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*3*
「ゼタおせぇんだよ! どんだけ待たせりゃ気が済むんだこのヘクトパスカルがっ!!」
――――は? な、なんだ?
声の主を探す間もなく、体の内から暖かい光が溢れてくる。そして力も。その光によってまわりにいたノイズは吹き飛ぶ。
誰かと契約した証だ。一体誰と!? まさか……。
さっきの怖い人キター!
ハチ公を足蹴にして、いかにも不良青年といった顔つきの男が私を見下ろしている。ハチ公の上に立つなんて、なんて失礼な奴なんだろう。黒いコート、黒いジーンズ、黒の帽子に黒いブーツ。帽子の下からストレートヘアーと赤いバンダナが少し出ている。そして痩せ気味だが筋肉質で肌は浅黒い。歳は二十歳そこそこだろうか。やっぱり顔つきだけじゃなくて風体も渋谷の路地裏で暗躍してそうなだ。
「やっぱ一人で戦うのはきつい。この俺様と契約できるたァ、おまえは円周率並みに偶数な奴だ……」
私を見下した態度で、男が口を開いて言った。円周率並みに偶数……? 何が言いたいんだ? というより、この怖い人が私のパートナーなの!?
「あ、あの、もしかして今私と契約したのって……」
「俺だ! 俺のアイコナール方程式に寄れば、間違いなく参加者はアクロナル集合するはずだったんだが、とんだ逆行列だったみてえだな!こんなラーモア周波数の低そうなヘクトパスカルしか来ねえなんてよ。 ……まあいい、おいてめえ、お前の命題と命題関数言ってみろ」
――――逆後列? アイコ……何? 命題関数って何? 他のは悪口みたいだし、気にしなくていいか。
とりあえず適当に答えとかなきゃ、何されるかわかったもんじゃないよ……。間違いなく危険だ。
「えっと……お」
音葉静香、と言いそうになってやめた。今、私はなぜだかわからないけど、親友の桜庭ネクっていう子の姿をしている。見慣れた姿が自分になっているというのは不思議な気分だけど、女から男に変わってみるっていうのも悪い気はしない。
「俺、桜庭ネクっていいます。13歳です。その、七日間、よろしくお願いします」
「俺は南師猩(ミナミモト ショウ)。歳は忘れた。さっさとこんなミッションにイコールをつけんぞ」
イコール……。つまりさっさとミッションをクリアするぞってことなのかな。よく考えれば、なんか理系の言葉ばっかり使ってるみたいだ。
「その前にあのノイズどもをクラッシュするとしようぜ」
南師はハチ公からジャンプして着地する。
やっぱり……近くで見ても怖い。
怖がる私に気がついたのか、つかつかと歩み寄ってきて、私の頭の上にぽんと手を乗せた。
「一夜一夜に一見頃、ってな」
南師は意味不明な言葉を発してふっと笑った。笑うとちょっとかっこいい。って何を考えてるんだ私は。
「ノイズと戦いましょう!」
「お前は黙って見てればいい」
そう言って南師は敵の群れに突っ込んでいった。
ば、馬鹿かあいつは!? と私が思ったのもつかの間、南師どす黒いオーラを纏ってノイズをたこ殴りにしていき、消し去っていった。
ノイズは一人のサイキックでは倒せないはずなのに、あの男はルールというか常識を知らないのか。
「おいこらヘクトパスカル! いつまでボサっとしてやがるんだ!」
「ひい! な、なんですか……?」
「まだミッション制限時間まで余裕がある。この世界がどうなってるのかまるでわからねえんだが、一体何が起きてるんだ?」
「いや、あの、普通に死神のゲームですけど……」
「だからそれはなんなんだよって聞いてんだよヘクトパスカルがぁ!」
「ひっ!」
「いちいちビビンじゃねえよ……。さっさと説明しやがれ」
「俺が知ってるのは、最初にあった説明会で説明されたことくらいしか……」
「説明会だと? ああ、そんなのがあったのか。他人の意見なんてゴミだ! クラッシュ! 俺がまとめてゴミ箱に捨ててやるぜ!」
つまりこの人は、説明会で説明を聞かずに、死神のゲームに参加したのだろうか。遊びのつもりでこのゲームに参加する人もいるんだな。と私は思った。命がけ、それだけじゃない、自分の存在した事実がかかってるのに。
「もちろん、何もしらねえ訳じゃねえさ。現にこうしてお前と契約した訳だからな」
「じゃあ、まず最初から話します」
「理解に苦しむ説明だったらクラッシュするからな」
「ひっ!」