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*6*
九月。
木の葉はどんどん落ちていき、押すようだった寒さが、段々と刺すように変わってきた頃。彼女は僕の隣に座り、少し俯いて、零す様に言った。
「来月お別れなの」
「……そっか」
いきなりの知らせだったが、驚きはしなかった。しかし、不思議と少し、悲しかった。
「来月の、いつ?」
「……二十日」
俯いていても、彼女は悲しそうには思えなかった。表情はいつものそのままだし、声だって普段のように、乾いた鈴のようだ。ただ、普段より、紙一枚分程の距離で遠い気がした。
しかし、そうか。
あと、一ヶ月も無いのか。
それなら、そろそろ清算する時なのか。
「……ねぇ」
僕の呼びかけに、彼女は少し肩を強張らせる。
子供は、雰囲気を読みやすいと、以前誰かに聞いた気がする。僕の雰囲気も、読み取ったのかもしれない。
「なぁに?」
僕の方を見ずに、彼女は返事をする。
「いなくなる前に、一つ頼みがあるんだけど」
「……なぁに?」
自然と、無意識に、緊張で強張る。
だって、これを言うという事は、認めなければいけないから。
「……もう、寝かせて、くれるかな」
僕が、もう死んでいて、今の僕は、彼女の作った、無邪気な白昼夢だという事を。
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