ出かけたこともあるので、夜遅くに出歩くことには慣れている。
 私が不安なのは、その後の『大事な話』 の部分だ。
大事な話とは、一体なんだろう。

 トキ兄は数えきれない恩がある。彼がいなければ、平穏な日常を送ることはできなかっただろう。
 12年間取り続けた赤点のテストも、心霊現象も、降水確率100%の誕生日も、全て『嫌なこと』として頭の引き出しにしまわれただろう。

自分のせいで皆が泣いちゃうんだ。なんでこうなるのって、自分を責め続けていたかも。
実際、やるせなくて寝付けない夜も、食事が喉を通らない夜も何十回も経験したよ。

 でも、トキ兄と一緒に暮らすようになって。
 いつだって横で彼が横で微笑んでくれたから、喜びや悲しみを共に感じてくれたから、私は明るく毎日を過ごせたんだよね。

 逆憑きって体質も、自分の個性だって思うようになった。自分を愛せるようになったんだ。

  でも、悪い想像もたまにする。時々見る悪夢がある。
  トキ兄とこいとちゃんが、「つきあってられない」と私に言い出す夢。遠ざかる二人の背中に、泣きながら「待って」と叫ぶ夢。暗くてじめじめした路地の裏で泣きじゃくる私をあざ笑うかのように、皆が明るい陽だまりへと走って行く夢。

 前に宇月さんが言っていたセリフを、頭の中で反芻する。
『自分のことも守れんような奴には、誰かを守る資格はない』

 これの対義語があるならば、文章はきっとこうだ。
『相手に手を差しの述べられない人間は、いつまでたっても守られる側だ』

 トキ兄は私に勉強を教えてくれる。ボディーガードとして、常に私のことを気にかけてくれる。それだけではなく、掃除・料理・洗濯まですべてやってくれる。
 逆に私は何をしたんだろうか? 彼にありがとうと、しっかり言っただろうか。彼が喜ぶことを考え、実行に移していただろうか。

 ■□■


 夜の七時。私は白雲公園のベンチに座って、トキ兄を待っていた。
 白雲公園は、アパートから歩いて五分の距離にある市立公園で、ブランコとシーソー、あとは簡素なジャングルジムがある。
 昼間は小さい子がお母さんと遊びに来ているけど、夜中なのもあって、私以外に人の姿はない。

「はぁ……。別にいいって伝えたのに」
 私は丁寧にセットされた髪を、指でそっと触る。

 呼び出されたことを親友に話したのが間違いだった。親友の杏里は、たちまち「告白だよ!」と目をキラキラさせて……なんと、私のボブカットの両サイドの髪を編みこみ、桃色のリボンまでつけちゃったのだ。

 『コマちゃん、頑張って!』とグッドサインをする友達に、「ヤメテ」とは言い出せず。結局そのまま公園に来てしまった。
似合ってないなあと苦笑いしたその時。

「コマリ!」
 至近距離から馴染みのある低い声が聞こえて、私はバッと顔を上げた。いつの間にか、目の前にトキ兄の顔がある。

 足音も立てず忍び寄るなんてさては忍者!? と一瞬馬鹿な考えがよぎる。
 実際は、私がボーッとしていただけなんだけどね。

 トキ兄は両手をすり合わせる。
「寒いな。お前そんな薄着で大丈夫なのか? 最近寒暖差激しいから風邪引く……」

 そのあとは聞き取れない。
視線を地面から私へと移した直後のことだった。一瞬で、彼の顔がリンゴのように赤く染まる。滅多にないトキ兄の動揺を見て、私も口からも「はぇ?」と変な声が出た。

「そ、……っ。それ、じ、自分でやった、のか」
「ああこれ? 友だちが勝手にやっちゃったんだ。あはは、似合ってない、よね」

 フリフリのレース付きのワンピースを含め、ガーリーな色合いの洋服が私は苦手。
『今流行ってるんですよ~』とおススメされても、着ようとは思わない。自分には似合わない気がして、手を出せない。自分のイメージが崩れちゃいそうで怖かったんだ。

「わ、わたし、そ、素材って言うのかな? ブスだし平凡な顔立ちだし、今更着飾ったところでマイナスがプラスになるわけないって、伝えたんだけどさ」
 あああああ、沈黙に耐えかねた口が勝手に……!

 トキ兄は一瞬ピタッとフリーズ。そのあとの数分間、口元を金魚のようにパクパクさせては閉じを繰り返す。言いたいことがあるけど言葉が見つからない……でも伝えたい。意を決し、彼は私に向き直り……。

「………かわいい」
 蚊の鳴くようなか細い声を、必死に喉から絞り出した。
「………え?」

 え、ええぇぇぇぇぇぇぇ? あ、あの時常美祢が、「かわいい」って言った⁉ 嘘⁉
 ひっひひ、人違いだったり……? 

 失礼と思いつつも横目でチラリと相手の風貌を確認する。
 黒いコートの下に、毎度おなじみゲーマー風パーカー。耳には銀色のピアス、極めつけはピンク色の髪。

 私の同居人兼ボディーガードの男の子は、私の右腕をグイッと掴む。そして、曇りのない双眸を真っ直ぐこちらに向ける。

「充分、かわいいけど、今もすっげえ、かわいい」

 ※次回に続く!

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