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憑きもん!~こんな日常疲れます~【更新停止】
作者: むう  (総ページ数: 78ページ)
関連タグ: コメディ ラブコメ 妖怪幽霊 学園 未完結作品 現代ファンタジー 
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*75*

 〈コマリside〉

 「なんてことがあったんだよね」

その日の夜。家に帰った私は夕ご飯のチャーハンを頬張りながら、今日のことをトキ兄に相談した。
トキ兄は私のボディーガード。よって、私は彼に少しでも違和感を感じる出来事があれば遠慮なく話すよう言われている。こいとちゃんの件もあり、私たちは前以上に会話をするようになっていた。


「ふーん。つまりその、飛鳥ってやつが怪しいってこと? うわ、なにこの豆腐!? なんで三角形なんだよ」
「半分に切れって言われたから」
「斜めに切ろうとするやつ始めて見た。うわ、ネギも繋がってるし!こっちの大根は短冊みたいだし。お前なあ……」

 
 トキ兄はお盆の上に置かれた味噌汁を飲む。ちなみにこの味噌汁に入っている具は私が切ったものだ。おかげで無残な形になったけれど、結局食べるんだから問題ない。問題ない、はず。


「そういえば、俺が今バイトしてるAⅭEって事務所に、飛燕っていうやつがいるんだけど。番って苗字だったよ」
「え、そうなの?」
「確か双子の妹居るって言ってたっけ。待って。どっかに書類が」

 トキ兄は茶碗をお盆の上に置くと、部屋の後ろの方へかけて行く。部屋が狭いので、棚に入らなかったモノが奥に散乱している。彼はそこをゴソゴソ漁り、一冊の冊子を取って戻ってきた。

 灰色の表紙で、タイトルには『AⅭE メンバー表』とある。
 トキ兄はメンバー表をペラペラとめくり、一番最後のページを開いて私に差し出した。

 社員さんの顔写真が紙面いっぱいに印刷されている。例えるなら、卒業アルバムみたいな。

「ほら、ここ。番飛燕(つがいひえん)」
「あ、ほんとだ。漢字も一緒」

 トキ兄の知り合いだと言う飛燕くんは、活気の良さそうな顔をしていた。童顔で肌が白い。水色の髪の先っぽは寝癖で外側に跳ねている。

「宇月の後輩らしくてさ。アイツと一緒に話しているのをよく見かけるよ。バイトに行った時も『こんにちは!』って大きな声で返してくれてさ。なんか、犬みたいだよな」

「ふうん。飛鳥ちゃん、双子のお兄ちゃんいるって転校初日に言ってたし……。飛燕くんの妹なのかな? 」

 あ。AⅭEっていうのは、霊能力者の育成施設らしい。政府非公認の組織で、一般人にその情報は公表されていない。AⅭEの事務所には結界が張られており、関係者以外の侵入を防いでいる。

 トキ兄は宇月さんの紹介で、AⅭEのお手伝いに行くことになったらしくてね。週三回、いとこさんと電車に乗ってバイトに行くんだ。

 バイト内容は部屋の掃除や書類整理、結界の調整とかだったかな? 結界の調整って、どうするんだろう。聞きたいけれど、企業秘密で詳しいことは教えてくれないんだ。

「飛燕と一応LINE繋がってるけど、聞く?」
「でもなんて答えればいいの? 下手なこと言ったら私まで怪しまれちゃうよ」
「妹さんがお世話になってます、でいいんじゃね? そこから徐々に質問して情報を引き出していこう。怪しくなかったらそれでいいし」
「そ、それでいいのかなあ……」

 トキ兄は自分のズボンのポケットからスマホを取り出し、私を見る。スマホケースも蛍光色のピンク。触れていいのかダメなのか、未だに分からない。ピンク好きなの?って、言っていいのかしら。

 トキ兄の指が、通話ボタンに当たる。プルルルル……プルルルル……とコール音が三回なった後、電話の奥でブブッとノイズ音がした。

『はい。番です』
「あ、飛燕くん? 俺、美祢だけど」

『お――――――ーっ、時常センパイ! どうしました?』
「お前、何してた?」
『俺すか? 任務終わりで、今事務所のシャワー室出たところです!』

「……そうなのか。悪いな、いきなりかけて」
『いえいえ!もうドライヤーも使いましたんで!』

 飛燕くんの声は、私にも聞こえるほど大きかった。声量が大きいのと、良く声が通るのと、口調が明るくハキハキしているのとで、とても聞きやすい。

「ちょっと話がしたくて」
『? あ、シフト合わなかったですか?』

「いや、シフトはいいんだけど。知り合いがお前と話したいって言ってて。なんでも、お前の妹と同じクラスらしいんだよ。それで、世話になってるって挨拶したいらしくて」

『あ、そうなんスねすいません! わざわざ!』
「OK。じゃあ、変わるわ」

 トキ兄はスマホを耳から離すと、私に差し出し軽くうなずいた。
(よ、よし。行くぞ)と、ゴクリとつばを飲み込む。
 怪しまれないように、自然に会話をするんだ。頑張れ私!

「あ、あの、こんにちは。わ、私、月森コマリと言います……。あ、あの、妹さん……飛鳥ちゃんに、お世話になってます」

『―――――』

「あ、あの? き、聞こえてますか……??」

 ―――――――――

 次回に続く。



 

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