完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

沙界集/砂漠の彼女
作者: ryuka ◆wtjNtxaTX2  (総ページ数: 12ページ)
関連タグ: ryuka 沙界集 砂漠の彼女 コメディ シリアス ダーク ファジー 短編 短編集 沙界集/砂漠の彼女 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~

*11*


 「砂漠の彼女」



 いつからだろう。
 僕は、気がつけば、途方も無い砂漠に一人立っていた。


 仰げばただただ青い空が、雲ひとつ無い空間が、広々とどこまでも僕を覆っている。

 眼前に広がる砂丘のなだらかな曲線が、遠くへ遠くへと、どこまでも広だっていた。

 
 暑い。
 なんて暑いのだろう。


 うだるような熱射は、容赦なくかんかんと照りつけて、砂漠の砂を熱くする。さっきまで全身からとめどなく流れていた汗は、すっかり簸やがってしまったのか、今はもう出ない。脱水した自分の体が、ひどく気だるくて、僕は柔らかな砂の上へと望むように倒れた。


 ばふん、
 細やかな砂が、辺りにもうもうと立ち込め、思わずむせ返った。
 咳をしたせいかな、乾いた喉がひび割れて、口の中に血のにおいが広がった。肌色の砂の上に、僕の血潮が、まるで赤い花のように飛び散った。


 ふと、目線をあげると、砂漠の丘からは、陽炎がふらふらと立っていた。景色がゆがんで、どこか異世界じみている。


 「あーあ、」
 知らず、ため息が出る。


 再度、空を仰ぐと、やっぱり青かった。
 どこまでも、どこまでも、見果てぬ青色。どうやらとっくの昔に可笑しくなってしまったらしい僕の目には、その青空から雪が降っているように見えた。


 真っ白な雪だ。
 砂漠に雪など降るわけが無いのに。


 けれど純白の雪は、僕の渇きを癒していく。
 砂漠の肌色に、やんわりとした優しい白色が、ベールをかけていく。

 その白さに、僕の罪もすべて、癒されてゆくようだった。



 それはまるで沙界。
 いつか僕も、ここで死ぬのだろうと分かっていた。



 さぁ、こんなセカイに目を閉じて。
 雪の降る、暑い死の砂漠を最後に感じ取って。



 大好きな君に、また、逢いにゆこう。


 

                     (おわり)

10 < 11 > 12