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*9*
というわけで、駐輪場までの道のりをMyウォーク○ン(イヤホンつき)をバックから取り出しながら鼻歌交じりに歩いていると、奇妙なものを発見してしまう。
我が校のブレザーの制服を着た男子生徒が、ずぶ濡れと表現しても差し支えないような姿で、駐輪場の壁に寄りかかりぐったりとしている。
いや、これは断じてwatchではない。どちらかといえば目に入った、seeがこの状況では一番正しい。だから見て見ぬ振りも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不可能か。
そして、この男子生徒は見覚えが無いわけでもない。名前はなんだったか、確か。
「なにやってんだそんなとこで。風引くぞ。保健の先生、呼んでくるか?」
面倒なので先生を呼ぶつもりも無いクセに、俺は早くこの場から去りたいがために、心にも無い言葉を使って、若干上から目線でソイツに話しかける。
見下されている○○と、見下している側の俺。
見下されているソイツはこっちの表情を伺う様子もなく、ただただ冷淡に、かつ迅速正確に、言葉を発する。
「いい」
シンプルだ。とてもわかりやすい。でもって俺が待ち望んでいたシンプルイズベストな答え。絶賛に値する。
「そうか」
かといってそんなことはしないのだが。
だが、これで終わり。
もう俺がいじめらっれ子という最底辺に位置する奴等の面倒な相手をする必要は無い。
ハナから最底辺と最頂点には愕然とした格差がそこには存在するのだ。
人間は落ちないと上がれないのと同様に、人間は誰かを落とさないと上には上り詰められない。
だったら、この状況は致し方ない。
俺に感情が無いわけではない。可哀想と思わないわけではない。
同情することぐらい、俺にだって出来る。
だが、仮にその感情をあからさまに表に出して、引かれ、白眼視され、迫害を受け、自分が最底辺へと、○○が今現在いるところに落ちるのならば。
俺は一生、虐めの傍観者で構わない。
「だけど」
不意に、考え事をしていた俺の耳にソイツ改め○○のまだ少年染みた声が届く。
「どうした」
なんだまだあるのかと内心は思いながら、上っ面だけを使い懇切丁寧に応答する。
最底辺にとっては、最頂点と話すことには抵抗が少しばかりあるのか、まだ○○は下を向いて俯き、ボソボソと覇気のない声で話す。
「なんで声をかけたの、僕に」
沈黙の末。
最初は、コイツが何を言っているのか聞き取ることができなかった。否、聞き取りたくなかった。聴くという行為を俺の脳が拒否する。俺のアイデンティティが壊れてしまうと、トートロジーに陥ると脳が判断する。
「どうしてって」
俺はうまい上っ面の答えを頭の中で模索する。何かこう状況を裏付ける答えを。だが。
全く答えが浮かばない。思考停止にはなっていない。冷静だ、常時冷静沈着。
それでも失言の裏づけには至らないが。
今まで何の興味もないはずだった。○○にも、虐めにも。
だから長年、傍観者をやってきた。だれかが虐められても、見て見ぬ振りをしてきた。
それが善処だと知っていたから。
興味がない、面白く思わない。そうわかってて、見てみぬ振りをしてきた。下手に突っ込むと自分が虐められるのではないかと怖かったから。
ずっと自分を偽って生きてきた。なのになぜ。
俺は、救いの手を差し伸べてしまったんだろうか。