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『この絵のタイトルは?』
ドアの前には、このメッセージとともに見たことがある絵の写真が貼ってあった。
どうやら絵のタイトルを入れないとドアが開かない仕組みらしい。
「う〜ん……さっき休んだ部屋からここまで来たは良いものの……絵のタイトルなんて、いちいち覚えてないわよ……確か『深海のなんとか』って言うタイトルだったと思うけど、イヴ覚えてる?」
そう言いながらギャリーは私を見る。
忘れるはずも無い。何故ならその絵は、私がこの世界に来た時に通った絵だったからだ。だからタイトルも覚えているのだが、一つ問題がある。
「えっとね……字はなんとなく覚えているけど、読めないの。どうしよう?」
「じゃ、床に書いてくれる? なんとなくでも良いから!」
私は言われるがまま、床に『世』という字を書いた。
「世……あ!! 『深海の世』!! そうよ、それだわ!!」
ギャリーは叫んだ後、ドアに『しんかいのよ』と入力すると
――カチッ
と、ドアの開く音が響いた。
「イヴ、正解よ! やったわね!」
「うん! よかった!!」
*
ドアを開けて中に入ると、いくつかの本棚と大きな絵が一枚あるだけの部屋だった。
大きな絵の前に二人で立ち、見上げる。
「絵のタイトルは……『決別』ね。なんか悲しい絵だわ」
「うん……そうだね」
私が頷いた次の瞬間、フッと視界が黒一色に染まった。
「うわっ!! 停電!? イヴ、いる!? ちゃんとそこにいる!?」
「大丈夫、いるよ」
……なんだか凄く焦っているけど、ギャリーって暗いの苦手なのだろうか?
「よかった……しっかし、電気付かないわね〜……あ! アタシ、ライター持っていたんだっけ。まぁ、一時しのぎにはなるでしょ……よっと!!」
ボッ、とライターの付く音がして部屋が明るくなる。
そこに広がっていたものは――
『や め ろ』
『い や だ』
『こ わ い』
『し に た く な い』
クレヨンで大きく書かれた文字だった。
私は無言でギャリーのコートの裾を握って顔を見上げる。
ギャリーはそんな私の頭を優しく撫でてくれた。
「ほんっとキッツいわ、精神的に……まぁ、ここで立ち止まっていても何も良い事無いから、先に進みましょうか? イヴ、大丈夫?」
心配そうな顔を向けてくるギャリーに、私は出来るだけ笑顔で
「大丈夫だよ、ギャリー」
と、答えた。
その後一度来た道を戻り、違う道を探す事になった――のだが、道を戻っている途中、来た時には無かった赤い足跡が付いている。
それは――こちらも来た時には無かった――ドアに向かって付いていた。
まるで『こっちにおいで』と誘っているように。
私がそちらに向かった途端、ギャリーに止められた。
「イヴ、これ罠って可能性もあるわ!! もっと慎重に行動した方が良いと思うの」
ギャリーの言っている事は最もだ、と思いながらも、自分の意見も口にする。
「うん。でもここから出る為の良い手がかりがあるかも知れないし、放っておけないよ? 戻っても道が無かったら、どうせ行く事になるから今行っても変わらないよ?」
ねっ!! と、同意を見詰めること数十秒。どうやらギャリーも折れたらしく、ため息を付きながら呟く。
「そうね、イヴの言ってる事にも一理あるし……行ってみましょうか」
パアッ、と効果音が出るくらい私の顔が明るくなったのが自分でも分かる。
行きたい所へ行けるのが嬉しいのではなく、自分の意見を受け入れて貰えた事が嬉しかったのだ。
そんな私の顔に人差し指がズイッと迫って来て、チッチッチッと揺れた。
「た・だ・し、くれぐれも慎重にね!」
「はーい」
……ギャリーって、本当心配性だなぁ……
言われた通りに慎重にドアを開ける。すると、
――ドンッ
と、体に衝撃が走り、私はしりもちを付いてしまった。
「ちょっ、イヴ大丈夫!?」
ギャリーは私に手を差し伸べながら言う。
「……大丈夫だよ」
私はギャリーの手を借りて立ち上がり、答える。
「そう、ならよかった。あと……」
ギャリーは私と反対側を見ながら
「そっちのしりもちを付いているアナタも大丈夫?」
と言った。
「……っ!!」
明らかに警戒しているその子は――金髪碧眼(きんぱつへきがん)で、高級そうな緑色のワンピースがよく似合う――私と同じくらいの歳の女の子だった。
「そんな警戒しないで!! あっ、アナタ、あの美術館あ人じゃない?」
「……あっ!!」
とギャリーの言葉に女の子が反応した。
「やっぱり……ねぇ、今アタシ達外に出るための手がかりを探しているんだけど……もしかして、アナタも?」
「わっ私も……誰かいないか探してて……」
「そうなの!? それじゃアナタも一緒に行きましょ!! 女の子一人じゃ危ないわ。えっと……名前教えてくれる?」
「……メアリー」
「アタシはギャリー、こっちがイヴ。よろしくね!」
「うん! イヴもよろしくね!」
「よろしくね! メアリー!!」
ギャリーに続いてもう一人、大切な仲間が出来た。
*
この時はよかったのだ。――そう、『この時』は。