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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
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学校、趣味、習い事、将来
 悩み事が多すぎる!
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 〈美祢side〉

 『大事な話がある』。コマリに連絡した後、俺は思った。
 ひょっとすると、言葉の選択を間違えたのではないか、と。

 誕生日プレゼントを渡したい。
 そう説明するのが恥ずかしくて、わざと回りくどい表現をしてしまったけど……。
 『渡すものがある』でも充分伝わったはずだ。

(ぬおぉぉぉぉぉぉぉお、違う、違うんだ! 待ってくれ、違う!)

 残念ながら、発した言葉は取り消せないもので。
 補足しようと「あ、あの」と口を開いたときには、もう通話は終了してしまっていた。

「あぁぁぁぁ…」
 俺は部屋のクッションにボフンと顔をうずめる。
 ふつうに誕生日を祝いたいだけなのに、自分でハードルを上げてどうするんだ。
 ただでさえ少ない俺の対女子ライフが、どんどん減っていく……。

 ちゃぶ台の上に置いている白い紙袋を確認する。この前、デパートで買った商品だ。
 箱の中には、手のひらサイズの正方形の黒い箱が入っており、ピンクのリボンでラッピングされている。

「渡すだけ。渡すだけ。落ち着け俺。落ち着け」
 
 人生初、誕プレ。人生初、女子への贈り物。
 あれを見たら、コマリはどういう反応をするかな。「似合わないよ」って怒るかもな。
 笑ってくれるといいなあ。

 月森コマリはすごいやつだ。
 相手のことなんか興味がなかった少年を、ここまで変えることができるんだから。
 
 
 ■□■

 そして現在、俺は白雲公園で、ベンチに座っているコマリの手を取っている。

 ボブカットの両サイドはゆるく編み込んであり、結ばれたリボンが風に揺れる。ヘアアイロンを使ったのか、いつもボサボサの髪が今日はストレートになっている。服装は相変わらず無地のパーカーだが、それすらも新鮮味がある。
 
 きれい。かわいい。似合ってる。
 頭の中に浮かんだのは、自分にとってなじみのない単語。でも、そう思わずにはいられない。
 胸が苦しい。まるで、心臓を手でグーッとつかまれているみたいだ。なのになぜか、嫌じゃない。むしろそれが心地いい。

「ぎゃああああああああ!!」
 我慢できず、コマリが悲鳴を上げ、両手で俺のからだをドンッと突き飛ばした。

「おわっ」
 体勢を崩され、俺はふらつく。
 もう少し姿勢が傾いたら、ベンチ横の蛍光灯の柱に頭からぶつかるところだった。あぶねえ!

「おいコマリ、なにすんだよ」
「わ、わかんない、わかんない……」

 コマリはふるふると首を振る。

「なにがわかんねえんだよ」
「だ、だって今日のトキ兄、変なんだもん。めっちゃ素直なんだもん! わかんないよ! か、かわいいとか、滅多に言わないじゃん。そんなん反則……」
 コマリは涙目になりながら、こちらをにらんだ。鼻の頭も、頬も耳も赤く染まっている。
 
「ずるいよ。トキ兄」

 滅多に言わない、か。確かにそうだな。言ってないもん。
 心の中では、ずっと思っているんだけどな。意外とかわいいじゃん、って。

 おまえと同じだよコマリ。おまえが女の子っぽい服を着ることを躊躇するように、俺も「かわいい」と相手に伝えることに躊躇してしまうんだ。
 引かれることが怖い。笑われることが怖い。今のように、疑われることが怖い。
 だから、自分には似合わないのだと結論をつけてしまって。

 これが『ずるい』ということになるのなら、それで構わない。
 実際俺は十六年間、ずるく生きてきた人間だ。程よくバカやって、程よく真面目ぶって、その場その場で部分点を取ってきた人間だ。

 でもさっきのあのセリフは、自分に点数をつけてほしくて言ったのではない。
 単純に、俺はコマリに言いたかったんだ。
 自分をそんなふうに卑下するなよ。俺はおまえのいいところ、ちゃんと知ってるぞって。
 
 今日は、素直に想いを伝えるって決めたんだ。

「コマリ。追い打ちかけるようで悪い。これ、受け取ってくれ」
 俺はパーカーのポケットに忍ばせていた小箱を取り出し、コマリへ差し出した。

「誕生日おめでとう。似合うと思って」
「えっ……。え、え!? 嘘!」
 コマリが箱を受け取る。

「あ、ありがと。開けていい?」
「うん」

 結局、文房具の案も服の案も没になってしまった。
 というのも、俺はあのデパートでの再会のあと、星原にこうアドバイスされたのだ。

 ――最近はペアルックが流行っているみたいだよ。一緒につけれるものとか、どう?

 黒い箱には、プラスチック製へアピンが二つ入っていた。
 一個は、お化けモチーフのヘアピン。もう一つは、時計モチーフのヘアピンだ。

「わぁぁ! かわいいっ」
「お化けの方をお前にやるよ。時計の方は俺がつける。コンビ感出ていいだろ」
「うん! つけてみるね。トキ兄も、はい」

 コマリは箱に敷いてあるスポンジからピンを抜き取り、前髪につける。蛍光灯の明かりで、表面がキラリと輝いた。
 俺も時計型のヘアピンで髪をはさんでみる。前髪が邪魔だったし、これはこれでいいかも。

「ありがとうトキ兄。大切にするね」
 コマリが照れ臭そうに微笑む。その控えめな笑顔に、トクンと胸が高鳴る。

 ああ、良かった。ちゃんと、受け止めてくれた。
 俺も、ふふっと口の端を上げる。
 そして今日の締めくくりである大切なセリフを、彼女に伝える。

「お誕生日おめでとう。これからもずっと一緒にいてください」




 ※第8話完→第9話に続く!


 


 
 

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