完結小説図書館

<< 小説一覧に戻る

私の救世主はマフィア様!?【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 14ページ)
関連タグ: オリジナル 戦闘 マフィア 警察 女子高生 恋愛 
 >>「紹介文/目次」の表示ON/OFFはこちらをクリック

10~

*10*

「――んん」
 頭が重い。徹夜をしたときのように目眩《めまい》と耳鳴りがひどかった。
 まだ寝ていたかったが、誰かが近くで動く気配がして日向は渋々と瞼《まぶた》をこじ開けた。
 視界を占めるのは清潔感溢れるまっ白な天井だった。ゆっくりと視線を巡《めぐ》らす。
 窓や置物もない、見知らぬ狭い部屋。中央に日向が寝ているベットだけが置いてある。
「ああ、起きたんだね」
 ひどく優しげな声に吸い寄せられるように日向は顔だけ声のする方へ向けた。
 二十代前半くらいの、和風の王子様のように顔が整った男性だった。肩で切りそろえられた髪がさらさらと揺れ、眼の下にある涙ボクロが微かに色気を漂わせている。
「あなたは……」
 恐る恐る上半身を起こす。男性は読み途中らしい本にしおりを挟むと、立ち上がって胸に手を当てた。金色のバッチが存在を示すように光る。
「ぼくは志乃。公安警察《こうあんけいさつ》の警視正《けいしせい》だよ」
「公安警察……?」
 聞きなれない言葉に繰り返しつぶやく。
 警視正というのは、昔見た警察ドラマでかなりすごい階級の人だと知っている。何度も国家試験を繰り返し、その中で優れた人物だけが選ばれる部署の課長のような人物だ。しかし公安警察というのは聞いたことがなかった。
 志乃もよく一般人にはそういう反応をされるのか慣れた風に説明する。
「公安警察っていうのは、他の警察が事件があってから動くのに対し、公安は組織犯罪とかその組織を監視して違法性があれば検挙する部署なんだ」
 へえ、と日向はうなづいたとき、はっとあることに気づいた。
(んん? えっと、志乃さんは……警察――?)
 蒼ざめて、ばっとかけていた布団を払うと後ろへ後退する。密かにポケットに入っている手紙の存在を確認して安堵の息をついた。
「わあ、すごい早業だ。でも寝起きだからって頭の回転が遅くなるのは残念かな。敵地にいるんだから、ね?」
 パチパチ手を叩きながらさりげなく失礼なことをいう。その姿に敵意はなく無邪気そのものだった。
 しかし日向は内心、早鐘のように鼓動を鳴らしていた。体が強張り緊張を腹の底に感じる。
(わたしが不用心に小屋から出て森なんかで倒れるから捕まったんだ。警察が近くで捜索してるって知ってたのに……)
 後悔が心を塗りつぶした。

「わたし、家に帰りたいです」
 無理だと思いながらダメもとで言ってみた。
 もしかしたら万が一の可能性で家へ帰れるかもしれない。そしたらなんと志乃はうなづいてくれる。
「いいよ、そのポケットに入ってる手紙の暗号の意味を教えてくれたらね」
 条件付きで。ポケットに手紙は入っているのに中身はもう見られていたのだ。
「僕さ、抵抗できない、いたいけな少女を脅《おど》して読解させるとか趣味じゃないからさ、君の意思で教えてほしいんだ」
 にっこりと志乃は笑った。始めは良い人そうに見えた笑みが今はなんだか怖い。
「いや、絶対教えない」
 正体不明の恐怖に震えそうになる声を押し殺して、きっぱりと断る。すると志乃は少しさびしげな顔をした。
「でも、教えてくれないと君を家に返せないよ? じゃあさ、報酬《ほうしゅう》を出すよ。君の生活、大変みたいだからこれからの生活費とか学校費に必要だろう」
「いいえ、結構よ。お金なんていらない」
 断った次の瞬間、正面から前髪を鷲掴《わしづか》みにされ、顔を引き寄せられる。髪が何本かぶつっと頭皮から引きちぎられたのがわかった。
「やめ……、て。はな、せ……!」
 痛さで歯を噛みしめながら、手で志乃を叩く。しかし今までとは別人のように冷めきった志乃の顔に息をのんだ。
「調子にのってるんじゃないよ。こっちが譲歩してあげてるんだから君も大人しく従うべきだろう?」
 激しい痛みに涙がうっすらと浮かんでくる。
 志乃はおもちゃをいたぶるように口元を上げながら、近くにあったペーパーナイフを手に取った。
「これね、ペーパーナイフだから手首を切り落とすとか、そんな大技出来ないんだけど、君の耳ぐらいは切れるんだよね」
 手で遊びながらペーパーナイフを耳にあてる。ひんやりした感触がやわらかい耳から感じた。
「耳を切ったぐらいじゃ人間は死なないけど、痛いよ。すっごく痛い」
 くつくつと口の中で笑う志乃はもう人間味を残していなかった。人を切ることも躊躇《ちゅうちょ》しない悪魔のようだ。
 生温く血まみれなぐにゃりとした恐怖が日向を襲う。しかし日向は爪の跡が残るほど強く拳を握りしめると、志乃の瞳を一直線に強く睨みつけた。

「やりたいならやればいい。殺したいなら殺せばいい!! もしわたしを殺したら秘密を、暗号の意味を知ってる他の人が世間に警察の不祥事をばらまくから!」

 日向は堂々と言い放った。

9 < 10 > 11