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自由無き者に対する力と大いなる渇望に伴う希望
作者: 多寡ユウ  (総ページ数: 16ページ)
関連タグ: 虐め 
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10~

*10*















「みんなそうだ。世の中のやつらはみんながみんな自分のことが一番可愛いから、他人が虐められてたりしても、自分が傷つくようなことは絶対にしない。それでもするようなやつは、偽善者か、ただの馬鹿だ。君はどっちにいるの?偽善者かただの能無しか。はたまたその両方か、それか、どちらでもないか・・・・」


○○がなおも上目づかいでこちらを視認する。
なにかを強請ってるのか、はたまた拒絶の瞳か、俺には皆目検討もつかなかった。
だがそれでも、何かを授けないといけないことぐらいわかる。
王権神授説だって、偶像崇拝の賜物だ。王だって偶像視されたら何か褒美を下々に与えたくはなる。


「特に理由はねぇよ。お前がクラスで虐められてるのも俺は随分と前から耳にはしてたし、そしてそれを聞いてお前にダイジョウブ?なんて上っ面だけの言葉をかけるのもなんかな。それこそ偽善者だ。だから、今ここでずぶ濡れのお前に話しかけたことに特に理由は無い。まぁ、誰がやったかはあらかた予想が立つが、お前は俺に復讐してほしいわけじゃないだろ?」



俺がまた問いかけると、○○は即答した。


「当たり前。別に君を陥れたいとも思ってないし、これは僕だけの問題だからね。・・・・今頃僕をずぶ濡れにさせた張本人たちは上でゲームでもして遊んでるだろうから、まだ下に下りてきたりはしないし・・・・・・、今のうちに僕は帰ることにするよ」



そう言いながら、○○は立ち上がり、ずぶ濡れの制服のまま、学生バックを方に掛けトボトボと夕暮れ時の道を歩いていく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あー、そうだ。






「○○。ひとつ言い忘れていた」






○○はすれ違いざまに放たれた言葉を聞いて、後ろであるこちら側に頭を寄越した。





「なに」




○○は面倒臭そうにこちらを半ば睨んでくる。やっぱ言うのやめようかな。




「俺も、足を滑らせたんだ、確か中三のとき。その時は本当に床がずぶ濡れでな。俺が後始末を全てやった。水を掛けたのは紛れも無く別人だったのに、まったく困ったものだよ。それに、あの時は自転車で帰るとき大変だったしな、同じ目にしてやったよ」


これで通じるだろうか。
○○はきょとんとしている、あ、これ、通じてない系?


「まぁいわば、教訓、だな」




最後俺がこういうと、先ほどまでぼけーっとしていた○○は合点がいったのか一度俺をまじまじと見つめ、ほのかに笑う。




「わかった。肝に命じておくよ」



彼はそれだけいって、西日に染まる駐輪場を後にした。


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