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Ib ―『さよなら』の先に―
作者: 緑茶  (総ページ数: 53ページ)
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*50*

*26

 ギャリーは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。
 ようやく落ち着いた私は、ギャリーに様々な話をした。

 今はいつなのか?
 どんな世界になっているか?
 実はメアリーと一緒に脱出して、今では姉妹として暮らしていること。

 ギャリーも私に話を聞かせてくれた。

 向こうの美術館には色々なルールがあり、メアリーは外に出る為にギャリーを襲ったこと。
 向こうからこちらを見れる絵があって、そこを見たら私が居たこと。
 私が絵に置いていた手に自分の手を重ねたとたん、こちらに出られたこと。

「しっかし……何でいきなり外に出られたのかしら?」
「うーん……」
 多分、出る前にやった『手を重ねること』が大切だったと思うんだけど……。
「良く分からない」
「アタシも……。まぁ、『終わり良ければすべて良し』ってことでいいんじゃない? 考えても分からないことは、分からないんだし」
「……そうだね」
 考えても答えは出ないと思った私は考えるのを止めて、再会出来た喜びを噛みしめることにした。

「……さてと。アタシはそろそろ行かなくちゃ」
「行っちゃうの……?」
「ええ。イヴの話だと、アタシが絵の中に閉じ込められてから、五年経っているんでしょ? だったら家の掃除とか、家族の事とか、色々やることは多いからね」
「……そっか」
 ギャリーと離れると、また会えなくなるような気がして、私は不安だった。
 そんな私の気持ちを察したのか、ギャリーは優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「大丈夫よ。一生の別れとかじゃないんだから。……約束もあるしね」
「約束……?」
「あら? イヴが約束したのに忘れちゃったの? マカロンを食べに行く約束!!」
「……あ!!」

 思い出した。
 一緒に外に出られたら食べに行こうって、約束してたんだっけ……。

「ちゃんと会えるわよ。だから大丈夫。ね?」
「うん!!」
 頭を撫でてくれていたギャリーに向かって、私は笑顔でうなずいた。

     *

 私とギャリーは美術館の外に出ていた。
 いつの間にか空は、灰色から真っ青な色に変わっていた。
 絵だったギャリーが抜けた穴は他の作品が埋めたらしく、『忘れられた肖像』があった場所には『吊るされた男』と言う、新たな絵があった。不思議な力が働いているのは相変わらずだった。

「ん〜。久しぶりに外の空気を吸ったわ! 気持ち良い〜」
 ギャリーは深呼吸をして、空を眩しそうに眺めていた。
「そうだね」
 私も同じように空を見た。清々しいほどの青空は、確かに気持ち良かった。
「……イヴ」
「何?」
 空を眺めていた私は、名前を呼んだギャリーの方を見る。
「色々やることが多くて、すぐにはムリだけど……落ち着いたら、手紙を送ってもいいかしら?」
「手紙?」
「そ、手紙。約束の待ち合わせとか連絡したいんだけど……。住所教えてもらってもいい?」
「もちろん!!」
 私は近くにあった『美術館をより良くするために』の紙を一枚貰い、そこに家の住所を書いた。
「ありがとう、イヴ。……あ、後、ハンカチもマカロンの時でいい? ちゃんと洗濯して返したいから」
「分かった!」

 美術館の外の別れ道まで歩いた私達は、そこで足を止めた。
「じゃ、アタシこっちだから……」
 ギャリーは私の帰り道と反対の道を指差した。
「そう……」
 もっと話したかったなぁ、と、うつむきながら言うと、ギャリーはまた頭を撫でた。
「なるべく早く連絡出来るようにするから……。待っててくれる?」
「……うん!!」
 四年も待てたのだ。後少しなんてきっとすぐだろう。私は元気に頷いた。

 指切りげんまんをして、私達は別々の道へと歩き始めた。


「「またね!!」」


 ――またすぐに会えることを信じて。


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