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私の救世主はマフィア様!?【完結】
作者: 妖狐  (総ページ数: 14ページ)
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10~

*2*

「こちら、追跡第六部隊。大通りまで追い詰めたものの裏道へ逃走され、追跡者、本郷日向《ほんごうひなた》を見失ってしまいました。現在付近を捜索中ですが追跡者らしい人物は見つかりません」
 堅苦しい言葉で正確に報告する部下に、志乃《しの》は机を指で弾きながら笑顔でにらんだ。
「どうして見失っちゃったのかな、ね? 君たちは本郷日向を女子高生だからとなめていたのかな?」
「決してそんなことはありません」
 見えないヘルメットの下で汗をかく部下へ、さらに志乃は追及を深める。口元は上がっているのに、眼は寒々しい色を映していた。
「じゃあなんで女の子一人捕まえられなかったんだろうね。足の腱《けん》でも撃ってしまえば走れなくなって、容易く確保できるのに」
 部下は志乃の言葉に恐ろしさを覚えて息をのんだ。
 無垢《むく》な子供に銃を構えろと言うのだろうか。
「まあいいさ。明日は違う班も導入させるから。彼女はおえらい国家様の要注意人物なんだ。……次は頼んだよ?」
 可愛らしく首をかしげる志乃に、すばやく敬礼をして頭をさげると、部下は震える腕を必死に抑えながら辞退した。



「はあ? 薬を嗅がせて気絶させたですってえ!? 女の子に何てことしてくれちゃってるのよ、あんた達! 地獄に落ちなさいっ」
 女性の強烈な罵声に意識が起こされていく。懐かしい香りが鼻孔《びこう》をくすぐってゆっくり瞼を開けた。
「だから乱暴な男どもは嫌なのよ、まったく…………あらっ、目を覚ましたのね」
 女性の声が一変して嬉しさをまとい、どんどん近づいてきてぴたりと頬へ手が伸ばされた。そのまま額や頭を容赦なく触って女性は安堵の息をつく。
「顔に傷はついていないようだし、何かしらの衝撃の跡もなし。少しすりむいていた膝は、念のため消毒してあるから」
 いきなり顔をぺたぺたと触られ、日向はまだぼーっとしていた意識を無理やり叩き起こすと、後ずさった。
「あら、こんなに警戒しちゃって……ふふっ」
 なにが楽しいのか怪しい顔で女性は笑う。眼鏡の奥に隠された瞳が舐めるように日向を見つめていて、頬をひきつらせた。
 再度、指をくねらせて手を伸ばし手くる女性に、日向はさらに後ろへ退却するが、壁にぶち当たってしまう。
 どうすることもできず硬直していると女性の手が捕まれ引き戻されていった。
「ちょっとー、なにするのよ、凪《なぎ》。少しぐらい触ったっていいじゃない」
「駄目です。彼女が怖がってるでしょう、蓮華《れんげ》さん」
 どうやら女性を止めてくれたのは凪と呼ばれたあの時の金髪の男性らしい。少し眉を寄せた顔で女性を押さえると、日向へ向かってもう片方の手に持っていたカップを差し出した。
「ミルクティーです。体が冷えていたようなのでどうぞ。ああ、別に毒なんて入っていませんから」
 確かに肌寒さを感じたので、おずおずと日向はカップを受け取る。じんわりとした温かさが掌に広がった。
 それでもまだ警戒を解かない日向に、金髪の男性は苦笑交じりの笑みを浮かべると、では自己紹介からしましょうか、とつぶやく。

「僕の名は凪。こっちの仏頂面の人が正宗《まさむね》で、変態めいた女性が蓮華さん。それと……ああ、そこの隅でパソコンをいじってるのが梓馬《あずま》ね。以上四名が十六ファミリーのメンバーです」
「誰が仏頂面だよ、元からだ」
「そうよ、あたしは変態なんかじゃないんだから! ちょっと少女が好きなだけで……」
「それを変態っていうんだろう」
 黒い短髪の男性、正宗と髪を一つに頭上で束ねた女性、蓮華が言い争う。
 しかし言い争いのきっかけを作った発言者の凪は、二人を無視して、日向を連れてきた説明を始めた。

「先ほども路地裏で話した通り、僕らは総長である本郷蒼梧さんの部下なんだ。今回は警察に追われる身となった総長の娘、本郷日向、そう、君を外部から守るため任務を任せられている。蒼梧さんには昔からお世話になっているから、君も大事な人だよ」
 混乱気味で凪を見つめる日向を落ち着かせるように静かな声音でゆっくり話す。
「まだ蒼梧さんが総長だって信じられないなら、これを見てごらん」
 凪は壁にかけてあった一枚の大きな写真を指さした。写真には総勢四百人はいるであろう黒スーツを着たいかつい男たちと、その真ん中に、確かに父親が笑顔で写っている。
「嘘、どうして……。だって、お父さんからそんなこと一言も聞いたことなかったわ‼」
「蒼梧さんは自分が総長であることを隠していたんだよ。まだ幼い君を裏の社会に引きずり込むわけにはいかないからね。蒼梧さんはサラリーマンのフリをして、ずっとマフィアの総長をやっていたんだ」
「そんな…………」
 思考が停止したように日向は空を見つめた。喉から出てくるのは息苦しさをともなった空気だけだ。
「蒼梧さんが亡くなってまだ二日しか経っていないし、困惑したり信用できない点もあるだろうけど、今はこのアジトで身を潜めていてほしいんだ。手紙の件は何とかするから」
 手紙、その一言で考えることを放棄した脳は激しく脈打った。きっと凪の言う手紙とは、いま手元にある、父からもらった最後の手紙の事だ。
「手紙の事を知っているの……?」

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