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Ib ―『さよなら』の先に―
作者: 緑茶  (総ページ数: 53ページ)
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*49*

*25

 ――四年後――

 私は灰色の空の下を一人で走っていた。目的地はあの美術館。
 そこでは今、ゲルテナの展覧会が行われている。
 行っても彼に会える訳ではないけど、せめてちゃんと謝りたい。
 私は四年前のあの日と同じ様にただ走った。

 美術館は工事が終わり、前に来た時よりキレイになっていた。
 しかし、美術館の規模の小ささと天気のお陰で、人はほとんど居なかった。

 私は簡単に受付を済ませ、焦る気持ちを抑えながら、あの絵を探して小さな美術館の中を歩き回った。

 ほどなくして、私は彼の絵を見付けた。

『忘れられた肖像』

 それは、皆とここに来た日と全く変わらないままだった。
「ギャリー……」
 私はギャリーの絵に手を置きながら謝る。
「ごめんなさい……。私があの時、薔薇を無くしちゃったから……。本当にごめんなさい……」
 自然と涙がこぼれた。
 その瞬間――

     *

 今日もする事が無く、美術館の中をさ迷っていたアタシは、表の美術館が騒がしいことに気が付いた。
 騒がしいと言っても、少し人が来ているだけの様だか、それだけの音を久しぶりに聞いた。どうやら工事が終わったらしい。
 様子が見たくて、外と繋がっているアタシの絵の額縁まで走って行くと、そこには――

「…………イヴ?」

 アタシと美術館をさ迷ったあの日より、背と髪が伸びて少し大人っぽくなっていた女の子がいた。どことなくイヴの面影があった。

『ごめんなさい……。私が薔薇を無くしちゃったから……。本当にごめんなさい……』

 久しぶりに聞いたイヴの声が、アタシの耳に、心に響いた。
「違うわ!! イヴのせいじゃない! アタシがやりたくてやった事だから……。だから、」

 泣かないで。

 どんなに声を張り上げたって、この声は君には届かない。
 目の前に君が居るのに、触れることも出来ない。
 なんとかしてこの気持ちを伝えたくて、アタシの絵に置いている君の手に、重なる様に自分の手を置いた。
 その瞬間――

     *

 突然上から重い何かが降ってきて、立っていた私はしりもちをついた。
「いった……」
「うぅ……」
 勢い良く打ってしまったお尻の痛さに顔を歪めながら、落ちてきたそれをよく見た。
「…………!!」
 余りの驚きに私は言葉を失ってしまった。

 落ちてきたそれは人の形をしていた。
 その人は紫色の髪をしていて、ボロボロのコートを着ていて――

「ギャ……リー?」

 私の声に反応したのか、その人はゆっくりと顔を上げ、驚いた様に目を見開きながら言った。

「……イヴ……?」

 その声を聞いた瞬間、壊れたダムの様に涙が溢れだし、私はギャリーに抱き付いた。
「うぅ……ギャ……リー。ごめ……なさ……」
 泣き付きながらひたすらに謝った。
 私が薔薇を無くさなければ、ギャリーは絵の中に閉じ込められる事なんて無かったのに。あんなに苦しい思いをしなくてよかったのに。
「いいのよ。気にしないで」
 そう言ってギャリーは、私を優しく抱きしめ返してくれた。
 その手には、ギャリーと美術館をさ迷っていた時と同じ暖かさがあった。

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