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ナイトメア・サバイバル
作者: Kuruha ◆qDCEemq7BQ  (総ページ数: 34ページ)
関連タグ:  学園 殺人 
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10~ 20~ 30~

*9*

Episode8 『屋上 -RooftoP-』
 9月12日(水)10:59/我妻 叶葉


 ドタドタと、階段を駆け上がる音がして私はさらに身を潜めた。足音は二つ聞こえていた。二人も相手取るのは私としても不本意じゃない。

 せめて、誰と誰なのかだけでも確認しようと、二人が通り過ぎてくれたあたりで普通に歩いていたんじゃ気がつかないような死角になっている空間から出てみる。他にあたりに人気はない。

 階段の踊り場でちょうどUターンしてさらに上ろうとしていく男子二人の顔が見えた。

 あれは、秋笠くん?

 秋笠くんが必死の形相で駆け上がっていくのを、同学年であろう見かけたことがある程度の男子が追いかけている、というような状況だった。

 この上は屋上だ。つまり、秋笠くんは追い詰められてしまっているということだ。

 彼はナイフを持っていたけど、秋笠くんは見た感じ手ブラだった。

 反抗できる手段もなく、閉鎖された状況。可哀相に、秋笠くんは国吉くんの遺言もむなしく殺されるのだろう。

 さて、私はどうしましょうか。このままここで別のターゲットが来るまで待つ? それとも、秋笠くんを殺した彼を国吉くんのときのように殺してあげる?

 暇つぶしもかねて、私は後者を選択した。静かに、気付かれないように階段を昇っていく。屋上への扉から、こっそりと様子を伺っていると、思いもよらない光景が網膜に映し出された。

 秋笠くんはフェンスギリギリまで追い詰められていて、今にもナイフを振り下ろされようとしていたのだけど、それは一発の銃声に遮られた。

 カシャァンッ、と音を立ててナイフが地面に落ちると同時に、そのナイフの持ち主も重力によって地面に倒れこんだ。だくだくと、赤い血が彼を中心に小さな海を作り始めた。

 秋笠くんはフェンスに叩きつけられてから座り込んだけど、すぐに立ち上がり、呆然をまわりを見回していた。そして、視線は自らが持つ右手の銃へ。

 ……そういえば、さっきまで秋笠くんは何も武器の類は持っていなかった。つまり、殺す意思はなかったということだ。それなのに、あのたった数秒で殺意を抱き、銃を撃ったというのか。

 しかし、その銃はさぁっと砂のような粒子に変わって風に流れていった。

 あれは武器は殺意に反応して現れるのだ。ということは、もう秋笠くんに殺す意思はないということか。

 私はその後しばらく、秋笠くんの様子を伺っていた。



 9月12日(水)11:17/秋笠 藍


 すでに屋上にやつの死体はなく、血も黒く変色し始めていた。

 そんな空間に取り残されたのは、俺だけじゃなかったみたいだ。

 ぱちぱちぱち……と、突如響く拍手の音が聞こえてきたのだ。予知せぬ出来事に俺は驚いてしまう。

 鳴らした本人である人物は扉の影から屋上に入ってきた。――それは、クラス委員長でもある我妻だった。あの綺麗な黒い長髪は我妻であることの証明だ。

 その我妻の右手には重たげな日本刀が握られていた。それを軽々と持ち上げた我妻は、視線と刀の切っ先を俺に向けた。

「我妻……? やめてくれよ……」

 そういうと我妻は刀を下ろし、両手で持ち直すと再び視線だけを俺に向けてきた。

「っ、はぁあああっ!!」

 そう気合を入れるような声を上げた我妻は、一目散に俺の方に走ってきた。

 殺す気か、俺を!

 そう身構えたとき、再びさっきと同じ自分への問いが聞こえてくる錯覚に陥った。

 ――どうする? このまま死ぬか?

 さっきと同じく、ノーだ。

 ――殺してでも?

 ああ、俺は死にたくない。

 そう答えると、俺は無意識的にいつの間にか握っていた、消えたはずの拳銃で我妻を攻撃していた。

「くっ!」

 それを、ぎりぎりのところで我妻はかわした。止まらずに向かってくる我妻に向けて、もう一発弾丸を放つ。それすらもよけようとしたが、その弾は我妻の左腕をかすめていった。

 日本刀を落とし、左腕を押さえる我妻。破けた制服には血が滲みはじめていた。

 俺はそんな我妻にとどめをさすべく、銃を構えた。この引き金を引けば、我妻は死ぬ――

「待って! 私に貴方を殺す気はないわ!」

 その叫びにもにた声が聞こえたとき、やっと俺は自我を取り戻した。さぁっと、また銃は風に消えていった。

「……! 我妻、大丈夫かっ!?」

 苦しそうな表情で、しゃがみこんで止血を試みている我妻に駆け寄った。……自分がやったことだというのに。

「ええ、かすっただけだしね。……っ。……保健室、連れてってくれないかしら?」

「あ、ああ……」

 止血の方法なんて保健で習ったものの、すっかり忘れている。そんな俺には、それしか出来そうもなかった。
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