完結小説図書館
>>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック
*50*
*26
ギャリーは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。
ようやく落ち着いた私は、ギャリーに様々な話をした。
今はいつなのか?
どんな世界になっているか?
実はメアリーと一緒に脱出して、今では姉妹として暮らしていること。
ギャリーも私に話を聞かせてくれた。
向こうの美術館には色々なルールがあり、メアリーは外に出る為にギャリーを襲ったこと。
向こうからこちらを見れる絵があって、そこを見たら私が居たこと。
私が絵に置いていた手に自分の手を重ねたとたん、こちらに出られたこと。
「しっかし……何でいきなり外に出られたのかしら?」
「うーん……」
多分、出る前にやった『手を重ねること』が大切だったと思うんだけど……。
「良く分からない」
「アタシも……。まぁ、『終わり良ければすべて良し』ってことでいいんじゃない? 考えても分からないことは、分からないんだし」
「……そうだね」
考えても答えは出ないと思った私は考えるのを止めて、再会出来た喜びを噛みしめることにした。
「……さてと。アタシはそろそろ行かなくちゃ」
「行っちゃうの……?」
「ええ。イヴの話だと、アタシが絵の中に閉じ込められてから、五年経っているんでしょ? だったら家の掃除とか、家族の事とか、色々やることは多いからね」
「……そっか」
ギャリーと離れると、また会えなくなるような気がして、私は不安だった。
そんな私の気持ちを察したのか、ギャリーは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「大丈夫よ。一生の別れとかじゃないんだから。……約束もあるしね」
「約束……?」
「あら? イヴが約束したのに忘れちゃったの? マカロンを食べに行く約束!!」
「……あ!!」
思い出した。
一緒に外に出られたら食べに行こうって、約束してたんだっけ……。
「ちゃんと会えるわよ。だから大丈夫。ね?」
「うん!!」
頭を撫でてくれていたギャリーに向かって、私は笑顔でうなずいた。
*
私とギャリーは美術館の外に出ていた。
いつの間にか空は、灰色から真っ青な色に変わっていた。
絵だったギャリーが抜けた穴は他の作品が埋めたらしく、『忘れられた肖像』があった場所には『吊るされた男』と言う、新たな絵があった。不思議な力が働いているのは相変わらずだった。
「ん〜。久しぶりに外の空気を吸ったわ! 気持ち良い〜」
ギャリーは深呼吸をして、空を眩しそうに眺めていた。
「そうだね」
私も同じように空を見た。清々しいほどの青空は、確かに気持ち良かった。
「……イヴ」
「何?」
空を眺めていた私は、名前を呼んだギャリーの方を見る。
「色々やることが多くて、すぐにはムリだけど……落ち着いたら、手紙を送ってもいいかしら?」
「手紙?」
「そ、手紙。約束の待ち合わせとか連絡したいんだけど……。住所教えてもらってもいい?」
「もちろん!!」
私は近くにあった『美術館をより良くするために』の紙を一枚貰い、そこに家の住所を書いた。
「ありがとう、イヴ。……あ、後、ハンカチもマカロンの時でいい? ちゃんと洗濯して返したいから」
「分かった!」
美術館の外の別れ道まで歩いた私達は、そこで足を止めた。
「じゃ、アタシこっちだから……」
ギャリーは私の帰り道と反対の道を指差した。
「そう……」
もっと話したかったなぁ、と、うつむきながら言うと、ギャリーはまた頭を撫でた。
「なるべく早く連絡出来るようにするから……。待っててくれる?」
「……うん!!」
四年も待てたのだ。後少しなんてきっとすぐだろう。私は元気に頷いた。
指切りげんまんをして、私達は別々の道へと歩き始めた。
「「またね!!」」
――またすぐに会えることを信じて。