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*5*
八月。
肌寒くなり、木々の葉も色付いてきた中、僕と彼女の曖昧な関係は、未だ続いていた。
友達と言うには、越えられない一線が決定的過ぎる。しかし、それでいて、親しくないと言えば嘘になる。そんな曖昧で、心地良いそれは、僕にとってはボーナスステージの様な物で。彼女にとってはきっと、後から見返してみれば、子供らしい寄り道の様な物になるのだろう。
そんな事を考えながら、僕は空を――正確には、空と僕の間にある、彼女の顔を見つめていた。
膝枕という状態だけれど、小学生にされても特に嬉しくはなかった。
「うれしい?」
「うん。ありがとう」
明らかに、彼女と付き合い始めてから、僕の嘘を吐く頻度が高くなっている気がする。それもそうだ。それまでは、嘘を吐く必要なんか無かった。
「……幸せな事かも、しれないね」
「なにがー?」
「なんでもないよ」
「そっか」
会話が途切れ、静寂が生まれる。その中で、彼女が前に言っていた言葉を思い出した。
『お兄さんと話すの、考えなくて良いから好き』
なんて返したかは覚えていない。けれど、自分が思ったより、嬉しかったのかもしれない。普段と同じ何気ない会話の内容だけど、ずっと覚えているのだから。
「お兄さんは、ゆめってある?」
「夢? ……無いかな」
無いというか、無くした。
「そっかぁ……」
しょんぼり、とした表情になる彼女。そんなに重要な質問だったのだろうか。それなら、僕なんかではなく、もっと他の人に訊くべきだったと思うのだけれど。
「宿題で、夢書かなきゃいけないの」
「なるほど」
「……ゆめとか、分かんない」
「なるほど」
それで、さっきの質問になるのか。
「……適当にやっちゃえば?」
本当は、こんな事言っちゃ駄目なんだろうけれど。
「そうだね。お兄さんのおよめさんとか」
「それはない」
少しむっとした表情になる彼女。そんな顔しても、不可能な事は不可能だから。
再び空を見上げると、彼女の後ろに真っ白な三日月が見えた。