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*2*
走っている途中、お店のショーウィンドウに映った自分の姿に驚愕した。私じゃない。
驚いた顔。オレンジのつんつん頭。細い腰、細い腕。パープルのノースリーブシャツに、白のハーフパンツにだらしなく垂れ下がっている紺のベルト。
桜庭……ネク。
THE 1ST DAY
「はあ……、はあ……!」
息が、息がつらい。ゲームに参加してても運動能力は現実と同じ、ってことみたい。途中で敵に見つかって追いかけられて散々だった。急いで誰かと契約しないと、このままじゃまずい。
とにかくハチ公前だ。この場所は死ぬまで主人の帰りを待ち続けた忠犬ハチ公にちなんで、待ち合わせ場所として使われることが多い。だからここにいる人は大抵腕時計をちらちら見るか、携帯の画面を眺め続けている。
「誰か! 誰かいませんか!?」
反応はない。私に誰も見向きもしてくれないのは、ここが東京だからっていう訳じゃない。
もう追っ手がやってきた。誰か、誰か参加者はいないのか。
……ん? なんか、やけに騒がしい気がする。
参加者らしき男がノイズに囲まれている。かわいそうに。でも、もしかしたら私があそこにいたかもしれないんだ。次にああなるのは自分かもしれない。早く、誰かとパートナー契約しないと。
男の携帯が鳴る。
「これがミッションか……さて俺様にパートナーが必要かどうか」
そんな声が聞こえたと同時に、一瞬でまさかの一人でノイズ撃破。素手で殴り倒していった。
あらたなるノイズがよってくるが、次々と破壊していく。
ノイズとは、死神のゲームにおいていわば「敵」の存在であり、参加者は一人では奴らに対抗できない、はず。
ノイズは人外の化け物であり、おそろしく気味が悪い生き物だ。地球の生物と酷似しているが、今あの謎の男のまわりを囲んでいるノイズは、犬のように大きいカエルが二足歩行していたりするのだ。牙があり、化け物だということをよく認識させられる。
ノイズとは他の参加者とパートナーの契約をして初めてノイズと対等に戦えあえる。とゲームの説明会で言われた。事実、契約できずに孤立していたさきほどの悲鳴をあげた女性も、ノイズという化け物に食べられたのだろう。ノイズはどこにでもおり、死神のゲームの障害になりうる存在である。
空からも声がする。何事かと見上げてみると、黒い羽の生えた三人の人間が、宙に浮かんで会話しているではないか。
あれが死神だ。ノイズには二種類おり、人の負の感情から芽生える野生のノイズと、死神によって生成されるペットノイズだ。やつらはペットノイズを使って参加者を消すのが仕事らしい。
なにやらなにか騒がしいようだ。死神三人がもめているようにも見える。
黒いフードを被った死神に挟まれて、金髪のチャラチャラした眼鏡男が棒付きの飴のようなものをなめている。その男は落ち着いているが、横の死神二人は慌てふためいている。
「な、なんだあの黒コートは!パートナー無しでノイズを撃退してるぞ!?」
「落ち着きなさいナ。取り乱すのは良くナいゾー?」
「っつったってありえねぇよ!あいつ、死神じゃないんだぞ!? どうなってるんだ!?」
「ああメンドクセ。相当サイキック強いナー」
「サイキックはパートナー無しじゃ使えないだろ」
「とりあえず本部に報告しまショ」
なんだかよくわからないけど……。あのカタコトで喋る飴玉をなめてる死神は、なんだか危険な香りがする。
首が疲れたので見上げるのをやめると、今自分がいつのまにかノイズに囲まれていることに気づいた。
ぜ、絶対絶命だ。終わった。 私は、消えるの?