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私の救世主はマフィア様!?【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 14ページ)
関連タグ: オリジナル 戦闘 マフィア 警察 女子高生 恋愛 
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10~

*13*

「おーい、日向ー。俺のチョコプリン知らねえ? 前に梓馬の野郎にプリン食べられちまったから隠しといたんだが、どこに隠したか忘れちまってよ」
「ああ、それなら……――わあっ! 何度言ったら分かるのよ、服を着て!」
(年頃の乙女だって、分かってほしいんだけど!?)
 注意しても直らない正宗の脱ぎ癖に日向は顔を覆った。やはり上半身裸だ。
「あ、梓馬さんがチョコプリンなら食べてた。なんか隠してあるんだから誰が食べても気づかないだろうって……」
「――またかよっ、あんの野郎!」
 またもやプリンを取られて、正宗はキレ気味に梓馬を探しに行った。
 
(変わんないな……、昨日起きたことが夢だったみたい)
 いつもと何も変わらない、平凡な日常。
 笑って泣いて怒って喜んで、そんなことが周りで何度も繰り返される。
 微かに違うのは、敬語を止めたところだけだ。そうすることでさらに親しくなれた気がする。
 つい昨日、志乃に確保されたのが本当の事だったのかと疑うほど、アジトへ戻った次の日は穏やかだった。
 でも少しだけ変わったことがある。
 それは、凪たちと本当に信頼し合う事が出来るようになったことだ。どちらか一方じゃなく、両方、信頼し合える。
(なんか……それって、すごく幸せだな)
 つい頬がにやけたとき、梓馬がとんっと肩を叩いた。手にはいちごアイスが握られている。
「日向、これあげる」
「わあ、わたしいちご味好きなんだ! ありがとう、梓馬さん。……って、梓馬さん!?」
 つい再度名前を呼んで声を荒げてしまった。アイスを受け取りながら見上げた梓馬の顔はすっきりと前髪があげられていたのだ。
 長い前髪が後ろで縛られている。やっぱりはっきり顔が見えた方が、梓馬のイケメンぶりを余すことなく出していて爽やかだった。
(ああ、これが女性ならわたしも妬いちゃうくらいの美少女だ……)
 一瞬、蓮華のような変態めいた想像が湧いてしまう。それを手ではらってまじましと梓馬を見つめた。
「梓馬さん、やっぱり素敵だよ!」
「っ…………」
 梓馬は口に手を当てて、横を向く。
 梓馬が見てわかるほど顔を赤くさせて、実は日向にそういってほしくて前髪を上げたなど、日向は知りもしなかった。
「あいつ実は天然タラシなんじゃないか……? 梓馬がああも飼いならされてると、逆になんか怖え」
 ぽつりと正宗はつぶやく。
「そういうところも含めて可愛いんですよ、日向さんは」
「そうそう。あの自分では気づかない無人格さ加減が、こう、心をくすぐるっていうか」
 続いて凪や蓮華もうなづいた。日向はばっと振り向くと、どういう意味よっ、と叫ぶ。
 しかし三人はただ生ぬるい笑顔を作るだけだった。
 腑《ふ》に落ちない想いを抱えながらも、そういえばと日向は昨日ヘリコプターで考えたことを思い出す。これから先の未来についてだ。
「凪さん、わたしが警察に捕まっていたとき、志乃っていう人がこれからマフィア狩りをするって聞いたの。きっとこのままじゃお父さんが守ってきた関東綜合組合マフィアが危ない」
 真面目な顔つきの日向に凪も眼を落とした。うん、とうなづく姿はそれをとうに知っているようだった。
「僕もいずれそうなると思ってたんだ。だから、君の手紙に書かれてる警察の不祥事を利用して、どうにかしようかと……」
 申し訳なさそうにする凪に、日向は一瞬きょとんとした。凪は自分の欲のために利用した訳じゃなく、仲間を守ろうとしていたのだ。
「……なんだ、そうだったの。だったらもう、お父さんからそうしろって言われてるわよ。『警察の抑え役になれ』って。ちょっと意味は違うかもだけど」
 切って短くなった髪が風に吹かれて揺れる。日向は胸を張って笑った。

「――わたし、ここのマフィアたちの総長になろうと思う!!」

 誰もが眼を見開いた。しかし同時に高揚と胸の高鳴りがする。
「そしたら、みんなをわたしも守れるでしょ? お父さんの代わりにっていうのもあるし。警察の不祥事を使ってガンガンに脅しちゃうよ、守るためなら」
 悪人面で日向は親指を立てて前に突き出した。
 そんなの無茶だ、と思うのに、凪はなぜか納得してしまった。
(さすが、蒼梧さんの娘……)
 日向と蒼梧の笑顔が重なって見える。凪は面白そうに首をかしげた。
「他にも、もっと怖そうな上層部のマフィアたちがいっぱいいるから、そう簡単にはいかないかもよ?」
「大丈夫。全て味方につけて必ず総長になるから!」
 どこから自信が湧いてくるのか、なにも恐れないその姿勢に、もう選択肢は一つしかなかった。日向が総長になるなど突拍子もない考えかもしれない。それでも……

『どこまでもお供するよ、日向』

 四人ははちゃめちゃな少女の手を取って笑った。
 
 これはまだ最初の一歩。
 けれどこれからは四人と一緒に並んで、歩いていける。
 走って転んで、起き上って、また走って、誰も想像しない未来を掴もうじゃないか。

【終わり。……いや、始まりかな】 

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